2008年5月10日(土)「ハンティング・パーティ」

THE HUNTING PARTY・2007・米/クロアチア/ボスニア・ヘルツェゴヴィナ・1時間43分(IMDbでは101分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、戸田奈津子/シネスコ・サイズ(マスク、ARRI、Super 35)/ドルビー・デジタル、dts

(米R指定)

公式サイト
http://www.huntingparty.jp/index.html
(音に注意。全国の劇場案内もあり )

戦場から戦場を駆け回るスター報道記者のサイモン(リチャード・ギア)は、1994年ボスニアから生中継中にキレて放送禁止用語を連発、クビとなる。チームを組んでいたカメラマンのダック(テレンス・ハワード)は、チーフ・カメラマンに出世し、紛争終結から5年たった2000年、副社長の息子でコネ入社した新人のベンジャミン(ジェシー・アイゼンバーグ)と、記念式典が行われるボスニアを訪れる。すると、ホテルの部屋にサイモンが待っており、国連、CIA、NATOなどから指名手配されている重戦争犯罪者のフォックス(リュポミール・ケレケス)がいる場所を突き止めたから、取材しないかと持ちかける。

74点

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 凄い映画。たぶんストレートに描いたらデニス・クエイドが主演した「セイヴィア」(Savior・1998・米)のような重苦しい作品になっていたところ、悪ふざけではない、つきぬけたところにあるユーモアを所々に配しながら、実にドライに、それでいて衝撃的に、じわーっと心に入り込む作品に仕上がっている。

 こういう作品は希有だと思う。大きな悲劇を喜劇タッチで描くなんて。たいていはユーモアのつもりが悪ふざけになったり、ギャグが全く笑えず見終わった後ため息しか出てこないようなものになったりするのが普通。両者を共存させるのは神業だ。それを真剣に作っているし、戦闘場面などは非常にリアル。恐いほどだ。しかも、実話に基づいているらしい。最初に「この物語はまさかと思うような部分が事実である」というような内容のテロップというか字幕が出る。

 もっとも衝撃的だったのは、実際にボスニアの街の中はいたるところにまだ銃弾や砲弾の跡が生々しく残っていて、1984年に開催されたサラエボ冬季オリンピックの会場が、荒れ果て銃弾や砲弾の跡が残る廃虚と化していること。地雷が残っているため客が来なくなり、廃虚になってしまったのだとか。TVで見たあの会場がこんなになっているなんて……。平和の象徴でもあったようなオリンピックの会場が戦場になったわけで。

 ようするに、映画は「来て2日の記者たちが見つけられるような悪党を、UNやCIAやNATOは5年かかって捕まえられないのは、なぜか」と言う。しかもそのクビには500万ドルも懸賞金がかかっている。「権力を手放せば、命は狙わない」という取引をしたのではなかいかと。

 しかも、エンディングでこの映画に登場するキャラクターの中で、誰が実在の人物か明かされる。そして、なんとこの事件にかかわった記者本人が、ほかの記者役でこの映画で出ていて、この人とこの人だと出るのだ。びっくり。

 人間はなぜ、こんなにも残酷になれるのか。

 すごいセリフがある。報道の賞をもらった時、リチャード・ギア演じるサイモンは言う「賞は痔と同じだ。どのケツの穴もいつか痔になる」。笑ったが、強烈だなあ。賞を出す方は怒り狂うだろう。さらに、カメラマンのダックによく生きていたなと言われ「(飯のネタの)戦争は探せばどこかでやっている」と答える。そうなんだ。セリフはよく練られているようだ。

 爆撃音や銃声はものすごくリアル。恐いし、大きく、鋭い。普通のドラマに多いドカーンとかバキューンとは全く違う。だから登場人物が銃を向けられると恐い。悪党フォックスのボディ・ガードが持っている銃はMP5。フォックスが潜んでいる山へ向かう途中の村人が持っていた銃はベレッタのM92やスターム・ルガーSP101系の4インチ。ほかにもワルサーP38や、特殊部隊がG36などを使っている。

 ホテルのTVでやっていた映画は、チャック・ノリスのたぶん「地獄のヒーロー」(Missing in Action・1984・米)。

 主役を演じたリチャード・ギアは、つい最近アンドリュー・ラウ監督の「消えた天使」(The Flock・2007・米)で執拗な監察官を演じていたが、やっぱりうまい。あちらは全く笑顔無しだったが、本作ではふざけるシーンなどもあり実像に近かったのでは。

 相棒を演じたテレンス・ハワードは、ポール・ハギス監督の傑作群像劇「クラシュ」(Crash・2004・米)で警官に絡まれるTVディレクターを演じていた人。つい最近、女性版狼よさらばの「ブレイブワン」(The Brave One・2007・米)で、いい刑事の役を演じていた。

