Kamisama no Puzzle


2008年6月8日(日)「神様のパズル」

2008・角川春樹事務所/フィールズ/東映/東映ビデオ/クオラス/文化放送/ハルキエンターテインメント・2時間14分

ビスタ・サイズ(35mmフィルム、ビデオ、ARRI)/ドルビー・デジタル


公式サイト
http://www.kami-puzzle.com/
(入ると画面極大化。全国の劇場案内もあり)

双子の兄弟、兄の綿貫基一(もとかず、市川隼人)と弟の喜一(よしかず、市川隼人・2役)は見た目はそっくりだが全く正反対の性格。基一はロックが大好きで、すし屋のバイトに明け暮れる日々。一方、弟は大学で素粒子研究ゼミに参加するほどの秀才。ある日、喜一が女の子と海外旅行に行くことになり、基一は大学の講義の代返を頼まれる。大学へ行くと、担当教授の鳩村(石田ゆり子)から、基一が憧れる女子大生、白鳥(松本莉緒)からの推薦で、人を誘うのがうまいという喜一(実は基一)に、登校してこなくなった天才と呼ばれる17歳の女子大生、穂瑞沙羅華(ほずみさらか、谷村美月)を連れ出してきて欲しいと頼まれる。興味を持った基一は彼女の自宅を訪れ、話をするうち「君のテーマは?」と聞かれ、喜一のふりをして「人間が宇宙を作れるか」と答えてしまう。それに興味を持った沙羅華は登校しゼミにも参加、基一と組んで「宇宙を作ることができる」と証明しなければならなくなる。

74点

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 笑った。そして、おもしろい。予想していたよりずっと大きなスケールと本気SFにビックリし、ハラハラドキドキで、134分を最後まで堪能した。コメディの要素だけでもコメディを前面に出した「ザ・マジックアワー」(2008・日)より笑った印象。

 最初はチラシを見てもっとスケールの小さい、低予算の研究室内だけで話が終るよくアート系で公開される作品かと思ったら、リアルな3D-CGを存分に使い、空撮や遠方ロケまである一流作品。どうしてか、見る前はB級の雰囲気がプンプンしたのに。

 キャラクター、演出ももちろんいいが、たぶん脚本がよく練られていて一番良くできているような印象。本格・本気SFだけに、これだけ難しい内容を観客にきちっとわからせるには、まず脚本家の人がビッグバンとかブラックホールとか、量子力学とか相対性理論、素粒子、物質と反物質、物理で言う4つの力……なんていうものをちゃんと正確に理解していないと書けないと思う。それをかみ砕いて、映画の短い時間の中で、多くの観客に分かりやすいように説明しなければならないのだ。本作は、そこのところがある程度解らないと(少なくとも映画を見ている間は)、ドラマが盛り上がらない。

 そこで、本作はお手本たる「ジュラシック・パーク」(Jurassic Park・1993・米)のようにアニメというか漫画やCGを使って説明している。「ジュラシック……」では子供たちに説明する感じになっていたが、本作ではそれを落ちこぼれのロッカーにしている。うまい。

 ときどきスクリーンにインターネットなどで良く見るボタンが出てきて、カーソルがあってクリックすると、妄想だったり、思い出だったりが再生される(その場面になる)。これも面白い。

 ちゃんとしたSFでありながら、青春映画でもあり、ラブ・ストーリーにもなっている。そして引きこもりまでも描きながら、シリアスなんだけれどコミカルに仕上げている頃が良い。お色気もあるし。

 原作はSF作家、機本伸司の同名小説(ハルキ文庫)。デビュー作で、しかも2002年に第3回小松左京賞を受賞しているのだとか。これはちょっと読んでみたいかも。

 脚本を仕上げたのは、NAKA雅MURA(ナカムラ マサルと読むらしい。ミヤビという説も)。三池崇監督の「岸和田少年愚連隊 血煙り純情篇」(1997・日)以降のシリーズや、妻夫木聡の冒険SF「ドラゴンヘッド」(2003・日)、同じく妻夫木聡の傑作アドベンチャー・アクション「どろろ」(2007・日)、同じく三池崇監督の和製ウエスタン「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」(2007・日)も手がけている。本作はエグゼクティブ・プロデューサーの角川春樹と、三池崇監督と3人で書いていったらしい。

