- The Flock


2007年8月4日(土)「消えた天使」

THE FLOCK・2007・米・1時間45分


日本語字幕:細丸ゴシック体下、風間綾平/シネスコ・サイズ(マスク、with Panavision)/ドルビーデジタル、dts

(米R指定、日R-15指定)

公式サイト
http://www.kieta.jp/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)


登録性犯罪者を監視するDPS(公共安全局)のエロール・バベッジ(リチャード・ギア)は勤続18年のベテラン職員だったが、使命感からやりすぎることもあり、局内でも浮いた存在で上司から退職を言い渡されていた。そんな時、17才の美少女が誘拐された。誘拐がエロールが監視する登録者の住む区域で発生したことから、警察とは別に独自で捜査を開始する。そこへエロールの代わりとなる新人職員アリスン・ラウリー(クレア・デインズ)が入ってくる。

73点

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 これは重い。ドーンと来た。たんなる変態というより異常者の話。繰り返されるおぞましい暴力。そして哲学者ニーチェの言葉「深淵をのぞき込むとき、深淵もまたのぞき返す」=「怪物と闘うものは、その過程で自らが怪物と化さないよう心しなければならない」が効いている。性犯罪者たちの嘘なのか、自ら怪物になってしまった管理官のでっちあげなのか。ラストまで揺れ動く感じがすばらしい。ただ、見て楽しいとか、スッキリするという映画ではない。

 しかもベースになっているのは現実の問題で、単なる作り事ではない。映画のチラシと映画の冒頭によれば、アメリカで登録されている性犯罪者の数は50万人以上。2分間に1回、快楽犯罪が起こり、1人の監察官が1,000人の登録者を監視している、のだそうだ。似たような問題をテーマにしたケイト・ウィンスレットの「リトル・チルドレン」(Little Children・2006・米)という映画もあった。

 ベテラン職員のリチャード・ギアがいい。自ら犯罪者になってしまうのか、犯罪を止めたいだけなのか、わからない。しかも公務員ではあっても警察官ではない。逮捕権もないし、普段、銃を携帯していることもない。ただ彼だけが護身用の銃(コルト・エージェントっぽい。ラバー・グリップ付き)を携帯している。犯罪捜査に協力しようと警察に話しに行くと、またアイツが来たかと嫌がられる始末。この男は一体どちらの側のか。

 観客と同じような立場で登場するのが、新人職員のクレア・デインズだ。この構成もまたうまい。ベテランのエロールから仕事を受け継ぐにつれ、とても若い女性には耐えられないような異常な世界であることを身をもって知らされることになる。その衝撃が観客にも伝わってくる。

 エロールの上司ボビーは、「ツイン・ピークス」の怪優、レイ・ワイズ。最近「-less[レス]」(Dead End・2003・仏/米)というよくできたホラー作品に出ていた。なんだか出ているだけで怖いから不思議。

 美男子エドモンド(ラッセル・サムズ)に捕らわれている金髪美女ベアトリス・ベルを演じていたのは、なんと人気歌手のアヴリル・ラヴィーン。眼の回りを黒くするパンダ・メイクが似合っているからスゴイ。ほとんどセリフはないが、男にだまされて付いていってしまう女の子の感じが良く出ていた。

 異常か正常か、まったくわからない薄幸の美女ヴィオラを演じたのは、ケイディー・ストリックランドという美女。うまい。「アナコンダ2」(Anacondas: The Hunt for the Blood Orchid・2004・米)で気安く男を寄せ付けない科学者のヒロイン、サムを演じた人。あのときはカディ・ストリックランドと表記していた。「HE JUON呪怨」(The Grudge・2004・日/米/独)では、とばっちりをうけて殺されたスーザンを演じていた。たぶんベネリM3ショットガンのピストル・グリップ付きを使う。

 見るからに悪役という危険な変態グレンを演じたのは、マット・シュルツ。本当はモデル出身のカッコいい二枚目。傑作吸血鬼アクション「ブレード」(Blade・1998・米)から、ずっと悪役が多い。バイク・アクション「トルク」(Torque・2004・米)もかなり憎たらしかった。最近はTVが多かったようだが、どうしたのだろう。本作もちょい役。ミイラ取りがミイラになったか。

 誘拐される美しい女子高生ハリエットを演じていたのは、クリスティーナ・シスコ。やはりモデル出身らしい。本作が劇場用映画のデビューになるようだ。

 監督はカメラマン出身の香港の名手、アンドリュー・ラウ。この前にハリウッドでリメイクの決まった「傷だらけの男たち」(傷城・2006・香)を撮っているし、チョン・ジヒョンの感動作「デイジー」(Daisy・2006・韓/香)も彼の監督作品。「ディパーテッド」(The Departed・2006・米)の元になった「インファナル・アフェア」(無間道・2002・香)も監督している。ボクが一番好きなのは、瀬戸朝香が出た「バレット・オブ・ラブ」(Bullets of Love・2001・香)だなあ。

 ちなみに現代のFlockとは群れという意味。ここでは異常犯罪者が群れをつくることを指しているらしい。

 公開初日の2回目、60分前に着いたら新宿の劇場はロビーに2〜3人の中高年。20分くらい前に整列させられたが、列を作る逆の側にいたため並んだらすでに25人くらいの列。おいおい、それはないだろう。しかも廊下はエアコンが入ってなくて暑い。人が集められるとさらに暑いわけで……。

 15分前に入れ替えになって場内へ。全席自由で、ここは座席が千鳥は強い列されているので、床がフラットながら比較的スクリーンは見やすい。最終的には350席に5.5割くらいの入り。男女比は6対4くらいで男性の方が多く、老若比はほぼ半々。

 暗くなって始まった予告編は、パリの地下にある墓地、カタコンペが舞台になるらしい「カタコンベ」はR-15でなかなか怖そう。秋元康と原田眞人の「伝染歌」はPG-12、続編「呪怨 パンテミック」は怖いぞと警告が出るわりに年齢制限がないよう。上下マスクの「ウィッカーマン」はニコラス・ケイジが主演で、リメイクらしい。どうも聞いたことがあると思った。ホラーというより謎解きが面白そう。それにしても、これだけホラーが多いとやっぱり夏なんだなあとあらためて感心。

 上下マスクの「TAXi4」は、どうやらこてこてのアクション・コメディということのようだ。ハマるかハズすか。日本語吹替版があるということは、子供向きなのか。「TAXi3」と「WASABI」を撮った監督だが……。


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