Exiled


2008年12月6日(土)「エグザイル/絆」

放逐 EXILED・2006・香・1時間49分(IMDbでは110分)

日本語字幕:手書き書体下、鈴木真理子/シネスコ・サイズ(マスク、Super 35、Arrifrex)/ドルビー・デジタル

(香III指定、米R指定、日PG-12指定)

公式サイト
http://www.exile-kizuna.com/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

1999年、中国への返還間近のポルトガル領マカオ。組織のボスを狙撃したウー(ニック・チョン)の家に、ボスのフェイ(サイモン・ヤム)の命令でブレイズ(アンソニー・ウォン)とファット(ラム・シュー)がウーを殺しに来る。しかしウーはおらず、妻(ジョシー・ホー)と1ヵ月の赤ん坊がいるだけだった。そこへウーを守るためタイ(フランシス・ン)とキャット(ロイ・チョン)もやってくる。やがてウーが帰ってきて撃ち合いとなるが、全弾を撃ち尽くしても決着は付かない。彼らはもともと幼なじみで、友人だったのだ。「殺される前に妻子に金を残したい」というウーの希望を聞き、仲介屋ところに行ってマカオのボス、キョン(ラム・カートン)を殺す仕事を受ける。5人はレストランにキョンを呼び出すが、そこに現れたのは自分たちのボス、フェイだった。激しい銃撃戦の末、5人は命からがら現場を逃れる。そして奇妙な逃亡劇が始まった。

73点

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 驚いた。ほとんど銃撃戦だけで出来ている逃亡劇。あえてロード・ムービーと言っても良いのかもしれない。その逃避行は未来のない、死に向かうものだが、ひょっとして思わせてくれるような明るさとユーモアがあり、単なる悲惨な暗い話に終わっていない。しかも激しい銃撃戦の中から、それぞれのキャラクターが見えてきて、ちゃんとドラマが出来ている。冒頭からいきなり訳もわからないまま銃撃戦に突入したので、銃好きの自主映画のようなものを予想してしまったが、そんなことはなかった。

 音楽がマカロニ・ウエスタン調だったのでそんな雰囲気かなあと思っていたら、銃撃戦はマカロニ・ウエスタン調だったものの、全体の雰囲気はフランス映画のフィルム・ノワール風。マカオが舞台で、町並みもどこかポルトガル風なところがフランス映画っぽいところにつながっているのか。

 それにしても、良く撃つ。いったいこれだけの弾はどこにあったんだろうと思うほど撃つ。ウーが引き出しに隠しているのはS&Wのミリタリー&ポリスの4インチ。幼なじみのよしみでブレイズはグロックの弾を何発か抜いてミリタリー&ポリスと同じ6発にする。タイも同様にベレッタM92の弾を抜き6発にする。一般でこれがわかった人はどれだけいただろうか。

 フェイの部下が持っている銃はガバメントなど。ファットはUSPを使っていて、後半ではブレイズもUSPを使う。金塊警備の警官隊が使っているのはAK47やMP5、M16、ポンプ・ショットガンなど。

 逃亡の途中で岐路にさしかかるとコインを投げて決めるとか、ちょっとしたことで友情が芽生えた男が、夜明けまでおまえたちを待っていると言うとか、その辺に昔のフランス映画っぽい匂いがした。そして、演出に写真や鈴を使うなど、小道具の使い方がうまい。鈴の音も効いている。

 たぶんスポンサーなんだろうけれど、レッドブルの空き缶が宙に舞い、それが落ちるまでにすべての銃撃戦が終わっているというのも、現実的ではないにしてもカッコいいし、あまり不自然には感じなかった。

 そして、日本で銃器特殊効果のビッグショットが研究開発していた、赤い粉末の血糊弾着が使われていた。これはどうしたのだろう。ビッグショットが協力しているのか。また、傷口などはかなりリアルで、結構血まみれ。暴力表現はどぎついほど。そこにほどよいユーモアと感動の物語。実に複雑な味がする。

