Chameleon


2008年7月6日(日)「カメレオン」

2008・セントラル・アーツ/東映ビデオ/バップ/テレビ東京/EPICレコードジャパン/東映エージェンシー/アークエンタテインメトン・1時間37分

ビスタ・サイズ/ドルビー・デジタル



公式サイト
http://www.c-leon.jp/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

仲間たちと結婚詐欺で金をせしめ、その日暮らしのゴーロ(藤原竜也)は、ホテルの地下駐車場で男が拉致される場面を目撃、密かに携帯電話でビデオ撮影する。そして街で女占い師の小池圭子(水川あさみ)と出会い、行き場のない小池を仲間に入れる。そんな時、TVで拉致された男が国会で証言をすることになっていた証人だったことを知る。やがて謎の男たちがゴーロらの前に現れる。

73点

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 今風の話ではあるのに、どこか「鮫肌男と桃尻女」(1998・日)のような笑いと暴力が融合した不思議な現実感のない、物語のための物語のような印象。かなり笑えるし、アクションも見せ場たっぷりだが、どこかのめり込めない感じもあった。

 元は30年前に松田優作のために書かれた脚本だったらしい。つまり1978年頃の脚本だからか、作り物っぽいというか、古い感じがするのか。マッチには「ロング・グッドバイ」ってあるし。それと、松田優作を意識したのかもしれないが、藤原竜也の感電したみたいなヘアー・スタイルがなじめない。どうにも浮浪者のように見えてしまう。ちょっと汚らしい感じ。そして、トンボ眼鏡のようにでかくてオカマっぽいサングラスもどうなんだろうか。薄い口ひげもなあ。

 少年院を出て格闘技を修め、ヤクザの鉄砲玉もつとめ、傭兵になり戦場にも行った男とはいえ、結婚詐欺師ができるような男であれば、少なくとも外見はまともで一見いい人に見なければならないのではと感じてしまう。そういう男がキレるから恐いということもある。最初から外見がワルそうだとなあ……その意味では、一流企業のサラリーマンか警察のキャリアーにしか見えないようなRCAという組織の木島のほうがよっぽど恐い。

 同様に、女占い師の小池佳子も男性のシンボルの絵を書いたりするキャラクターにする必要があったのだろうか。存在としてはアラン・ドロンとリノ・ヴァンチュラの「冒険者たち」(Les Aventuriers・1967・仏)に登場するジョアンナ・シムカス演じる売れないアーティスト、レティシアのような感じなんだろうけれど、やっぱりもう少し清純な感じの方が、主人公と結ばれる過程も印象的になる気がするし、ラストで彼女をどうしても守りたいという主人公の気持ちもより強く共感できると思う。

 現代はもっとひねくれてこんがらがっているんだということなのかもしれないが、「魔法にかけられて」(Enchanted・2007・米)や「僕の彼女はサイボーグ」(2008・日)のヒット作を見ると、ストレートの方が逆に良いんだと思うけどなあ。

 藤原竜也はかなりのアクションも自分でやっているようで、熱演。いい感じ。うまい。ただし、新境地開拓という印象は受けなかった。「デスノート」(2006・日)や「バトル・ロワイヤル」(2000・日)、NHKの「新撰組!」(2004・日)の沖田総司も、みんな藤原竜也という感じがしたが……。でも別にそれで役に違和感がなければそれでいいと思う。ただ、予算の関係だと思うが、どうにも格闘技や傭兵としてのプロの部分は見えなかった。ハリウッドのように専門家を付けるわけにはいかないだろうからなあ。ラストの菅田俊との決闘は、銃をお互いに手放してから撃ちあうというもので意味不明だった。

 主人公の友人の春川公介を演じたのは、塩谷瞬。TV「忍風戦隊ハリケンジャー」のレッドをやっていたらしい。映画では井筒和幸監督の「パッチギ!」(2004・日)でいい味を出していたし、「出口のない海」(2006・日)などにも出演。ちょっと気の弱そうな感じが抜群。本作ではバカをやるが、やはり途中で死ぬので、強く印象に残るおいしい役。ただゴーロともどもウツという設定は設定だけで、ちっとも生きていなかった気が。後半でゴーロと佳子が公介の家に金を届けに行くのは、やっぱり「冒険者たち」のようだった。

