The Counterfeiters


2008年1月20日(日)「ヒトラーの贋札」

DIE FLSCHER・2006・墺/独・1時間36分(IMDbでは98分)

日本語字幕:手書き書体下、佐藤一公/ビスタ・サイズ(16mm、Super 16)/ドルビー・デジタル

(米R指定)

公式サイト
http://www.nise-satsu.com/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

1936年、ベルリン。偽造パスポートなどでいい顔だったサリー・ソロヴィッチ(カール・マルコヴィクス)は、ヘルツォーク刑事(デーヴィト・シュトリーゾフ)に逮捕され、刑務所に送られる。そして1939年、ユダヤ人であることからマウトハウゼン収容所に送られる。しかしそこで絵の才能を認められ、プロパガンダ壁画などを描く仕事で生き長らえることができた。5年後、サリーは突然ザクセンハウゼン収容所へ移送される。そこにはサリーの逮捕で出世したヘルツォーク刑事が親衛隊の少佐となって待っており、ほかにも印刷技術者や美校生などのユダヤ人技術者が集められていた。贋札を作り敵国の経済を破壊するというベルンハルト作戦を行うというのだった。

80点

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 第二次世界大戦で、こんなことが行われていたとは。あって当然のことなのだろうが、驚いた。実話に基づいた物語。

 そういえば現代でもつい最近、朝鮮半島の北の国が偽ドル札を作って問題になっていたっけ。600円のプログラムによれば、日本軍も中国紙幣を偽造し、中国経済に打撃を与えようとしたらしい。戦争では何でも有りだ。

 本作は、そんな贋札作りを強要されるユダヤ人の姿を描いている。自分たちの味方の国に大打撃を与えるものを必死で作らなければならない矛盾。完成できなければ殺されるという恐怖。しかも、他のユダヤ人とは板塀によって隔離され、彼らより格段に優遇されていたため、敗戦の色が濃くなってドイツ軍が逃げ出した後は、今度は味方に対してまで言い訳をしなければならなくなる。何という過酷な運命。こんなことがあったなんて。

 見ていると物語の展開に無理がない。ドイツ側としてはなんとしても贋札を作らせようとするだろうし、ユダヤ人側はやってはいけないと知りつつ、今日を生き延びるために贋札作りをする。

 グループには正義感に燃えてサボタージュしようと主張するものもいるし、生きるためだからやろうというもの、職人と偽ってグループに加わった者、病弱な美大生などさまざまな人物がいる。ここもリアル。ユダヤ人とはいえど1枚岩ではない。仲間をドイツに売るようなことだけは絶対にしないという、その一線だけは守ろうとするが、それもついには揺らぐ。

 支配者として横暴な態度をとるドイツ兵がおそろしい。たいして容疑が明確でもないのに、疑わしいだけでその場で銃殺してしまう狂気。ひざまずかせて、拳銃を頭に1発。ぞっとした。

 不思議なのは、これもほんど全編手持ち撮影のようで、画面が揺れ動くのだが、あまり気にならない。カメラが16mmで小さく、揺れ幅が小さいからだろうか。それとも揺れるリズムだろうか。商業映画としては基本はフィックスだと思うが、本作は許せる。

 サリーを演じたカール・マルコヴィクスは日本ではあまり知られしてない。TVでの活躍が多いようで、劇場映画も日本劇場未公開となっている。しかし、本作にピタッとはまった印象。彼のおかげでリアルさが増したのは間違いない。

 親衛隊のヘルツォーク少佐を演じたデーヴィト・シュトリーゾフも雰囲気充分で、本当にこんな人だったのではないかと思わせる。「ヒトラー 〜最期の12日間〜」(Der Untergang・2004・独/伊)に出ていたらしい。使っていた銃はワルサーP38。

 憎たらしく横暴なホルスト小隊長を演じたのは、マルティン・ブラムバッハ。自分を神のように思い、我がままに振る舞う感じがリアル。とにかく憎たらしい。映画のラストでいなくなってしまったのは残念。やはりユダヤ人たちの惨殺されるとかしないとバランスが悪い感じはした。ドイツではTVで活躍している人らしい。すぐに収容者を銃殺してしまうが、やはり銃はP38だったよう。他の兵士はMP40などを使っている。

 監督と脚本はステファン・ルツォヴィッキー。オーストリー、1961年生まれというから47歳、当然第2次世界大戦は知らないはず。しかし時代感は良く出ていたと思うし、ナチスの怖さも良く出ていた。これまでには「アナトミー」(Anatomie・2000・独)、「エニグマ奪還」(All the Queen's Men・2001・米/独ほか)日本劇場未公開、などがあり、主役のカール・マルコヴィクスや、原作者のアドルフ・ブルガーを演じたアウグスト・ディールらと仕事をしている。が、ボクはどれも見ていない。ちょっと気になるなあ。

 原作は、劇中、ひとり正義感を声高に叫び周囲から白い目で見られる写真印刷の専門家アドルフ・ブルガーの「ヒトラーの贋札 悪魔の工房」(熊河浩訳・朝日新聞社)。1917年生まれだそうで、91歳の高齢。この映画公開のため2007年11月に来日したという。知らなかった。

 公開2日目の2回目、銀座の劇場は30分前に着いたら、ちょうど前回が終って入場が始まったところ。前日に座席を確保しておいたのだが、早めに入った。このシステムは座席を確保した安心感からか、遅れてくる人が多いのが玉にキズだ。

 最終的には224席がほぼ満席。女性は1/3くらいで、ほぼ中高年。まあ当然か。久しぶりにプログラムを買った。原作者のインタビュー、紙幣研究家の解説、ベルンハルト作戦の解説もあり、資料性が高い。これで600円なら妥当な線だ。あえて言えば映画評論家の文はいらないかなあ。それよりスタッフやキャストの解説がもっとあった方がいいと思う。

 気になった予告編は、ダニエル・デイ・ルイス主演の上下マスク「ゼア・ウイル・ビー・ブラッド」。まだティーザーで内容は良くわからない。コーエン兄弟の新作「ノーカントリー」は、逃げる男と、追う殺し屋、そして警察という三つどもえらしい。なかなか怖そう。

 アン・リー監督の新作「ラスト コーション」は日本占領下の上海で、特務機関の男に接近する抗日運動家の女との恋を描くらしい。トニー・レオン主演でもあり、これは見たい。


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