Invisible Target


2008年8月31日(日)「インビジブル・ターゲット」

男児本色/INVISIBLE TARGET・2007・香/中・2時間09分(IMDbでは128分)

日本語字幕:手描き風書体下、水田菜穂/シネスコ・サイズ(マスク、Super 35)/ドルビー・デジタル、dts

(香IIB指定、米R指定)

公式サイト
http://www.invisible-target.jp/
(全国の劇場案内もあり)

香港の繁華街で、白昼堂々と現金輸送車を襲撃、輸送中の現金を強奪する事件が発生した。この事件でチャン刑事(ニコラス・ツェー)のフィアンセが巻き添えとなり死亡した。6ヵ月後、チャン刑事は喪失の痛手から立ち直れず、自らの命を省みないような強引な捜査を行うようになっていた。そして武器密輸グルーブを追い、主犯格のタイガー(フィリップ・ング)を逮捕する。同様に、フォン警部補(ショーン・ユー)も荒っぽい捜査で知られており、たまたま職質をかけたバンが襲撃一味で、同僚が重傷を負い、自らも拳銃のカートリッジを飲まされ入院する。同じ頃、心優しき若いワイ巡査(ジェイシー・チェン)は特捜部の取り調べを受けていた。失踪した兄のタツ刑事が輸送車を襲撃に関わっていた可能性があるというのだった。やがて3人は協力して捜査を行うことにするが……。

73点

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 おもしろい。すごいアクション。驚いた。まだまだ香港映画はパワーがある。町中でも爆破しているようだし(デジタルで派手にしているのかもしれないが)、経済特区ということであまり規制を受けていないのか。

 とにかくスゴイのは、主演の3人が実際に体を張って撮影していることだ。どうもデジタルで顔だけすげ替えているのではないらしい。インタビュー記事などを見ると、香港では1人が体を張ると、共演者も体を張らざるを得なくなるらしい。スタントマンを頼むと、負けたということになるのだとか。

 ラストのエンド・ロールで出るが、売れっ子のスターであるはずのコニラス・ツェーはロープに吊られてではあるが、実際にビルから落下して木の枝の中を通って屋根に当たって道路まで1カットで一気に落ちている。そして、バスにぶつかって乗用車の屋根を転がり側面から来た車の直前に落ちている。ほとんどひかれる寸前。ジャッキー・チェンの息子のジェイシー・チェンも、炎の海を転げ回っている。ボクはてっきり後からデジタルで炎を足したのだと思っていたが、香港はそういう技術を持ちながらロープを消すくらいで、撮影は実際の炎でやってしまうところなのだ。ものスゴイ階段落ちもある。ちゃんと役者の顔が見えている。ハリウッドでは絶対に考えられないスタントだ。

 ストーリーは特にすごいわけではないが、今風の周りを全く気にしない力でゴリ押ししていく悪党グループを軍事訓練を受けた者たちという設定にしたことで、カンフーの達人でも違和感がないようにしている。そして次々とテンポ良く進んでいくので(しかも見所がいっぱい)、疑問や矛盾を感じているヒマがない。つまり有無をいわせぬ力わざ。しかも多少コテコテなところはあるがも小さなエピソードの積み上げ方がうまい。ついつい引き込まれる。

 ニコラス・ツェーは1980年生まれというから28歳。まだまだこれからだ。「香港警察」(New Police Story・2004・香/中)でジャッキー・チェンの部下をコミカルに演じていたが、真田広之も出たチェン・カイコーの「PROMISEプロミス」(The Promise・2005・中/日/韓)では、もの凄いリンとした美青年を演じていた。つい最近「かちこみ!ドラゴン・タイガー・ゲート」(龍虎門・2006・香)でも、ドニー・イェンと共に体を張ったアクションを演じていた。ハリウッド・スターもそうだが、アップになったとき耳にピアスの穴があるのは気になった。

 ショーン・ユーは「かちこみ!ドラゴン・タイガー・ゲート」でニコラス・ツェーと共演し、たぶんはじめて本格的なカンフーを披露した。それが本作でも生きている。やっぱり印象に残ったのは「インファナル・アフェア」(無間道・2002・香)シリーズだろう。

