Vantage Point


2008年3月8日(土)「バンテージ・ポイント」

VANTAGE POINT・2008・米・1時間30分

日本語字幕:丸ゴシック体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(マスク、with Panavision)/ドルビー・デジタル、dts、SDDS

(米PG-13指定)

公式サイト
http://www.sonypictures.jp/movies/vantagepoint/index.html
(入ったら音に注意。全国の劇場案内もあり)

スペインのサラマンカで、国際的なテロを撲滅するため世界各国の首脳が集まって会議が開かれることになった。会議に先立ち、アメリカ合衆国大統領のアシュトン(ウイリアム・ハート)が、市長とともにスピーチをするためマヨランカ広場の演台に上がる。アメリカへも同時生中継される中、2発の銃声がし大統領が狙撃される。パニック状態となる会場で、シークレット・サービスのトーマス・バーンズ(デニス・クエイド)は、ビデオ撮影していたアメリカ人観光客からその瞬間を再生してもらうと、驚くべきものが写っている。その時……。

74点

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 驚いた。ハラハラ、ドキドキのドラマ。スピード感にあふれ、次々と意外な事実が判明し、ぐいぐいと映画に引き込まれていく。1つの事件を発生の直前までもどって視点を変えながら描くことによって、徐々に事件の全貌がわかってくるという構成は実に面白い。しかも、その視点が徐々に事件の核心人物に近くなっていくため、つぎつぎと衝撃の事実が判明する。そしてその事実が判明した瞬間、画面はホワイト・アウトし、巻き戻され、別の人物の物語になる。だから興味が尽きない。1つの事件の見方が違うという黒澤明監督の「羅生門」(1950・日)とはちょっと違う。

 ただ、大統領の身代わりとなって一度撃たれたことがあるシークレット・サービスが主人公なのだが、事件にかかわる8人それぞれに分割されているわけで、当然、主人公1人の掘り下げは浅くなってしまう。また、時間的な制約もあるから(しかも1時間半という短さ)、事件の細部は省略されている。全体にスジを追うのが精いっぱいで、人間があまり描かれていないという印象を持つ人もいるだろう。ボクは楽しめたが……。

 巧妙な脚本を手がけたのは、バリー・L・レヴィという人。どうも本作が劇場長編映画デビュー作らしい。すでに次作も決まっているようで、期待が持てそう。

 監督はピート・トラヴィスという人。これまでTVのドラマを手がけていた人で、こちらも劇場長編映画初監督作品らしい。すごいなあ。その経験を活かしてか、TV中継車の中の雰囲気は見事。

 一度も大統領の盾となって撃たれたことがあるシークレット・サービス、トーマン・バーンズには、もうベテランのデニス・クエイド。兄も俳優で、悪役の多いランディ・クエイド。「ジェシー・ジェームズの暗殺」(The Assassination of Jesse James by the Coward Ford)と同じ西部の悪党団を描いたウォルター・ヒル監督の「ロング・ライダーズ」(The Long Riders・1980・米)に兄弟2人で出演し、ミラー兄弟を演じていた。注目されたのはSFアクションの「第5惑星」(Enemy Mine・1985・米)ありたからで、同じくSFの「インナースペース」(Innerspace・1987・米)、メグ・ライアンと共演した「D.O.A.」(D.O.A.・1988・米)などに立て続けに出演、広く知られるようになった。その後あまりパッとしない感じで、強烈な戦争映画「セイヴィア」(Savior・1998・米)に出たりしていたが、最近はSF大作「デイ・アフター・トゥモロー」(The Day After Tomorrow・2004・米)でジェイク・ギレンホールのお父さん役を演じていた。さすがに、歳を取ったなあという印象。使っていたのはP229のようだった。

 その相棒で、バーンズを現場に復帰させるケント・テイラーを演じていたのは、人気TVドラマ「LOST」(Lost・2004〜・米)で医師のジャックを演じているマシュー・フォックス。あまりに「ロスト」のイメージが強くて他の印象がないけれど、アリハア・キーズがカッコよかった過激なアクション・コメディ「スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい」(Smokin' Aces・2007・米)に出ていたらしい。シーズン2から水増し感が強いという「ロスト」シリーズはまだまだ続くようだが、映画でもがんばって欲しい。

 TVの敏腕女性ディレクターは、前半しか出ないのが残念だが、「エイリアン」(Alien・1979・米)や「エイリアン2」(Aliens・1986・米)の女性闘志リプリー役でブレイクしたシガニー・ウィーヴァー。もう60歳近いのでアクションは無理だろうが、なかなかの迫力と貫録はさすが。最近はあまり見かけなかったが「ギャラクシー・クエスト」(Galaxy Quest・1999・米)は素晴らしかった。