 チンピラの見習い吉田純を演じたのは、波岡一喜。30歳とは思えない若さではじけていた。「パッチギ!」で印象に残る役を演じていた。最近では「ミッドナイトイーグル」(2007・日)で、北の工作員をやっていた。だいたい悪い役が多いようだ。

 女占い師の小池佳子を演じたのは水川あさみ。最近はほとんどTVの仕事ばかりのようだが、ホラーの「仄暗い水の底から」(2001・日)とかたくさんの映画に出ていた。ちょと前で「まだまだあぶない刑事」(2005・日)くらいか。本作は久しぶりの映画だったのでは。美人だが気の強い役が多いような気もする。本作で、主人公と海に逃げるのは、やっぱり古くさい感じがした。しかも割と至近距離からライフルであれだけ撃たれて、とどめまで刺されているのに、ラストのカットは理解できなかった。松田優作映画っぽくしたのか。

 RCAという民間の危機管理会社の木島を演じた豊原功補は、そんなにどなったりせず、態度も紳士的なだけに恐かった。確かにどこかで人を殺しているよなあという雰囲気が漂っていて、素晴らしい。どこというわけではないが、プロっぽい感じもした。これでそれなりの技を見せてくれたら完璧だったのに、そこまでの予算はなかったと。残念。岸部一徳の悪徳政治家のふてぶてしさといい勝負。いや、本作で一番良かったかも。「ゴジラVSビオランテ」(1989・日)とかにも出ているが、ヤクザ役が結構多い。「突入せよ!「あさま山荘」事件」(2002・日)では警官を演じていたが。「亡国のイージス」(2005・日)では将校を演じていた。TVの深夜番組「時効警察」ではコミカルな役も演じている。

 犬塚弘、加藤治子、谷啓の3人のチンドン屋劇団の大ベテランたちはすばらしい。設定としては無理があると思うけれど、こういう人たちが出ていることで物語の厚みが出る。彼らが出ているところだけテンポが違うのも良かった。

 監督は阪本順治。赤井英和のボクシング映画「どついたるねん」(1989・日)で劇場長編映画監督デビュー。金大中拉致事件を描いたスパイ映画「KT」(2002・日)や、「亡国のイージス」を撮っている。基本的にうまい人だと思う。

 脚本は丸山昇一。松田優作のTV「探偵物語」や、映画「処刑遊戯」(1979・日)、「野獣死すべし」(1980・日)を書いた人。ほかにもTVの「プロハンター」や「あぶない刑事」を書いているベテラン。映画「いつかギラギラする日」(1992・日)、「マックスの山」(1995・日)など、アクション系の多い人という印象。本作は松田優作のために書いた作品ということで、松田優作でないと成立しなかったのかもしれない。

 撮影は笠松則道。フィルムなのかビデオなのかわからないが、比較的色が濃く絵に力強さがあった。「どついたるねん」、「KT」や「亡国のイージス」など阪本順治監督とよく組んでいる。

 バイクの男が持っていた銃はサイレンサー付きのベレッタM84あたりか。海で狙撃に使われるスコープ付きのライフルは、AUGのようだった。とどめを刺す銃はサイレンサー付きのグロックか、USPか、ひっょっとしたらP226だったかも。ちょっとしか写らないので、よくわからなかった。ゴーロが暴力団から奪う銃は4インチのリボルバー。ミリタリー&ポリスのようなオーソドックスな形。銃器特殊効果はビッグショット。

 公開2日目の2回目、銀座の劇場は30分前くらいに着いたら、ロビーには15人くらいの人。下は中学生くらいから。上は白髪の高齢者まで。ただ、中学から高校生くらいが半分と多め。男女比は半々くらいだった。中高年は3〜4人。ほとんどは藤原竜也ファンか。20分くらい前に清掃が終わり入れ替え。

 全席自由で、最終的には360席に50〜60人くらいの入り。派手な宣伝もしていないので、こんなものか。

 カーテンが左右に開いて、暗くなって始まった予告編では、ほとんど気になったものがなかった。TVの延長のようなものが多い。あとはもう見飽きた感じのものばかり。うむむ。


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