 三池崇監督はとにかく多作。これだけよく撮れるものだと思う。たくさんのプロデューサーに信頼されているということだろうか。バイオレンス系のモノに特に優れている感じだが、ホラーやファンタジー系もいける。本作を見事に仕上げたことで、ファンタジー系もいけることを証明した。まさに多彩。すべてを見たわけではないが、ボクが好きなのは、ありそうな恐〜いホラー「オーディション」(2000・日)、強烈なバイオレンスの「殺し屋1」(2001・日/香/韓)、変身ヒーローの「ゼブラーマン」(2003・日)、秋元康原作のホラー「着信アリ」(2004・日)あたり。話題になった「クローズZERO」(2007・日)は予告から暴力満載で見る気がしなくなって見ていないが、「ヤッターマン」は非常に期待している。「ゼブラーマン」と本作の延長線上にあるならきっと面白いはず。

 主演は市原隼人。1987年生まれの21歳。ヒット作第2作めの「陰陽師II」(2003・日)が印象的で、最近はちょっと強面な感じだが、実は女性でもおかしくないような美形。どこか印象がソニンに近いイメージがあるんだけど……。とにかく良い感じ。落ちこぼれのロッカーもピッタリはまっていて、まあ今どきの青年ではある。

 自分のことをボクと呼ぶ引きこもりの天才少女を、ジャージの上着と短パン姿というオタク・ファッションを逆手にとって、実に色っぽく演じてみせたのは、谷村美月。大阪出身の18歳で、2004年くらいからたくさんの映画に出ているが、日本映画は限定公開が多く……どちらかというとCMで見かけるのかも。女優デビューはNHKの連続テレビ小説「まんてん」。ボクの印象に残っているのは、人気作の第2作目「魍魎の匣」(2007・日)の手足を取られた少女。たしかここでも自分のことをボクと呼んでいなかっただろうか。

 ゼミを指導する大学院生の相理を、いかにもインテリの嫌らしい男という感じで見事に演じたのは、黄川田将也。人気ホラー・シリーズ3作目で妻夫木聡が出た「富江re-birth」(2001・日)あたりから目立っていた気がする。劇場版「仮面ライダー THE FIRST」(2005・日)では、主役の本郷猛を演じている。

 ほかにも、ちょい役で國村隼、若村麻由美、遠藤憲一、李麗仙といった人たちが出ている。ベテランの笹野高史は、出番は少ないが非常に重要な役。

 特殊効果という分けではないようだが、CGIプロデューサーは坂美佐子という人。「ゼブラーマン」、「着信アリ」、「妖怪大戦争」(2005・日)、「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」、「クローズZERO」などで三池崇監督と一緒に仕事をしている。本作の巨大な加速器など、あまりに自然で違和感がなく、実際にそこにあるようだ。作品の性格にもよるのだろうが、やはり時間を経るごとにレベルが上がっている気がする。本作はもう充分なレベルまで行ったのではないだろうか。

 公開初日、銀座の劇場は舞台あいさつがあるというのでパスして、2日目の初回、50分前に着いたらまだ誰もいなかった。初日の反動だろう。20分前、開場になった時で10人くらい。最終的には、全席自由の510席に1割程度の入り。いくら舞台あいさつの翌日とは言え、これは酷過ぎる。もっといっぱい入っても良い映画。スケールも大きいので、ぜひ劇場で見て欲しい。家でDVDで見てもこのスケール感は絶対に無理。

 高齢者はほとんどいなかったが、中年層と若い人の比率は6対4で中年層の方が多かった。女性はわずか数人。ファミリーも1組くらいいて、下は小学生くらい。

 暗くなって始まった予告で気になったのは……やぱり押井守監督の「スカイ・クロラ」は絵がスゴイ。キー・ホルダーがもらえるらしいので、そろそろ劇場窓口で前売り券を買うか。

 藤原竜也主演の「カメレオン」は、クライム・アクションということらしいが、予告編では内容がほとんどわからなかった。ちょっとダーク過ぎる感じだったが。

 「クライマーズ・ハイ」は日航機御巣鷹山墜落事件を追う記者の物語。主演が堤真一で、監督が原田眞人なので、期待できそう。


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