The Illusionist


2008年5月25日(日)「幻影師アイゼンハイム」

THE ILLUSIONIST・2006・チェコ/米・1時間49分(IMDbでは110分)

日本語字幕:手書き風書体下、松浦美奈/ビスタ・サイズ(1.85、Super 35 、ARRI)/ドルビー・デジタル、SDDS

(米PG-13指定)

公式サイト
http://www.geneishi.jp/
(全国の劇場案内もあり)

19世紀末のオーストリー、ウィーン。小さな頃から不思議な少年だった家具職人の息子アイゼンハイム(エドワード・ノートン)は、手品を会得し、やがて美しい少女ソフィ(ジェシカ・ビール)と出会い、お互い恋に落ちる。ところがソフィは公爵家の娘だったため交際を許されず、仲を引き裂かれた。失意のまま国を出た少年は、世界各地を転々とし15年後、ウィーンへ戻るとイリュージョニストとして舞台にデビューした。そのマジックはユニークでとても不思議だったことから評判となり、ついに皇太子レオパルド(ルーファス・シーウェル)も見に来るほど。そして、見事な手際から、婚約発表のパーティでマジックを見せて欲しいと要請される。ところが、その婚約者こそがソフィであり、彼女も皇太子との結婚を望んでおらず、今もアイゼンハイムのことを思っていることを知る。

74点

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 良くできた話で、感動的だが、だいたい最後の仕掛けは読めてしまう。でも、それは予告やチラシのキャッチ・コピーで答えを言ってしまっているせいでもあるような気がする。そんな予備知識無しで見た方が、もっと楽しめたような気がしないでもない。惜しい。

 しかし、アイゼンハイムとソフィの恋は実に微妙なところまで見事に描かれていて、マジックのネタを公然で暴こうとするなど無粋でサディスティックな皇太子や、肉屋の息子から警部になり皇太子から目をかけてもらっているウール警部といったキャラクターの設定も見事。実に良いバランス。

 マジックというよりイリュージョンというか超自然現象に近い術は、CGによって一層幻想的で、その時代の人々が受けたであろう衝撃を感じることができる。ただ観客はCGとわかっているので、多少感動は薄れるが……。この不思議感。

 さらには、アイリス・イン、アイリス・アウトといった古い場面転換手法や、全体にやや黄色みがかったセピア調の色調など、全体の雰囲気が古い時代のロマンを感じさせる演出。このへんもうまい。

 たぶん観客はアイゼンハイムがトリックを仕掛けていることはわかる。ただ、それがどこまでなのかがわからない。すべてなのか、一部なのか。そしてどんな仕掛けになっていたのか。ラストにそれが明かされて、スッキリ爽快。彼らを追っていたウール警部までもがニヤリとしてしまう終り方。2006年の作品なのに、なぜ今まで日本公開されなかったのか、それが不思議。

 アイゼンハイムを演じたのは演技派のエドワード・ノートン。劇場映画デビュー作の「真実の行方」(Primal Fear・1996・米)のくせ者ぶりは素晴らしかったし、ブラッド・ピットと共演した「ファイト・クラブ」(Fight Club・1999・米/独)でもすっかり観客をだました。ロバート・デ・ニーロと共演した「スコア」(The Score・2001・米/独)でも、やられた。リメイク・アクション「ミニミニ大作戦」(The Italian Job・2003・米ほか)では、実に嫌らしいヒールを好演。やや似た役が多い気もするが、本作はそれを逆手にとった感じの設定。正体がわからない感じは正に幻影師(こんな言葉があるんだろうか)向きだ。

 ヒロイン、ソフィ役のジェシカ・ビールは、最近あちこちの映画に出まくり。アクションも行けるし、美人だし、ナイス・バディだし、恋愛ものも行けるし、社会派人間ドラマも行けるので、使いやすいということもあるのだろう。初の劇場映画主演作「テキサス・チェーソー」(The Texas Chainsaw Massacre・2003・米)では、薄いタンクトップ一枚で叫びながら逃げまくるだけで、これ1本で終りかと思ったが、その後あれよあれよという間に売れっ子に。もともと才能があったということか。

 最初は皇太子サイドかと思いきや、実は庶民出身でいろいろ悩んでいるという微妙な役でいい味を出しているウール警部役のポール・ジアマッティ。傑作アクション「交渉人」(The Negotiator・1998・独/米)ではちょっとコミカルな人質を好演していた。ラッセル・クロウのボクサー映画「シンデレラマン」(Cinderella Man・2005・米)では人の良いマネージャーなど、そんな役が多い。

 やっぱり最も貢献していたのは、憎まれ役の皇太子レオパルドを演じたルーファス・シーウェルだろう。こういう役をやらせると、めちゃくちゃうまい。ホントに憎らしい感じ。主演したSF「ダークシティ」(Dark City・1998・豪/米)も良かったが、キム・ベイシンガーのホラー・アクション「ブレス・ザ・チャイルド」(Bless the Child・2000・米/独)の悪魔の手先や、傑作騎士物語「ロック・ユー!」(A Knight's Tale・2001・米)の恋敵の王などの嫌らしさが抜群。悪役が憎たらしくて存在感があれば、主役や悲恋が一層引き立つ。この人をキャスティングした時点で、本作は成功したのかもしれない。使っていた銃は、ハンティングのシーンで高価な水平二連ショットガン、そしてラストに使うのは。当時のオーストリア陸軍の軍用リボルバーのラスト&ガッサーだっただろうか。

 原作はスティーブン・ミルハウザーの「バーナム博物館」(白水ブックス)の中の短編「幻影師、アゼンハイム」。幻想的・ロマン主義的な作風の人らしい。

 監督と脚本を手がけたのは、ニール・バーガー。名門イェール大学の出身で、CM界からをキャリアをスタートしたという。デビュー作は本作の前に撮った「Interview with the Assassin」(2002)。これが高く評価されて本作へとつながったらしい。それが日本では公開されなかったから本作の扱いも小さいのか。今後の作品にも期待したい。

 公開2日目の2回目、前日に座席を確保しておき、20分前くらいに着いたらすでに銀座の劇場は開場済み。この時点では10人くらいだったが、続々と人が増えて、10分前には224席の5.5割くらいが埋まった。

 最終的には満席。これには驚いた。最近にはないこと。まあキャパがそんなに多くはないが……。最初は中高年が1/3くらいだったが、最後には増えて老若比は6対4くらいと逆転。男女比は4対6で女性の方が多かった。ま、基本ラブ・ストーリーなのでそうだろう。

 半暗になって始まった予告で気になったのは、デビッド・クローネンバーグ監督の新作「イースタン・プロミス」は、人身売買を描いた恐いアクションらしい。見たい。ほかは……気が重くなるようなものばかりで……。

 ドルビー・デジタルの水しぶきのデモのあと、暗くなって本編の上映。


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