American Gangster


2008年2月2日(土)「アメリカン・ギャングスター」

AMERICAN GANGSTER・2007・米・2時間37分

日本語字幕:手書き体下、松浦美奈/ビスタ・サイズ(1.85、ARRI)/ドルビー・デジタル、dts、SDDS

(米R指定、日R-15指定)

公式サイト
http://americangangster.jp/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

1968年、ニューヨークのハーレムを支配する黒人ギャングのボス、バンピーが死亡した。15年以上にわたってバンピーの運転手を務めてきたフランク(デンゼル・ワシントン)は彼の跡を継ぐと、ベトナムに派遣された兵士たちの間ではやっている純度の高い麻薬を、いとこの兵士ネイト(ロジャー・グエンヴュー・スミス)を通し直接買い付けて軍用機で密輸するという方法を実行に移す。当局はたちまち蔓延し始めた高純度の麻薬ブルー・マジックを取り締まるため、一切のワイロを受け取らず不正を許さない信念の刑事リッチー(ラッセル・クロー)を特別麻薬取締班の責任者に命じる。

73点

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 実話に基づいた、ちょっと「セルピコ」(Serpico・1973・米)のような話。IMDbでは8.2点という高評価。凄い話だし、絵はリドリー・スコット監督らしくサイド・ライトで重厚、スター・キャストで、迫真の演技、リアルな演出……ただ、日本人にはいまひとつピンと来ない感じ。感情もそれほど動かされるわけではない。リドリー・スコットがプロデュースした「ジェシー・ジェームズの暗殺」(The Assassination of Jesse James bt the Coward Ford・2007・米)のような雰囲気。

 たぶん、好対照として映画を構成したのではないだろうか。犯罪者なのに仕立てのいい高級スーツを着こなし、豪邸に住んで紳士的に振る舞う男と、ワイロも取らず正義に徹する警察官なのに、ラフな身なりで女性問題で妻と離婚調停中の男。片や眉ひとつ動かさず銃の引き金を引く冷徹な側面を持ち、片や公園で騒ぐ若者をしかり熱い魂を持った男……などなど。編集もそれぞれのシーンが対照的なるようにされている気がした。

 リドリー・スコットという監督は、対決の構図というのが好きなようだ。初期の作品「デュエリスト/決闘者」(The Duellist・1977・英)はもろにその形だし、傑作SFホラーの「エイリアン」(Alien・1979・米)も最後は一騎打ちの形になる。「ブレードランナー」(Blade Runner・1982・米/香)もやっぱり最後は決闘だ。最近ではラッセル・クロウを使った史劇「グラディエーター」(Gladiator・2000・米)も、あれだけの大軍を見せておきながら、最後は1対1の戦いが雌雄を決する。もともと戦いを多く描いている人だが、1対1の対決が多いのではないだろうか。

 たぶん、ベトナム戦争がアメリカに麻薬を広める大きなきっかけになっていたのではないかと思わせる。戦場での恐怖などから麻薬に手を出し(なんと全兵士の1/3が手を出したという)、帰国してからもそれを求めてしまう。しかも、軍用機を使うとほとんどノー・チェックでアメリカ国内へ持ち込むことができた。そしてフランクの逮捕の後、彼の供述によってニューヨークの麻薬取締局の捜査官の3/4が逮捕されたという。実話というのが恐ろしい。うーむ……。

 デンゼル・ワシントンは麻薬取締捜査を描いた「トレーニング・デイ」(Training Day・2001・米)のように悪役がないではないが、本作はなかなかハマっていると思う。紳士のように見えて実は冷血。撃てるものなら撃ってみろという挑発に、ためらいもせず一瞬で引き金を引く怖さ。パーティで拳銃を撃つようなヤツは、グランド・ピアノの上蓋にはさんで何度も叩く。使っていたのは、シルバーのFNハイパワー。

 一方ラッセル・クロウは生活臭漂うどこにでもいるような男を見事に演じている。それでいながら、決してワイロや脅しに屈しない。ニュージーランド生まれで、44歳。まさに脂の乗り切った状態だろう。豊川悦司と共演した低予算の「NO WAY BACK/逃走遊戯」(No Way Back・1995・米/日)で輝いていたが、サム・ライミの西部劇「クイック&デッド」(The Quick and the Dead・1995・米)で注目され、「L.A.コンティデンシャル」(L.A. Confidential・1997・米)で一気にスターダムにのし上がった。SF刑事もの「バーチュオシティ」(Virtuosity・1995・米)ではデンゼル・ワシントンと共演を果たしている。最近アメリカで公開された西部劇「3:10 to Yuma」も非常に評判が良いらしい。使っていたショットガンはイサカのM37のようだった。

