Goya's Ghosts


2008年10月4日(土)「宮廷画家ゴヤは見た」

GOYA'S GHOSTS・2006・米/西・1時間54分(IMDbでは113分)

日本語字幕:手書き書体下、松浦美奈/ビスタ・サイズ/ドルビー・デジタル、dts

(米R指定)

公式サイト
http://www.goya-mita.com/
(全国の劇場案内もあり。ポップアップウィンドーを許可にしないと入れない。入ると画面極大化)

1792年。スペイン、マドリッドのカトリック教会異端審問会の席上でロレンゾ神父(ハビエル・バルデム)は、悪魔を滅ぼすため今まで以上に拷問と処刑を行うように提案する。それに基づき、裕福な家庭の少女イネス・ビルバトゥア(ナタリー・ポートマン)は、居酒屋で食事をしたとき豚肉を食べなかったことからユダヤ教の信者だとして逮捕。拷問の末、それを認めたため地下牢に監禁された。イネスの父親トマス(ホセ・ルイス・ゴメス)は娘を取り返すため、ロレンゾ神父の肖像画を描いているゴヤ(ステラン・スカルガルド)を通じて釈放を頼むが、イネスに面会したロレンゾは一目惚れし、肉体関係を持ってしまう。娘が一向に釈放されないことに業を煮やしたトマスは、一計を案じ教会への寄付を申し出てロレンゾ神父を食事に招く。

73点

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 「朝令暮改」というか、「人間万事塞翁が馬」という物語。この当時、スペインはすでに廃れていた異端審問を復活させるが、隣国のフランスで1789年にフランス革命が起こり1793年にルイ16世が処刑されたことにより、ナポレオンが権力の座についたため、ルイ16世の親戚であるスペイン国王カルロス4世から人民を自由にするという名目でフランスは1808年スペインを侵略。国王と王妃は国外脱出、異端審問会も解散させられ、神父たちは全員投獄される。ところが、ここへイギリス軍が侵入、フランス軍は撤退を始め、投獄されていた神父たちが復権するという激動の時代。

 これに1人の神父と1人の少女が翻弄される。それを見ていた画家のフランシスコ・デ・ゴヤは、どちらかといえば傍観者だったのが、関わらざるを得なくなってしまうと。こんな時代に生きるということはどういうことなのか。観客はゴヤの視点から見ることになる。だから邦題が「家政婦は見た」みたいになっているのだろうが……原題は「ゴヤの亡霊たち」。「たち」と複数になっているところがミソか。

 時代感も良く出ていて、タイム・スリップしたような気分が味わえる。ただ、一歩引いた立場ではあるので、感情はいまひとつ伝わって来ないかもしれない。そのまま伝わってきたら耐えられないだろうけれど。この辺は微妙。高校の世界史ではこんなこと習わなかったよなあ。とは言え、このエンディングはどうだろう。どうにもスッキリしない。安直な結末はつけたくなかったのだろうけれど。尻切れトンボな感じがしてしまう。しかもスペインの話だが、英語。

 とにかくスゴイのはロレンゾ神父を演じたハビエル・バルデム。前半は異端審問を行う側で、小声でゆっくりと自信なさげに話す感じが変質的な小心者の雰囲気。ところが、後半フランスに逃亡して15年後に自由思想に染まって帰国すると、声は太く大きく自信に満ちたものになっている。性格俳優とでも言えばいいのか。笑顔を見ているととても優しそうな気がするが、本作の後で撮られて先に公開された「ノーカントリー」(No Country foe Old Men・2007・米)の無表情の殺し屋役を見ていると、とても同じ人とは思えないほど。スペイン生まれで、アレハンドロ・アメナバール監督の「海を飛ぶ夢」(Mar Adentro・2004・西)あたりから注目されたらしいが、小劇場での公開で見ていないので何とも……。

 14歳か16歳くらいで逮捕されて、全裸にされて拷問を受け、地下牢で妊娠・出産、30歳ほどですでに老婆のようになり、口はひん曲がり、顔の皮膚までぼろぼろ、はては精神病院に送られるという汚れ役を体当たりで演じている。しかも2役で、牢獄で生まれたため孤児院に送られ、生きるために娼婦になり、母と会えないままイギリス軍将校の女になる娘も演じている。ちょっと印象としては西部劇の「コールドマウンテン」(Cold Mountain・2003・米)の役に近い。1981年生まれだから27歳。若く見えるから本作の役ができたのだろう。それにしても「レオン」(Leon・1994・仏/米)の少女がねえ……当時13歳。かわいかった。

 ゴヤを演じたのはスウェーデン出身のステラン・スカルスガルド。「レッド・オクトーバーを追え」(The Hunt for Red October・1990・米)で、アメリカに亡命しそうなショーン・コネリーの乗る潜水艦を撃沈するため追う潜水艦の艦長を演じていた人。「RONIN」(Ronin・1998・米)では電子工学の専門家、最近ではガッカリだった「エクソシスト・ビギニング」(Exorcist: The Begining・2004・米)のメリン神父、そして、つい最近「パイレーツ・オブ・カリビアン」(Pirates of the Caribean: Dead Man's Chest・2006・米)とその後の作品でではブーツストラップ・ビルを演じていた。基本的にうまい人だなあと。

