Breach


2008年3月9日(日)「アメリカを売った男」

BREACH・2007・米・1時間50分

日本語字幕:丸ゴシック体下、小寺陽子/ビスタ・サイズ(with Panavision)/ドルビー・デジタル、dts、SDDS

(米PG-13指定)

公式サイト
http://www.breach-movie.jp/
(音に注意。入ると画面極大化。全国の劇場案内もあり)

FBI新人職員のエリック・オニール(ライアン・フィリップ)は、PCの知識を変われて上司のケイト・バロウズ捜査官(ローラ・リニー)から、ベテラン捜査官のロバート・ハンセン(クリス・クーパー)の助手として情報保護システムの構築をするように命じられる。同時に、ロバートに性的倒錯があるという訴えがあることから、監視するようにと命令される。ところが、それらしいことは何もなく、むしろ敬けんなカソリック信者であるロバートを尊敬するようになっていく。そこでケイトはロバートが20年以上にわたってロシアに重要な国家機密を売り渡していたこと知らせる。それによって50人以上ものスパイが処刑されたと。

73点

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 実話の映画化。原題の「Breach」とは裏切りというような意味。一見善良そうに見える勤続25年、あと2ヶ月ほどで名誉の退官となるベテラン捜査官をスパイする新米職員の悩みや、日曜もなく人の行動をスパイするFBI捜査官の仕事というもの、夫婦間の関係、上司と部下の関係、そして裏切り者の苦悩までも掘り下げている。そのため、普通のスパイ・サスペンスとは違った、一味違う非常に重苦しいリアルなものとなっている。もちろん、いつ正体がバレるかもしれないというハラハラ、ドキドキは充分感じさせてくれる。息が詰まりそうなほど。

 驚くのは、こんなスパイがいたという事実よりも、彼を逮捕するために多くの人間がかかわり、ここまでやった人間がいたという事実だ。エリック・オニールはこの事件の後、FBIを辞め弁護士になったという。弁護士になるのは簡単なことではないはずで、やっぱりもともと頭の良い人だったのだろう。良い暮らしをしていることを祈らずにはいられなくなる。奥さんも良く耐えたと。

 エリック・オニールを演じているのは、ライアン・フィリップ。こういう若手警官的な役が多くて、「カオス」(Chaos・2005・加/英/米)では新人刑事、「クラッシュ」(Crash・2004・米)では新人警官を演じている。気弱そうな、誠実そうな感じがこの人の持ち味なのだろう。

 情報を漏えいしていたロバート・ハンセンを演じたのはクリス・クーパー。まさにハマり役で、似ているのかは知らないが、ピッタリのイメージ。悪役か、悪役でなくとも頑固な人の役柄が多い感じ。一番強烈な感じがしたのは、実話に基づいたロケット青春映画「遠い空の向こうに」(October Sky・1999・米)の頑固な炭鉱マンの父役。良かった。

 エリック・オニールの上司となるケイト・バローズはローラ・リニー。注目されたのはリチャード・ギアと共演した「真実の行方」(Primal Fear・1996・米)あたりから。ホラーの「プロフェシー」(The Mothman Prophecies・2002・米)で再びリチャード・ギアと共演している。強烈だったのは「ライフ・オブ・デビッド・ゲイル」(The Lifo of David Gale・2003・米)での自殺のシーン。まさに真に迫っていた。オカルトを法廷で裁いたという実話の映画化「エミリー・ローズ」(The Exoecism of Emily・2005・米)の弁護士役もなかなか良かった。

 エリック・オニールの美しいドイツ人妻ジュリアナを演じていたのは、エロノン・タヴァーナスという人。カナダ生まれの美人で、30歳にはまったく見えない。設定では大学に行っているようだったが、違和感はなかった。実際はもう少し派手なようだが、化粧なのか控えめな感じで、ヒステリックにならないところがけなげで好感が持てた。「ハリウッドランド」(Hollywoodland・2006・米)で主人公の探偵の美人秘書を演じていた人。期待していて良かった。

 FBIの本部長を演じたのは、人気TVドラマ「24」で大統領を演じ好評だったデニス・ヘイスバート。何も起きない戦争映画「ジャーベッド」(Jarhead・2005・米)にも出ていたが、器の大きそうな、包容力を感じさせる雰囲気が素晴らしい。

 ロバート・ハンセンの敬けんな妻を演じたのは、キャスリーン・クインラン。スピルバーグの「トワイライトゾーン」(Twilight Zone: The Movie・1983・米)第3話で美人女教師を演じていた人。上品な感じがする人で、そんな役が多い。「アポロ13」(Apollo 13・1995・米)では夫の帰りを待つ妻、SFホラー「イベント・ホライゾン」(Event Horizon・1997・米)では技術者を演じていた。わからなかったのは、彼女は夫の裏切りを知っていたのだろうかということ。気になった。

 任務に悩むエリック・オニールのに優しく語りかける父は、「X-メン」(X-Men・2000・)シリーズで溶けてしまうケリー上院議員を演じていたブルース・デイヴィソン。

 脚本も書いた監督はビリー・レイ。もともと脚本家で、「ニュースの天才」(Shattered Glass・2003・米/加)で劇場映画監督デビューし、本作が監督2作目らしい。脚本としては2階建て旅客機が素晴らしかった「フライトプラン」(Flightplan・2005・米)やブルース・ウイリスか良いとこ取りした「ジャスティス」(Hart's War・2002・米)などあるが、一番良かったのは連続殺人鬼を描いた「サスペクト・ゼロ」(Suspect Zero・2004・)だろう。ただ火山映画「ボルケーノ」(Volcano・1997・米)はどうかなあ。

 ほかに脚本は、本作が初めての劇場映画となるアダム・メイザーとウィリアム・ロッコ。そして、特別顧問として、エリック・オニール本人が協力しているという。

 勤続25年のロバート・ハンセンが言う、FBIは銃社会だと。銃が撃てなければ生きていけない。メインのオートマチックは何だかわからなかったが、足首にアンクル・ホルスターでつけているバック・アップはチーフス・スペシャル。他の局員が使っていたのはグロック。そして特殊部隊はMP5。このへんは定番だろう。

 後半、ピンが甘くなってしまったのは残念。映写機が替わったせいだろう。ちゃんと調整しておいて欲しいなあ。プロなんだから。

 公開2日目の2回目、銀座の劇場は15分前に着いたらちょうど入れ換えになったところ。3館あるうち最悪・最少の地下の劇場での上映。しかも192席の8.5割くらいの入りで混んでいる。低いスクリーンの下に字幕が出るので、前席の人の頭がジャマになって、横に長いと1/4くらいは見えない。せめて座席を千鳥配置にしろよなあ。イスも小さいし。これで同じ料金というのは納得できない。

 ほぼ中高年で、女性は1/3ほど。混んでいるのに売店は1人でやっているから、なかなか裁ききれない。何人かが予告が始まってからもどってきた。ボクは時間がかかりそうなので諦めた。買って持ち込めば良かった。

 半暗で始まった予告で気になったのは……ジェシカ・ビールが出ている「幻影師アイゼンハイム」は、良くわからなかったが、どうやら平民と貴族の三角関係を描いた映画らしい。上下マスクの「ハンティング・パーティ」は、落ち目になったリポーターが、CIAさえ捕まえられない世紀の戦争犯罪人のインタビューを取りに行くという話らしい。アカデミー賞主演男優賞と撮影賞を獲得した「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」は、予告編だけで憂鬱な気分になった。良い映画なんだろうけど……。


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