The Assassination of Jesse James by the Coward Ford


2008年1月14日(月)「ジェシー・ジェームズの暗殺」

THE ASSASSINATION OF JESSE JAMES BY THE COWARD FORD・2007・米・2時間40分

日本語字幕:手書き書体下、岡田壮平/シネスコ・サイズ(マスク、Filmed in Arri、Super 35)/ドルビー・デジタル、dts、SDDS

(米R指定、日PG-12指定)

公式サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/assassinationofjessejames/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

西部開拓時代末期のアメリカ。まだ自分たちを南軍のゲリラとし列車強盗などの犯罪を繰り返していたジェームズ・ギャング一味に、ジェシー・ジェームズ(ブラッド・ピット)を崇拝する20歳の青年、ロバート・フォード(ケイシー・アフレック)がやってくる。彼は一味のひとりチャーリー(サム・ロックウェル)の弟で、ジェシーによって仲間に加えてもらった。しかし、行動を共にする内、ジェシーの本当の恐ろしさを知り、有名になりたいことや、彼にかかった賞金や、自分が殺されるかもしれない恐怖などから、彼を裏切る決心をする。

73点

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 非常に良くできた映画だと思う。いつ殺されるかわからない怖さというか緊張感がずっと最後まで続く。刃物の上を歩いているような危うさ、怖さ。まるで胃が痛くなるような緊張感。演出も演技もうまいから、おそらく主人公のロバート・フォードが感じただろう居心地の悪さまで感じてしまう。

 しかも、実話に基づく多数の人間を殺し有名になった犯罪者を撃った男の破滅の物語。これは殺される男の立場から見ても辛いし、殺してしまった男の立場から見ても辛い。

 ジェシー・ジェームズは1847年にミズーリ州で生まれ、1861年から南軍に参戦、終戦後の1866年にヤンガー兄弟らとともに戦時以外で初めての銀行強盗を行い、1882年4月3日に射殺されるまでの16年間に、11回の銀行強盗、7回の列車強盗を行い、少なくとも16人を殺したと言われている。

 かなり史実に忠実に作られているようだが、フォーカスをジェシー・ジェームズと彼を暗殺したロバート(ボブ)・フォードに当てているため、全体の流れはちょいとわかりにくい。むしろ、分かりやすさで行けば、ジェームズ/ヤンガー・ギャングを描いたウォルター・ヒル監督の「ロング・ライダース」(The Long Riders・1980・米)の方がよかった。本作ではヤンガー兄弟が出てこないが(1876年にケンカ別れした)、ヤンガー兄弟とジェームズ兄弟の確執、兄のフランク・ジェームズのその後もわかる(こちらも暗く息詰まるような映画だった)。合わせて見るとより深く理解できるだろう。

 本作だと、南軍ゲリラから始まり、彼らにすれば戦争後もそのまま破壊活動を続けたということで、元南軍兵士からは何も盗らなかったなどがあって、南部の人々からは犯罪者でありながらも好意的に見られていた、ということがわかりにくい。だから、凶悪な大犯罪者ジェシー・ジェームズを暗殺した(しかも丸腰の男を後ろから撃った)男を、裏切り者とか卑怯者と見る一般大衆の気持ちの強さがわからない。ただ、ジェシー・ジェームズの異常さと、暗殺したボブ・フォードの心情の変化と経緯(そして初めて描かれただろうその後の運命まで)は本作のほうが良くわかる。

 ジェシー・ジェームズをリアルに演じたブラッド・ピットは素晴らしい。スプーンの持ち方のようなささいなことから、カッとなると自制が効かなくなるエキセントリックな面までみごと。ホルスターもちゃんとオールド・スタイルのループ・ホルスターで、ショルダー・ホルスターとあわせて3挺も身に付けているところがすごい。クロス・ドローだし(現在は危険性が高いということで、クロス・ドローはほとんど行われない)。特に何気ないしぐさに殺気が漂う感じ、いつ銃を抜くかもわからない恐怖の匂いなど、よく出している。本当の犯罪者のような雰囲気。さすがにプロデュースまで務めただけのことはある。制作会社であるプランBはブラッド・ピットの会社だ。使っていたのはSAAのキャバルリー7.5インチ。

 頭を後ろから撃たれて、反動で目の前の写真の額のガラスに頭を打ち付けてガラスを割るのが、いかにもリアルで怖かった。すごい演出と演技。

 裏切り者ボブ・フォードを演じたのはケイシー・アフレック。あまり似ていない気がするがベン・アフレックの弟。「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」(Good Will Hunting・1997・米)にも出ていたらしい。その後ソダーバーグのリメイク「オーシャンズ11」(Ocean's Eleven・2001・米)シリーズにも出ていた。ほとんど印象に残っていないが、それでブラッド・ピットの目に留まったのだろう。本作は気の弱い揺れ動く青年の感じが良く出ていて、とても印象的。名演だと思う。今後期待が持てそう。最初は時代遅れのパーカッションのコルト・ネービーかアーミーを使っているが、後でジェシー・ジェームズからニッケルめっきのS&Wスコーフィールドをプレゼントされる。

