Okuribito


2008年9月13日(土)「おくりびと」

2008・TBS/ゼディックインターナショナル/松竹/電通/ミューズメントソフトウンタテインメント/小学館/毎日放送/朝日新聞社/テレビュー山形/TBSラジオ・2時間10分

ビスタ・サイズ(with Panavision)/ドルビー・デジタル

(日本語字幕上映もあり)

公式サイト
http://www.okuribito.jp/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

チェロ奏者の小林大悟(本木雅弘)は、ある日突然、所属するオーケストラが解散したため職を失い、ホームページ・デザイナーの妻の美香(広末涼子)とともに大悟の田舎である山形の実家へ戻る。大悟が6歳の時、父が女と出て行った後、母がひとりでスナックをやりながら育ててくれたが、その母も2年前に亡くなって家だけが残っていたのだ。食べるため、大悟は求人広告を見てNKエージェントという会社を訪ねる。その会社は葬儀社の依頼を受けて、納棺の儀を行う会社で、社長の佐々木(山崎努)に気に入られ、高給の約束と現金を押しつけられて入社を決めてしまう。

73点

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 ほぼ予想したとおり、良い意味で「お葬式」(1984・日)のような雰囲気の映画だった。大切な身内を失うということ、そしてその人を送るということを、あらためてじっくりと考えさせてくれる。ただ悲しみとまじめさだけでなく、ほどよいユーモアを交えているところが素晴らしい。おだやかな、いい映画だ。

 感動した。ただ、映画にというよりは、大切な人を失った人の悲しみにもらい泣きしてしまう感じ。こういうシチュエーションでは、映画であろうとなかろうと誰でもウッと来るのではないだろうか。

 納棺師という仕事があり、どういうことをするのかということが具体的に見られ、勉強になる。高齢者の多かった観客は、自分が死んだらこんな風になるんだろうなと理解できたのではないだろうか。葬儀関連は特にオープンに語られることがない。日本人でもそうなのだから、外国人から見れば、日本人が死者をどう送るのかが見られて、とくに興味深かったのではないだろうか。海外で評価が高かったのは、そんなことがあるからではないだろうか。西欧のエンバーミングとはかなり違っている。

 冒頭は吹雪の中を車がヘッドライトを点けてやってくる。なんだか「ファーゴ」(Fargo・1996・米)だったと思うが、それで見たような絵。何か起こりそうな予感を感じさせてくれる導入。ただ、特に事件は起こらないのだが……。

 初めの方の主人公のナレーションは暗い感じで、葬式のお話でこんな暗い雰囲気じゃ、ベタだろうという気もしたが、そのうちナレーションが減り、気にならなくなった。全体にとても低予算な感じで、たぶん一番お金が買っているのは、キャストの出演料以外は、死体役の俳優ソックリに作られた人形というかダミー(たぶん2体)と、ミイラ化した変死体の3体でないだろうか。お金をあまりかけなくても、いい映画は作れる。この作品が証明している。でも、TVドラマでも行けたかも。

 広末涼子は、いままでの映画にない絡みシーンを演じるあるなど、がんばっている。ただ、どうにもこういう映画には合わない感じ。周りの俳優陣が、ほとんど自然体であたかも普通に映画に溶け込んでいるのに対して、どうしてもアイドルの雰囲気があり、作った笑顔、作ったセリフという感じがして、浮いていた気がする(ファンの人、ゴメンナサイ)。「鉄道員(ぽっぽや)」(1999・日)や「WASABI」(Wasabi・2001・仏)、最近では「バブルへGO!! タイムマシンはドラム式」(2007・日)はハマっていたけど。

 主演の本木雅弘は、実にうまい。元シブがき隊の1人でアイドル。TVの「2年B組仙八先生」あたりから役者としても活躍するようになり、注目されるようになったのは、シティ・ボーイが寺の跡を継ぐため坊さんの修行をするという周防正行監督の「ファンシィダンス」(1989・日)あたりだったろうか。その後、同じ周防監督の「シコふんじゃった」(1991・日)で評価を固めた感じ。考えてみるとその2作とも、本作と同じような設定。シティ・ボーイがまったく違う世界に飛び込んでいくお話とは。コメディをまじめにやってちゃんと笑わせられるところが貴重だ。

