Charlie Wilson's War


2008年5月18日(日)「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」

CHARLIE WILSON'S WAR・2007・米・1時間41分(IMDbでは102分)

日本語字幕:手書き書体下、松浦美奈/ビスタ・サイズ(with Panavision)/ドルビー・デジタル、dts、SDDS

(米R指定)

公式サイト
http://www.charlie-w.com/
(音に注意。入ると画面極大化。全国の劇場案内もあり)

1970年代末、お気楽議員として知られる下院議員のチャーリー・ウィルソン(トム・ハンクス)は、アフガニスタンの状況が気になっていた。そんなとき、選挙区のテキサスで6番目に大金持ちのジョアン(ジュリア・ロバーツ)から、セッティングしたからアフガニスタンに行って現状を視察し、ソ連の侵攻に対抗するための手助けをしてやってくれと頼まれる。チャーリーはアフガニスタン難民の多数が流入するパキスタンの大統領に会い、武器調達のための資金が必要なことを知る。そして自分のかかわる国防秘密予算委員会に提案、CIAエージェントも巻き込み、アメリカの武器ではなくソ連の武器を使ってアメリカが動いていることを知られないようにして援助する決心をする。

73点

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 冗談にでもしないと言えないことがある、という言葉があるが、まさに本作はそんな感じなのかもしれない。確かに笑えるシーンも多い。英語がわかればもっとたくさん笑えるはずだ。お色気もあって、一見普通のエンターテインメント作品のよう。ただ、たった独りのお気楽議員がアフガニスタン戦争を終らせた映画というよりは、そうしようとして9・11の火種を作ってしまったということのほうが衝撃的に残る映画。最後にチャーリー・ウィルソンの言葉が出る「我々はほとんどうまくやったが、最後のところで失敗した」と。

 さらに、劇中フィリップ・シーモア・ホフマン演じるCIAエージェントのネッドの口を通して語られる「人間万事塞翁が馬」(じんかんばんじさいおうがうま 禅マスターと少年の話になっているが)の通り、禍福は予測できないということ。アフガニスタンの戦争は止める事が出来たが、それがもとでアフガニスタンには多くのミラン対戦車ミサイルやスティンガー地対空ミサイルなどの高性能武器がたくさん残存し、アメリカ軍の訓練を受けた高性能武器が使える優秀な部隊(兵士たち)が生まれ、また周辺国から過激派が流れ込んできてしまったという現状。かつては支援したムジャヒディンを、今テロリストとして追っている。

 直接武器を供与出来ないから、CIAを介して獲得武器として多くの共産圏の武器を持つイスラエルの武器商人から武器を買い上げ、親米のサウジアラビアもほぼアメリカと同額を投入、パキスタンから供与していたと。9・11の実行犯の多くがサウジアラビア人だったことを考えると、皮肉なものだ。

 劇中、ソ連の攻撃ヘリMi-24ハインドによる襲撃が描かれる。ロケット砲攻撃やガトリング砲による機銃掃射(トレーサーが何発かに1発入っているので、オレンジ色になって見えるのだ)はかなり恐い。瞬間だったので良くわからなかったが、足が飛んでいる人もいたような……。その重機関銃の射撃にも耐える防弾処理されたハインドなどのヘリを撃ち落とすのに、アフガニスタンでは第一次世界大戦のエンフィールド・ライフルなんかを使っていると。それで、スイスのエリコン20mm機関砲があればいいのかとチャーリー・ウィルソンがCIAの専門家に聞くと、AK47、AK74、AKS(オサマ・ビンラディンの銃はAKS-74U)、RPGなど個人携帯武器がいいと答える。映画はイスラエルでAKが週に2万5千挺作られたという。

 結局、戦争のための援助には最高で5億ドルも使いながら、1989年にソ連が撤退を開始すると予算は急激に縮小、小学校や病院など戦後復興のための予算は100万ドルすら出さないというありさまに。その時、国民の半数は14歳未満という状態だったらしい。予算を認められない失意のチャーリー・ウィルソンから、冒頭のチャーリー・ウィルソンの授賞式につながる。めでたい授賞式でありながら、ラストにはそう見えなくなる。映画では描かれていないが、その子供たちが成人するころの1994年に大規模な内戦が起こりタリバーンが台頭、2001年にはアメリカで同時多発テロ「9・11」が発生する。その空しさ。

 主演のトム・ハンクスは、本作ではプロデューサーも務めており、1996年くらいからプロデューサーとしての仕事も多くなっている。出演としては「ターミナル」(The Terminal・2004・米)以来の面白さか。

 大金持ちのジョアンを演じたジュリア・ロバーツは出産後初めての出演ではないだろうか。ただ、ちょっとしか出ていないのでゲスト出演のような感じ。印象としては「クローサー」(Closer・2004・米)以来、本作も含め、本格出演したものがないような……見ていない作品もあるのだが……産休か。

