The Fall


2008年9月6日(土)「落下の王国」

THE FALL・2006・印/英/米・1時間58分(IMDbでは117分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、太田直子/ビスタ・サイズ(Super 35)/SDDS、dts(IMDbではドルビー・デジタルも)

(米R指定)

公式サイト
http://www.rakka-movie.com/
(全国の劇場案内もあり)

無声映画全盛の頃、ロサンゼルスの病院に肩の骨を折って入院していた5歳の少女、アレクサンドリア(カティンカ・アンタルー)は、偶然、下の階に入院していた下半身麻痺で動けない青年ロイ(リー・ペイス)と知り合う。ロイには自殺願望があり、それ用の薬を持ってきてもらおうと、アレクサンドリアの気を引くため、即興で壮大な作り話をして聞かせるのだった。

74点

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 感動した。久しぶりに両目から涙が流れてしまった。くーっ、恥ずかしい。なのに、一言でいえば、この映画は映像体験というような感じ。あり得ないような美しい映像のオンパレード。それもCGも使っているのだろうが、この地球上にあるさまざまな圧倒的に美しい風景の数々。まるでおとぎ話で世界旅行したような気分になる。その地に実際に登場人物たちが行って撮影しているらしいことが驚きだ。そして原色を大胆に使った驚きに満ちた衣装の数々。

 とにかく少女アレクサンドリアを演じたカティンカ・アンタルーがかわいい。美形というのではないのだが、ピュアで愛らしくて誰もが守ってあげたくなる。この無邪気さに心が打たれる。たぶんこの映画では、この子をキャスティングした時点でほとんど成功が決まっていたのではないだろうか。

 青年が話して聞かせる物語は、気を引くためのでっち上げで、まったくのその場の思いつき。だから物語自体はちっとも感動的でもないし、一貫性もない。ヘンなところを少女に指摘されるとどんどん変わっていく。しかし、だからこそ、ラストで少女に「こんな話イヤ」と言われて「これは僕の話だ」と答えると、「私たちの話よ」と言われるのだ。このとき、5歳の少女は青年を超えてしまう。だから青年は変わる。

 あとで、登場人物たちはすべて病院にいる人や、出入りしている人たちであることがわかる。この辺の構成もうまい。それでも、もう少しこのデタラメ話に説得力があれば、もっと楽しめたのではないだろうか。

 世界各地の美しい場所が、実際に美しく撮影されているのも見所。同監督の「ザ・セル」(The Cell・2000・米/独)と同様の実際にある場所なのにまるでこの世のものではないような撮り方と演出。タージマハル、万里の長城、アンコールワット、 ナミブ砂漠、……。それは24カ国以上にわたり、4年もの月日が掛かったという。しかも監督の自己資金のみで撮ったそうで、いわば自主映画というのが驚きだ。

 少女アレクサンドリアを演じたカティンカ・アンタルーは、1997年、ルーマニア生まれ。撮影当時は本当に5歳だったらしい。公式サイトによれば、数百人の候補の中から選ばれたらしい。2年後に追加撮影しているのだとか。今は学校に行っているらしいとあった。どうも女優を目指してはいないようだ。まだ11歳だが。

 青年ロイを演じたのは、リー・ペイス。主にTVで活躍していた人で、監督の意図通りあまり売れていない人を選んだということらしい。本作の後CIA設立秘話、ロバート・デ・ニーロ監督の「グッド・シェパード」(The Good Sheperd・2006・米)に出ている。

 美人の看護婦はジャスティン・ワデル。南アフリカの1976年生まれというから、もう30歳を過ぎている。とてもそうは見えなかった。若々しい。やっぱりTVで活躍していた人のようだが、2000年から映画が増えてきたらしい。「ドラキュリア」(Draculia 2000・2000・米)でヒロインを演じて、美人で凄く印象に残った人。本作の前には、ジェイソン・ステイサムのアクション快作「CHAOS カオス」(Chaos・2006・加ほか)では美人女刑事を演じていた。もっと出て欲しい。

 監督と脚本を手がけたのは、ターセム。インド生まれで、24歳でアメリカに渡り、現在はロンドンで暮らしているというCM監督出身の人。1961年生まれというから47歳。劇場長編映画監督デビューはジェニファー・ロペスがサイコ・ダイバーを演じた「ザ・セル」。そのときはターセム・シンと名乗っていた。本作は2作目。とにかく映像感覚が素晴らしい。現実を組み合わせたあり得ない絵と、色づかいの妙。新作が2本控えているようだ。期待したい。

 脚本とプロデュースを手がけたのは、ニコ・ソウルタナスキ。ターセム監督のクリエイティブ・コンサルタントとして数多くのCMを一緒に作っているらしい。自信で監督もしていて、本作には出演もしている。「ザ・セル」ではアソシエイト・プロデューサーを務めていた。

