Lions for Lambs


2008年4月19日(土)「大いなる陰謀」

LIONS FOR LAMBS・2007・米・1時間32分

日本語字幕:手書き風書体下、戸田奈津子/シネスコ・サイズ(レンズ、in Panavision)/ドルビー・デジタル、dts、SDDS

(米R指定)

公式サイト
http://movies.foxjapan.com/ooinaru/
(入ると画面極大化。音にも注意。全国の劇場案内もあり)

大学教授のマレー(ロバート・レッドフォード)は、成績が落ちてきて講義も休みがちな学生トッド(アンドリュー・ガーフィールド)を呼びだし、理由を問いただしていた。その頃、アーヴィング上院議員(トム・クルーズ)の部屋を女性敏腕記者のジャニーン(メリル・ストリープ)が訪れ、重大な軍事行動に関する独占インタビューを始めようとしていた。同じ頃、アフガニスタンの米軍基地ではファルコ中佐(ピーター・バーグ)率いる特殊部隊が、戦略上重要な高地を占拠するため出動しようとしていた。

73点

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 基本は3カ所で同時進行する“対話”を中心に物語が進んでいく。一見、別々の話のようだが、実はそれが一つにまとまって行き、予想しなかった結末に至る。ただ、気になるその後は描かれていない。観客に考えて欲しいということでもあるだろうし、描きたかったのは“対話”であって、事件そのものではないということでもあるのだろう。リアルで恐い戦闘シーンもあり、対話だけの動かない映画ではないが、観客としては物足りない感じもある。たぶん役者としてはほとんど動かず対話で進行する物語は演じ甲斐があったのではないだろうか。

 ただ、難しい内容で、“対話”が中心なのにも関わらず、字幕がちょっと読み切れなかった。難しい言葉が出てきたりすると理解するのに時間が掛るから、読む速度が遅くなる。もう字幕は次に行っている。これは日本語吹替で見た方が分かりやすいかも。

 原題の“LIONS FOR LAMBS”は、第一次世界大戦中にイギリス軍部をドイツ軍の将軍が評して言った言葉で「ライオンが羊に導かれている」という意味らしい。ライオンは百獣の王、羊は迷える子羊のたとえどおりのイメージ。リーダーが優れていなければ成果は期待できない。ライオンに率いられた羊の群れと、羊に率いられたライオンの群れと、強いのはどっちか。

 テロとの戦争で、現場を知り、行動力があるものが自らリーダーシップを取ると。トム・クルーズ演じるアーヴィング上院議員はウェスト・ポイントを首席で卒業している。そして9.11で恐怖のため間違いを犯したと認める。仕掛けていない国を攻撃し、仕掛けた国に援助したと。その過ちを1つ1つ正して行く。手段は選ばないと。うむむ。

 主張することと実際の行動の矛盾も突いてくる。大学教授のマレーは学生たちに自ら行動を起こせと言う。しかし、優秀な学生が軍に志願してアフガンに行くと言い出すと、懸命に慰留する。ジャニーン記者もアーヴィング上院議員の独占インタビューに疑念を感じながらもニュースとして流す。志願した学生たちは、国に帰れば授業料免除で大学院に復学できると前線に赴く。この脚本はかなり頭の良い人が書いたのではないだろうか。

 その脚本を担当したのは、マシュー・マイケル・カーナハン。「キングダム/見えざる敵」(The Kingdom・2007・米/独)の脚本を手がけ、本作ではプロデューサーも務めている。どこかで聞いたような名前だなあと思ったら、「NARC ナーク」(Narc・2002・米/加)や「スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい」(Smokin' Aces・2006・英/仏/米)で知られる監督で脚本家のジョー・カーナハンの弟なんだとか。

 マレー教授を演じるロバート・レッドフォードが、プロデューサーと監督を務めている。俳優として傑作西部劇「明日に向かって撃て」(Butch Cassidy and the Sundance Kid・1969・米)、アフガニスタン・バナナ・スタンドの「ホット・ロック」(The Hot Rock・1972・米)、名作だまし映画「スティング」(The Sting・1973・米)、恐ろしいスパイ映画「コンドル」(Three Days of the Condor・1975・米)などたくさんの面白い作品に出ている。監督としては比較的地味な印象の作品が多く、アカデミー監督賞を受賞した「普通の人々」(Ordinary People・1980・米)、「ミラグロ/奇跡の地」(The Milagro Beanfield War・1988・米)、ブラッド・ピットが注目された「リバー・ランズ・スルー・イット」(A River Runs Through It・1992・米)、アカデミー賞にノミネートされた「クイズ・ショウ」(Quiz Show・1994・米)、不倫映画「モンタナの風に抱かれて」(The Horse Whisperer・1998・米)、ゴルフ映画「バガー・ヴァンスの伝説」(The Legend of Bagger Vance・2000・米)などがある。どれも感動がじわじわと静かに押し寄せるような感じ。

