Evening


2008年2月23日(土)「いつか眠りにつく前に」

EVENING・2007・米/独・1時間57分

日本語字幕:丸ゴシック体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(マスク、with Panavision、Super 35 3-perf)/ドルビー・デジタル、dts

(米PG-13指定)

公式サイト
http://www.itsunemu.jp/
(入ると画面極大化。Macではうまく表示されなかった。全国の劇場案内もあり)

ニーナ(トニ・コレット)とコニー(ナターシャ・リチャードソン)の姉妹の母アン(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)が病気のため寝込み、うわごとを言うようになった。母の家に駆けつけたニーナとコニーは、母の口から出る初めて聞く言葉に、当惑する。ハリス(パトリック・ウィルソン)が最初のミステイクだったとか、バディ(ヒュー・ダンシー)を殺したのは私たちだとか……実は40年ほど前、母の人生で大きな事件が起こっていた。

74点

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 子供の世話に明け暮れ、子供からすればあまりに身近ですべてを知りつくしているような母親にも、子供が知らないドラマチックな出来事があり、彼女自身の人生があったんだと、あらためて気付かせてくれる映画。

 母の病気とボケと死という重い状況を描きながら、邦画的なウエットな感じにせず、むしろ、さわやかで希望を持たせるような感動的な話に仕上げてある。そこが素晴らしい。

 しかも死を直接描かず、人生の日没として描いている。だから原題はイヴニング、夕暮れ。しゃれていえば、たそがれ、という感じか。しかも、眠るように亡くなる。確かに、老人になると眠る時間が多くなる。眠ったままで起きなくなれば、それはやはり死ということで、ある意味、最高の安らかな死かもしれない。

 本作でも、現在のアンは病気ということもあってか、眠っていることが多い。そして思い出と、夢と、現実がだんだんごっちゃになっていく。そしてやがて永遠の眠りに落ちる。それを映像で描いていく。現在の映像は、おおむね暗く、まさに夕方のような雰囲気。夢ではホタルのような空気の精が飛び、基本的に夜のイメージ。一方、思い出は色鮮やかでクリア、真夏の海のように輝いていて昼間のことが多い。うまいなあ。

 さらには、対比をうまく使っている。現在のヴァネッサ・レッドグレイヴ演じるアンと、若い時のクレア・デインズ演じるアン。親友のライラの現在はメリル・ストリープで、若い時はエイミー・ガマー。ほかは現在の姿として出てこない。そして、アンの娘の妊娠、すなわち新しい生命の誕生と、消えていこうとする命。生と死。ラスト、画面が暗くなる。風景も夕方だ。その瞬間や、娘たちの姿を描かない。

 最初、現在のアンは人生のミステイクを後悔するように語る。しかしそれが映画の中で変わっていく。ビアノ・マンはアンに「ミステイクが人生を豊かにする」と言う。最後にはアンは人生にはミステイクはないのだと、娘に伝える。いろいろと考えさせてくれる映画だ。

 年老いたアンを演じたのはヴァネッサ・レッドグレイヴ。1937年生まれというから70歳ちょっと。1950年代から活躍を始めたらしい。「ディープ・インパクト」(Deep Impact・1998・米)や「ミッション・インポシブル」(Mission: Impossible・1996・米)が有名なところか。いずれも一筋縄ではいかないつ良い女という感じ。そんなイメージだけに、本作はより感動的となる。フレッド・ジンネマン監督の「ジュリア」(Julia・1978・米)ではジェーン・フォンダと共演、アカデミー助演女優賞を受賞した。

 案の若い時代を演じたのはクレア・デインズ。最近「スターダスト」(Stardust・2007・米/英)、「消えた天使」(The Flock・2007・米)と大活躍だ。注目されたのはバズ・ラーマン監督が現代劇に置き換えた「ロミオとジュリエット」(Romeo + Juliet・1996・米)だろう。レオナルド・ディカプリオと共演した。いろいろ言われた「ターミネーター3」(Terminator 3:Rise of the Machine・2003・米)でも、クレア・デインズは良かった。名門イエール大学の学生だったらしいから、かなり頭脳も優秀らしい。ボク的には「ブロークダウン・パレス」(Brokedown Palace・1999・米)がもっともショッキングだった。

 アンの親友、良家のお嬢様ライラの現在を演じた、ゲスト出演的なちょい出は、メリル・ストリープ。「プラダを着た悪魔」(The Devil Wears Prada・2006・米)でもわかるが、あまりに大女優で演じられる役が限られてきた気がする。しかしさすが名女優、少ない出番にもかかわらず、しっかりと印象に残る。「あなたのお母さんは最高の人生を生きたのよ。だってあなた達を生んだんですもの」というようなことを言うが、これがとても説得力がある。涙がこぼれそうになった。ちょっとだけ出て、良いとこ持ってくなあ。

