The Sky Crawlers


2008年8月3日(日)「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」

THE SKY CRAWLERS・2008・日本テレビ放送網/プロダクションI.G./バンダイビジュアル/ワーナー・ブラザーズ映画/ディーライツ/バップ/読売テレビ/博報堂DYメディアパートナーズ/D.N.ドリームパートナーズ/読売新聞/中央公論新社/報知新聞・2時間01分

日本語字幕:手描き書体下/ビスタ・サイズ/ドルビー・デジタル、dts ES



公式サイト
http://sky.crawlers.jp/index.html
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

ある時代、ある国……戦争請負会社ロストック社の戦闘機パイロット、函南優一(カンナミユーイチ、声:加瀬亮)が女性司令官、草薙水素(クサナギスイト、声:菊地凛子)が指揮する前線基地「兎離州(ウリス)」に配属されてくる。そしてベテラン整備士の笹倉永久(ササクラトワ、声:榊原良子)の指示により前任者、栗田仁郎(クリタジンロウ)の愛機を引き継ぐことに。栗田は草薙に殺されたとか、幼い少女草薙瑞季(クサナギミズキ、声:山口愛)は彼女の妹とも娘とも噂されていた。そんな中、敵のラウテルン社のエース・パイロット、機体に黒豹の絵が描かれたティーチャーによって、戦友が撃墜されていく。ティーチャーにも、かつてはロストック社のエース・パイロットだったという噂があった。

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 森博嗣の小説の映画化。ボクは読んでいないので原作のことはわからないが、平和を実感するためのショーとしての戦争で、実際に命を賭けて戦うパイロットたちの姿を描いている。そして、そのパイロットたちの多くは「キルドレ」と呼ばれる大人になることを拒否した少年少女たち。しかも、どうも遺伝子操作によって企業によって作り出された存在であるらしい。ただ、これは字幕で出るとかなく、一切説明されない。見終わって何となくそうなんだろうとわかる。英語と日本語とちゃんぽんで、ポーランド語か何かまで混じる無国籍ぶりも面白い。

 これまでも押井監督は、戦いは描いてもリアルな戦争を描くことはなかった。「アヴァロン」(Avaron・2000・日)で描かれていたのはリアルではあってもヴァーチャルな戦闘ゲームだった。今回も、命がかかっているリアルな戦いではあるが、ショーとしての戦争だ。人々は平和を謳歌し、安全な場所からそれを見て平和を実感する。ある意味、茶の間でCNNのニュース映像を見るのに似ている。だから、敵を全滅させることはないし、大規模な空爆があっても町が破壊されたり、非戦闘員が死亡することもない。当然、戦争の背景や敵が描かれることもない。戦況さえ明らかにされないのだ。悲惨な状況は前線基地と戦闘区域以外にはない。だから、なんとなく第一次世界大戦のパイロットのような感じがしたのかも。

 原作小説があり、脚本を押井監督自身ではなく、若手脚本家で「世界の中心で、愛をさけぶ」(2004・日)の伊藤ちひろが書いていながら、ちゃんと押井作品になっている。というのも、キルドレは、歳をとらず、戦場で死なない限り死ぬことはない。劇中で明言はされていないが、遺伝子操作によって年頃の子供として生まれ、記憶を移植されているらしい。これは「ブレードランナー」(Blade Runner・1982・米/香)のレプリカントや、「攻殻機動隊」(Ghost in the Shell・1995・日)、「イノセンス」(Innocence・2004・日)の草薙素子につながってくる。

 とにかく空中戦というか、飛行機の表現がすばらしい。人物はセル画調だが、機体や空はまるで写真のようにリアル。二重反転プロペラの機体がスムーズに大空を駆ける、翼端からほそい飛行機雲を生じる。機体が回転するとその細い飛行機雲も渦を描きながら消えていく。とてもリアルで美しい。そして機銃を撃つと、トレーサーの混じった銃弾の軌道が描かれ、主翼の下面からばらばらと大量の空薬莢が排出される。離陸や着陸もよくドキュメンタリー映像などで見るような映像が取り入れられている。とくに機首をちょっと曲げて進入してくる着陸が良い感じ。プロペラの停止する感じもいい。

