Hairspray


2007年10月21日(日)「ヘアスプレー」

HAIRSPRAY・2007・米/英・1時間56分(IMDbでは117分)


日本語字幕:手書き書体下、戸田奈津子/シネスコ・サイズ(マスク、Super 35)/ドルビーデジタル、dts、SDDS

(米PG指定)

公式サイト
http://hairspray.gyao.jp/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)


1962年、アメリカではまだ人種差別が厳然として存在し、ボルチモアの大学が黒人の入学を拒否したことが新聞の一面をにぎわせていた。そんなとき、背が低くて太めの女子高生トレーシー(ニッキー・ブロンスキー)は、隣家の同級生ベニー(アマンダ・バインズ)と、夕方に放送されるTVの地方局のヘアースプレー会社提供ダンス番組「コーニー・コリンズ・ショー」を見るのが一番の楽しみだった。そして夢はその番組に出演すること。ある日、女の子の出演者が妊娠したため休むことなり、補欠をオーディションで選ぶことになる。トレーシーはさっそくそれを受けることにするが……。


85点

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 思わず体が動き出すようなリズムとノリの良さ。主人公は身長や体重のハンデをモノともせず、常に前向きで何事にも積極的。暗い顔なんてしない。ついつい彼女の明るさにつられて、観客までハッピーになってしまう。元気印。

 曲も素晴らしいものばかりで、このサントラは買いかも。いやお得。そして、前向きなメッセージもたくさん盛り込まれている。回りと同じじゃなくて違うことが大切なんだと。世界は毎日変わっている。古いタブーを打ち壊せ。何もしないのも罪。払った代価は報われる。愛の無い人生なんてつまらない。遠くても、スタートすれば遠くない。……などなど。

 しかし、最大のテーマは差別。一見楽しい音楽で、重大な問題を扱う。これはミュージカルの1つの側面。チビ、デブ、ユダヤ人、黒人……特に1960年代であり黒人問題に焦点が当てられている。ただ、湿っぽさや卑屈さや、悲惨さはない。あくまでもエンターテインメント。

 ミュージカルは3D-CGアニメの「ハッピーフィート」(Happt Feet・2006・豪/米)の環境破壊と温暖化や、音楽業界の裏側を描いた「ドリームガールズ」(Dreamgirls・2006・米)、低収入層や同性愛の人々を描いた「RENT レント」(Rent・2005・米)なとどなど、結構、重い問題を描いていることが多い。チラシや予告編などでは全く触れられていないが、本作で描かれているのは、ダンスで成功しようとする女子高生の話だけではない。むしろそれはサブ。

 であるにもかかわらず、気になるのは日本語字幕。確かに差別用語ではあるけれど、この映画にはたくさんの「ニガー」が登場する。日本よりもはるかに差別用語に厳しいアメリカで、あえて入れて作っているのは、そこに注目して欲しいからであり、差別のひとつの大きなキーワードであるからだろう。それを本作では同じ英語である「ブラック」と訳している(置き換えている?)。これでは「ニガー」が差別用語だとわからない。知らない人は「ニガー」って何だろうと思うはず。それを「ブラック」としては、何の引っ掛かりもなくなってしまう。いろいろとネットで話題になっている方の翻訳なので……。原語で何と言っていたかわからなかったが、「お姫さま抱っこ」を「プリンセス○○○」とか訳していたようだが、これもなあ……。

 当然、時代を反映してタバコはたくさん。しかも職員室など煙がたなびいている状態で、見ているだけで吸わない人は煙くなるような大げさ演出。これが笑える。ヘアースプレーで髪を高くしてガチガチに固め(トール・ヘアとか言っているのにビッグ・ヘアなんて言い換え訳だったが)、教室の後ろの席のヤツが黒板が見えないと嘆くのもおかしかった。

 主役はニッキー・ブロンスキー。なんと本作が芸能界デビュー作らしい。本作のオーディションに応募して、1,000人の中から選ばれたらしい。1988年生まれというから19歳。この明るさは素晴らしい。ただ、こういう作品のほかに行けるのか。

 お母さんは特殊メイクで太ったオバサンになったジョン・トラボルタ。ちゃんと観客の期待どおり、太った着ぐるみを身に付けていても、ダンスを披露してくれる。

 お父さんはクリストファー・ウォーケンで、どうにもギャングとかイっちゃってる人とかのイメージだが、かなりのオトボケ役で、そのギャップがおかしい。

 偏見の塊のような元ミス・ボルチモアのベルマはミッシェル・ファイファー。近日公開の「スターダスト」では、年老いた魔女を演じているようだが、憎まれ役というか、醜い役を進んでやっている感じだ。それがスゴイ。ボクにはやっぱりジョン・ランディス監督の「眠れぬ夜のために」(Into the Night・1984・米)の美女役が忘れられない。とてもこんな役をやる人だとは思えない。しかし演技派になるにはこういう役もやらないとということか。