 アンの娘ニナを演じたのは、トニ・コレット。やっぱり存在に注目するようになったのは、ハーレイ・ジョエル・オスメントがブレイクした「シックス・センス」(The Sixth Sense・1999・米)のお母さん役。「コニー&カーラ」(Connie and Carla・2004・米)や「イン・ハー・シューズ」(In Her Shoes・2005・米)、「リトル・ミス・サンシャイン」(Little Miss Sunshine・2006・米)のようなコミカルな作品が多いが、どことなく暗い感じのイメージがある。いずれもアート系の小さな劇場での公開。

 ライラの母を演じたのは、これまた大女優の貫録タップリのグレン・クローズ。何度もアカデミー賞にノミネートされているベテラン。ただまだ受賞はしていないようだ。とにかく強烈だったのは「危険な情事」(Fatal Atraction・1987・米)。怖かった。あの勢いで、本作でも子供を失った母の悲しみを演じている。それは本当に恐ろしいほど。しかもスゴイのは、普段の何気ない感じが、いかにも上流階級のお母さんの優雅さと、同類以外を受け入れないような冷たさを同時に漂わせていたこと。さすが「101」(101 Dalmatians・1996・米)のクルエラ・デ・ヴィル。

 アンとライラにほれられる男を演じたのは、二枚目のパトリック・ウィルソン。西部劇「アラモ」(The Alamo・2004・米)のトラヴィス大佐や、話題作「オペラ座の怪人」(The Phantom of the Opera・2004・米/英)にも出ていたらしいが、あまり印象に残っていない。やっぱり強烈だったのは、いま何かと話題の「JUNO/ジュノ」(Juno・2007・米)のエレン・ペイジがスケベな男に逆襲する「ハードキャンディ」(Hard Candy・2005・米)。ちょっと気の弱そうな感じがグッド。

 アンの男友達で、ライラの弟バディを演じたのはヒュー・ダンシー。リドリー・スコット監督の戦争映画「ブラックホーク・ダウン」(Black Hawk Down・2001・米)や、かなりイタイ続編映画「氷の微笑2」(Basic Instinct 2・2006・米)に出ていた人。繊細で気弱そうな感じが良く出ていた。

 監督はハンガリー生まれのラホス・コルタイという人。もともとは撮影監督で、本作は監督2作目らしい。撮影作品では最近だと、盛り上がりに欠けた「アドルフの画集」(Max・2002・加ほか)や、モニカ・ベルッチの「マレーナ」(Malena・2000・伊/米)などを撮っている。どうりで、絵が良いわけだ。

 原作と脚本、製作総指揮も手がけたのはスーザン・マイノット。リヴ・タイラー主演の「魅せられて」(Stealing Beauty・1996・米ほか)の脚本を書いている。もう1人の脚本家はマイケル・カニンガム。「めぐりあう時間たち」(The Hours・2002・米)の原作を描いている。なるほど、本作と通じる部分がある気がする。「めぐりあう時間たち」ではトニ・コレット、クレア・デインズ、メリル・ストリープが出ているし。

 公開初日の初回、銀座の劇場は45分前についたら劇場はすでに開いていたが、奥の上映劇場はまだ閉まったまま。ロビーには3人くらいのオバサン。40分前に案内があって、この時点で男3人、女4人の中高年のみ。30分前に開場ととなったが、その前にバーサンが「お待ちください」の立て札の後ろの閉まっているドアを開けようとしていて、呆れた。もし鍵がかかってなかったら入っちゃうんだろうなあ、こういうズーズーシーばばあは。

 スクリーンはシネイコで開いていて、初回のみ全席自由。この時点で15〜16人。最終的には183席に6割りほどの入り。アート系としては良い方か。

 関係者らしい若い人の一団が7〜8人ロビーに。客層から浮いているので目立つ。2人もいれば充分じゃないかなあ。

 半暗で始まった予告で気になったのは……三谷幸喜監督作品の上下マスク「ザ・マジックアワー」。なにやらワルサーP38が出てくるようだ。上下マスクの「少林少女」は新予告。だんだん内容がわかるようになってきた。面白そうだが、あまりにヒット要素満載過ぎて、逆に引いてしまう感じも……。

 トミー・リー・ジョーンズの「告発のとき」は、実話の映画化で、監督はあのポール・ハギス。軍から失踪した息子の行方を、シャーリーズ・セロン演じる刑事とともに追うという内容らしい。面白そう。またジョージ・クルーニーが事件のもみ消し屋を演じる「フィクサー」も面白そうな雰囲気。ただ、劇場がどうしてこうも小さい系なのか。それが気になる。

 「燃えよピンポン」のこのバカバカしさは何だろう。チープなバカバカしさはつらいが、重厚な絵でお金のかかったこのバカバカしさは興味が湧く。ただ上映劇場は小さいが。


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