Eastern Promises


2008年6月15日(日)「イースタン・プロミス」

EASTERN PROMISES・2007・英/加/米・1時間40分(IMDbではカナダ版96分)

本語字幕:手書き書体下、石田泰子/ビスタ・サイズ(ARRI)/ドルビー・デジタル、dts

(英18指定、日R-18指定)

公式サイト
http://www.easternpromise.jp/
(全国の劇場案内もあり)

クリスマスが近いロンドンのある薬局で14歳の妊娠した少女が倒れる。少女は看護師のアンナ(ナオミ・ワッツ)が働く病院に運ばれるが、出産後死亡してしまう。アンナは少女の持ち物の日記からロシア・レストランのカードを見つけ、行ってみる。しかし、そこはロシア・マフィア“法の泥棒”のボスの店であり、少女はそこから逃げ出したのだった。それを知らないアンナは、ボスのセミオン(アーミン・ミューラー=スタール)に、ロシア語の日記の翻訳を頼んでしまう。そして彼女の前に、ボスの運転手ニコライ(ヴィゴ・モーテンセン)が現われる。

74点

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 恐い。なんという恐ろしい映画。悲惨な状況のロシアを捨て、西側に出てきた人々は、身を守るために同郷者がファミリーとして団結しマフィアを作る。そして次第に違法行為にも手を出し、同じように夢を求めて出てきた旧ソ連が消滅してできたCIS(独立国家共同体)の少女たちを食い物にする。タイトルの「イースタン・プロミス」とは人身売買のことだという。

 売春、麻薬、密輸、殺人……ロシア・マフィアの恐ろしい犯罪と、それを食い止めようとするロシア人との戦い。それを残酷なまでにリアルに描いていく。さすがにR-18は、伊達じゃない。銃ではなく刃物を使った暴力は、鳥肌が立つほど恐い。高いところにたって足がすくむ感じに似ている。

 なんでも、ロシア・マフィアは全身にタトゥーを入れているそうで、それを見ると経歴がわかるようになっているらしい。そして同じファミリーは同じマークをタトゥーとして入れている。

 1人の少女が病院に運ばれてくるという小さな事件から、徐々に話は大きくなり、マフィア組織があらわとなり、そしてついには国の組織までが出てくるという話の構成はとても映画らしく、ぐいぐいと物語に引き込まれていく。うまい。

 なんともスゴイのが、ロシア・マフィアを演じるヴィゴ・モーテンセン。とにかく恐い。両サイドを刈り上げたようなヘア・スタイルも、全身に入れられた刺青も、恐い。そして風呂で襲われ全裸(しかもボカシなし)でナイフを持っての殺陣も、なんともスゴイ。服を着ていないとナイフが擦れただけで皮膚が切れ出血する。「ロード・オブ・ザ・リング」(The Lord of the Rings:The Fellowship of the Ring・2001・米/ニュージーランド)シリーズで有名になったが、レニー・ハーリンのホラー「プリズン」(Prison・1987・米)で主役を演じたりしていた。最近ではアクシヨン・アドベンチャーの「オーシャン・オブ・ファイヤー」(Hidalgo・2004・米)で大暴れしていたし、同じデヴィッド・クローネンバーグ監督の「ヒストリー・オブ・バイオレンス」(A History of Violence・2005・米)で謎の過去を持つ父親役を演じていた。

 ちなみに公式サイトによると、ヴィゴ・モーテンセンが劇中使用している腕時計は、スイスの高級腕時計ジャガー・ルクルトのマスター・コントロールだとか。70〜80万円ほどするやつ。9月末まで公開記念プレゼントキャンペーンをやっている。

 事件に巻き込まれる看護師を演じたのはナオミ・ワッツ。最近では「キング・コング」(King Kong・2005・ニュージーランドほか)が良かったが、ショックだったのは「マルホランド・ドライブ」(Mulholland ・2001・米)で、個人的には何といっても漫画の映画化「タンク・ガール」(Tank Girl・1995・米)がいいんだけどなあ。まあ、とにかくきれい。こんな美女が見られるだけでもありがたい。1968年生まれということは40歳だがとてもそんなには見えない。

 何をやるかわからない危険な男、マフィアのバカ息子を演じたのは、ヴァンサン・カッセル。さすがうまい。このアホなナイフのような男を見事に演じている。スパイの実話「スパイ・バウンド」(Agents secrets・2004・仏ほか)でも恐かったし、ロシアから西側にやって来る美人局の恐怖「バースディ・ガール」(Birthday Girl・2002・英/米)でもヤバかった。でも、やっぱり注目されたのはコミック感覚アクションの「ドーベルマン」(Dobermann・1997・仏)だろう。最近はベテランになってしまって、ああいうのはやらないのだろうか。

 ほとんど声を荒げることもなく、一見、好々爺のようで泰然自若の雰囲気を漂わせていたもっとも悪い男、マフィアのボスを演じていたのは、アーミン・ミューラー=スタールという人。感動作「シャイン」(Shine・1995・豪)で主人公の厳しい父親を演じていた人。最近では「ミッション・トゥ・マーズ」(Mission to Mars・2000・米)にも出ていたらしい。

 監督は、オジサンには腹にビデオが入るショッキングな「ビデオドローム」(Videodrome・1982・加)で名前を覚えたという人が多いだろうデヴィッド・クローネンバーグ。ボクは頭が破裂するショッキングな「スキャナーズ」(Scanners・1981・加)の印象が強い。もっとも好きなのは、スティーヴン・キング原作の中でもベストに近いと思うショッキングな「デッドゾーン」(The Dead Zone・1983・加)、最近になって気を失うほどつまらなかった「スパイダー」(Spider・2002・仏ほか)を撮って、どうしたのかと心配していたら「ヒストリー・オブ・バイオレンス」でまだエンターテインメントを撮れることを証明して見せてくれたが、残酷表現はあるものの、うまいけれど普通というか横綱相撲というか、巨匠になってしまったのかなあと。もっとトンデモない話を見せて欲しい気もする。

 素晴らしい脚本を書いたのは、スティーヴ・ナイトという人。イギリス生まれで、広告代理店勤務からTVの脚本家となり、オドレイ・トトウの「堕天使のパスポート」(Dirty Pretty Things・2002・英)で劇場映画も手がけるようになったらしい。本作は脚本3作目に当たるらしい。「堕天使……」は見ていないが、本作並みなら控えている2作も期待できそう。

 公開2日目の初回、銀座の劇場は初回のみ全席自由ということで、45分ほど前に着いたらすでに開場済み。5〜6人が座っていた。まもなく20人くらいになり、ほぼ高齢者。女性は3人くらい。若い男性が1人。スクリーンはビスタで開き。

 10分前くらいに少し暗くなって、案内を上映。この時点ですでに8割くらいの入り。最終的には224席ほぼすべて埋まった。これはビックリ。ただ、ジジイでも若いヤツのキャップのように、室内でもソフトを被ってやるヤツはいるし、すぐ靴を脱ぐヤツはいるし、迷惑なヤツは年齢に関係なくいる。

 暗くなって始まった予告は……パトリック・デンプシー主演の「恋人たちの予感」みたいな「近距離恋愛」はどうなんだろう。面白いような、二番煎じのような。

 なんか実話っぽい上下マスクの「庭から昇ったロケット雲」は面白そうなんだが、肩透かしのような気もするし……。SFXは本気っぽいけど……。

 ドルビー・デジタルの水のデモがあってから本編の上映。


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