Kaidan


2007年8月5日(日)「怪談」

2007・松竹/メディアファクトリー/オズ/衛星劇場/エイベックス・エンタテインメント/ザナドゥー/テレビ朝日/Yahoo! JAPAN・1時間59分


ビスタ・サイズ/ドルビーデジタル

(日PG-12指定)

公式サイト
http://www.kaidan-movie.jp/home.html
(入ると画面極大化。音に注意。全国の劇場案内もあり。重い)


江戸時代後期、羽生村で侍の深見新左衛門(榎本孝明)は、借金取りに来た皆川宗悦(六平直政)を斬り殺し、累ケ淵に沈めてしまう。宗悦の帰りを待つ2人の娘は路頭に迷うことに。一方、新左衛門はその後、妻を殺し自害する。残された男の子の赤ん坊は使用人、勘蔵(光石研)に引き取られる。25年後、新吉(尾上菊之助)と名付けられた男の子は煙草売りとなり、江戸で暮らしていた。ある日、行商の途中、深川で小唄の師匠、豊志賀(黒木瞳)と出会い一瞬で恋に落ちる。実は、豊志賀こそ残された宗悦の娘だった。

71点

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 うーん、あまり怖くない。全体のクォリティはとても高いと思う。何より絵が良い。けれどホラーというよりは単なる普通の愛憎劇という感じ。もし幽霊が出てこなければ、良く見るTVの昼ドラと変わらない。まあ、日本の怪談はそういうものが多いのかもしれないが。ただ、ボクらが中田監督作品に期待しているのは、もっと怖がらせて欲しいということなのではないだろうか。もちろん、リアリティを出すにはドラマ部分は重要だし、小さな積み重ねが大切だが、なんだか違う方向へ行ってしまっている気がした。

 原作は落語家・三遊亭円朝の「真景累ケ淵」。「牡丹灯籠」「四谷怪談」と並ぶ三大怪談噺のひとつ。どこまで原作に忠実なのかわからないが、どうにも納得のいかない展開という気がした。たぶん寄席などで講談的に聞く分には気にならないのだろうが、映画として具体的な映像として見せられると、微妙な矛盾というか強引な展開が気になるのでは。

 ありがちだが、強い怨みが災いをもたらすという点でいうと、あまりに関係のない人々が被害を受け過ぎ。こんなにたくさんの人が死ぬ必要があったのか。村中で仲間はずれにしたとか、そういうことではないのに……いわば無関係な善良な人が悲惨な最期を遂げる。しかも、男と女の中を父が邪魔するのなら、仲良くなってからではなく、出会いの時点でどうにかとしろよと。他にもたくさんの機会と手段がありながら、常に最悪のものを選んで、最悪の修羅場へともっていってしまう作為が感じられて、どうにも感情移入しにくい。ツッコミどころはあちこちにあったのではないだろうか。

 主演は、まさにハマり役の美青年、歌舞伎役者の尾上菊之助。お母さんが富司純子だもんなあ。優柔不断な感じがよく出ており、この男ならこんな事件に巻き込まれるかもしれないと思わせ、無垢そうな表情が一層イラつかせる。だから同情はできないが。リメイク版の「犬神家の一族」(2006・日)で白いマスクを着けて佐清(すけきよ)を演じていたらしいが見ていない。

 豊志賀を演じたのは黒木瞳。やはり幽霊はこれくら美しくないと。特殊メイクで傷が悪化した時のギャップと凄みは美女ならでは。どアップになって主人公を見おろして微笑む怖さはスゴイ。嫉妬する感じも抜群だ。セミ・ヌードになってがんばっているが、ラストのキスはどうなんだろう。いかにも演技で唇を押し付けただけのような感じは、せっかくのそれまでの演技を台無しにするもの。まったく感情が入っていない。

 ほかにも女優は、井上真央、麻生久美子、木村多江と登場し、皆うまいが、凄さを感じさせるのは悪女を演じる瀬戸朝香。迫力がある。男の新吉を上回っている感じがしないと話しが成立しないが、ちゃんと上回っている気がした。

 ただ、お笑いの人をちょい役に使うのはどうなんだろう。どうしてもお笑いのイメージがつきまとうので、怖さが半減する。瀬戸朝香の手下の男を普通の役者さんにやらせたら、太鼓持ちから豹変するところに怖さが出たのではないだろうか。

 脚本は奥寺佐渡子。面白かった「学校の怪談」(1995・日)シリーズや、評判の良かったアニメ「時をかける少女」(2006・日)を手がけた人。最新作は国分太一の「しゃべれども しゃべれども」(2007・日)。

 素晴らしい絵を収めたのは、「リング」(1998・日)で中田秀夫監督と組んだことのある林淳一郎。ほかにもホラーの「回路」(2000・日)や「MAKOTO」(2005・日)、「仄暗い水の底から」(2001・日)も手がけている。話題作では「ドラゴンヘッド」(2003・日)も「容疑者 室井慎次」(2005・日)も林の仕事だ。時代劇ということもあってか、本作が一番きれいな気がする。天井も映っていて、ロウソクの明かりだけで撮ったような感じがまたリアルで良かった。

 美しいセットを作ったのは、美術監督の種田陽平という人。岩井俊二監督の「スワロウテイル」(1996・日)や馳星周原作の「不夜城」(1998・日)、「死国」(1999・日)、ハリウッド作品「キル・ビル」(Kill Bill: Vol.1・2003・米)シリーズ、押井守監督のアニメ「イノセンス」(2004・日)、「The有頂天ホテル」(2005・日)、「フラガール」(2006・日)など、どれもセットが素晴らしかった作品ばかり。

 音楽は世界の川井憲次を使っていながら、ほとんどなかったような……まったく印象に残っていない。エンディングにいきなり浜崎あゆみの曲が流れて違和感を感じたくらい。

 公開2日目の初回、銀座の劇場は用心して前日に座席予約しておいて行ったが、ガラガラ。586席に2割も入っただろうか。男女比は3.5対6.5くらいで女性の方が多く、ほとんどが高年齢。白髪が目立つ。20〜30代は1割程度。うーむ、これはちと辛い。

 半暗で上映された予告編は……上下マスクの「ライラの冒険 黄金の羅針盤」は新予告。面白そう。3D-CGアニメの「ベクシル」も新予告。だんだん内容がわかってきた。

 日本映画「犬と私の10の約束」はもうダメ。予告編だけで泣けてくる。とても見られない。動物と子供の映画は絶対当たるんだそうで……。20作目になるという「釣りバカ」は、まったく見る気はないが、檀れいがいい。「武士の一分」(2006・日)でも目立っていたが、なにより「金麦」のCMがいいなあと。今後の活躍に期待したい。他にも何本かあったが、日本映画はなんだかプログラム・ピクチャーみたいな印象で、どうにも食指が動かない。


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