 とにかくピカイチで良いのは、山崎努。もう70歳を超えているが、そんな年齢を感じさせない。つい最近「クライマーズ・ハイ」(2008・日)でとんでもない独裁者のような新聞社社主をとても嫌らしく演じていた。本作はひょうひょうとして、それでいて職人としてのしっかりした芯を持っている好人物を、まるで地のように演じている。1960年くらいから活躍している人だが、特に注目されだしたのは、TVの人気シリーズ「必殺仕置人」(1973・日)で念仏の鉄を演じてからではなかったろうか。「八つ墓村」(1977・日)のろうそくを鉢巻きに差して走る殺人鬼の姿は本当に鬼気迫るものがあった。そして本作のような雰囲気の「お葬式」の侘介役がまたピッタリで、素晴らしかった。まるでこれも地のようだった。すごい人だ。

 脚本は放送作家として知られる小山薫堂。小説も書けば、ラジオのパーソナリティも務めるという才人。フジTV系の「カノッサの屈辱」「料理の鉄人」などの人気番組を手がけ、最近だと日テレ系の「トシガイ」なんかもおもしろかったなあ。本作は初めての劇場映画の脚本らしい。しかし才人らしくツボはすべて押さえている。観客をガッカリさせるようなことはするはずがないということか。

 監督は滝田洋二郎。「痴漢女教師」(1981・日)で監督デビュー以来、「痴漢電車」シリーズを手がけ、話題となった内田裕也の「コミック雑誌なんかいらない!」(1986・日)から一般映画を手がけるように。ピンクをうまく撮れる人は、ホラーをうまく撮れる人のように、一般映画もうまく撮れるのだ。つまり演出力がある。「病院に行こう」(1990・日)、「僕らはみんな生きている」(1992・日)、「眠らない街 新宿鮫」(1993・日)なんかみんな好きだなあ。ジャンルにはこだわらない人のようで、何でもうまい。時代物の「陰陽師」(2001・日)や、「阿修羅城の瞳」(2005・日)もしっかりまとめていた。本作の前はスポーツものの「バッテリー」(2006・日)を撮っているし。感じとしては、ちょっとユーモアが入っているようなものに特に手腕を発揮するような気がする。本作はまさにピッタリ。

 全体に色が浅く、コントラストも低めなのがだいたい最近の日本映画の特徴で、アンビエント・ライティングというのかもしれないが、ボクはビデオっぽくてあまり好きじゃないなあ。リアルといえばリアルなんだろうけど。

 公開初日の2回目、銀座の劇場は舞台挨拶の後ということで大混乱。前日に座席を予約しておいて20分前くらいに着いたら、劇場の入っているビルの1Fで長蛇の列。なんとエレベーターに乗るのを待つ列らしい。まったく動いていなかった。動き出したのは上映5分前くらいになってから。これでは間に合わない。

 入ったのはちょうど上映開始時間。とにかく席について荷物を置いてすぐトイレ。130分の映画だからトイレに行っておかないと危険。CM・予告があるからと思って行ったら、トイレも混雑。当然ドリンクなど買える余裕もなし。まだぞくぞく入ってくる中、5分遅れて開始となった。なぜかCMの最初の2本は音のみで映像なし。これは賠償問題になるんではないだろうか。

 最終的に540席ほぼすべて埋まった。満席。ほとんど中高年というか高が多い感じ。身近の問題と言うことだろうか。男女比は4対6くらいで女性が多かった。

 予告で気になったものは……世界中の人の目が見えなくなって、自分だけ見えるというSF的な「ブラインドネス」は、ちょっと面白そうだが、監督が「ナイロビの蜂」(The Constant Gardenner・2005・英)のフェルナンド・メイレレスだからなあ……絶対重いよなあ。見終わったら黙りこくることになりそうで……。


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