Bourne Ultimatun


2007年11月11日(日)「ボーン・アルティメイタム」

BOURNE ULTIMATUM・2007・米・1時間55分

日本語字幕:手書き書体下、戸田奈津子/シネスコ・サイズ(マスク、Super 35、Arriflex)/ドルビーデジタル、dts、SDDS

(米PG-13指定)

公式サイト
http://bourne-ultimatum.jp/
(入ると画面極大化。音に注意。情報少、全国の劇場案内はあり)

アメリカ中央情報局(CIA)の幹部は、「トレッドストーン」作戦の証拠を抹消するため、ロシアのモスクワにジェイソン・ボーン(マット・デイモン)がいることをつかみ、暗殺者を差し向ける。さらに、「トレッドストーン」をアップ・グレードした「ブラック・ブライヤー」作戦を始動し、その情報が漏れないよう監視をしていた。そしてイギリス、ガーディアン紙のリポーター、サイモン・ロス(パディ・コンシダイン)が「ブラック・ブライヤー」の単語を通信の中で使っていることを知り、監視を強める。一方、暗殺者を返り討ちにし、事件を仕組んだ奴らに責任をとらせるため、ボーンは行動を開始する。そしてサイモンの新聞記事を読むと彼に連絡を入れる。

76点

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 息をもつかせないジェットコースター・ムービー。ストーリーは単純なのに、ほとんど追いつ追われつだけで、約2時間、一気に見せてしまう。これがすごい。つまり映画の原点ということか。プロとプロの戦い、そしてプロの尾行や罠の裏をかく手に驚かされる。スッゲェなあ。

 ただ、ドキュメンタリー・タッチを出そうとして多用される手持ちカメラで画面は揺れまくり。というか、じっとしている画面がない。シネスコ・サイズなので揺れが強調され、観客は軽いめまい状態に。疲れる。しかも、スピード感を出すために短いカットがたくさん使われているので、中には何が写っているかわからないカットも多い。アクション・シーンでは、誰がどこに動いているのやら。おかげで、多少下手な殺陣でもバレなくなっているのだが。こんなに動かしたいのならビスタというか、スタンダードでやれ。

 面白いのは、CIAがただ悪いのではなく、内部でも分かれていて、一部の奴らが独断専行していること。多少本当のCIAに気を遣ったのかもしれないが、おかげでよりリアルな感じがする。そして、この構図はイングラムSMGが強烈な印象を残したロバート・レッドフォードのCIAモノ「コンドル」(Three Days of the Condor・1975・米)と同じ。

 そして怖いのは「エネミー・オブ・アメリカ」(Enemy of the State・1998・米)やTVドラマ「24」、「デジャヴ」(Deja Vu・2006・米)でも描かれていたように、街中の監視カメラがモニターでき、パスポートもICチップ方式になり、空港で指紋と顔写真もコンピュータに取り込まれることで、誰のパスポートがいつ、どこで使われたか瞬時にわかること。これはテロリストなどの不法入国を防ぐ上で、必要なことなんだろうけど、それにしてもなあ。メールだって傍受されるし。

 監督はがっかりさせられた第2作から引き続きポール・グリーングラス監督。ヘレナ・ボナム=カーターとケネス・ブラナーが共演した「ヴァージン・フライト」(The Theory of Flight・1998・英)を監督し名前を知られるようになるが、高い評価を受けたという「Bloody Sunday」(2002・英/アイルランド)が日本劇場未公開。ただ911を描いたドキュメンタリー・タッチのドラマ「ユナイテッド93」(United 93・2006・米)は抜群に面白かった。ドキュメンタリー・タッチが得意な人なのかもしれないが、カメラの動かし過ぎだけはどうにかしてほしい。ここぞというところで動かすから効果があるのでは。時には観客の視点も必要ではないか。

 脚本は原案も兼ねるトニー・ギルロイ、スコット・Z・バーンズ、ジョージ・ノルフィーの3人。トニー・ギルロイはシリーズの1も2も手がけ、ラッセル・クローの傑作アクション「プルーフ・オブ・ライフ」(Proof of Life・2000・米)の脚本を書いた人。スコット・Z・バーンズは「不都合な真実」(An Inconvenient Truth・2006・米)のプロデューサー。ジョージ・ノルフィーはキーファー・サザーランドのなかなかのアクション「ザ・センチネル/陰謀の星条旗」(The Sentinel・2006・米)の脚本を書いているものの、「オーシャンズ12」(Ocean's Twelve・2004・米)やマイケル・クライトンのヒット作を台無しにした「タイムライン」(Timeline・2003・米)も書いているので何とも……。

 ガーディアン紙のリポーター、サイモン・ロスを演じたパディ・コンシダインは、実際にイギリス生まれで、どこかで見たなあと思ったら、ラッセル・クローの感動作「シンデレラマン」(cinderella Man・2005・米)に出ていた人。

