88 Minutes


2008年3月22日(土)「88ミニッツ」

88: 88 Minutes・2007・独/米・1時間47分(IMDbでは108分)

日本語字幕:細ゴシック体下、石田泰子/シネスコ・サイズ(マスク)/ドルビー・デジタル

(米R指定)

公式サイト
http://www.nikkatsu.com/88minutes/
(全国の劇場案内もあり)

FBIの精神分析医ジャック・グラム(アル・パチーノ)は、物的証拠がない猟奇殺人鬼ジョン・フォースター(ニール・マクドノー)の裁判で証言し、彼を犯人と断定した。それにより死刑が決定する。9年後、刑の執行直前に、まったく同じ手口の猟奇殺人事件が発生する。果たして模倣犯の仕業なのか、それともジョン・フォースターは冤罪だったのか。そしてジャックの携帯に謎の人物から「お前の命はあと88分だ」というメッセージが入る。

73点

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 なかなかハラハラ、ドキドキで、緊張感が最後まで持続する映画。話自体は単純なのだが、多彩な登場人物と、しかも有名俳優を多く配することで誰が犯人なのかわかりにくくされている。

 面白いのは、アル・パチーノ演じる主人公のジャックが完璧に良いヤツではなく、観客も犯人の顔を見ていないので、死刑を目前にした犯人が冤罪かもしれないという点。観客にも最後まで解らない。ただ、犯人の予想は、勘の良い人なら予想が付くかも。

 通常の推理サスペンス作品では、犯人が複雑な背景やおいたちを持っていたりする場合、それ相当の演技力が必要となることから、主人公以外に有名な俳優が演じることが多い。つまり怪しいのはそいつということになる。これだと始まってすぐ予想が付いてしまうので、脇の登場人物にも有名俳優を配してわかりにくくする。ミスリーディング。それが本作では非常に多い。容疑者多過ぎ。贅沢。しかも88分という時間制限があり、テンポも良い。多少おかしなところもあるが、勢いで振り切って最後まで突っ走ってしまう。

 主演のアル・パチーノはさすがに68歳にもなると貫録付き過ぎで、出てくるだけで怖い感じ。マフィア映画「ゴッドファーザー」(The Godfather・1972・米)、正義を貫いた警官を描いた「セルピコ」(Serpico・1973・米)、男同士の友情を描いた「スケアクロー」(Scarecrow・1973・米)、銀行強盗の「狼たちの午後」(Dog Day Afternoon・1975・米)、ハード・ゲイを殺人事件の「クルージング」(Crusing・1979・米)……など話題作がズラリと並ぶ。ただ、最近面白かったのは、SFファンタジーの「シモーヌ」(Simone・2002・米)かCIAのトレーニングを描いた「リクルート」(The Recruit・2003・米)かなあ。もともと厳しい顔の人なので、あまりファンタジーとかコメディは向いていないようだ。優雅な暮らしをしているだけあって、持っている銃はワルサーP99。

 大学でのジャックの美人助手を演じたのは、アリシア・ウィット。大人気TV「ツイン・ピークス」(Twin Peeks・1990・米)に1話だけ出ていたらしいがよく覚えていない。リチャード・ドレイファスの感動音楽教師物語「陽のあたる教室」(Mr. Holland's Opus・1995・米)、トム・クルーズのリメイク・サスペンス「バニラ・スカイ」(Vanilla Sky・2001・米)、サンドラ・ブロックとヒュー・グラントのラブ・コメディ「トゥー・ウィーク・ノーティス」(Two Weeks Notice・2002・米/豪)のライバル役などに出ている。都市伝説の恐怖を描いた「ルール」(Urban Legend・1998・米/仏)で初主演を果たしたらしい。護身用にグロックを持っている。

 教え子の美女ローレンはリーリー・ソビエスキー。「ディープ・インパクト」(Deep Impact・1998・米)でイライジャ・ウッドの恋人役を、「アイズ ワイド シャット」(Eyes Wide Shut・1999・英/米)怪しげな貸し衣装屋の娘を演じていた人。最近では、あのガッカリ映画「ウィッカーマン」(The Wicker Man・2006・米/独)にも出ていた。後で手にする銃はベレッタM92。

