Orochi


2008年9月21日(日)「おろち」

2008・東映ビデオ/テレビ東京/東映/小学館/東映チャンネル/東映エージェンシー/ShoPro/Yahoo! JAPAN・1時間47分

ビスタ・サイズ/ドルビー・デジタル



公式サイト
http://www.orochi-movie.jp/index.html
(入ると画面極大化。音に注意。重い。全国の劇場案内もあり)

人間界のダークサイドを見続ける少女、おろち(谷村美月)は、1950年(昭和25年)のある夜、嵐を避けるため1軒の大きな屋敷に忍び込む。そこは映画の大スター門前葵(もんぜんあおい、木村佳乃)の屋敷であり、2人の娘、姉の一草(かずさ、佐藤初/木村佳乃)と妹の理沙(りさ、山田夏海/中越典子)と暮らしていた。代々、門前家の女は美人に生まれるが、29歳になるとそれが崩れているという宿命を背負っていた。使用人として屋敷に入り込んだおろちは、29歳になった葵が突然引退宣言をし、泥酔したあげくに車を運転、事故を起こしそうになるのを目撃、思わず飛び込んで助ける。しかし、その時の出血がもとで、100年に1回しか訪れない深い眠りに落ちてしまう。再びおろちが目覚めたとき、姉妹は29歳になっていた。

73点

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 怖い。ビックリ系のお手軽の怖さではなく、じわーっとしみこんでくるように怖いホラー。原作の楳図かずおのホラー漫画「おろち」の雰囲気が実に良く出ている。それはドラマが丁寧に描き込まれ、なおかつおどろおどろしさがちょうど良い具合に織り込まれているからだろう。

 ラストのどんでん返しは、多くの人が途中で読めてしまうと思うが、色がしっかり乗った力強い絵と、重厚なドラマで107分が130分くらいの長尺物を見たような充実感というか満足感を与えくれる。出演者数も少なく、舞台もほとんどが古びた洋館の中だけだから、たぶん低予算なのだろうが、気付くと「おろち」ワールドにどっぷりと使っている感じ。

 ちょっと気になったのは、何度も出てくるお屋敷の1階のホール。ただ広いだけでいかにもセットという雰囲気。まあ全体にリアルさというより、いかにもおどろおどろしいドラマという感じなので、狙いなのかもしれないが……。

 原作は、小学館の「週刊少年サンデー」に1969年(昭和44年)から1970年(昭和45年)にかけて連載された大ヒットした、全9話からなる人気ホラー漫画。ボクは当時通っていた歯医者さんの待合室においてあったので夢中になって読んだ記憶がある。ただ、ほとんど内容は覚えていない。たぶん難しくて、小学生だったボクには理解できなかったのかも。少女漫画もおいてあり「へび少女」(少女フレンド)なんか怖くてしようがなかった気がする。ほかに「笑い仮面」(少年画報)というのも読んだ記憶が……。

 とにかく原作も良く、脚本もいい。脚本は高橋洋。恐ろしい怪談映画「女優霊」(1995・日)を書いた人だ。「リング」(1998・日)「呪怨」(1999・日)など日本のホラー・ブームのきっかけとなった作品を手がけている人。本作は第1話の「姉妹」と第9話の「血」を合わせたものなんだとか。うまい。

 監督は鶴田法男。TVの仕事が多い人だが、傑作「ゴト師株式会社」(1993・日)を撮った人。ほかに「リング0 バースデイ」(2000・日)や「予言」(2004・日)、最近では酷かったTVムービー「ドリーム・クルーズ」(Dream Cruise・2007・米/日)を撮っている……どちらかというとホラーより「ゴト師……」系のものがうまいのではないだろうか。本作もドラマが面白い。もちろん、普通ではない存在の「おろち」の扱いもうまいが。

