In the Valley of Elah


2008年6月28日(土)「告発のとき」

IN THE VALLEY OF ELAH・2007・米・2時間01分

日本語字幕:丸ゴシック体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(マスク、OTTO Arriflex 535 B、Super 35)/ドルビー・デジタル、dts、SDDS

(米R指定、日PG-12指定)

公式サイト
http://www.kokuhatsu.jp/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

2004年11月1日、引退した元MPのハンク・ディアフィールド(トミー・リー・ジョーンズ)に、アメリカ陸軍のラッド基地から電話があり、休暇でイラクから一時帰国中の息子が失踪したという。 信じられないハンクは早速基地へ向かうが、何も手がかりを得られない。地元警察でも協力を得ることが出来ず、モーテルに泊まることにする。そんなところへ、切断遺体が発見されたという知らせが入る。遺体は息子のものと判明するが、場所が基地の敷地内だったため、捜査権は軍のMPに任せられることになる。諦めきれないハンクは、地元警察のエミリー・サンダース(シャーリーズ・セロン)の協力を得て、独自の捜査を開始する。

74点

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 非常にショッキングな映画。父であるハンクが捜査を進めるに従って、戦争によって壊れていった息子の姿が浮かび上がってくる。それはミステリーとしても良く出来ているし、父と息子、息子と母、夫と妻、警察と助けを求めてくる人、軍と軍人……といったさまざまな人間ドラマを明らかにしていく。

 それでいて、ただ重厚で、暗く悲しいだけではない。ちょっとしたユーモアと、謎解きの面白さ、そして原題に通じるダビデとゴリアテが戦ったエラの谷の戦いのエピソードから、それを教えられた子供とその未来、希望につなげて、静かに終る。しみるなあ。さすがは「クラッシュ」(Crush・2004・米/独)の脚本・監督、ポール・ハギス。まったく期待を裏切らない。素晴らしいエンターテインメントになっている。

 ただ、日本でもPG-12に指定されているくらいで、エロとグロはかなりエグイ感じも。ストリップ・バーでの聞き込みがあるし、バラバラに切り刻まれて焼かれた死体まで出てくる。両親のショックを表すためにも、ハッキリと映し出される。これがショッキング。エロも、主人公のハンクが女性が来るとあわて乾いていないシャツでも着てしまうような、ストリップ・ダンサーでもマムと呼ぶような礼儀正しい古風な人柄なので、イヤラシイよりも何かいけないことのように感じられてしまう。このへんもポール・ハギス監督の巧妙な計算だろう。

 とにかくささいなエピソードの作り方がうまい。それによってその人物が鮮やかに浮き上がってくる。またそれが伏線になっていたりする。冒頭、逆さに星条旗を掲げている外国人らしい男に「国旗は逆さに掲揚するとSOSの意味になる」と教えるシーンもそう。前科のあるメキシコ人兵士のエピソードもそう。エミリー刑事のところでハンクが夕食をご馳走になり、食事前にお祈りをするシーンや(エミリーの幼い息子がそれを良く見ている)、寝かしつけるのにお話をするシーンもそう。このお話が原題のエラの谷で起こったエピソードで、ラストにそれが利いてくる。

 ここで登場するエラの谷とは、旧約聖書に登場するエピソードの1つで、ペリシテ人とイスラエルが対峙した時、両者の間にあった谷のこと。細部は話によって異なるが本作では……その谷へペリシテ人の巨人兵士ゴリアテ(ゴライアスと言っていた)が降り立ち、イスラエル軍に向かってかかってこいと煽った。ところがあまりの巨大さに恐れをなし、誰も挑もうとしなかった。そのとき、ダビデ(デイヴィッド)という少年が現れて、スリングショット(パチンコ)を使って倒した、と。