 女性敏腕記者のジャニーンを演じたメリル・ストリープは、1949年生まれというから、もうすぐ60歳。とてもそんなには見えない。特に「プラダを着た悪魔」(The Devil Wears Prada・2006・米)の時はずっと若く見えたし、本作とは別人のようだった。さすがアカデミー賞に14回もノミネートされた名女優。すごいなあ。ボクは見終わった後食事が喉を通らなかった「ディア・ハンター」(The Deer Hunter・1978・米)のマドンナ的女性役が印象的だった。

 トム・クルーズは野心的な政治家をいかにもそれらしく演じていた。もちろん演技はうまいのだが、それより配役がうまい気がした。ぴったりのイメージ。ただ本作の製作総指揮も務めているので、自ら嫌われ役を買って出たのかもしれない。さすが。ハンサムなだけじゃない。

 生意気な学生トッド演じたのはアンドリュー・ガーフィールド。いかにもいそうな大学生という感じが絶妙。見たことがあるような気がするのたが、ほとんどTVで活躍していたらしい。それも2005年から。ほとんど新人に近い。実年齢25歳。

 アフガニスタンの米軍基地の司令官ファルコ中佐はピーター・バーグ。役者の他、監督、脚本家、プロデューサーも務める才能あふれる人。本作でもいい味を出している。監督作品としては、ザ・ロックが主演したアクション快作「ランダウン ロッキング・ザ・アマゾン」(The Rundown・2003・米)、「キングダム/見えざる敵」などがある。

 戦場でCH-47チヌークらしいヘリから落ちる学生は「ザ・シューター/極大射程」(Shooter・2007・米)のマイケル・ペーニャ。いい味を出している。落ちた時にM4A1カービンのストックを折ってしまう。残る武器はサイドアームのベレッタM9のみ。マガジンは予備2本の計3本。恐怖からすぐに撃ちつくしてしまう。

 その友人がデレク・ルーク。見ていないが、デンゼル・ワシントンが監督した「きみの帰る場所/アントワン・フィッシャー」(Antowone Fisher・2002・米)で主演しているらしい。その後もピーター・バーグ監督作品やフィリップ・ノイス監督作品に出たりしているが、アート系劇場での公開がほとんどでイマイチ日本では知られていない感じ。トリジコンのACOGスコープらしきものを装着したM4A1を使用。こちらも恐怖から早くに撃ちつくしてしまう。

 ちなみに音楽はマーク・アイシャム。最近では「南極物語」(Eight Below・2006・米)や「ブラック・ダリア」(The Black Dahlia・2006・米)を手がけていた。これから公開される新作もたくさん控えている。売れっ子だなあ。

 金曜日スタートで、公開2日目の初回、45分前に着いたら新宿の劇場は誰もいなかった。まう派手な作品じゃないからなあ。30分くらい前になって、前売り券の列5人くらいの、当日券0人。そして案内があって整列。25分前くらいに開場した。

 全席自由で、カバーの席はなし。この時点で前売り券10人、当日券25人くらい。前売り券の列は若い人は3人くらい。ほとんどは中高年の男性。女性は1割くらいいただろうか。

 最終的に1,044席に3〜3.5割ほどの入り。開演15分前くらいにホームレスのような匂いプンプンのジーサンが入ってきて、思わず席を遠い位置に移動。臭い。上映途中で場内のエアコンが入って、空気がかき混ぜられ始めたら、席を離れたのに時々臭ってくるようになった。他人より臭いに敏感なので、臭くて集中できないほど。うむむ。こういう時は、どうすればいいのだろう。

 スクリーンはビスタで開いていて、チャイムが鳴って半暗になって予告。三谷幸喜の「ザ・マジック・アワー」は、新予告に。なかなか面白そう。樋口真嗣監督版「隠し砦の三悪人」は、メイク以外、いい感じ。

 ジョン・ウー監督の新作、ハリウッド版三国志「レッドクリフ」まったくどんな映画かわからないが(三国志であることすら)、10月公開ということは半年先か。長い。

 アンジェリーナ・ジョリーの銃弾にカーブをかける映画「ウォンテッド」は、新予告に。90度曲がったところを撃てる“コーナー・ショット”が出てきていた。これは面白そう。9月公開で、まだ日本の公式サイトはない模様。

 地球の中心へと向かう映画「センター・オブ・ジ・アース」は3Dのアトラクション映画らしい。劇場が遊園地になるんだとか。見たい。

 「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」も新バージョンの長い版。面白そう。トム・ハンクスにピッタリの映画という感じだ。

 暗くなってシネスコ・サイズになり、ブレード・ランナー風ドルビー・デジタルのデモがあって、ナイト・シャマランの「ハプニング」の予告。マーク・ウォールバーグが出るらしいが、まったくどんな映画かわからない。シャマランだからまた肩透かしかも。予告のやり方もなあ……。「シックス・センス」(The Sixth Sense・1999・米)以外、面白いのってあっただろうか。


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