 カルロス4世を演じたのはランディ・クエイド。同じ役者のデニス・クエイドの兄で、TV出演が多い人。昔は西部劇の「ミズーリー・ブレイク」(The Missouri Breaks・1976・米)やポリス・コメディの「クワイヤボーイズ」(The Choirboys・1977・米)などたくさん出ていたが、次第に映画から遠ざかり、最近は見ていないが、オスカーを受賞した「ブロークバック・マウンテン」(Brokeback Mountain・2005・米)に出ていたらしい。

 異端審問会のグレゴリオ神父はミシェル・ロンズデール。「007/ムーンレイカー」(Moonraker・1979・英)で、悪のボスを演じていた人。「RONIN」にも出ていたし、最近ではスピルバーグ監督の「ミュンヘン」(Munich・2005・米)で標的の1人を演じていた。じわっと悪そうな感じがするのがうまい人。本作でもじわっと悪い。

 監督・脚本はミロス・フォアマン。かつて「カッコーの巣の上で」(Onw Flew over the Cuckoo's Nest・1975・米)や「ヘアー」(Hair・1979・米)、「ラグタイム」(Ragtime・1981・米)、「アマデウス」(Amadeus・1984・米)など、続々とヒットを飛ばした名匠。しばらくパッとしなかったなあと思っていたら本作か。それでも2年前の作品だし。「カッコーの巣の上で」と「アマデウス」で2度アカデミー賞の監督賞を受賞している。1932年チェコスロバキア生まれ。76歳の高齢となったからこそ、このエンディングなのかもしれない。

 劇中使用されている銃はフリント・ロック。ピストルとマスケットが出てくる。ちゃんとハンマーが落ちてからシュッと点火して白煙が上がり、一瞬遅れてドカンと発砲する演出。リアル。カルロス国王のハンティングでは、弾丸の装填が面倒だから部下に用意させておいて、本人は銃をとっかえひっかえただ撃つだけという贅沢。さすが国王。アーマラーはジュアン・アレドという人。スペインで武器係をやっている人らしく、ヴァンサン・カッセルとモニカ・ベルッチが出たリアルなスパイ活劇「スパイ・バウンド」(Agents secrets・2004・仏/伊/西)でもアーマラーをやっていた。そういえばあれも武器は凝っていた。本作も撮影はスペインで行われている。

 ゴヤが描いたとして登場する絵画は、役者ソックリに描かれているから、映画のために新たに描き起こした物だと思うが、これがいい。イネス、ロレンゾ神父(劇中燃やされる!)、王妃など、実にソックリ。たぶん描いたのはアントニオ・バロンという人。IMDbにpainter: Goya style portraitsとあった。

 イギリス軍が隊列を組んで丘を降りて攻めてくるシーンがあるが、実に隊列がきれいだなあと思っていたら、ちゃんとモリタリー・アドバイザーがスタッフとして加わっていた。やっぱりちゃんとお金をかけているんだ。

 タイトルバックとエンドクレジットはエッチングの絵バックで、どうも実際のゴヤの作品らしい。クレジット・スーパーバイザーはビジュアル・エフェクトを手がけるチェマ・レマチャという人。クレジット・デザイナーもビジュアル・エフェクトを手がけるパブロ・ウルティアという人。2人ともスペインで活躍しているようだ。

 エンド・クレジットにはアップルのファイナル・カット・プロの文字があったので、編集はMacでやっているのだろう。

 公開初日の初回、30分前くらいに着いたら新宿の劇場は入り口が開いていて、階下に列ができていた。並んでいたのは10人ほど。若い人は1人で、あとは中高年。男女比は半々くらい。2〜3分で開場。全席自由で、やや暗かったが、しばらくして明るくなった。シートはいつの間にか新しくなり、カップ・ホルダー付きになっていた。これは嬉しいが、スクリーンが低いからなあ。床もフラットに近いし。

 最終的には588席に4割ほどの入り。地味な作品ながら意外に入っていたように思う。

 チャイムが鳴って案内のアナウンスがあった後、カーテンが左右に開き、暗くなって予告の開始。ただピンが甘く、ピンぼけ一歩手前くらい。なぜかビスタのまま「007/慰めの報酬」の新予告。ボンドがUMPを持って登場。ただ、普通のアクション映画という印象で、どうにもボンド映画に見えずワクワクもしなかったのが気になる。

 ジェシカ・アルバの上下マスク「アイズ」は、パン兄弟監督の「the EYE【アイ】」(The Eye・2001・香ほか)のリメイク。確か映画化権を取得したのはトム・クルーズだったはず。権利を売ったのか、プロデューサーにトム・クルーズの名は見あたらない。まっ、とにかく面白そう。ハリウッド式になるとどんな映画になるのか。

 予告が終わって、ピントがあって、本編の上映。助かった。


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