The Bank Job


2008年11月22日(土)「バンク・ジョブ」

THE BANK JOB・2008・英・1時間50分(IMDbでは111分)

日本語字幕:手書き書体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(Arriflex D-20、デジタル)/ドルビー・デジタル、dts

(英15指定、日PG-12指定)

公式サイト
http://www.bankjob.jp/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

1971年、イギリス・ロンドン。中古車屋のテリー・レザー(ジェイソン・ステーサム)は、ギャングから借金の返済を迫られ嫌がらせを受けていた。そんな時、昔つきあったことのあるモデルのマルティーヌ(サフロン・バロウズ)から、銀行強盗を持ちかけられる。今つきあっている彼氏がベイカー・ストリートのロイズ銀行のセキュリティで、保安情報が手に入るというのだ。テリーはカメラマンのケヴィン(スティーブン・キャンベル・ムーア)、映画エキストラのデイヴ(ダニエル・メイズ)、詐欺師のガイ少佐(ジェームズ・フォークナー)、掘削の専門家バンバス(アルキ・デヴィッド)、中古車屋の従業員のエディ(マイケル・ジブソン)らを集め、計画に取りかかる。しかし、この裏には、逮捕起訴されたヤクの売人のマイケルX(ピーター・デ・ジャージー)が、罪を逃れるため英国王女マーガレットがカリブで乱交した時の写真を持っており、政府を脅迫していた事件があった。諜報機関MI-5のティム(リチャード・リンターン)はマイケルXが証拠写真を預けているロイズ銀行の貸金庫を襲わせるよう、マルティーヌを使ってすべてを仕組んでいたのだった。そんなことを知らないテリーらは、ついに強奪に成功するが、貸金庫には王室スキャンダルのほかにも、大変なものが預けられていた。

73点

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 おもしろい。受ける感じはちょっとこぢんまりだが、話のスケールも大きく、かなりハラハラ、ドキドキした。これは久しぶり。しかも実話に基づいているというのが驚く。大スキャンダル話。とてもイギリスらしい感じがした。

 前半は銀行破りのピカレスクもののような様相を呈し、それにちょっとスパイもののテイストが加わった「ミニミニ大作戦」(The Italian Job・2003・米)とか「オーシャンズ11」(Ocean's Eleven・2001・米)的な作品のよう。ところが、それが成功してから一転、リアルでダークなクライム・サスペンス調に。これが怖い。そして結びに、事件から37年以上経っているにも関わらず、役名は実在の人物とは変えてあると出る。しかもイギリス政府はこの事件を2054年まで機密扱いにしているというのだ。まるでアメリカのケネディ暗殺事件のような扱いではないか。

 王室を守るためには人の命など気にもしていないMI-5のクールさと恐ろしさ。一方、黒人活動家を気取った麻薬ディーラーの怖さ、そしてダーティー・ムービーや売春宿で金儲けをしているポルノ王の怖さ、自由奔放な王女に変態政治家たちの怖さ、さらには裏社会とつながる悪徳警官の怖さ。イギリスの暗部がごった煮になっている。

 だいたいジェイソン・ステイサムがメインで出ている映画はおもしろい。少なくともボクの好みには合ったものが多い。「カオス」(Chaos・2005・加ほか)、「アドレナリン」(Crank・2006・米/英)、悪役だった「ローグアサシン」(War・2007・米)も良かった。この後に控えている「デス・レース」も面白そうだし。当分はこの人がメインかどうかで判断できそうだ。ただ小劇場での公開が多いのはかわいそう。本作ではもともとイギリス生まれということもあり、思いっきりイギリス発音。

 もと彼女で、モデルのマルティーヌを演じたのはサフロン・バロウズ。どこかで見たことあるなあと思ったら、オタッキーな感じのゲームの映画版「ウィング・コマンダー」(Wing Commander・1999・米)に出ていた人。面白かった第二次世界大戦の暗号解読ドラマ「エニグマ」(Enigma・2001・英)にも重要な役で出ていた。ブラッド・ピットの史劇「トロイ」(Troy・2004・米)にも出ていたようだが、忘れてしまった。

 主人公の美人奥さんを演じたのは、キーリー・ホーズ。主にTVやビデオ作品で活躍している人で、イギリスのスパイ・ドラマ「MI-5」(Spooks・2002-2004・英)にクールなエージェントとして出演している。もっと映画で活躍しても良いと思うが……。

 MI-5の非情な腕利きエージェント、ティムを演じたのはリチャード・リンターン。リアルなスパイ・ドラマ「シリアナ」(Syriana・2005・米)に出ていた人。やっぱりテレビが多いようで、日本ではあまり公開されないので、あまりなじみがないが、かなりのハンサム。今後に期待したい。

