The Dark Knight


2008年8月10日(日)「ダークナイト」

THE DARK KNIGHT・2008・米・2時間32分

日本語字幕:手描き書体下、石田泰子/シネスコ・サイズ(レンズ、by Panavision、35mm・65mm IMAX)/ドルビー・デジタル、dts、SDDS

(米PG-13指定)

公式サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/thedarkknight/
(入ったら音に注意)

ゴッサム・シティのマフィアがマネー・ロンダリングに使う5つの銀行が、ジョーカーと名乗る一味によって同時に襲われた。しかもリーダーの男は味方をも殺害し、手がかりを残さなかった。マフィアのボスたちが集まって対策を相談しているとき、ジョーカーと名乗る男(ヒース・レジャー)が現れ、バットマンを殺してやるから利益の半分をよこせと条件を出す。マフィアは香港の組織に残った金を託し、中国へ退避させる。新任の期待の検事ハービー・デント(アーロン・エッカート)はバットマン(クリスチャン・ベール)に、香港の組織のボス、ラウ(チン・ハン)の身柄を確保できれば、マフィアのすべてのボスたちを共同謀議で有罪にできると約束する。みごとラウの身柄を確保したバットマンに、マフィアのボスたちは、ついにバットマン殺害をジョーカーに託すことにする。

82点

1つ前へ一覧へ次へ
 なんというスゴイ映画。コミックの世界をほとんど違和感なく現代のリアルな今の世界にはめ込み、実際に起きてもおかしくない話として仕上げてある。まったく違う世界でのおとぎ話ではないというリアリティが、観客を映画に引き込む。この緊張感と感動。

 とにかくヒース・レジャー演じるジョーカーが良い。ほとんど犯罪を犯す動機も明らかにされず、背景や経歴、日常といったものを完全に排しているにも関わらず、圧倒的な存在感があり、恐ろしい。金でも、恨みでもなく、理屈や理性では判断できない価値観で行動する完全なる悪。わずかに、精神病院に入ったことがあり、人々の希望を奪い、恐れおののく姿を見るのが好きらしいことだけが、それとなくわかるだけ。

 口に裂けた傷がある理由も、毎回話すたびに違い、どれもが恐ろしい。そして、彼がバットマンや警察や、一般大衆に押しつけてくるのは、二者択一の究極の選択。どうしても片方を犠牲にしなければならない選択。これはつらい。

 さらに、正義は簡単に悪に転んでしまうのだというジョーカーの持論。それを証明しようとする。愛するものを失い、自分も酷い傷を負ったとき、復讐せずにいられるのか。

 そして、人々にはヒーローが必要で、バットマンはヒーローではないと自ら言う。だから冒頭にタイトルが出ず、最後の最後「The End」の代わりにタイトルの「Dark Knight」(暗黒の騎士)の文字が出る。この演出が鮮やかで、そうだったのかと納得できる。うまい。

 絵もすばらしい。単に暗くダークな感じなのではなく、普通の日常的な絵なのに重厚で、劇的で、力があふれている。SFXも驚異的で、これ見よがしでなく、圧倒的。特殊メイクも不自然さが全くない。崩れかけたジョーカーのピエロのようなメイクなど、鳥肌ものだ。ピエロのお面さえ怖い。カー・チェイスはもちめろん、全体にスピード感にあふれ、疑問を感じさせずに観客を152分間リードし続ける。

 音楽もノリが良く、心臓の鼓動のような打楽器のリズムが観客を興奮させ、また不安にさせる。音響効果の立体感もすばらしく、周囲から音がわき上がったり、明確に左後方で音がしたりという演出。銃声は荒々しく、大きく、恐ろしい。アクションはこうでないと。爆発などの前に、一瞬、物音が無くなり静寂が訪れる。そして爆発。これもスゴイ。うまい。

