Ichi


2008年10月26日(日)「ICHI」

ICHI・2008・TBS/ジェネオンエンタテインメント/セディックインターナショナル/ワーナーブラザース映画/電通/ローソンチケット/講談社/MBS/ホリプロ/朝日新聞社/OXYBOT・2時間00分

ビスタ・サイズ/ドルビー・デジタル

(日PG-12指定)

公式サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/ichi/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

盲目の女芸人「瞽女(ごぜ)」の市(いち、綾瀬はるか)はグループを追放され、ある人を探しながら、諸国を放浪していた。そんなある日、ある宿場近くの神社でヤクザものたちに襲われ、修行の旅を続けているという侍、藤平十馬(ふじひらとうま、大沢たかお)に助けてもらうが、十馬は刀を抜くことができず、逆に仕込み杖の使い手である市に助けられる。十馬は宿場町を仕切る白河組の用心棒になり、市は宿場の入り口で出会った少年、小太郎(島 綾佑)の家に世話になることになる。しかし、町の外れを根城とする万鬼(ばんき、中村獅童)の一党がたびたび町を荒らしにやってきていた。白河組と万鬼党の間で緊張感が高まる中、関八州見回り役がやってくることになるが……。

73点

1つ前へ一覧へ次へ
 良く出来た映画。主人公の隠された過去。彼女を助ける男の過去。彼女を狙う男の過去(こちらはちょっと少ないが)。そして、宿場の覇権を巡るヤクザもの同士の軋轢、葛藤、プライド、戦い。それに恋愛感情まで込めて丹念に描かれた時代劇。

 絵も美しく瑞々しくて、一部の屋外をのぞいて色が濃く、力強い。肌色も自然で良いし、特に緑がキレイだ。

 音響もクリア。雨や風などの環境音はサラウンドで良く回るし、人の声も側面から聞こえたりする。非常に手間とお金が掛けられている。

 殺陣もなかなかの迫力。スローモーションをうまく使い、たぶん3D-CGの血糊を見事に飛ばして、リアルさも出している。綾瀬はるかの逆手の剣法も違和感がない。

 出演者は豪華で、演技も適切。それぞれのキャラクターにはまっている。大人勝りの子供、美しくて強いヒロイン、憎たらしい悪役。

 なのに、どうにも時代劇という感じが希薄。狙いなのだろうが、タイトルはローマ字の“ICHI”だし、タイトル・バックでかかるリサ・ジェラルド歌も悪くないのに、詩が何語なのか日本語じゃないし……この曲のまま日本語にすればいいのに……セリフが現代語っぽすぎるからか、とにかく現代劇的な印象。そして、たくさんの感情を揺さぶる要素が盛り込まれているのに、いまひとつ伝わってこない。これといって明確に悪い所などないのに。不思議。良いものがたくさん重なったら、不協和音が出てしまったとでもいうのか。

 女座頭市を演じたのは、今引っ張りだこの綾瀬はるか。編集と撮影がうまいからか、殺陣も見劣りしなかった。ただ、敵がまだいるのに(見えなくても気配でわかるはず)、いちいち刀をさやに収めるのはどうなんだろう。こういうこともアリなのか。単に居合抜きを見せるためという気がしてしまったが。厳密には血振りもしないでさやに収めるのも気になった。血や脂が付いたままさやに入れたら、さやの中が大変なことになり最悪刀が抜けなくなるかも。まあ、やっている時代劇の方が少ないだろうが。

 いずれにしても、女性がこれだけ早く刀を振り回すのは大変なことだったに違いない。演技は、確かに目が見えないような感じで、加えて感情を抑えた風が良かった。

 刀が抜けないという剣の達人、子供にトンマと呼ばれる十馬(古典ネタ!)を演じたのは、これまた映画出まくりの大沢たかお。非常に演技達者で、チンピラのような役から、本作のような家柄のいいお坊ちゃままで、何でもうまく演じられる人。ただ、出過ぎの感じはする。つい最近見たのは戦場カメラマンを演じた「ミッドナイトイーグル」(2007・日)。本作で刀を抜けない設定だったが、これだけが納得できなかった。つばとさやがこよりか何かで結んであるとか封印されていないと、力を入れている感じなのに抜けないというのは奇妙に見えた。つかをシッカリ握れないというのなら、心の問題思えるのだが……。最初は錆びていて抜けないとか、竹道だから抜けないのかと思ってしまった。この演出はどうなんだろう。

 悪党のボス、万鬼を演じたのは中村獅童。本職は歌舞伎役者のはずだが、映画出まくり。海外の映画にも良く出ている。「ピンポン」(2002・日)で曽利文彦監督と仕事をしている。そのときから悪役が多い。悪役らしいのだが、No.2の伊蔵を演じる竹内力の怪優ぶりに押されてちょっと影が薄くなった感じ。

