Gake no Ue no Ponyo


2008年7月20日(日)「崖の上のポニョ」

2008・スタジオジブリ/日本テレビ/電通/博報堂DYMP/ディズニー/三菱商事/東宝・1時間41分

ビスタ・サイズ/ドルビー・デジタル、dts ES



公式サイト
http://www.ghibli.jp/ponyo/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

かつて人間だったが今は海の底で暮らしている父のフジモト(声:所ジョージ)のもとから、金魚のような魚の娘ブリュンヒルデ(声:奈良柚莉愛)はこっそりクラゲに隠れて逃げ出すと、岸に向かうが漁船の網にかかりそうになり、運悪くビンにはまって岸に打ち上げられる。ちょうど磯遊びに来ていた崖の上にすむ5歳の男の子、宗介(声:土井洋輝)がそれを見つけ、家に持って帰るとビンを割って助けポニョと名付け飼うことにする。気が合った2人は仲良しになるが、娘が抜け出したことを知ったフジモトは、不思議な波たちを使って連れ戻す。ところが、ポニョは人間の子になることを決意。魔法を使って海の家を抜け出すが、そのとき魔法の水が入った井戸に海水を入れてしまい、それが原因で嵐が起こる。

80点

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 たぶんきっとすべての宮崎アニメの要素がすべて入った、総集編のような映画。そして、いっぱいの優しさにあふれている。まるで思いもつかない展開で、驚かされる。絵も素朴な感じで、癒し系。穏やかな、暖かい持ちで劇場を後にできる。優しさに、危うく涙が出そうに……。

 キャラクターはセル画調だが、背景はクレヨン風。CGを使っていないことを売りにしていたようだが、観客からすると、そんなことはどうでもいい。手描きだろうと、コンピューターによる3D-CGだろうと、見るに値する絵で、物語に没入できれば何でもかまわない。若干、手描きのためか動きがスムーズでないところがあった気はするが、それほど気にならなかった。描くのは大変だったのかもしれないが、できれば大変だったなどと言って、それを売りにしないでほしい。CGと比較してどうとか、そんなことは聞きたくない。

 やっぱりすばらしいのは、ポニョのキャラクターだろう。ちょっと蛙のようでもあって、一歩間違えば不細工になるところ、実に愛らしくまとめられている。声もしゃべり方も仕草も、すべてかわいい。そして、仲良くなる宗介のまたかわいいこと。母親や父親を名前で呼ぶような息子だけれど、老人たちとも尊敬の心を持ちつつ友達のようにつきあっている。なかなか男らしいところも良い。そして5歳なのにわがままを言わず、駄々もこねず、まっすぐで素直。ファンタジーには欠かせないキャラクターだ。誰もが感情移入できる主人公。

 声の所ジョージは個性が強すぎて、所ジョージの顔を浮かんでくるのではないかと心配したが、それは最初だけで、あとは馴染んでしまった。母親リサ役の山口智子も、父親耕一役の長嶋茂雄も、ポニョの母の天海祐希も、ピッタリはまり、まるで声優さんのよう。ただポニョの妹たちの声が矢野顕子といわれても、ほとんど言葉になっていないのでわからないし、その必要があったのかどうか。

 主題歌も良い。ふーと心の中に入ってくる。ちょっと聞いただけで覚えられるから、上映前ロビーで子供たちがあちこちで歌っていた。作詞は近藤勝也(本作の作画監督)、補作詞が宮崎駿、作曲・久石譲、歌・藤岡藤巻と大橋のぞみ。

 そして、劇中に使われている曲がワーグナーの「ワルキューレの騎行」に似ているなあと思ったら、公式サイトによると、宮崎駿監督が構想を練っているときに聞いていたためらしい。それで、ポニョの元の名前が歌劇「ニーベルングの指環」に登場するワルキューレ、天空を駆け巡る9人の乙女の長女からきていて、ポニョの父フジモトはワルキューレの父である神々の長ヴォータンが世界の終焉を回避しようと奔走するという設定からきているらしい。「ワルキューレの騎行」そのままでは「ワルキューレ」やヒトラー、「地獄の黙示録」(Apocalypse Now・1979・米)のイメージが強すぎてファンタジーには向かないということだったのだろう。確かに、似ている曲だが違和感はない。

 ウィキペディアによれば、「ヴァルキューレ」(ドイツ語読み)の構図は「男性原理」(剣および遠大な構想)によって崩壊した世界を「女性原理」(愛)が救済する形になっているのだという。

 さらに公式サイトによると、崖の上にすむ宗介の元は夏目漱石の「門」の主人公の崖の下にすむ宗助なんだとか。デボン紀とかカンブリア紀なんていう古生代まで登場し、古代魚が泳ぎ回る事態となるのだから、すごい。子供にはまったくチンブンカンプンだろうが、大人もほとんどわからなかったはず。奥が深い。しかしそれを前面に出さず、知らなくても全くかまわない構成にしてあるため、子供から大人まで楽しめる作品に仕上がっている。

 さらにすばらしいのは、いきなり魔法の世界から始まっても観客はちゃんとついて行くし、登場人物が魔法をあっさり受け入れても驚きもしないことだろう。突拍子もない話なのに破綻していないし、受け入れるのに抵抗がない。しかも、5歳の少年が「しめしめ」とか現在では使わないような死語というか、文語的セリフを使っても違和感がない。これも不思議だ。宮崎アニメの世界観がきっちりと出来上がっているためではないだろうか。この世界でならそれが許されるというわけ。失敗していれば拒否反応が出るはず。

 チキンラーメンを食べるシーンも面白かった。手作り料理じゃなくて、インスタント料理なんだ。日清が協賛しているのかとおもったら、そうではなかった。宮崎監督がかなりのラーメン好きらしい。ポニョと宗介が正座して3分じっと待つ姿がいじらしかった。

 クライマックスの「試練」があまり試練ぽくなく、あっさりしていたのが物足りなかったといえば物足りなかったか。

 ラスト、ひらがなで「おわり」と出るのもよかった。なんだかほんわかする。

 公開2日目の2回目、金曜日に座席を確保しておいて30分前くらいに着いたら、まだ前回が終わっていなかった。ロビーにはかなりの人の数。15分前くらいに入れ替えとなって場内へ。全席指定で、中央の17席×2列だけカバーが掛かったプレミアム席。

 最終的には654席に6.5割くらいの入り。プレミアム・シートも12〜13人座っていた。年齢層は幼稚園児くらいを連れたファミリーから、白髪の高齢者まで幅広く、まんべんなくいた。さすが宮崎アニメ。男女比は4.5対5.5くらいで女性の方がやや多かった感じ。

 スクリーンはビスタで開いており、予鈴、本鈴の後、半暗になって始まったCMは、いつものわけのわからないキューピーのほかに、カップヌードルなどいつも見かけないものがあり、宮崎アニメの客層を当てにしてのことなのだろう、ちょっと違った感じで良かった。

 気になった予告では……大ヒット・コミックの映画化「イキガミ」は、映像付きの新予告だったが、感動人間ドラマという雰囲気を前面に出していて、思わず引いてしまった。うむむ。

 上下マスクの3D-CGアニメ「ウォーリー」は ロング・バージョンのようで、感動的。うるっときた。なかなかタイトルが出ない「パコと魔法の絵本」も感動的な話のようで、まわりでもうるりと来た人が多くいたようだ。無反応だった「イキガミ」と対照的。どちらもコメディーっぽいのに。


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