 セリフも良い。専門家が参加しているのか、脚本家がすごいのか、しゃれたセリフが多い。フルース・ウェインがバット・スーツの襟を直してくれと言うと、装備担当のフォックスは首がよく回るようにするのかと聞く。それに対して「車のバックがやりやすくなる」と答える。

 出演陣も豪華。主演は前作「バットマン ビギンズ」(Batman Begins・2005・米)から引き続きクリスチャン・ベール。本作のプロモーションのためイギリスを訪れていて家族相手に暴力事件を起こして話題になってしまったのは残念。あの「太陽の帝国」(Empireof the Sun・1987・米)の少年が、暴力事件……ショックだった。いい役者さんなのに。本作ではあまりにジョーカー役のヒース・レジャーが良いので、ちょっと存在感がかすんでしまった感はある。

 しかしジョーカー役のヒース・レジャーも複数の薬物処方が原因となって自宅で急死している。これまでもすばらしい演技が多く、これからも期待されていただけに、いかにも惜しい。見ていないのだが、ちょっと前の作品「キャンディ」(Candy・2006・豪)でヘロイン中毒者を演じており、なにやら未来を予想させるような結果に。ボクが最近見たのは「ブラザーズ・グリム」(The Brothers Grimm・2005・英ほか)だが、本作とまるで正反対のような役柄。演技力のすごさを思い知らされる。やっぱり「パトリオット」(The Patriot・2000・独/米)と「ロック・ユー」(A Knight's Tale・2001・米)が良かったなあ。使っていたのは、シルバー・スライドのグロック18。ときどきフルオートで撃っていた。

 ゴードン警部は引き続き性格俳優のゲイリー・オールドマン、執事のアルフレッドもサーの称号を持つ75歳のベテラン俳優マイケル・ケインが続投、装備担当のフォックスも名優モーガン・フリーマンが再び演じている。これだけでもすごいことだ。みな前作「バットマン ビギンズ」を評価したということなんだろう。

 ジェダイのように暗黒面に落ちてしまう正義の検事ハーベイ・ケントを演じたのは、アーロン・エッカート。強すぎない存在感がいい感じ。見ていないがつい最近「幸せのレシピ」(No Reservation・2007・米/豪)に出ていた。印象強かったのは、たばこ訴訟を扱った「サンキュー・スモーキング」(Thank You for Smoking・2005・米)のたばこPRマン、猟奇殺人の「サスペクト・ゼロ」(Suspect Zero・2004・米)のFBI捜査官役など。焼けた後の顔がスゴイ。使っていたのはステンレスのS&Wのチーフ、M60あたりか。ゴム・グリップ付きで、3インチぽかったが。

 デント検事とブルース・ウェインの間で揺れ動くヒロインを演じたのは、マギー・ギレンホール。不思議な物語の「ドニー・ダーコ」(Donnie Darko・2001・米)に、弟のジェイク・ギレホールとともに出ていた人。つい最近は9.11の事件を描いた「ワールド・トレード・センター」(World Trade Center・2006・米)に出ていた。

 さらに、マフィアのボスを演じているのが、悪役ならお任せのエリック・ロバーツ。ジュリア・ロバーツのお兄さんだが、どうも評判がよろしくないようで、B級映画の出演が多い。最近見たのは日本のゲームの映画化「DOA/デッド・オア・アライブ」(DOA: Dead or Alive・2006・米)。イメージ的にはぴったりか。

 ちょっとだけ出てくるスケアクロウは、これも続投のキリアン・マーフィ。ちょい役なのにわざわざ出たところが、期待を伺わせる。スケアクロウ役は不気味な感じ十分だが、感動作「麦の穂を揺らす風」(The Wind that Shakes the Barley・2006・アイルランドほか)では主役の正義感に燃える力強い青年を好演していた。

