Lust, Caution


2008年2月3日(日)「ラスト、コーション」

LUST, CAUTION(色│戒)・2007・米/中/台/香・2時間38分(IMDbでは157分、編集版148分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、松浦美奈/ビスタ・サイズ(1.85、ARRI)/ドルビー・デジタル、dts

(米R指定、日R-18指定)

公式サイト
http://www.wisepolicy.com/lust_caution/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

1942年、日本占領下の上海を逃れ、大学生のワン(タン・ウェイ)とライ(チュウ・チーイン)はイギリス領の香港へ疎開する。そして香港の大学でハンサムな学生活動家のクァン(ワン・リーホン)と知りあう。ほのかな恋心からクァンと行動を共にするうち、自分たちの手で国を裏切る者を殺そうということになり、日本軍の手先として抗日分子を摘発する特務機関のリーダー、イー(トニー・レオン)をターゲットにする。

73点

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 うーむ。これは……SEX描写がどぎつ過ぎて、映画作品を見た感じとHビデオを見た感じが入り交じる。たしかに感情は動かされ、悲惨な話であることは良くわかる。切ない。なんという運命なのか……しかし……ちょっとモニカ・ベルッチの強姦映画「アレックス」(Irreversible・2002・仏)と似た雰囲気も……。IMDbでは8.0点の高得点。

 素晴らしいのは、普通の人がゲリラ活動家になっていく過程がリアルで、まさにこうだったろうという説得力を持っていること。こんなことが、かつて日本の学生運動でもあったのではないだろうか。戦時のみ許される行為。なのに暴走してしまう。リンチ、粛正などの言葉が浮かぶ。

 映画は日本を意識したのかもしれないが、日本占領下の上海を舞台としているものの、日本軍の圧制などは一切描いていない。それより同胞を裏切った男と、その男を殺すため潜入した女の姿に焦点を絞って描いている。

 ハンサムなインテリ男子学生への憧れ、女友達に負けたくないという気持ち、自分を認めて欲しいという気持ち、肉欲に溺れてしまう自分……そういうものが実にうまく、リアルに描かれている。当時の時代感もたぶんよく出ているのではないかと思う。秘密にしなければならないからこそ燃え上がってしまう。

 しかし撮り方がHビデオっぽい。画質は良いし、ライティングも美しく、色もしっかり載っているが……。あえて写さなくても良いようなアングルでベッド・シーンが撮られている。そのため久々に見るボカシが入って、余計に安っぽいシーンになってしまっている。いまならデジタル処理ができるのだから、ちょっとお金を掛ければもっとボカシ範囲を少なく、チラチラ動かない控えめなものにできるはずなのに……。昔のポルノ映画のレベルとほとんど変わっていない。絡んでいなければボカシはなく、ヘアが写っていて、それは特にどうと言うことはないのに、ボカされると嫌らしくなる。しかも本番のように見える。いや、ひょっとして……。それにしても、役者とはなんという過酷な仕事であろうか。求められれば、多くの人の前でどんなことでも演じなければならない。DVDが発売されれば、さらに多くの人が見る。あとあとまでも残る。劇中で描かれているように、本当は学生で男性経験がないのを悟られないため、同志と練習するシーンがあるが、映画撮影でもそう見えるように……と思わせるほどのリアリティ。

 この物語で肉欲が重要なことはよくわかるが、ちょっと描き過ぎな感じはする。どうも他人のセックスを盗み見ているような気になる。アン・リー監督はこの前に男性同士の同性愛を描いた「ブロークバック・マウンテン」(Brokeback Mountain・2005・米)を撮っており、たいていの監督は自分は同性愛ではないと確認するためなのか、世間にアピールするためなのか、その後に男女の愛を強烈に描いた作品を撮るパターンがあるような気がする。

 素晴らしい撮影はメキシコ生まれのロドリゴ・プエリトという人。ビデオっぽい印象だった「バベル」(Babel・2006・米)や、オリバー・ストーンの「アレキサンダー」(Alexander・2004・米)、大ヒットしたラップ映画「8 Mile」(8 Mile・2002・米)、アントニオ・バンデラスとアンジェリナ・ジョリーの「ポワゾン」(Original Sin・2001・米)などを撮っている。ちょっとエロティックなものが多いのかもしれない。まあ、作品それぞれ絵の印象が違うので、作品によって撮り方を変えていることがわかる。