 その竹内力は、すっかりVシネやくざの帝王といったイメージが定着してしまった感じだったが、最近それを逆手にとってコミカルなCMに出たり、コミカルな役を演じだして、魅力倍増。悪役を演じているときより、合っている気がする。何より面白い。出演者全員がおもしろかった「大帝の剣」(2006・日)でも光っていた。「バトル・ロワイヤルII〜鎮魂歌〜」(2003・日)の暴力教師も良かった。

 白河組の若親分は窪塚洋介。ジャンビング事件で沈んでしまったが、見事に復活を遂げた。「ピンポン」で曽利文彦監督と仕事をしている。自然な演技が何とも良い。

 話題作の例にならってオール・スター・キャストというのはちょっと気になる。佐田真由美、横山めぐみ、杉本哲太、柄本明……渡辺えりには笑ったが。

 監督は「ピンポン」で劇場長編映画デビューした、VFX出身の曽利文彦。オール3D-CGの「APPLESEED」(2004・日)もなかなか良かったし、同じく3D-CGの「ベクシル2077日本鎖国」(2007・日)はそれなりで、どちらも未来世界で、いきなり江戸時代くらいにさかのぼったのが意外だった。1つ気になったのは、色っぽいシーンもあるのだが、まったく嫌らしさがなかったこと。しかも超アッサリ。うーむ、次はどんな作品を撮るのだろう。

 子母澤寛の小説を脚本にしたのは、浅野妙子。1994年に第7回フジテレビヤングシナリオ大賞で「無言電話」が佳作を受賞して脚本家デビュー。時代劇は「大奥」シリーズを手がけている。脚本家というのはそういうものなのか知らないが、「NANA」(2005・日)も書けば、時代物の「大奥」(2006・日)も書くと。本作はアクションだし。才能豊かな人ということかもしれない。

 最近の日本映画と違って、色が濃い。くっきりとしてキレイ。一部浅いシーンもあるが、全体に絵に力がある。特に肌色が美しく緑が鮮やかだ。撮影は橋本桂二という人。1963年生まれというから、45歳か。ほぼ監督や脚本家や音楽のレサ・ジェラルドと同年代。つまり本作は1960年代前半生まれの人が作った映画と言えるのかも。「SHINOBI」(2005・日)、「日本沈没」(2006・日)、「隠し砦の三悪人」(2008・日)などでBカメを担当したらしい。今後の作品にも期待したい。

 殺陣は久世浩。1978年に二代目を襲名したらしい。黒澤明の「乱」(1985・日)、チャンバラが重要な鍵となる真田広之の「たそがれ清兵衛」(2002・日)やキムタクの「武士の一分」(2006・日)などを手がけている。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は35分前くらいに着いたら9人の列。若い男性2人、やや高めのオバサン3人、オヤジ4人。案内はなく列が道路にまで伸びてから、案内に出てきた。30分くらい前に開場したときで30人くらい。

 最終的に、プレミアム・ペアシート以外自由の1,064席に4割ほどの入り。話題作にしてはやや少ないか。そして、PG-12指定指定なのに幼稚園生連れの親子、小学生の女の子連れの父などがいた。暴力シーンもいっぱいあり、血糊が派手に飛び散るというのに、これを幼い子に見せる父親の気が知れない。ボクは子供の頃、ひょんなことでヤクザ映画を見てもの凄いショックを受けた記憶がある。時代が変わったと言うことなのかなあ。

 チャイムが鳴って、カーテンが上がって始まった予告編は……明るいままでの上映で画面が非常に見にくかった。最新の映写機とスクリーンならまだ見られるのだろうが、ここではつらい。

 上下マスクの「1408号室」は、原作がスティーヴン・キング。スティーヴン・キング原作の「シャイニング」(the Shining・1980・英)系のホラー。あるホテルの部屋は入った客、全員が1時間以内に死んでいるという。そこにある作家が泊まるというもの。出演はジョン・キューザクにサミュエル・L・ジャクソン。りとも好きな役者さんだし、設定も、原作者も予告編も好き。ただ、スティーヴン・キング原作は映画にするとつまらないものが多いと言われるところが心配点。ただ本作はスティーヴン・キング映画史上最大のヒット作らしい。

 上下マスクの「007/慰めの報酬」は新予告に。また、こうしてボンドは生まれたというような話らしい。脚本は前作に引き続きポール・ハギス。素晴らしい脚本家だが、ちょっと違うような気がするのはボクだけか。しかも監督は「チョコレート」(Monster's Ball・2001・米)や「ネバー・ランド」(Finding Neverland・2004・英/米)、「ステイ」(Stay・2005・米)、「主人公は僕だった」(Stranger than Fiction・2006・米)のマーク・フォスター。うまい人だと思うが、これもなんか違うような気がする。杞憂であればいいが……。前作もそうだったが、ボンド映画はどこへ行こうとしているんだろう。

 「252」は新予告で、巨大台風に襲われる話だったらしい。どうにも「デイアフター・トゥモロー」(The Day after Tomorrow・2004・米)に似た印象の絵が多くて気になる。雰囲気は「海猿」(2004・日)っぽいけど。

 場内が暗くなって、本編の上映。


1つ前へ一覧へ次へ