 撮影は柴主高秀。色が濃く、絵に力がある。作り物のお話でおどろおどろしいドラマだからという意図なのか。「どろろ」(2007・日)、「蟲師」(2006・日)、優香の「輪廻」(2005・日)なども撮っていて、おどろおどろしいのが向いているのかも。「リング0 バースデイ」で鶴田監督と仕事をしている。最新作は「イキガミ」。ウエブ・サイトに細かな情報がある。

 おろちを見事に演じたのは、谷村美月。1990年生まれの18歳。まだキャリアはわずかに6年。なのにこのうまさは何だ。薄幸な少女、佳子の中に入ってしまったときの無表情など、実にいい。「魍魎の匣」(2007・日)の手足を取られた少女も凄かったし、「神様のパズル」(2008・日)の天才少女は完璧だった。恐るべき女優だ。次作も楽しみ。

 木村佳乃はきれい。ただ演技に関してどうなんだろう。泣いたり怒ったり叫んだりというエキセントリックな演技というのはもだいたい誰でもできるもので、普通のなにげないセリフを普通に言えるかどうか、この辺に演技力が出る気がする。木村は後半、エキセントリックになってくると良いが、前半はどうにもセリフという感じ(ファンの人、ゴメンナサイ)。「ドリーム・クルーズ」で鶴田監督と仕事をしている。ただ、演技派への壁を乗り越えようとしている感じはあって、山本太郎とのキス・シーンは気合いが入っていて、リアル。

 一方、妹を演じた中越典子は、普通にうまい。ただ、山本太郎とのキス・シーンはいかにも演技という感じ。谷村同様NHKの連続テレビ小説でデビューしている。つい最近ホラーの「1303号室」(Apartment 1303・2007・米)に出ているが、劇場が小さくて見ていない。見たかったなあ……。最新作は「シャカリキ!」(2008・日)らしい。

 良いなあと思ったのは、おろちがアクシデントで入り込んでしまう薄幸の少女、佳子の育ての父と母。流しをやっていて、とにかく佳子に辛く当たる。きつーい母は大島蓉子。TVの「トリック」で仲間由紀恵が演じる山田奈緒子が住んでいるアパートの大家を演じていた人。とにかくうまい。そして殴る妻を「顔を叩くな」とたしなめるのがエド山口。モト冬樹の兄でギタリスト。意外に「ミンボーの女」(1992・日)など映画やTVにも出ている。自然な感じで、うまい。

 その流しで歌う劇中歌が「新宿烏(からす)」。谷村は吹替だろうか、地声だろうか。うまかった。作詞は楳図かずおで、作曲は川井憲次。この人は「スカイクロラ」(2008・日)もやれば、演歌もやるんだ。才能のある人は違う。

 後半出てくる武器はクロスボウ。これは怖い。古そうな所も、いつ暴発するかわからない感じでいい。戦前の設定ならピストルが出てくる所なんだろうが、残念。男性がいればハンティング用のライフルくらいはあったんだろうが。

 特殊メイクも大げさでなく、「マタンゴ」(1963・日)みたいになるのも、ほんのちょっとしか見せないところがいい。やけどの傷などもリアル。落下して頭が割れて出る血も、通常の日本映画の赤ペンキみたいな色ではなく、どす黒いところがまたリアルで怖かった。

 公開2日目の初回、といってもほぼお昼から。銀座の劇場は40分前くらいに着いたら中年のリュックを背負ったオタク系の人が1人。30分前に開場したときで5〜6人。昔漫画を読んだ世代なのか、ほぼ中高年でやや高い感じ。オバサンが1人。

 最終的に360席に2.5割くらいの入り。若い人と女性も増えたものの、やはり中心は中高年男性。女性は3割ほど。

 本作の予告では、原作漫画のことにはあまり触れず、女のドラマみたいな売り方をしていたが、良かったのだろうか。ボクはその予告で見るのをやめようかとも思ったが、やっぱり原作のことを考えて見ることにした。

 チャイムが鳴って、カーテンが左右に開いて、暗くなって始まった予告で気になったものは……うーん、どれもピンとこないものばかり。それより、本作の続編を作って欲しい。終わり方も、続きがあるような感じだったし。


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