 心優しい巡査を演じたジェイシー・チェンはジャッキー・チェンの息子で、1982年のアメリカ生まれと、26歳。スクリーン・デビュー作は、ガッカリだったアイドル映画「ツインズ・エフェクト」(千機變・2003・香)の続編なので見なかったが、「花都大戦ツインズ・エフェクトII」(千機變II 花都大戦・2005・香)。2007年は本作のほかに2本に出ているから、本格活動を始めたらしい。ただ、どうにも松岡修造に見えてしようがなかった。とくに熱く怒鳴ったりするとソックリ。あまりアクションは得意ではないらしいが……。本作では火だるまになったりがんばっていた。

 敵のボスを演じたカンフーの使い手ヨンサン役は、ウー・ジン。中国武術チャンピオンに4回も輝いたというホンモノ。兄弟子のジェット・リーの後継者といわれているらしい。TVを中心に活躍してきたようだが、日本ではドニー・イェンの「SPL/狼よ静かに死ね」(SPL 殺破狼・2005・香)が最初の劇場作品。そう言われれば出ていたような気がする。

 アクション監督はニッキー・リーという人。ジャッキー・チェンのアメリカ進出第2弾「レッド・ブロンクス」(Rumble in the Bronx・1995・香)でスタントを務め、香港で着実にキャリアーを積みながら、ジャッキー・チェンのハリウッド・デビュー作「ラッシュアワー」(Rush Hour・1998・米)、「シャンハイ・ヌーン」(Shanghai Noon・2000・米)の殺陣師、「デイ・アフター・トゥモロー」(The Dau after Tomorrow・2004・米)のスタントなどもやっている。

 「ピンポン」(2002・日)にも出ているちょっとコミカルなサム・リーが、現金輸送車のガードマン役でちらりと出ていた。

 監督・脚本はベニー・チャン。最近ジャッキー・チェンの「プロジェクトBB」(Rob-B-Hood・2006・香)でニッキー・リーと仕事をしている。面白い作品が多く、やっぱり「香港国際警察/NEW POLICE STORY」(New Police Story・2004・香)とヒロイック・デュオ 英雄捜査線」(Heroic Duo・2003・香)あたりがいい。本作も代表作に入ることになるかもしれない。

 銃器関係はプロップスという香港の専門会社が担当しているよう。ギャングたちはS&Wマスターピース、ベレッタM92、AKなどで、なかなか強い女ギャングはトカレフのようだった。刑事たちはたぶんコルトのディテクティブ。後半グロックも出てくる。SWATはMP5。

 今回は爆発も多く、とにかくガラスがよく割れる。強化ガラスらしく粉々になって砕け散る。見事だ。ただ、香港映画の伝統の声の吹替というのがどうにも気になった。微妙に口がずれることがある。そういう専門で食べている人もいるんだろうが、別に本人の声でいいんじゃないの。というか、来日会見したりして、日本の観客は地声を知っているし、地声が聞きたい。

 タイトルも良い。1文字ずつフォース・インしてくるという手間のかかったもの。センスが良い。誰が担当したのかわからないがこういうところにも気を遣っているのが良い。サラウンド効果もよく、音質も良かった。言葉はわからなくてもセリフがハッキリ聞き取れるのは気持ちが良い。
 初日はジェイシー・チェンの舞台挨拶があるのというのでパスして、公開2日目の初回、新宿の劇場は45分前に着いたらシャッターも開いていなかった。真っ暗。35分前くらいになって明かりが付き、30分前くらいにようやくシャッターが開いた。劇場前まで進むと、この時点で30代くらいの男性2人とボク。25分前に開場になったときで10人くらいいただろうか。

 全席自由で、最終的にはウナギの寝床のように細長い224席に30〜40人。若い人と中高年で半々くらい。女性は5人ほど。若い女性とオバサン。オバサンは人数が少なくてもぺちゃぺちゃといつまでもうるさい。予告が始まってもしゃべっていた。いすが深く沈む上に床がフラットなので、どの席でも非常にスクリーンが見にくい。空いていて良かった。スクリーンの中央付近に2カ所ほど傷があるようで、時々そこが光っていたが……。

 チャイムが鳴って案内放送があってからカーテンが開き、暗くなって始まった予告編は……ミロス・フォアマンのTVドラマのような邦題の「宮廷画家ゴヤは見た」は、タイトルと違って意外と面白いのかも。ただ重そうで、そこが気になる。ナタリー・ポートマンとハビエル・バルデムとステラン・スカルスガルドだし。

 貴族からキーセン(妓生)に身を落とした女性を描く、上下マスクの「ファン・ジニ 映画版」女優さんがきれい。ユ・ジテも出ているようだし。絵もとても映画っぽい。ただ、劇場がなあ……。


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