 CIAのはみ出しエージェント、ガストを演じたフィリップ・シーモア・ホフマンは、最近、自身が製作総指揮を務めた「カポーティ」(Capote・2005・米)でアカデミー主演男優賞を受賞。日本ではアート系の劇場での限定公開で見ていない。印象に残っているのは竜巻映画「ツイスター」(Twister・1996・米)での、たしか竜巻学者役。最近ではトム・クルーズのヒット・シリーズ「M:i:III」(Mission: Impossible III・2006・米)の敵役がある。前に比べると太った感じだが、無表情だととても冷たく見えるので、悪役が多い感じも。

 チャーリー・ウィルソンの秘書というか女性補佐官ボニーを演じたのは、とてもキュートなエイミー・アダムス。傑作おとぎ話「魔法にかけられて」(Enchanted・2007・米)で主演を演じ、人気急上昇中。2005年くらいまでTVを中心に活躍していたよう。レオナルド・ディカプリオの「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」(Catch Me If You Can・2002・米)や傑作コメディ「エリザベス・ハーレーの明るい離婚計画」(Serving Sara・2002・独/米)では胸を動かす美女ケイト役で笑わせてくれていた。本作もいい感じ。

 原作はジョージ・クライルというジャーナリストの同名ノンフィクション作品。プロデューサーとして1950年代からニュース番組を手がけてきたらしい。特に有名なのは「60ミニッツ」。TBSの深夜にやっていたので知っている人も多いのでは。だからダン・ラザーなんかも実名で出てくるんだ。9・11以降はオサマ・ビン・ラディンを追っていたというから、ますます本作の意味というのが明らかになってくる。本がベスト・セラーになったのは2003年のことだという。まさに9・11の後。

 脚本はアーロン・キーソン。トム・クルーズとジャック・ニコルソンの法廷劇「ア・フュー・グッドメン」(A Few Good Men・1992・米)や、ニコール・キッドマンのサスペンス「冷たい月を抱く女」(Malice・1993・米)、大統領のラブ・ロマンス「アメリカン・プレジデント」(The American President・1995・米)などを手がけた後、TVの政治ドラマ「ザ・ホワイトハウス」(The West Wing・1999〜2006)を手がけ本作に至る。なるほど。

 ちなみに、視覚効果スーパーバイザーはリチャード・エドランド。迫力のハインドによる地上攻撃シーンや、とんでもない規模の難民キャンプなどを作り出したのだと思うが、ボクらオヤジの世代にとっては「スター・ウォーズ」(Star Wars・1977・米)や「レイダース 失われたアーク」(Raiders of the Lost Ark・1-981・米)、「ゴースト・バスターズ」(Ghost Busters・1984・米)の人だ。最近あまり名前を見かけないなあと思っていたら、エリザベス・ハーレーの「悪いことしましョ!」(Bedazzled・2000・米)やニコール・キッドマンの「ステップフォワード・ワイフ」(The Stepford Wives・2004・米)なども手がけているのだ。ただ最近はCGばかりが注目され見過ごされていた感じ。うむむ……。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は35分前くらいに着いたら前売り券の列にオバサン2人、オジサン1人。当日券に中年夫婦が1組。30分前くらいに案内があって整列。20分前くらいに開場した時には、前売り券に5〜6人、当日券に15〜16人とちょっと少なめ。ほとんど中高年で、テーマからも当然というところか。

 全席自由で白いカバーの席はなく、スクリーンはビスタで開き。最終的に1,044席に50〜60人の入りは全くの不本意だろう。もっと入っても良い映画。男女比はほぼ半々くらいだった。

 チャイムの後半暗になって始まった予告は……ほとんど「隠し砦の三悪人」上映館と同じ。携帯でメール・チェックするヤツはいるし、軽くて暗部は良く見えないし、座高の高いヤツが前に座ってるし、イライラがつのる。新しい予告では、まだ絵はないが太陽と地球が映って「ドラゴンボール」の実写版が2009年3月に公開されるという。これはびっくり。

 さらに、上下マスクの「奇跡のシンフォニー」は新予告に。なかなかの感動作のようだが、ちょっと地味な感じも。どうか。上下マスクのジョン・ウー監督作品「レッドクリフ」は以前と変わらないが、とにかく絵に迫力があってスゴイ。期待させてくれる。

 スピルバーグとジョージ・ルーカスが出てくる日本向けの予告という「インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国」は、たしかに微妙に違って新しいバージョンのよう。ワクワクする。

 暗くなって、ドルビー・デジタルのブレード・ランナー風デモの後、「ウォンテッド」の予告。いままでのものと同じだが、絵がとにかくユニーク。弾丸にカーブをかけるとは。コーナー・ショットも出てくるし、これは見たい。公式サイトによると、5/24から劇場窓口で前売り券を買うと、アンジェリーナ・ジョリーが劇中で使う弾丸のデザインを模した特製リングがもらえるらしい。欲しいかも。


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