 もう1人の脚本家はダン・ギルロイ。脚本家で「フィクサー」(Michael Clayton・2007・米)の監督でもあるトニー・ギルロイの弟。奥さんは「ショウタイム」(Showtime・2002・米/豪 )の女優レネ・ルッソ。ミック・ジャガーが出たSF「フリージャック」(Freejack・1992・米)やデニス・ホッパー監督の「逃げる天使」(Chasers・1994・米)の脚本を手がけた後、長いブランクがあって、見ていないが「トゥ・フォー・ザ・マネー」(Two for the Money・2005・米)を書いて、本作につながっている。

 素晴らしい衣装を手がけたのは、石岡瑛子。フランシス・フォード・コッポラ監督の「ドラキュラ」(Dracula・1992・米)でアカデミー賞最優秀衣装デザイン賞を受賞している。ターセム監督の希望で「ザ・セル」の衣装を手がけ、本作も引き続き指名された。ちなみに北京オリンピック開会式の衣装を手がけたのも石岡らしい。あれも素晴らしかった。雰囲気を壊さず、衣装が印象に残る。これって凄いことでは。

 モノクロの画面に、写っているものに合わせたパースで文字が入るオープニング・タイトルのデザインは、ステファン・Gなんとかという人。派手ではないが良い感じ。

 銃はフリント・ロック。お話の中の青年ロイの黒山賊はフリント・ロック・ピストルの2挺拳銃。専用のガン・ベルトで腰に吊っている。片方に2挺差しているところが石岡のデザインなのだろう。面白い。義足の俳優仲間で、お話の中では類似として登場するマリオみたいなオジサンが持っているのは、ブランダーバスことラッパ銃。ネックレスのペンダントで弾丸が止まるのは、こういう黒色火薬の古銃ならあり得ないことではない。

 ラスト、チャップリンやバスター・キートンのたくさんのサイレント映画が出る。ボクはこの中にロイの姿を見つけたような気がしたが、公式サイトのプロダクション・ノートによると、アメリカの女性の85%が見たと言い、男性の60%が見なかったと言ったそうだ。うむむ。

 公開初日の2回目、新宿の新しい劇場は45分前に着いたら、受付カウンターのあるフロアは大混乱で人であふれていた。なにしろ、1Fのエレベーターに乗る時点で30人くらいの行列。あやうくビルの外にまで列が出そうなくらい。当然ロビーは大混乱。これを見て帰る人も多かった。ボクも帰ろうと思ったが、このタイミングでないと時間の割り振りがうまくいかない。列の最後尾がどこかもわからないほど。ボクが行ったときはロビーがいっぱいで階段室にまで伸びようとしていた。

 ようするに、1つのビルに10館もの映画館が入っていて、受付は1つだけというのがいけないのだ。全席指定で、前売り券を持っていても当日券との引き替えが必要だ。これは良くある。席を選ぶのにまず時間が掛かる。これに対処するため10個の窓口があるのだが、劇場ごとに窓口が違うわけではない。アメリカ式のフォーク並び、ディズニー・ランドのつづら折れ方式で、効率は良いようだが、1本でも大入り作品があるとすぐに裁ききれなくなる。通常は上映開始時間が重ならないようにズラしてあるからあまり問題にはならないが、10館もあると人気作が重なって公開されることもあり、今回のように床が見えないほど人で埋め尽くされることになる。腹立つのは、たいして人気のある作品を見るわけではないのに、超大入り作品のために長く待たされるということだ。15分前くらいに、ようやく窓口に到達した。人気作を見るなら覚悟もあるが、一番小さい劇場での上映だし、こんなに並ばなければならない道理はない。うんざりした。いつもこんな調子なら、いくら新しくてきれいでも二度と来たくない。ドリンクを買おうと思ったが、そこも長蛇の列。とても間に合いそうもない。前売り券だけ欲しい人はどうすればいいのだろう。

 10分前に開場して、場内へ。すでに案内が上映されていた。場内は明るいままだが、新しいスクリーンは反射率が良いので、まあまあ見にくくはない。ただスクリーンが近い。そして座席の前後の幅が狭い。座席は階段状になっているからスクリーンが全席の人の頭で見えなくなることはないが、近すぎて一度にすべて見られないくらい。これでシネスコになったらどうなるのか。

 最終的に81席の9割くらいが埋まったが、遅れてくるやつが多い。座席の前後が狭いから、座っている人が立ち上がったり、足を踏まれたり大騒ぎだ。老若比は半々くらいで、男女比は4.5対5.5くらいでやや女性の方が多かった感じ。靴を脱いでいるオヤジがいたが、前の席の人は臭かったのでは。オエッ。

 暗くなって始まった予告編で気になったのは……アバの曲を使ったミュージカル「マンマ・ミーア!」は、なんとメリル・ストリープが主演。とにかく楽しそう。よくわからなかったが、ヒュー・ジャックマンとユアン・マクレガーが出る上下マスクの 「彼が愛したS」はどんな映画なんだろう。Hだけでなく、ミステリーでもあるようだが。

 スカーレット・ヨハンソンとナタリー・ポートマンがエリック・バナ演じるヘンリー8世を取り合うという「ブーリン家の姉妹」は、たんなる三角関係だけでなく、歴史物であって、サスペンスもいっぱいのような予告。うむむ。


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