 コネ入社の新人は、ジェシー・アイゼンバーグ。M・ナイト・シャマランの思わせぶり大げさ映画「ヴィレッジ」(The Villege・2004・米)にも出ていたらしいが、今ひとつはっきりしない。見ていないがジェフ・ダニエルズの「イカとクジラ」(The Squid and the Whale・2005・米)にも出ていたらしい。新作が5本ほど控えていて、これから期待かもしれない。

 サイモンたちをアメリカCIAのヒット・スクワッド(暗殺部隊)と勝手に勘違いするUNの将校ボリスをコミカルに演じたのは、ウクライナ生まれのマーク・イヴァニールという人。「Mr. & Mrs.スミス」(Mr. & Mrs. Smith・2005・米)やトム・ハンクスの「ターミナル」(The terminal・2004・米)にも出ていたようだが、記憶にない。主に「CSI」や「24」「エイリアス」などのTVドラマで活躍していたらしい。

 本物のCIA調査官はディラン・ベイカー。「スパイダーマン2」(Spider-man 2・2004・米)以降でカート・コナーズ博士を演じている人。最近だとロバート・デ・ニーロとダコタ・ファニングの「ハイド・アンド・シーク暗闇のかくれんぼ」(Hide and Seek・2005・米)で保安官を演じていた。ちょっと前だとキューバ危機を描いた「13デイズ」(Thirteen Days・2000・)にも出ていた。やせ形で、理知的でクールな感じ。

 ゲスト出演のような感じの、怪しげな犯罪者グループの女ボスはダイアン・クルーガー。「ナショナル・トレジャー」(National Treasure・2004・米)シリーズでニコラス・ケイジの相棒を演じた美女。プラッド・ピットの「トロイ」(Troy・2004・米)で絶世の美女ヘレンを演じ、第一次世界大戦の実話に基づいた感動秘話「戦場のアリア」(Joyeux Noel・2005・仏ほか)でソプラノ歌手を演じていた。

 脚本と監督はリチャード・シェパード。1967年生まれというからまだ41歳。素晴らしい才能だ。ただ、見ていないが日本劇場公開された「ニューヨーク恋泥棒」(The Linguini Incident・1991・英)や「アリッサ・ミラノの堕落の園」(Below Utopia・1997・米)は評価が高くない。日本劇場未公開のピアース・ブロスナンのThe Matador(2005・米ほか)の評価が高く、本作へとつながったようだ。やはりコメディタッチの作品がこの人の味らしい。ただTVの方が多いようだが。今後の作品にも期待したい

 公開初日の初回、50分前くらいに着くと初回のみ全席自由の銀座の劇場はボックス・オフィス前に2〜3人の人。3館共通の窓口なので何とも言えないが、25分前くらいに窓口が空いた時点で、エントランスには30人くらいの人。

 エレベーターであがった劇場の方は12〜13人。女性は3人ほどで、大半は中高年。若い人は1/3くらいか。10分前に半暗になって案内が上映されたあたりで30人くらい。最終的に224席の3割くらいが埋まった。女性は増えて1/3くらいに。もっと入っても良い映画だと思うが……。テーマは重いが軽い感じで、でも芯は通っているというのが伝わっていないのだろうなあ。

 暗くなって始まった予告は……アラスカへ渡って死亡した若者の実話をショーン・ペンが脚本・監督した上下マスクの「イントゥ・ザ・ワイルド」は、ちょっと気が重くなりそうな感じ。どうなんだろう。「ノーカントリー」(No Country for Old Men・2007・米)のインパクトある殺し屋を演じたハビエル・バルデムが普通の二枚目を演じる「コレラの時代の愛」は、1人の女性を51年9カ月と4日も待ち続けた男の話だそうで。これまた辛い話。それにしても、長い予告の場合は、速くタイトルを出して欲しい。

 さらに、ホアキン・フェニックスの「帰らない日々」は、ひき逃げをしてしまった弁護士が、その事件の調査を依頼されるという、これまた辛い話予告を見ただけで耐えられなくなるような居心地の悪さ。ここの劇場は悲劇専門か。

 ヴィーゴ・モーテンセンとヤオミ・ワッツの「イースタン・プロミス」はデヴィッド・クローネンバーグ監督作品だからありふれたドラマではないと思うけれど、スライド予告でさっぱりわからなかった。

 かろうじて悲劇でなさそうなのは、ビリー・ボブ・ソーントンが宇宙飛行士を目指すという上下マスクの「庭から昇ったロケット雲」。政府から禁止されるのに、自宅からロケットを打ち上げてしまう男の話。それを家族も応援すると。面白いかも。

 スクリーンがシネスコになって、スクリーン中央付近のピンが甘くなった。オイオイ。ガッカリだよ。後半はピンが合ったので、前半のリールの映写機がちゃんと合っていなかったのだろう。ドルビー・デジタルの水しぶきデモの後上映開始。


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