 たまたまビデオ撮影(ソニーのHDV)していたアメリカ人旅行者ハワードを演じたのは、フォレスト・ウィティカー。アカデミー賞主演男優賞を獲得した「ラスト・キング・オブ・スコットランド」(The Last King of Scotland・2006・米/英)の人食いアミン大統領は怖かった。日本の「葉隠れ」をバイブルとする暗殺者を演じたジム・ジャームッシュの「ゴースト・ドッグ」(Ghost Dog: The Way of Samurai・1999・米/仏ほか)や、ニール・ジョーダンの衝撃作「クライング・ゲーム」(The Crying Game・1992・英)のテロに巻き込まれる男など素晴らしい。

 アメリカ大統領アシュトンを演じたのは、名優ウィリアム・ハート。頭も薄くなってきて、さすがの貫録。最近でもロバート・デ・ニーロ監督の「グッド・シェパード」(The Good Shepherd・2006・米)でCIAのアレンを演じていた。ずっと出続けているのがスゴイ。やっぱり注目されたのはケン・ラッセル監督の先祖返り映画「アルタード・ステーツ/未知への挑戦」(Alterd States・1980・米)だろう。「蜘蛛女のキス」(Kiss of the Spider Woman・1986・米/ブラジル)でホモセクシャルの役を演じアカデミー賞主演男優賞を受賞している。

 サイード・タグマウイはフランス生まれながらも両親がモロッコ出身で、その容貌から中東のテロリストのような役が多い人。ゲーム・オタク成り上がり映画「フューチャー・ゲーム」(G@mer・2001・仏)で注目された。ニック・ノルティのクライム・サスペンス「ギャンブル・プレイ」(The Good Thief・2002・英/仏ほか)でもいい味を出していた。

 ベレッタM92を持っているだまされるスペインの刑事エンリケを演じたのは、スペインの俳優エドゥアルド・ノリエガという人。ギレルモ・デル・トロ監督の恐ろしいホラー「デビルズ・バックボーン」(El Espinazo Del Diablo・2001・西)や、大学を舞台にした殺人事件「次に私が殺される」(Tesis・1996・西)や、ハリウッドでリメイクされた「オープン・ユア・アイズ」(Abre Los Ojos・1997・西)に出ていた。

 特殊部隊隊員の男ハビエルを演じたのは、ベネズエラ出身のエドガー・ラミレス。メイクなのかアラブ系というか中東系の男に見える。そして、特殊部隊員という設定がウソに見えない。筋肉もりもりで、サイレンサーをつけたスライド・シルバーのグロックらしい銃も、撃つ時はすべてタップで2発。躊躇はしない。構えの基本はロー・レディでこれもリアル。いかにもブロっぼい。実話の女バウンティ・ハンターを描いた「ドミノ」(Domino・2005・仏/米)やシリーズ3作目の「ボーン・アルティメイタム」(Bourne Ultimatum・2007・米)に出ていた人。

 シークレット・サービスの別動班のボスを演じていたのは、ブルース・マッギルという名わき役の人。悪いボスから、気の良い相棒役まで、いろんな役を演じている。最近では感動ボクサー映画「シンデレラマン」(Cinderella Man・2005・米)に出ていた。

 冒頭の美人TVリポーターは、ゾーイ・サルダナ。トム・ハンクスの「ターミナル」(The Terminal・2004・米)や、「ゲス・フー/招かれざる恋人」(Guess Who・2005・米)でヒロインを演じていた人。

 銃は他に、スペインの警察や特殊部隊がMP5、スナイパーが瞬間なのでよくわからなかったが、シュタイアーのボルト・アクションのようなものを使っていた。大統領暗殺に使われた銃は、たぶんH&KのPSG1かMSG90スナイパー。

 公開初日の2回目、新宿の劇場は30分前くらいに着いたら片側のロビーに15〜16人。女性2人、若い人2人、以外は中高年。白髪の人が目立つ。

 前回終了5分前くらいに案内があって列を作ったが、ちょいと遅いのでは。この時点で30人くらい。15分ほど前に終了になって、全席自由の場内へ。5分前で763席の6.5割りくらいが埋まり、最終的には7割りほどが埋まった。なかなかの入りと言って良さそう。

 チャイムが鳴ってカーテンが左右に開き、ビスタ・サイズで半暗になって始まった予告は……とにかくなかなかタイトルが出ないので覚えられないのだが

 音楽をクリント・イーストウッドが担当したという、ママが戦死しパパが女の子2人にそれを伝えるという話らしい「さよなら。いつかわかること」は予告だけで泣けそう。ジョン・キューザックがいい感じ。ただアート系での公開だからなあ……。

 上下マスクのチャウ・シンチーの新作、宇宙人ものコメディ「ミラクル7号」は、ちょっと危険な香りもするが、どうなんだろう。ローランド・エメリッヒのマンモス映画「紀元前1万年」は新予告に。スケールのデカイ話らしい。そろそろ前売り券を買っておいたほうが良いかも。

 「ジャンパー」にも出ていたダイアン・レインの久々の主演作「ブラックサイト」は、インターネット犯罪を追うFBIサイバー捜査官の活躍を描くものらしい。なかなかおもしろそう。


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