Red Cliff


2008年11月2日(日)「レッドクリフ Part I」

RED CLIFF・2008・米/中/日/台/韓・2時間25分(IMDbで中国版は146分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、戸田奈津子/翻訳:鈴木真理/シネスコ・サイズ(Arri、マスク、Super 35)/ドルビー・デジタル

(香IIB指定)(日本語吹替版もあり)

公式サイト
http://redcliff.jp/index.html
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

西暦208年、中国。漢の末期、漢王朝は腐敗し国を治める力を失っていた。その混乱の中から3人の英雄が現れ、大きな力を付けていった。最大勢力の曹操(そうそう、チャン・フォンイー)は魏の国を興し、丞相の地位に就くと皇帝を背後から支配するようになる。そして燭の国を興した劉備(りゅうび、ユウ・ヨン)を逆賊と決めつけ、征伐する許可を得て、80万という大軍で襲いかかる。2万の兵しか持たない劉備軍は難民とともに南下し、孔明(金城武)をつかわし、呉の国を興した孫権(そんけん、チャン・チェン)に同盟を組むことを申し出る。やがて曹操軍80万は長江の赤壁(レッド・クリフ)の対岸に終結する。対する劉備軍2万、周瑜(しゅうゆ、トニー・レオン)率いる孫権軍3万。しかし実は、曹操はかつて一目惚れした周瑜の妻、小喬(しょうきょう、リン・チーリン)を狙っていたのだった。

73点

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 「三国志」の「赤壁の戦い」の映画化。色が濃く、絵に力がある。ハリウッド作品になるのかどうかわからないが、印象としては、昔からたくさん作られてきた中国の歴史物のTVドラマや映画と似ている。最近の映画でいうと「女帝エンペラー」(The Banquet・2006・中)、「墨攻」(A Battle od Wits・2006・中ほか)、「王妃の紋章」(満城尽帯黄金甲・2007・香/中)などなど。

 ただ3D-CGを使った大規模な合戦シーンや、戦場が見渡せて陣形がハッキリわかる俯瞰アングルは今風で素晴らしい。残念なのは、もうたくさん見てきているので、特にそれで驚きはなく、CGだろうなと思ってしまうこと。

 とにかくお金がかかっている。大合戦も高価なCGを多用しているし、本当に大人数のモブ・シーンもたくさんあるし、撮影規模はとてつもなく大きい。エンド・クレジットによると人民解放軍66336部隊が参加しているらしい。彼らの衣装代、小道具代、お弁当代、移動費を想像しただけで恐ろしい金額になりそうだ。

 合戦シーンはスゴイ迫力とリアルさ。刃が体を貫き、血が飛び散り、鎧さえも切り裂かれる。たぶんここが一番の見所だろう。でも、鎖帷子の上に鉄板を細かく貼り付けた鎧が、こんなに簡単に突き刺したり切り裂いたりできるものだろうか。履き物がわらじで、布の脚絆のようなものを巻いただけというのも意外だった。それと、馬も傷つくのだが、リアルさでいえば刃物で足を払ったり、弓矢の攻撃を受けいるのだから、人間以上に悲惨なことなっている気がする。だからこそ小喬は夫に、生まれたばかりの馬を「この子だけは軍馬にしないで」と言うのではないか。

 概して言えることは、こういった大河ドラマ的歴史物を映画化すると、全体の流れを追うあまり、1人1人の人物の描き混みが浅くなり、感情が希薄になりがちということ。小さなエピソードをじっくり描いていては、何時間あっても物語が完結しなくなる。本作も前後編となった。「三国志」の中の「赤壁の戦い」をピックアップしていても、完結は4月公開のパート2に持ち越された。TV向きのネタなのかも。

 本作はできるだけ人間を描こうとしているのだが、特にトニー・レオンの次にクレジットされている金城武演じる諸葛孔明の名軍師ぶりや非凡さぶりがあまり描かれていない。だから、あまり魅力的に見えない。そして全体に感情も伝わって来にくい。そこが残念。主役のトニー・レオン演じる周瑜はそこそこ伝わってきたが。

 トニー・レオンは、ほとんどポルノのような印象の「ラスト、コーション」(Lust, Caution・2007・中/米)に続いての出演。今回も妻の小喬役のリン・チーリンとちょっと過激な絡みシーンがあるが、キャラクターとしては前作と全く違う人物。どんな役で見演じられる人だ。アクションもいける人だが、もっとも凄かったのはスー・チーが注目されるきっかけとなった「ゴージャス」(Gorgeous・1999・香)でのオカマのメイクアップ・アーティスト役だろう。おかしくて、それでいて説得力があった。

 金城武は日本映画、香港映画で活躍しているが、英語もペラペラだそうで、ハリウッドにも進出して欲しい気がするが、余計なお世話か。とても面白かった「恋する惑星」(重慶森林・1994・香)でトニー・レオンと共演し、つい最近「傷だらけの男たち」(傷城・2006・香)でも共演している。最新作は年末に公開される「K-20怪人二十面相・伝」。個人的にはチャン・ツィイーと共演した「LOVERS」(Lovers・2004・中)が良かったなあ。

 小喬を演じた美女は、リン・チーリン。台湾出身のファッション・モデルだそうで、CMにはよく出ていたらしい。ジョン・ウー監督がぜひにということで、長編劇場映画のデビューとなったらしい。今後の活躍に期待したい。

 孫権の妹で、男勝りのお転婆娘を演じたのはヴィッキー・チャオ。呼ばれもしないのに「来たよ」というセリフがおかしかった。「少林サッカー」(少林足球・2001・香)のヒロイン役で有名になった印象だが、ボク的にはハード・アクションの「クローサー」(夕陽天使・2002・香/米)が良かったなあ。