 原作はチャン・アイリンの同名小説で、短編集の1編だとか。ほかにも香港で映画化された作品が多く、見ていないがチョウ・ユンファの「傾城之恋」(傾城之戀・1984・香)、トニー・レオンが出た「フラワーズ・オブ・シャンハイ」(上海花・1998・台/日)などがあると。恋愛ものが多い人なのかも。

 日本の手先、イーを演じるのは、たくさんの作品に出まくっている名優トニー・レオン。つい最近も金城武と「傷だらけの男たち」(傷城・2006・香)に出ていたばかり。ウォン・カーウァイの「ブエノスアイレス」(春光乍洩・1997・香/日)ではレスリー・チャンと同性愛の男を演じたり、さまざまな役を演じているが、ボクが好きなのはジャッキー・チェンの「ゴージャス」(玻璃樽・1999・香)のコミカルなオカマ役。実におかしく、うまかった。ジョン・ウーの「ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌」(辣手神探・1992・香)ではハード・アクションもできることを証明した。

 大胆なヌードを披露どころか、全裸でのきわどい絡みを披露したワン役のタン・ウェイは、2004年のミス・ユニバース北京大会で5位になったという美女。その後TVをへて本作で劇場長編映画デビューとなったらしい。

 イーの妻を貫録充分に演じたのは、ジョアン・チェン。なんと言ってもその存在を強く印象づけたのは「ラストエンペラー」(The Last Emperor・1987・伊/英/中)の溥儀の皇后役だろう。色っぽかった。そしてTVドラマの「ツイン・ピークス」(1989)。ここでも色っぽい役。さすがに20年近く経てば貫録も付いてくると。監督もやっているらしい。

 ワンのあこがれの人クァンを演じたのは、アメリカ生まれのワン・リーホン。ミュージシャンとして活躍する傍ら、役者としても活動。「SPY_N」(雷霆戦警・2000・香/米)で藤原紀香と共演、アンドリュー・ラウ監督の「拳神/KENSHIN」(拳神・2001・香)に出た後、HYDEとGacktが主演した「Moon Child」(Moon Child・2003・日)にも出演。

 ちなみに、ラストは最後のLastじゃなくて性欲のLustなのね。しかも「、」で「・」じゃない。「最後の警告」じゃなくて、「性欲、注意」なんだ。アクション寄りかと思っていたら、ポルノの寄りだった。

 時代考証はしっかりしているようで、衛兵はモーゼル・ミリタリーの木製ストックつきや、モーゼル・ミリタリーをショルダー・ホルスターに入れて武装していた。海辺で学生たちが射撃の練習をするのは、ブローニングM1910やM1922だったよう。ワンが目隠しで分解組立の練習をするのがワルサーPPKたぶんワンが使っているスーツ・ケースは勝手はお金持ちの定番旅行アイテム、ルイ・ヴィトン。ワンのためにイーがプレゼントする豪華な指輪は、エンド・クレジットによればカルティエらしい。

 公開2日目の初回、東京大雪の日、初回のみ全席自由なので、40分前くらいに着くように行ったらすでに開場しており、寒い外で待たなくても済んだ。場内には5〜6人の人。R-18の成人映画なので、ほとんど中高年。スクリーンはビスタ(1.85)で開き。

 三々五々という感じて人が増えていき、最終的には224席の9.5割りくらいが埋まった。これはビックリ。

 10分前くらいから案内が流れ、半暗になって予告編。同じビデオの画質でも上映設備がしっかりしているとキレイに見える。気になったのは……10代の妊娠を描いた「JUNO/ジュノ」は、重苦しい感じだがインターネットで見たらコメディなんだとか。そうは見えなかったが。アート系劇場で上映するからシリアスものに見せたいのか。アイバン・ライトマン監督の息子「サンキュー・スモーキング」(Thank You for Smoking・2006・米)の監督ジェイソン・ライトマン作品。アカデミー賞にノミネートされているらしい。予告編の感じでは見たくないが……。

 なかなかタイトルが出ず、いらいらする予告編が多いのだが、上下マスクの「ノーカントリー」も最後までタイトルが出ない。これで覚えられるか! コーエン兄弟の作品で、予告は「ファーゴ」(Fargo・1996・米)なみに怖い。「アメリカを売った男」もタイトルが最後まで出なかったが、かろうじてメモできた。2001年に発覚した実話の映画化で、FBI捜査官でありながら国家機密を流し続けていたらしい。おもしろそう。

 ピン甘でストンプのドルビー・デジタル・デモが流れた後、ピントが合って本編が始まった。良かった。ただ、この期におよんで続々と客が入ってくるのには参った。完全入れ替え制なのに……。


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