 「ロング・ライダース」でデニス・クエイドが演じたエド・ミラーを演じたのは、ギャレット・ディラハント。「4400未知からの生還者」とか「ER緊急救命室」などのTVドラマで活躍してきた人らしい。

 女たらしの悪党、ディック・リディルを演じたのは、ポール・シュナイダー。「幸せのポート・レート」(The Family Stone・2005・米)や「エリザベスタウン」(Elizabethtown・2005・米)に出ていたらしいが、どれも見ていない。ハマり役の感じがした。使っていたのは、使い古したたぶんSAAのシビリアン。

 ディックと近距離で撃ち合うことになるウッド・ハイトを演じたのは、「S.W.A.T.」(S.W.A.T.・2003・米)で、最初にS.W.A.T.をクビになる過激な男を演じていたジェレミー・レナー。本作でも嫌な感じの悪漢を自然に演じていた。

 ボブ・フォードの兄、チャーリー・フォードを演じたのは、こすい悪党を演じさせたら天下一品のサム・ロックウェル。つい最近コメディSF「銀河ヒッチハイク・ガイド」(The Hitchhiker's Guide to the Galaxy・2005・米/英)に出ていたが、実はその前にもコメディSFの「ギャラクシー・クエスト」(Galaxy Quest・1999・米)にも出ていて、悪役ながら芸幅は広い。しかし、やっぱりショッキングだったのは、「キャメロット・ガーデンの少女」(Lawn Dogs・1997・英/米)ではないだろうか。

 ほんの1シーンしか出ていないが、ジェシー・ジェームズの兄フランク・ジェームズを演じたのは、「ライトスタッフ」(The Right Stuff・1983・米)のサム・シェパード。ちょっと前リドリー・スコット監督の傑作戦争映画「ブラックホーク・ダウン」(Black Hawk Down・2001・米)で、作戦を考え実行した将軍を演じていた。その貫録が本作でも発揮され、かなり怖い。本物のフランクは、自首して裁判の結果、南部の人々の助けもあって、無罪になったとか。

 ジェシー・ジェームズの妻ジー・ジャームズを演じたのは、メアリー=ルイーズ・パーカー。サイコ・ホラー「レッド・ドラゴン」(Red Dragon・2002・米)に出ていたそう。美人なのに、ほとんど重要なセリフはないし、しゃべらない。それで存在感があるのだからスゴイ。

 監督・脚本はニュージーランド出身のアンドリュー・ドミニク。日本公開作は本作が初めてらしい。この前に監督・脚本を手がけたオーストラリア作品は日本劇場未公開となっている。CMやミュージック・ビデオで活躍してきた人らしい。プロデューサーの1人にリドリー・スコット監督がいるので、彼やブラッド・ピットに認められての抜擢ということなのだろう。次作も見ないと何ともいえないが、それなりの実力の持ち主らしい。

 銃はほかにも、ライフルでM66イエローボーイが出ていた。みな古い銃が多く、使い古した感じでいかにも貧しい犯罪者の銃といった感じだった。

 ちなみに劇中、字幕ではなくオリジナルのセリフで、ガンスリンガーという言葉が登場する(字幕はガンマン)。どうも当時にはなかった言葉で、後世に作られたもののようだ。銃使いを指す言葉のうち、だいたい悪党に対して使う言葉らしい。ガンマンは警官にもアウトローにも使うが、正義の味方にはガンファイターという言葉を使うようだ。Wikipediaによれば、当時はガンマン、ピストリア、シューティスト、バッド・マンなどを使っていたのだとか。

 公開3日目の2回目、前日に座席を確保しておいて(往復の電車代と手間が掛かるが……)30分前くらいに着いたら、ちょうど前回が終ったところ。清掃終了後入場となって、この時点では2〜3人のみ。全席指定になってから、遅れて入ってくる人が多くなった。

 最終的には、半暗になって予告編が始まってからもぞくぞくと入ってきたので確認できなかったのだが、540席の半分くらいが埋まっていたようだ。年齢層的には、下は中学生くらいの子供連れファミリーから高齢者までいたが、場所柄と時間帯もあってか、若い女性と、若いカップルが目立っていた。女性はブラピ狙いか。男女比は4.5対5.5くらいで女性の方が多かった。

 気になった予告編は……早くも「バットマン」の続編「ダーク・ナイト」を上映。結構カッコ良く、スゴイ迫力で、ジョーカーはかなり怖い。これは面白いものになりそうな予感。

 日本映画、金城武主演の「SWEET RAIN 死神の精度」は、ちょっと「ジョーブラックをよろしく」のような雰囲気で良い感じ。なんか爆発まであって、久々にTVドラマの延長というよりは映画っぽい作品かも。

 「ビー・ムービー」は具体的な内容がわかるものになって、なかなか良さそう。期待が膨らむ。ただボク的には「シュレック」と「マダガスカル」の、という修飾語がむしろマイナス要因になってしまうのだが……。


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