 一見人が良さそうで実は怖いというポルノ王、ルーを演じたのはデヴィッド・スーシェ。TVの「名探偵ポワロ」を演じた人。ハリウッド映画の「アイアン・イーグル」(Iron Eagle・1985・米)、ビッグ・フット・コメディの「ハリーとヘンダスン一家」(Harry and the Hendersons・1987・米)などに出ており、最近ではおやじスパイ・アクションの「セイブ・ザ・ワールド」(The In-Laws・2003・米)に出ていた。好々爺という感じだが、悪役をやらせると怖い。

 監督はオーストラリア出身のロシャー・ドナルドソン。ケヴィン・コスナーのリメイク・サスペンス「追いつめられて」(No Way Out・1987・米)や、トム。クルーズの「カクテル」(Cocktail・1988・米)、ウィレム・デフォーのサスペンス「ホワイト・サンズ」(White Sands・1992・米)、エロティックSFアクションの「スピーシーズ/種の起源」(Species・1995・米)、一番おもしろかった火山映画「タンテズ・ピーク」(Dante's Peak・1997・米)、キューバ危機を描いたケヴィン・コスナーの「13デイズ」(Thirteen Days・2000・米)、CIAのエージェント養成学校を描いたサスペンス「リクルート」(The Recruit・2003・米)、感動バイク映画「世界最速のインディアン」(The World's Fastest Indian・2005・ニュージーランドほか)と、そうそうたる作品がずらりと並ぶ名匠。

 素晴らしい脚本はディック・クレメントとイアン・ラ・フレネの2人。クレメントは1937年生まれというから71歳。古くは第二次世界大戦の象を連れた脱走映画「脱走山脈」(Hannibal Brooks・1968・英)の脚本や、ショーン・コネリー復活版007「ネバーセイ・ネバーアゲイン」(Never Say Never Again・1983・米)、ダニエル・クレイグのスターリンの遺物を巡るサスペンスTVドラマ「アークエンジェル」(Archangel・2005・英)などを手がけている。ラ・フレネはほとんどクレメントとの一緒に仕事をしているようだ。年齢も同じ。本作を見る限り年齢を感じさせない脚本だと思う。

 意外と銃はリボルバーがメインで、S&WのM19のような4インチ・リボルバーと、ライフルはFALの木製ストック付き。銃撃戦はリアルでなかなか怖い。無線傍受マニアが使っているレシーバーにはYAESUとロゴが入っていた。

 途中、画面に青いドットが出ることがあったが、あれはハリウッド映画に出るコピー防止用マークのイギリス版だろうか。

 公開初日の3回目、いつのまにか渋谷の小劇場も全席指定になったので、前日に席を確保しておいて20分前くらいに到着。当日並ばなくてもいいのは嬉しいが、前日から用意したり電車賃をかけたりと、負担が多くなった。映画は気楽に見に行ける娯楽ではなくなったのか。

 座席の番号が小さく、見にくい。もともと全席指定用の劇場ではない。しかも一時期はやったデザイナーズ・マンションのように、設計者の個性を強く出したデザインで、非情に居心地が悪く、しかもトイレの位置などがわかりにくく、まったく劇場に向いていない。基本設計がおかしいのでは。まずスクリーンが見にくい。そして場内の照明が天井ではなくサイドにあって、暗いのにまぶしい。足元はとても見にくいし、本も読みにくい。人を落ち着かなくさせる。尋問じゃないんだから。カーテンの両脇にあるカーテンをたたんだようなオブジェも銀色で光ってじゃまだし……などなど。うーむ。

 最終的に220席のうちの2F席は9割くらいが埋まった。全席指定になって遅れてくる人が多い。スクリーンはビスタで開いていて、昔風のブザーが鳴って予告・CMから。

 気になった予告編は……ジャン=クロード・ヴァン・ダムが、自身がハリウッドに招いた監督に捨てられ、落ち目になったアクション俳優ジャン=クロード・ヴァン・ダムを演じるという「その男、ヴァン・ダム」は面白そう。いわゆる自虐ネタ満載らしい。マイクロ劇場で公開されたアクション「ディテクティヴ」(Until Death・2006・米)も落ち目の刑事が本当に再起するという物語で面白かったが、ついにヴァン・ダムはここまで追いつめられたか。

 一方、監督からの指名を受けて出演するばかりか、自ら製作総指揮を買って出たというナオミ・ワッツの「ファニーゲームU.S.A.」はドイツ生まれの監督自身の過去の作品のハリウッド・リメイク版らしい。かなりショッキングで暴力的な内容のようだが、ナオミ・ワッツに掛けてみたい。


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