 冒頭、マフィア系銀行の襲撃でソードオフ・ショットガンを手に戦うのは、ウィリアム・フィクトナー。「ブラックホーク・ダウン」(Black Hawk Down・2001・米)や群像劇の傑作「クラッシュ」(Crash・2004・米/独)などの大作でも知られるが、最近は1シーズンだけ良かったTVドラマ「プリズン・ブレイク」の第2シーズンのFBI捜査官が有名か。この人もほんのちょい役。

 香港に乗り込んだモーガン・フリーマンが受付のところで携帯を渡しているときチラッと写るのが、香港映画のイケメン、エディソン・チャン。つい最近「呪怨パンデミック」(The Grudge 2・2006・米)に出ていた。

 監督はクリストファー・ノーラン。ロンドン生まれの38歳の若手監督。プロデューサーもつとめている。何といっても、ある事件をきっかけに記憶傷害を負った保険調査員の男が犯人を捜す姿を描いた逆転進行ミステリー「メメント」(Memento・2000・米)が良かった。その後アラスカを舞台に不眠症の刑事を描いた「インソムニア」(Insomnia・2002・米)、「バットマン ビギンズ」、イリュージョン・マジックの裏側を描いた「プレステージ」(The Prestige・2006・米/英)などは、もちろんおもしろいがクリストファー・ノーランらしさがあまり出ていなかった気がする。本作は完璧に実力発揮。おそるべき38歳。

 クリストファー・ノーランとともに脚本を担当しているのは、弟の脚本家、ジョナサン・ノーラン。なんと32歳。「インソムニア」以外のクリストファー・ノーラン作品の脚本を担当している。クリスチャン・ベールが主演する「ターミネーター」の新作の脚本を手がけているというから、楽しみだ。

 アーマラーはIMDbではデミアン・ミッチェルという人。「ナショナル・トレジャー2:リンカーン暗殺者の日記」(National Treasure: Book of Secrets・2007・米)などを手がけている人だが、ボクが劇場のエンド・ロールで見たのはジョン・ベーカーとか何とかそんな感じの名前の人だったが……。マフィアたちはウージー、イングラム、M93R、AK、ミニ14、ミニガン、M16、RPG、などを使う。28口径の銃というセリフがあったが、なんの銃だろう。

 公開2日目の初回、前日に座席を確保しておいて20分前に着いたらすでに開場済み。2F席は30人以上が座っていた。中高年が多く、6対4くらいで男性が多かった。スクリーンはビスタ・サイズで開いていて、10分前くらいから案内を上映。

 大学生くらいがちょっと増えて、最終的に2F席は7割くらいの入り。先行上映もあったようなので、これくらいの混み具合なのだろう。終了時、サクラかどうか不明だが、1人拍手している人がいた。

 半暗になって始まった 予告編では……早くも「ハリー・ポッターと謎のプリンス」の予告が登場。どうやら過去にさかのぼり、ヴォルデモートの秘密が明らかにされるらしい。11.21公開と。

 さらにビックリは白土三平の原作を松山ケンイチで「カムイ外伝」実写化するという。絵はまだ何もなく、2009年夏公開とのこと。ちょっと楽しみ。

 そしてブラッド・ピット主演の上下マスク「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」。どうやら時間とともに若返っている男の人生を描いたものらしい。ケイト・ブランシェットやナルニアの白い魔女ティルダ・スウィントンが出ている。2009年1月公開とのこと。面白そう。

 スクリーンがシネスコになって、左右マスクでおバカスパイ映画「ゲットスマート」。主演は「40歳の童貞男」(The 40 Year Old Virgin・2005・米)のスティーブ・カレル。共演にアン・ハサウェイ、ザ・ロックあらためドウェイン・ジョンソン、ベテランのアラン・アーキン。あちこちで笑いが起きていたから、期待できそう。

 ラスト、ヒース・レジャー、コンウェイ・ウィクリフィにささぐ。という文字が出る。コンウェイ・ウィクリフィという人は特殊効果を担当している人で、本編撮影前にカー・スタントのテスト中に事故で亡くなったということだ。


1つ前へ一覧へ次へ