 ノースウエスト・ワシントン大学の女性学部長キャロルを演じたのは、いかにも何かありそうな雰囲気のデボラ・カーラ・アンガー。何といっても「クラッシュ」(Crash・1996・加/英)でのエロティックな演技が強烈だった。悪い冗談映画「ゲーム」(The Game・1997・米)でも良かったが、最近では日本の人気ゲームを映画化したホラーの「サイレントヒル」(Silent Hill・2006・米/日ほか)の魔法使いのバアサンのような役がすごかった。

 もうひとり怪しげな男子学生マイクを演じたのは、ベンジャミン・マッケンジー。主にTVで活躍している人で、最近作は「The OC」(The O.C.・2003〜2007・米)で庶民からいきなりセレブの生活を体験することになる主人公ライアンを演じていた。

 FBI特別捜査官のフランクはウィリアム・フォーサイス。悪役か捜査官とか刑事役が多い人で、古くはウォルター・ヒルの「ダブルボーダー」(Extream Prejudice・1987・米)の警官、アクション巨編「ザ・ロック」(The Rock・1996・米)のFBI特別捜査官、最近では小劇場での公開だったので見ていないが「フリーダムランド」(Freedomland・2006・米)に出ている。渋い名わき役という感じ。使っていたのはグロック。

 最初に捕らえられる犯人ジョー・フォースターを演じたのは、ニール・マクドノー。新スタートレック劇場版第2作の「ファースト・コンタクト/STAR TREK」(Star Trek: First Contact・1996・米)に出ていたが、注目され出すのはスピルバーグとトム・ハンクスの戦争TVドラマ「バンド・オブ・ブラザース」(Band of Brothers・2001・英/米)リン“バック”コンプトン中尉を演じてからだろう。その後「マイノリティ・リポート」(Minority Report・2002・米)、「タイムライン」(Timeline・2003・米)と立て続けにSFに出演し、ザ・ロックの快作アクション「ワイルド・タウン/英雄伝説」(Walking Tall・2004・米)では憎たらしい悪役を好演。それが本作につながっていく。普通の役もうまいが、やはり悪役で光る感じ。

 製作・監督・脚本の3役を兼ねたのは、ジョン・アヴネット。監督よりプロデュース作品の方が多い。劇場作品を初めて監督したのは、自身の脚本・プロデュースになる傑作「フライド・グリーン・トマト」(Fried Green Tomatoes・1991・米)、ケヴィン・コスナーの「8月のメモワール」(The War・1994・米)、ロバート・レッドフォードの「アンカー・ウーマン」(Up Close & Personal・1996・米)といったわりと普通のドラマが多かったのだが、リチャード・ギアの「北京のふたり」(Red Corner・1997・米)でサスペンスに手を出し、本作に至る。「北京……」は見ていないのでわからないが、サスペンスものもいけるのではないだろうか。

 もう1人の脚本はゲイリー・スコット・トンプソン。「インビジブル」(Hollow Man・2000・米/独)の原案や「ワイルド・スピード」(The Fast and the Furious・2001・米)の原案・脚本を担当した人。

 公開初日の初回、銀座の劇場は25分前くらいに着いたらちょうど開場したところ。10人くらいが全席自由の場内に入って行き、女性は2人ほど。若い男性も2人ほどで、あとは中高年。さすがオヤジ劇場。劇場前に10人くらいの関係者らしいちょっと若めの一団。

 スクリーンはシネスコ・サイズで開いており、最終的に177席に5.5割くらいの入り。混まなかったのでゆったり見れて良かったが、これだけの俳優たちが出て、ジョン・アヴネットが監督して、この扱いはちょっとかわいそうな感じ。注目度低いし。

 半暗になってはじまった予告編では……上下マスクの「P2」は残業していて地下駐車場のP2に閉じこめられ恐怖の一夜を体験するというようなものらしい。面白そうだが、日本語の公式サイトはない。

 ダイアン・レインがFBIサイバー捜査官を演じる「ブラックサイト」は、いかにも今風でそして怖そう。


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