 ここでトミー・リー・ジョーンズ演じるハンクは、エミリーの幼い息子デイヴィッド(!)に向かって次のような内容のことを言う。「なぜデイヴィッドは勝ったと思う? スリングショットがあったからじゃない。自分の恐怖心に打ち勝って、冷静に狙うことができたからだ」。いつもは部屋のドアを全開にしておかないと眠れないデイヴィッドは、その夜からちょっとだけ開けておくだけにするようになる。なんか、トミー・リー・ジョーンズって、いい父親だなあとしみじみ感じさせるシーン。

 シャーリーズ・セロン演じるエミリー刑事も実在感がある。女で速く刑事になったのは女の武器を使ったからだろうと言われたり、つまらない仕事ばかりを任されるようなイジメを受けている。しかも女手一つで息子を育てている。ついつい、夫が犬を目の前で殺したという妻の訴えを、単なる夫婦げんかと無視してしまう。それがあとあと思わぬ事件につながる。まさにポール・ハギスらしいというか、「クラッシュ」っぽい。彼女はベルト・スライド・タイプのホルスターを背中につけ、たぶんグロックを入れている。

 母親を演じたのは、最近色んな映画にでまくりの感があるスーザン・サランドン。つい最近「魔法にかけられて」(Enchanted・2007・米)で魔女を演じていたっけ。世間的には「テルマ&ルイーズ」(Thelma & Louise・1991・米)が有名だと思うが、ボクはタイトルは別として「グッドナイト・ムーン」(Stepmom・1998・米)とか「依頼人」(The Client・1994・米)(トミー・リー・ジョーンズと共演)が好きだなあ。

 軍のMP、カークランダー警部補を演じているのは、がっかりだった続編「スピード2」(Speed 2:Cruise Control・1997・米)でアレックスを演じていたジェイソン・パトリック。二枚目なのに、これまであまりいい作品に恵まれなかったようだ。

 また、ストリップ・バーのちいママかなにかで、驚くほど若い胸を惜しげもなくさらしていたのは、フランシス・フィッシャー。とても1952年生まれの56歳とは思えない。クリント・イーストウッドの奥さん。非常に重要な役で、事件解決の糸口を与えてくれる。それにしても、脱ぐとはなあ。ビックリ。ポール・ハギス作品だったからか。

 エミリー刑事と噂のある警察署長を演じているのは、ジョシュ・ブローリン。「ノーカントリー」(No Country for Old Men・2007・米)で逃げる男を演じていた人。ダイアン・レインの旦那さんだ。

 軍の基地でハンクを案内する若い軍曹がジェームズ・フランコ。「スパイダーマン」(Spider-man・2002・米)シリーズのハリー・オズボーンを演じている人。ボクは「フライボーイズ」(Flyboys・2006・英/米)が良かったなあ。

 公開初日の初回、銀座の劇場は40分前くらいに着いたら7人の列。中高年のみで、女性が1人。5分ほどで15人ほどになって、25分前に開場した時には40人くらいになっていた。関係者らしい1団の7〜8人が劇場前に。

 初回のみ全席自由で(窓口での当日券との引き換えは必要)、最終的には400席に4.5割くらいの入り。地味な作品ではあるけれど、これは少な過ぎ。もっと入っても良い作品だと思う。

 10分前くらいから案内が上映され、半暗になって始まった予告編で気になったものは……絵はなかったが、やっぱり「ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝」が面白そう。

 「ハプニング」は新予告に。思わせぶりはナイトシャマランの常套手段だから、あまり期待しないでみればいいかも。「20世紀少年」も新予告に。だんだん内容がわかってきた。面白そうな感じだ。

 ヒラリー・スワンクとジェラルド・バトラーのラブ・ストーリー「P.S.アイラヴユー」は、死んだ夫からラプレターが届くというものらしいが、まだほとんど内容はわからない。日本のサイトもない模様。

 「パコと魔法の絵本」はようやく内容のわかるものに。ちょっと危険な臭いもするが、1日で記憶がなくなる少女の記憶に忘れられない記憶を残そうとする老人の話らしく、いいかも。


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