 その娘はブリタニー・スノウ。なかなか笑えたコメディ「キャプテン・ウルフ」(The Pacifier・2005・米)でウルフに預けられる子供の長女を演じていた子。

 主人公の親友を演じたブロンドの子はアマンダ・バインズ。12歳でTVの「アマンダ・ショー」のホスト(ホステス?)を務めたという天才少女。3D-CGアニメの「ロボッツ」(Robots・2005・米)で女の子のロボットの声を担当している。

 黒人のビッグ・ママ的存在のメイベルを演じたのは、クィーン・ラティファ。「TAXI NY」(Taxi・2004・米)はイタかったが、「スフィア」(Sphere・1998・米)とか「ボーン・コレクター」(The Bone Collector・1999・米)とか、良い作品に出ていた人。

 「コニー・コリンズ・ショー」のホストを務めたのは、ジェームズ・マースデン。「X-MEN」(X-Men・2000・米)のサイクロップスを演じていた。一転して軽い役。うまいなあ。

 超二枚目のリンク役は、ザック・エフロン。素顔のザック・エフロンはこんなにキザではなく、普通の二枚目。「ハイスクール・ミュージカル」などTVで活躍していたらしい。今後期待の20歳。

 監督は振付師でもあるアダム・シャンクマン。製作総指揮も兼ねている。監督デビュー作はアメリカでは大ヒットしたジェニ・ロペ(ジェイ・ロー)の「ウェディング・プランナー」(The Wedding Planner・2001・米)だそうで、「キャプテン・ウルフ」も彼の監督作品。それでブリタニー・スノウが出ていたのかも。映画の振付師としては1992年くらいから活躍しているようだ。「アダムス・ファミリー2」(Addams Family Values・1993・米)、個人的に大好きなSFアクション・コメディ「タンク・ガール」(Tank Girl・1995・米)、「ブギーナイツ」(Boogie Nights・1997・米)なども手がけている。

 ジョン・トラボルタをおデブのお母さんに変身させたのは、たぶん特殊メイクアップのバリー・アンダーソン。都市伝説を描いたホラー「ジーパーズ・クリーパーズ」(Jeepers Creepers・2001・米)などを手がけている。そしてもう1人がおデブ・スーツを作ったらしいプロステティック・デザイナーのスティーヴ・コッホ。「スパイダーマン」(Spider-man・2002・米)や「メン・イン・ブラック2」(Men in Black II・2002・米)、最近では「エイリアンvsプレデター」(AVP・2004・米)や「アイランド」(The Island・2005・米)などの話題作を手がけている。

 作詞・作曲を手がけたのは、マーク・シェイマン。「ヘアー・スプレー」でブロードウェイ・デビューをはたしたらしい。スティーヴン・キング原作のホラー「ミザリー」(Misery・1990・米)や傑作コメディ「シティ・スリッカーズ」(City Slickers・1991・米)、「アダムス・ファミリー」(Addams Family・1991・米)、ウーピー・ゴールドバークのミュージカル「天使にラブソングを...」(Sister Act・1992・米)、「めぐり逢えたら」(Sleepless in Seatle・1993・米)などそうそうたる作品が並ぶ。

 公開2日めの初回、銀座の劇場へは前日に座席予約しておき、20分前くらいに到着。すでに開場していたが、朝の9時20分からと早いためか、高齢者が多い。最終的に2F席の222席に2.5割ほどの入り。1F席も似たようにものだったろうか。

 男女比は4.5対5.5でやや女性が多い感じ。下は中学生くらいの女の子からいたが、ほとんど中高年。

 スクリーンはビスタで開いていた。10分前から劇場案内を上映。予告が始まる直前に席に着いた男性がタバコを吸ってきたらしく、臭いの何の。直前に煙草を吸ってくるのは辞めて欲しい。服にも匂いが付いているし、息を吐くたび煙い。後ろのオバサンはいつまでもグチッてるし……まったくもう。

 半暗で始まった予告では……日本映画「犬と私の10の約束」と「象の背中」はどちらも、もう予告編だけで「泣」。とても劇場で見れそうもない。

 ミツバチが主人公の3D-CG映画「ビー・ムービー」は「バグズ・ライフ」(A Bug's Life・1998・米)みたいで、面白そう。ただ「シュレック」(Shrek・2001・米)と「マダガスカル」(Madagascar・2005・米)のドリームワークスというのが気になる。どちらもあまり好きじゃない。同じく3D-CG映画で上下マスクの「ベオウルフ」は新予告になったが、どうにも気持ち悪い。ここまでやるなら実写にすればいいのに。

 「ライラの冒険」も新しい予告編に。やっと内容がわかってきた。とにかく絵がスゴイ。早く見たい。2008年3月の公開らしい。


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