 デンゼル・ワシントンの妻になるミス・プエルトリコのエヴァを演じているのは、本当にプエルトリコ出身のライマリ・ナダル。なんと1978年生まれの30歳。見えないなあ。ハリウッド映画は初出演。今後も期待できそう。

 ラッセル・クロウの離婚調停中の妻ローリーを演じたのは、カーラ・クギーノ。「スパイキッズ」(Spy Kids・2001・米)のお母さんを演じていた人。最近ベン・スティラーのファインタスティック・コメディ「ナイト・ミュージアム」(Night at Museum・2006・米)でヒロインを演じていた。

 ラッセル・クロウの弁護士で愛人シェイラを演じた美女は、ケイディ・ストリックランド。大蛇映画「アナコンダ2」(Anacondas: The Hunt foe the Blood Orchid・2004・米)でヒロインを演じた人。「THE JUON/呪怨」(The Grudge・2004・米)にも出ていた。リチャード・ギアの「消えた天使」(The Flock・2007・米)では薄幸の美女を演じていた。

 ルールを守らない麻薬ディーラー、ニッキーにはキューバ・グッティングJr。つい最近公開された「エンドゲーム 大統領最期の日」(End Game・2006・米)もなかなか良かった。イタリアン・マフィアのドン・カッターノには、アーマンド・アサンテ。自宅の庭で上下二連のショットガンを撃っていた。何と言っても「探偵マイク・ハマー/俺が掟だ!」(I, the Jury・1982・米)のマイク・ハマー役がカッコ良かった。26年も経つと老けるもんだ。

 悪徳刑事トルーポにはジョシュ・ブローリン。リチャード・ドナー監督の「グーニーズ」(The Goonies・1985・米)のお兄さん役でスクリーン・デビューしたそうで、最近出ていたのはポール・ヴァーホーヴェン監督の「インビジブル」(Hollow Man・2000・米)の良い研究員。本作ではヒゲを生やして悪い感じを出し、二枚目の面影はない。さすが役者。時代を反映してショルダー・ホルスターに入れていたリボルバーは4インチのテーパーの付いたバレルだったから、M27かM28だったろうか。

 脚本はスティーヴン・ザイリアン。ロビン・ウィリアムスの感動作「レナードの朝」(Awakening・1990・米)や、スティーヴン・スピルバーグ「シンドラーのリスト」(Schindler's List・1993・米)ではアカデミへ脚本賞を受賞、おもしろかったニコール・キッドマンのスパイもの「ザ・インタープリター」(The Interpreter・2005・米)などを手がけた人。リドリー・スコット監督とは「ハンニバル」(Hannibal・2001・米)と「ブラックホーク・ダウン」(Black Hawk Down・2001・米)で仕事をしている。凄い脚本家だ。本作では製作総指揮も兼ねている。

 ベトナムで兵士はXM177とガバメントを使っており、時代的にピッタリ。サングラスもレイバンだったりするようだ。一眼レフカメラはアサヒ・ペンタックス。麻薬工場に刑事たちが突入する時は、サイレンサー付きのイングラムを使っていた。それにギャングたちはガバメントで応戦していた。

 公開2日目の初回、新宿の大型劇場は40分前くらいに着いたら、当日券に15人くらい、前売り券に15人くらい。ほぼ中高年で、女性は1/3くらい。まもなく当日券の窓口が開いて、買った人は前売り券の列へ。35分前くらいに開場。

 全席自由で、カバーの席はなし。金曜が初日だったおかげか、それほど混まないのは嬉しい。スクリーンはビスタで開き。最終的には1,044席に6割りほどの入り。まっ、こんなもんか。

 半暗になって始まった予告は……「エリザベス ゴールデン・エイジ」も「大いなる陰謀」も「ジャンパー」も、そろそろ飽きてきた感じ。

 暗くなって、ドルビー・デジタルのヘリのデモがあって、トム・ハンクス主演、ジュリア・ロバーツ共演、マイク・ニコルズ監督の「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」(なかなかタイトルが出ずにわかりにくかったが)は、軽いコメディ・タッチでおもしろそう。実話らしいが……。


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