 今回のヒロインというかボーンの相手役は、シリーズ第1作から出演しているCIAエージェント役のジュリア・スタイルズ。シェイクスピアの有名な戯曲を現代のNYに置き換えたイーサン・ホークの「ハムレット」(Hamlet・2000・米)で、ハムレットの恋人オフィーリアを演じていた人。最近ではガッカリのリメイク版「オーメン」(The Omen・2006・米)で、ダミアンの目の前で自殺するナニーを演じていた。

 CIAの悪徳局長を演じていたのは、スコット・グレン。第二次世界大戦もののホラー「ザ・キープ」(The Keep・1983・英)あたりから注目され、「ライトスタッフ」(The Right Stuff・1983・米)、「シルバラード」(Silverrado・1985・米)などで活躍、「羊たちの沈黙」(The Silence of the Lambs・1990・米)ではジョディ・フォスターのFBIの上司を演じた。最近はTVの仕事が多かったようだが、またスクリーンに戻ってきたと。

 最初に出てくるCIAの殺し屋(ターミネーターと呼んでいた)パズを演じていたのは、エドガー・ラミレス。実在の女賞金稼ぎを描いた「ドミノ」(Domino・2005・仏/米)で、ドミノとチームを組む男を演じていた人。狙撃に使ったのはたぶんSIG SG552にサイレンサーを付けたもの。モノポッドをレストに使っているのが珍しかった。ラストで使っていたのはベレッタM92FS。

 CIAでまともなエイジェント、パメラ・ランディを第2作から演じているジョーン・アレン。感動ファンタジー「カラー・オブ・ハート」(Pleasantville・1998・米)でドラマの世界のお母さんを演じていた人。政治の舞台裏を描いた「ザ・コンテンダー」(The Contender・2000・米)では、副大統領候補となる女性議員を演じていた。

 すぐに殺しを命じるCIAの局長にはデヴィッド・ストラザーン。メリル・ストリープの川下りスリラー「激流」(The River Wild・1994・米)で、よき夫を演じていた人。オスカー受賞作「L.A.コンフィデンシャル」(L.A. Confidential・1997・米)では売春組織のボスを、警備システムの弱点を指摘する専門家集団の活躍を描いたロバート・レッドフォードの「スニーカーズ」(Sneakers・1992・米)では、盲目の音の専門家を演じていた。性格俳優という感じだろうか。

 冒頭のロシアのシーンで使われていた銃はSIGのP226だっただろうか。カットが速い上にカメラが動いて良くわからなかった。ボーンが途中使っていたのは、USPにサイレンサーをつけたもの。後半でこれはSIG Proになる。そしていつのまにかグロックになって、またSIGになったように見えたが……。武器係はサイモン・アサートンとジョン・ニクソン。サイモン・アサートンは「ブラッド・ダイヤモンド」(Blood Diamond・2006・米)や「ミュンヘン」(Munich・2005・米)で武器係をやっている。ジョン・ニクソンは同じ「ブラッド・ダイヤモンド」のほか、SFアクションの「ドゥーム」(Doom・2005・米)などを手がけている。

 ボーンはスパイ道具のひとつとして携帯に便利なモノキュラーを使う。これはスクリーン上ではとても高倍率のズームになっていて、しかもレンジ・ファインダーとしても使える目盛が入っていた。かなり高価なモノと思われるが、「24」でもジャック・バウアーが自分のバッグの中にモノキュラーを入れていた。プロはこれを使うか。

 タイトルのデザインは普通だったが、エンドロールはまるでオープニング・タイトルのような雰囲気。黒バックで伸びていくラインでビルなどが描かれていくアニメーション。IMDbにはなかったが、劇場のエンド・ロールにはエンド・ロール○○とあった。たしかスターム・トレターとかなんとか……。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は50分前に着いたら前売り券の列に7人、当日券の列に2人。そのうちオバサンは4人。25分前くらいに当日券の窓口が開いて、まもなく開場。この時点で25人くらい。話題作の割りには意外と少ない。

 初回のみ全席自由で、12席×2列のカバーの席も自由。ただし飲食物の持ち込みご遠慮苦ださいの立て札あり。場内へ入ると落ち着くのか、あちこちで携帯のチェック。最新機種ほど画面が明るいので、明るくて遠くからでも気になる。

 最終的には1,044席に2.5割りほどの入りは、ちょっと寂しい。もっと入っても良い映画。下は中学生くらいからいたが、ほとんどは中高年。男女比は半々くらい。

 それにしても、映画泥棒の警告より、上映中に携帯を点灯させるなというキャンペーンをやった方が良いと思う。飲食物持ち込み禁止とか自分の権利を守ることばかりに熱心で、観客が映画を快適に見られるようにという肝心なところが欠けている気がする。たくさん観客に来て欲しいなら、どっちに注力すべきか明らかだと思うが。

 基本的に初回は予告無しらしいが、半暗になって、まずドルビーデジタルのデモというかCM。洞窟のようなバターン。その後暗くなってシネスコの左右マスクで、リドリー・スコット監督の「アメリカン・ギャングスター」の予告。ラッセル・クロウが刑事で、デンゼル・ワシントンがギャングらしい。逆かと思った。面白そう。


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