 孫権を演じたのは台湾出身の二枚目のチャン・チェン。「グリーン・デスティニー」(臥虎藏龍・2000・米/中)でチャン・ツィイーをたぶらかす山賊を演じていた人。

 どこかの絵で見た関羽にそっくりで驚いたのが、バーサンジャプという人。モンゴル出身だそうで、TVでチンギス・ハーンを演じたことがあるらしい。浅野忠信が出た「モンゴル」(Mongol・2007・独ほか)にも出演しているとか。

 曹操を演じたのはチャン・フォンイー。チェン・カイコーの「さらば、わが愛/覇王別姫」(覇王別姫・1993・香)や「始皇帝暗殺」(荊軻刺秦王・1998・中ほか)に出ていたそうで、「さらば、わが愛/覇王別姫」は見ていないが「始皇帝暗殺」の暗殺者役は記憶に残っている。

 曹操の愛人、驪姫(れいき)を演じた美女は中国出身のソン・ジア。2003年から映画に出ているようだが、日本公開された作品は本作が初めてのよう。

 周瑜につかえる武将、甘興(かんこう)を演じたのは、特別出演という中村獅童。ほかの役者さんたちとの絡みが少ないようだったが、なぜ特別出演なのだろう。そこが気になった。

 だいたい役者さんは全員、中国映画というか香港映画の伝統に則って吹替。広東語と北京語ということなのか、口が合っていなかった。そこがかなり気になった。そして合戦シーンでも、主要キャストと戦場を見ているだけのような一部の戦闘シーンは合成のように見えて、どうにもなじみが良くなかった。別撮りしていたのかも。スケジュールの都合とかいろいろあるだろうし……。

 監督は脚本も手がけたジョン・ウー。「男たちの挽歌」(英雄本色・1986・香)の監督。その主演のチョウ・ユンファとの仕事が多く、「大陸英雄伝」(和平飯店・1995・香港)も良かった。ハリウッドに渡ってからは話題作の「M:I-2」(M:I-2・2000・米)なども手がけたが、あまりパッとせず「ペイチェック」(Paycheck・2003・米)も面白かったがヒットとはならなかったようだ。本作が起死回生作になるかはわからない。ただ評価は高いようで、Part 2も作られるのだから期待はされているようだ。<

 脚本はジョン・ウー以外にも3人関わっているが、ほとんどこれまでに1本くらいしか脚本を手がけていない新人らしい。

 音楽は岩代太郎。1965年生まれというから43歳か。活躍し初めに手がけた作品に大林宣彦監督の感動作「あした」(1995・日)がある。最近は多くの作品を手がけていて、おもしろかった「花田少年史 幽霊と秘密のトンネル」(2006・日)や「日本沈没」(2006・日)なども手がけている。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は金曜日に座席を確保しておいて、25分前くらいに着いたらロビーはたくさんの人でごった返している。当然イスは空いていない。20分前になるまで劇場のある階にも行けないので、ロビーで待つしかないためだ。アナウンスがあって初めてエスカレーターに乗れる。ここはストレスを感じる。

 20分前にアナウンスがあって、やっとエスカレーターへ。スクリーンはビスタで開いていて、10前から劇場案内が上映された。スクリーンも映写機も明るいので、スクリーンは暗くしなくても比較的見やすい。音は抜群に良い。ただ、遅れて入ってくるヤツが多い。

 最終的に一番大きな劇場の607席に4割ほどの入り。下は高校生くらいから、上は白髪の老人まで幅広い。男女比はほぼ半々くらい。日本人は「三国志」とか「水滸伝」が好きなのだろう。

 気になった予告編は、「K-20怪人二十面相・伝」は、ようやく内容がわかるものになった。金城武主演。見たい。

 シネスコになって、ライオンが吠えるMGMマークが出て、左右マスクでドイツ軍が登場。どうやらヒトラー暗殺未遂事件の映画化らしい。テレンス・スタンプやトム・クルーズなんかが出て、アフリカ軍団で、監督はブライアン・シンガー。「ワルキューレ」というらしい。なんだかワクワク、ゾクゾクするものがあった。こんな感じは久しぶり。うまい予告編。絵がキレイ。

 シネスコ・フルでABBAの楽曲を使ったミュージカル「マンマ・ミーア」もやっと内容がわかるものに。前007のピアース・ブロスナンが出ているらしい。3人の男がいて、だれがパパかという話で、ママはメリル・ストリープ。とてもハッピーで楽しそうな映画。年末に見るのはピッタリと思ったら、1月末公開とか。あらら。

 残酷シーンが多いわりに日本の年齢制限はない。「ICHI」はPG-12で、あれとほとんど変わらないと思うのだけれど……。基準がよくわからない。エンド・クレジットの後に「レッドクリフ Part2」(後編)の予告あり。いよいよ赤壁の戦いが始まると。Part 1はフリか。4月公開予定で、前売り券を買うと周ピーとかのキャラクターがもらえるらしい。

 それにしても、シネコン系の劇場はみなスクリーンが近い。一番大きな500席クラスでもスクリーンがすぐそこ。最前列は一体どうなっているのか。映画の予約が必要になって、だんだん面倒になっていく。電車賃も余計に掛かるし……。音も良くなり、スクリーンも明るくなり、イスも良くなって見やすくなったのと引き替えというわけか。見るのに並ばなくても良くなった代わりに、座席指定チケットと引き替えるために並ばなければならなくなった。インターネット予約を使えということか。それだと前売り券が使えない。前売り券はなくす方向なのか……。


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