The Last Princess


2008年5月17日(土)「隠し砦の三悪人」

THE LAST PRINCESS・2008・東宝/日本テレビ放送網/小学館/ジェイ・ストーム/読売テレビ放送中共テレビ放送/読売新聞/電通・1時間58分

ビスタ・サイズ/ドルビー・デジタル


公式サイト
http://www.kakushi-toride.jp/index.html
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

戦国時代、山名の軍勢が秋月に攻め入り、落城させた。しかし雪姫(長澤まさみ)と軍資金は消えてしまっていた。金掘りの武蔵(松本潤)ときこりの新八(宮川大助)は山名軍の労役から逃げ出し山へ逃れるが、そこで雪姫と軍資金百貫を守る真壁六朗太(阿部寛)と出会い、黄金の分け前をもらうことで早川への脱出を手伝うことになる。

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 なかなかテンポよく、痛快なファンタジー時代劇。印象としては「戦国自衛隊1549」(2005)と似ているかも。ただ、やっぱり感じるのは、黒澤明監督は偉大だということ。良い悪いよりまず、そういう作品をリメイクしようとする気持ちがわからない。

 カット割りまでそっくりそのまま作るのは問題外として、新たな解釈や技術を使ってリメイクするのは悪くはないと思う。しかし、完璧主義者で、天才的な監督が作った作品だけは、やらない方が良いと思う。出来がどうあろうと比較されるし、絶対にその影から逃れることができないからだ。

 で、本作の印象を一言でいうと、黒澤明監督版を翻案した「スター・ウォーズ」(Star Wars・1977・米)というフィルターを通して(もしくは「スター・ウォーズ」世代が)リメイクしたものという感じ。だったら。時代劇じゃなくてギャングものとか、戦争映画とか、思い切った換骨奪胎にすれば良かったのに。たぶんSFとかだったら樋口監督の実力を存分に発揮できたのではないだろうか。

 とにかくヒゲ面が多くて、そのヒゲがどれも不自然で、気になってしようがなかった。こんなに長いヒゲにするんじゃなくて、リアルな無精ヒゲにすれば雰囲気も出て、不自然さがなかったのでは。まるで舞台の芝居のヒゲという感じ。舞台は観客もそういうお約束の中で見ているからそんなことは気にならないが、リアルな映画で見ると気になる。そして、敵役の椎名桔平の顔にある刀傷。これが花の横でくの字に曲がっていて、一体どう斬られたらこんな傷になるのか、これまて気になって……しかも、ちょっと目の回りが黒かったりして、いかにも悪人ですというアニメチックというか漫画チックなメイクもどうなんだろう。あえて、こういう作り物的な設定にしているのかもしれないが……。

 随所で流れる音楽は、「スター・ウォーズ」そのまんまのイメージ。しかも黒ずくめの椎名桔平は、ほとんどダース・ベイダー。衣装などまったくそっくりだし、登場の仕方まで一緒。どうなんだろう。それに、こういう話はビスタじゃなくてシネスコじゃないかなあ。ワイプもオリジナルのように多用されているが、ビスタではあまり効果的ではない感じ。

 全体の中で良かったのは、「すべらない話」の人気キャラ、宮川大助のみ。やっぱり笑えるし、存在感があって等身大。ぴったりとハマっている。道化的というか狂言回し的役割をキッチリはたしている。うまい。なんと野田秀樹や宮本亜門の舞台にも立っている人で、映画も「岸和田少年愚連隊」(1996)、「ガチ☆ボーイ」(2007)など数本に出ている。だから相棒もマツジュンではなく、お笑いのイケメンにすればよかったのに。まじめなヤツがセコいとセコさが際立つし、感動話もそれなりだが、お笑いならセコさが許せて感動話が際立つ。漫才のような息ピッタリのやりとりが見たかった。

 また、感動話部分が長いし、物語のテンポを壊すし、もっと言うと不要だったのでは。たぶん漫画などではあってもおかしくないけれど、実写の映画では不自然になってしまうのだろう。それにチャンバラの最中に動きを止めて長々と話をするなんてどうかしている。昔のチャンバラのお約束かもしれないが、現代の観客は「レザボアドッグス」(Reservoir Dogs・1991・米)などで、いきなり発砲したりするリアルさに慣れている。とどめを刺す前に長々と話すヤツはたいてい主人公に逆襲される。つまりお約束。早く撃つとか斬ればいいのにと、観客の誰もが思う。本当の戦いで、その最中に話しをするか? やっぱりリアルは狙っていないということか。たったらアニメにするとか……。(血糊は前半はデジタルで派手に飛んでいたようだが)。

 あらためて感じるのは、三船敏郎の何と凄かったことか。1920年生まれだから「隠し砦の三悪人」を撮った時はまだ38歳。あの貫録と存在感。オーラが違う。そして千秋実と藤原鎌足のでこぼこコンビの絶妙さと説得力。おかしさも抜群。そして「隠し砦の三悪人」の雪姫役でデビューした上原美佐の生硬さゆえの姫らしい高びーな感じとか、美しさも凄かったなあと。

 樋口監督らしく、銃も登場。確かフリント・ロックだったと思うが、短筒が出てくる。もしフリント・ロックだと17世紀ということになり、戦国時代の15〜16世紀とはちょっと合わなくなる。大した事ではないんだけれど、瞬間だったので何とも判断できない……。

 公開8日目の初回、40分ほど前に着いたら、新宿の劇場には誰もいなかった。30分前に開場になった時点で、列は6人ほど。15分前で30人くらい。最終的には586席に50〜60人くらい。これはあまりにも少ないのでは。若い人は1/3くらいで、ごま塩頭が目立つ。たぶん黒澤版を見た事がある人たちだろう。若い人に時代劇は難しいのかも。男女比は6対4くらいで男性の方が多かった。

 暗くなって始まった予告は、近未来、国家繁栄維持法が施行され1,000人に1人の若者が自動的に殺される世界を描いた漫画の実写映画化「イキガミ」。内容は予告からは良くわからない。

 やはり漫画の実写映画化、松山ケンイチ主演の「デトロイト・メタル・シティ」は何だか面白そう。「ザ・マジック・アワー」はオリジナルのようだが、「花より男子ファイナル」も、3部作になるという「20世紀少年」も内容はさっぱりわからないが漫画が原作で、最近はリメイクも増えてきて、ちょっと規模は違うがハリウッド化してきているのか。


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