Vacancy


2007年11月17日(土)「モーテル」

VACANCY・2007・米・1時間25分(IMDbではR指定版は80分、通常版85分)

日本語字幕:手書き書体下、太田直子/シネスコ・サイズ(マスク、with Panavision、Super 35)/ドルビーデジタル、dts、SDDS

(米R指定、日PG-12指定)

公式サイト
http://www.sonypictures.jp/movies/vacancy/index.html
(入ると画面極大化。音に注意。全国の劇場案内もあり)

デビッド(ルーク・ウィルソン)は妻のエイミー(ケイト・ベッキンセール)の両親の結婚記念日のパーティーに出席した帰り道、渋滞した高速を降りて近道をしようとして携帯も繋がらない山奥で道に迷ってしまう。そして道路にいたアライグマを避けようとしてスピン。エンジンの調子がおかくしなったため、たたまたたま営業中だったガソリン・スタンドで見てもらうが、さらに調子が悪化、エンジンが止まってしまう。そこでガソリン・スタンドに戻るがすでに人の姿はなく、しかたなく併設されていたモーテルで朝を待つことにする。退屈を紛らわそうと、部屋にあったビデオテープを再生すると、それは殺人を録画したもので、しかもその部屋で撮影されたものであることがわかる。その時、凄まじいノックの音が響き渡る。

73点

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 怖い。コンセプトというか粗筋はありふれたものだが、ちょっとした設定がおもしろく、エピソードの作り方と構成、演出が巧妙で、単純なのに最後までハラハラドキドキで目が離せない。ただ、ラストのラストだけ、キレが悪い。なんだか残尿感。長過ぎ。電話をしたあたりでパッと終ればいいのに。

 シンプルなストーリーなので、いかに小さなエピソードを盛り込んで飽きさせず、次から次へと違うピンチで面白く見せるか。わずか85分のTVムービーほどの長さながら、2時間くらいに感じさせる充実度。ただ脱出するだけなのに、よくこれだけアイディアを盛り込んで、見せるものだと感心させられた。逃げるだけではなく、考えて反撃するところも良いのかもしれない。

 冒頭のタイトルからして、ソウル・バスのヒッチコック風というか、「北北西に進路を取れ」(North by Northwest・1959・米)というか、そんな雰囲気。当然モーテルは「サイコ」(Psycho・1960・米)のベイツ・モーテル風。サイコ・スリラーを狙ったのではないだろうか。タイトル・デザインを手がけたのは、ピクチャー・ミル。やっぱりね、うまいわけだ。

 たぶん低予算映画。ほとんどの予算はケイト・ベッキンセールの出演料ではないかと思えるほど。たった一晩の出来事で、場所も人里離れた山の中、出演者は「スナッフ・ビデオ」以外わずかに7人。大爆発もないし、SWATも出てこない。

 アメリカには地図にも載っていないような場所に人が住んでいて、「悪魔のいけにえ」(The Texas Chainsaw Massacre・1974・米)をはじめてとして、実際に通りかかる人を片っ端から殺していたというような話が本当にある。だから、高速を降りて近道しようとして災難に遭うというのは、スプラッター映画の定番。非常に怖かったホラーの「-less[レス]」(Dead End・2003・仏ほか)も途中下車の恐怖。

 でも、仕掛けが秀逸で本当に怖い。特に音、見えないところにあるビデオの中の叫び声や、サラウンドで恐ろしく響き渡る深夜のノックの音などは、鳥肌もの。日本ではないとしても、実際にこんな状況になったらどうしようと思わせる。部屋は小奇麗なのに古くてかび臭い感じで、大きなゴキブリもいるし、壁にもシミがある。TVの番組表は何年も前のもの。この辺の演出もうまい。そして、謎の男達のマスク。細かい金網のよううなものらしく、ライティングによってとても怖い。すごいデザイン。

 途中でやって来る警察官が持っているのは、ベレッタM925FSだったような。パトカーに積んであるショットガンは、ロックされていて使うことが出来ない。

 ルーク・ウィルソンもがんばっていたが、2007年8月に兄の金髪のオーウェン・ウィルソンが自殺未遂を起こして入院したという事件が思い起こされてちょっとかわいそうな感じが。発見したのがルーク・ウィルソンだったとか。

 ベイツのような不気味な管理人を演じたのはフランク・ホエーリーという人。童顔なのでヒゲを生やし、時代遅れのデザインの眼鏡をかけている。ジェニファー・コネリーが主演したロマンチック・コメディ「恋の時給は4ドル44セント」(Career Oppotunities・1990・米)で、ジェニファー・コネリーに憧れる青年を演じて注目された。驚異の時間逆行SF「リバース」(Retroactive・1997・米)では気の弱い研究員を演じていた。その管理人室の入口の上にSAAが2挺掛けてあって、ひょっとしたら、と思っているとちゃんと期待どおり使ってくれる。

 脚本を書いたのはマーク・L・スミスという人。本作の前に1本、監督もかねて脚本を書いているが、ほとんど新人に近いらしい。今後にも期待したい。

 監督はニムロッド・アーントル。34歳の若手監督で、ハンガリー時代に撮った「Kontroll」という作品で高い評価を得て、本作でハリウッド映画デビューをはたすことになったという。これだけの演出力があればおもしろい作品を撮れるのではないだろうか。

 ちなみに、公式サイトのプロダクション・ノートによれば、劇中のスナッフビデオ(殺人映像)を作ったのは、撮影監督のアンジェイ・セクラだという。かなり怖いし、リアル。クエンティン・タランティーノの「レザボアドッグズ」(Reservoir Dogs・1992・米)、恐ろしかった「アメリカン・サイコ」(American Psycho・2000・米)、残念だった続編「CUBE 2」(Hypercube: Cube 2・2002・米)では監督デビューもはたしている。

 コピー防止のドットが暗い画面から明るい画面に切り替わる時に打たれていて、ちょっと気になった。

 公開初日の2回目、銀座の劇場は15分前についたらちょうど開場したところ。20人くらいが座っていた。ほとんど中高年で、1/3が女性。最終的には435席に30人くらいの入り。これは少な過ぎ。もっと入っても良い映画だと思う。

 すでに案内が上映中だったが、ブザーが鳴ってはじまった予告編は……「ヒッチャー」はどうでもいいとして、「ライラの冒険」は新バージョンの予告。とにかくすごそうな絵。3月の公開が待ち遠しい。「デス・ノート」のスピンオフ映画は2/9公開らしい。新しく撮影された絵も公開され、「チェンジ・ザ・ワールド」というタイトルになるとか。なんでも前売り券を買うとLが好きなスイーツのついた携帯ストラップがもらえる。

 歌舞伎の舞台を映像化した「野田版研辰の討たれ」は面白そうだが、すでにDVD版が発売されている。それを劇場公開するというのは、大スクリーンで見たい人のためということか。しかも当日2,000円と高い。前売りでも1,800円。


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