 美しい雲は3D-CGソフトを使って作り出したものらしい。非常にリアルで全く違和感がない。まあ手法はどうでもいのであって、きちっと見るのに値する絵ができているということだ。

 やたら登場人物がたばこを吸うのは、昨今の禁煙ブームに対する押井監督なりの答えだろうか。吸わない上司は信じないというセリフがある。

 アニメの世界では演出というのと監督というのがあって、どういう役割分担なのかわからないが、本作の演出は西久保瑞穂。「イリセンス」や「攻殻機動隊」の演出も手がけた人。

 メカニック・デザインは竹内敦志。やはり「イリセンス」や「攻殻機動隊」を手がけた人だが、「サクラ大戦 活動写真」(2001・日)、「劇場版 ああっ女神さまっ」(2000・日)なども手がけている。

 音楽は押井組、川井憲次。つい最近「L change the WorLd」(2008・日)を手がけている。あとまもなく公開される楳津かずお原作の実写映画化「おろち」も控えている。

 草薙水素が持っているのはワルサーPPK。ほかのパイロットはガバメント。ハンマーに指を当てて撃たせないようにするところがリアル。兵器のアドバイザーは岡部いさく。以前、押井監督と対談したことがあるというので、そのつながりかもしれない。

 公開初日は舞台挨拶があるというのでパスして、2日目の初回、新宿の劇場は55分前くらいに着いたら、すでに20人くらいの行列。ほぼ高校生くらいから大学生くらいの若い人ばかり。アニメ・ファンだろう。女性は0。ちょうど係の人が出てきて整列させたが、それは、列が熱い日差しを避けてバーガー・ショップの店頭に寄っていたのを、お店の邪魔にならないように、直射日光の当たるところに出すもの。暑いのなんの。

 45分前くらいで40人ほどの行列に。女性は2〜3人。中高年も2〜3人。列が長くなるに従って日陰に(つまり店の近くへ)移動していくのだが、再び係の人が来て直射日光の当たる暑いところで並ぶように指示していった。もしこれで誰か倒れたらどうするんだろう。暑い日で、本当に誰か倒れかねなかったというのに。確かにお店には営業妨害になるかもしれなかったが、だったら早く開場するとか、ほかの手を取った方が良いのではないだろうか。

 文句を言って列を離れる人もちょっといたが、ほとんどの人は日本人ぽく暑い中じっと我慢して並んでいた。みんな偉いなあと妙に感心した。

 30分前になってやっと開場。列は60〜70人くらいに。誰も倒れなくて良かった。ペア席以外は全席自由。最終的には1,064席の4〜4.5割ほどが埋まった。初日の舞台挨拶の影響か。

 チャイムが鳴ってカーテンがあがり、明るいままビスタのスクリーンで始まった予告編で気になったのは……暗いシーンが多くてよく見えなかったが、ベニー・チャン監督の新作「インビジブル・ターゲット」。アクション満載で、これはおもしろそう。NG集も付いているらしい。

 上下マスクの「俺たちダンクシューター」は、日本で受けないウイル・フェレルのおふざけコメディ。予告でも腹が立つレベル。

 女座頭市の「ICHI」は、発想も面白いし、綾瀬はるかも旬。CGによるらしい血糊が派手に飛んでいた。スター・ウォーズの「クローン・ウォーズ」は新しいバージョンの予告。人間以外のキャラクターや乗り物、風景などは写真と見まごうばかりのリアルさ。しかし人物だけはアニメチックにしたと。これが正解という気がした。いまだ語りぐさの「ファイナルファンタジー」(Final Fantasy: The Spirits Within・2001・米/日)のような不気味の谷に入り込まなくてすむ。テクノロジーにおぼれないところが良い。

 暗くなって、本編の上映。

 ワーナーが配給しているからか、ところどころにコピー防止のドットが目だっていた。音声は日本映画の実写では滅多に例がないdts ES(6.1ch)。とてもクリアで、音もよく回る。はっきり右後方などから音がする。クォリティが高い。お金がかかっている。


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