Frontiere(s)


2008年9月22日(月)「フロンティア」

FRONTIERE(S)/2007・仏/スイス・1時間48分

日本語字幕:手書き体下、齋藤敦子/シネスコ・サイズ(マスク、Super 35)/ドルビー・デジタル

(仏-16指定、米NC-17指定、日R-18指定)

公式サイト
http://www.cinemacafe.net/official/frontiers/
(音に注意)

大統領選挙にからんで暴動が発生したパリで、混乱に乗じて強盗を働いた1人の女と4人の男。その際、サミ(アデル・ベンチェリフ)が撃たれて重傷を負う。妹のヤスミン(カリーン・テスタ)とその恋人アレックス(オレリアン・ウィイク)は、車でサミを病院に運んでから国外脱出するため国境を目指す。一足先に現金を持って国境に向かったトム(ダヴィド・サラシーノ)とファリッド(シェムズ・ダマニ)は、遅れてくるヤスミンとアレックスを待つため、国境近くの寂れた1軒の宿屋に入る。ところが、その宿にはとんでもない狂気の一族が住んでいた。やがて遅れてヤスミンとアレックスもその宿に到着するが……。

73点

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 血みどろ、スプラッター映画。血も、涙も、鼻も、よだれも出放題。確かにこれは18未満には見せてはいけない気がする。ショッキングすぎる。しかし単にグロいだけではなく、ちゃんとストーリーがあり、うまく組み立てられている。ただし、一言でいうと、これは「テキサス・チェーンソー」(The Texas Chainsaw Massacre・2003・米)というか、そのオリジナルのトビー・フーパー監督の「悪魔のいけにえ」(The Texas Chainsaw Massacre・1974・米)のフランス版。「テキサス・チェーンソー」の逃げる美女ジェシカ・ビールを見て、フランスでもこういう映画を撮ってみたいとなって作ったような感じ。

 おかしな一族に絶対権力をふるう父がおり、ちょっと知恵遅れのような巨漢がいて、1人は警察官の格好をしており、ほとんど死んでいるような母親までがいるというのは、ほとんど「テキサス……」と一緒。ナチスとか、純血とか子孫、そして主人公たちが都会から逃げてきた犯罪者の若者たちというのが新しいくらい。しかし、それらもほかの映画で良くある設定で、組み合わせただけの印象も。痴女の姉妹とか、囚われの少女が新しいか。そうそう、ちょっと気の弱いファリッドがビデオ・カメラを持っているが、これも「●RECレック」([Rec]・2007・西)みたいだしなあ。

 とにかく凄いのはその残酷表現だ。これは半端ではない。指が飛んだり頭が破裂したりするだけではない。主人公のヤスミンは監禁された豚小屋から脱出するために、ブタの糞尿と泥のにまみれた地面を掘り、その泥の中を通って泥だらけになりながら柵を出る。捕まえられた男は足首に直接フックを通され、逆さづりで首を切られて血抜きされる。そのさまを具体的にじっくりと見せる。のど笛に食らいつき、肉片をかみ切る。電動回転のこぎりに押し倒し、肩口を切り裂き噴出する返り血で全身が血だるまになる……

 銃撃戦も凄い迫力。半端じゃない。渾身の果たし合いという感じ。遠くから姿を隠して撃ち合うのとは違う迫力と緊張感。容赦なく銃口を押し当て、直射で撃つ。ナチスの残党なので、壁になぜかMP41とボルト・ハンドルが曲げられていないモーゼルM1898ライフルが。パパはルガーP08の4インチを持っている。巨漢のハンスは上下二連のショットガン、警官はマニューリン・リボルバー。冒頭でアレックスはオートマチックをタランティーノ撃ちしていたが、機種はわからなかった。グロックあたりだったろうか。

 ブタの糞まみれの泥水をくぐったり、頭から返り血を浴びて血だるまになったり、涙と鼻水まみれになったり、背中まである長い髪を切られたり、まあ、ありとあらゆるイジメのような仕打ちを受けた、ど根性女優はカリーナ・テスタ。フランス生まれの27歳。モデル出身の美女で、2004年くらいからTVで活躍を始め、2005年には早くも映画に出演。ただ日本公開作品はまだないようだ。しかし、本作でここまで演じたら、演じられないものなんてないだろう。何でもやれる。今後が楽しみだ。ただ、彼女を見ていると、女優とはなんて過酷な仕事なんだろうと思う。と同時に、ここまで要求する監督は変態というか、サドなんではないかと。

 3人の男たちは、よくもまあ、これほどまでにチンピラ・キャラを集めたなあという顔ぶれ。見ているだけで苛つくヤツら。演技と演出が良いということなんだろうけど、地のようにも見えて……。

 ナチの残党、パパを気味悪く、エキセントリックに演じているのはドイツ人ではなくフランス人のジャン=ピエール・ジョリスという人。めちゃくちゃ、うまい。1946年からTVを中心に活躍しているベテランで、ジャン=ポール・ベルモンドのアクション「危険を買う男」(L'alpagueur・1976・仏)に出ていたらしい。本作ではとにかく怖い。

 監督は、つい先頃、本作が認められて監督した「ヒットマン」(Hitman・2007・仏/米)が公開されヒットとなったばかりのザヴィエ・ジャン。本作とは激しい銃撃戦が共通する。フランス生まれの33歳の俊英。本作では脚本も担当している。きっと美女をいたぶりたかったに違いない。見習い時代にジャン=クロード・ヴァン・ダムの「マキシマム・リスク」(Maximum Risk・1996・米)、同じヴァン・ダムでツイ・ハーク監督の痛快アクション「ダブル・チーム」(Double Team・1997・米)に関わった。青年時代には自主製作でホラー映画を作っているらしい。

 池袋では公開3日目のレイト・ショー、全席指定で、20時以降の回はすべて1,200円らしい。前売り券は1,300円だったから当日の方が安かったということ。なんだかなあ。

 最終的に137席に15人くらいの入り。あまり広告もされていないし、平日の夜ではこんなものか。サラリーマンが2人ほど、若いカップルが2組、オバサンが4人くらい、あとはオヤジ。

 スクリーンはビスタで開いていて、チャイムが鳴って半暗になって始まった予告編は……イスと共に改装されたのか音質が格段に良くなっていて、予告編の印象も全然違う。断然カッコいい。ほかの劇場でまあまあだったものがよく見えてくる。音は大事だなあ。

 上下マスクのロブ・ゾンビ、ジョン・カーペンター監督の名作のリメイク「ハロウィン」は、なかなかおどろおどろしい感じ。血まみれで、怖い。そして、ジョージ・A・ロメロがまたゾンビ映画を撮ったらしい。「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」は全世界で死人がよみがえり、東京も出てくるらしいが、ゾンビをはやりの手持ちカメラで撮ったという印象だが……。

 ブラッド・ピットの新作は、老人で生まれてだんだん若返っていく男の物語。上下マスクの「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」。話自体も変わっていて魅力的だが、絵がキレイ。素晴らしい。


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