 音響は、常に生活雑音というか環境音が入っていて、ドキュメンタリーのようにリアルさがあった。これは狙いだったのだろうか。それともリアルだったのだろうか。悪くはなかったが気になった。サラウンドはほどよく効いていて、良かった。

 ブレイズを演じたアンソニー・ウォンは、香港映画界のベテラン俳優。柔硬何でもいける。金城武のアクション「炎の大捜査線2」(Jail in the Burning Island・1997・香)あたりから目立ってきたような気がする。メジャーになったのはやはり「インファナル・アフェア」(無間道・2002・香)シリーズか。つい最近「ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝」(The Mummy: Tomb of the Dragon Emperor・2008・米)に皇帝をよみがえらせようとする中国の将軍役で出ていた。もっとガンガン活躍して欲しい。

 その相棒というか部下ファットを演じたのはラム・シュー。悪役の多い人だが、コミカルな役もできる人。本作もちょっとコミカル系。チャウ・シンチーのアクション・コメディ「カンフーハッスル」(Kung Fu Hustle・2004・中/米)や、正反対のシリアスもの、黒社会の次期指導者争奪戦を描いた「エレクション」(黒社会・2005・香)でいい脇役を演じていた。「エレクション」もそうだが、本作の監督であるジョニー・トー監督作品に良く出ている。もともと現場スタッフだったのを、ジョニー・トー監督に抜擢されてカメラの前に立ったのだという。事件をエンターテインメントのように報道するという「ブレイキング・ニュース」(大事件・2004・香)、特殊部隊の一晩の任務を描いた「PTU」(PTU・2003・香)、アンソニー・ウォンが主演した黒社会もの「ザ・ミッション 非情の掟」(The Mission・1999・香)と、どれも面白い作品ばかり。

 タイを演じたフランシス・ンは、なんと古くはブリジット・リンの「白髪魔女伝」(白髪魔女傳・1993・香)に出ていたらしい。なかなかの二枚目。その後やはりジョニー・トー監督の「ザ・ミッション……」に出て、催眠術とアクションを合体させた「ヒロイック・デュオ 英雄捜査線」(双雄・2003・香)、「インファナル・アフェア無間序曲」(Infernal Affairs II・2002・香)の非情なマフィアのボスなど出ている。最近作は「軍鶏Shamo」(Shamo・2006・香/日)らしいが、日本語吹替の小劇場限定公開で見ていない。

 その部下キャットはロイ・チョン。「インファナル……無間序曲」や、アンドリュー・ラウ監督のSFアクション「拳神」(The Avenging Fist・2001・香)、そして「ザ・ミッション……」にも出ている。

 問題を起こしたウー役はニック・チョン。「エレクション」や「ブレイギング・ニュース」で事件に巻き込まれる刑事を演じていた人。

 その妻を演じたジョシー・ホーは、もともとは台湾で歌手デビューしたらしいが、香港に移って女優となったのだとか。どこかで見たなあと思ったら、ゆるゆるのアイドル・アクション「ツインズ・エフェクト」(千機變・2003・香)に出ていたらしい。

 股間を撃たれる悪いギャングのボスはサイモン・ヤム。ワルをやらせるとかなり怖い。ジョニー・トー監督作品にはだいたい出ていて、ジャン=クロード・バンダムの「レクイエム」(Wake of Death・2004・米)や、「トゥームレイダー2」(Lara Croft Tomb Raider : The Cradle of Life・2003・米))などのハリウッド作品にも出演している。ジョニー・トー監督の「フルタイム・キラー」(Fulltime Killer・2001・香)では反町隆史とも共演している。

 金塊警備の警官隊の軍曹は台湾出身のリッチー・レン。なかなかの二枚目で、歌手だった人。スー・チーとジャッキー・チェンのアクション・ラブ・コメディ(トニー・レオンのオカマが出色)「ゴージャス」(玻璃樽・1999・香)のスー・チーの恋人役や、よみがえりラブ・ストーリー「星願 あなたにもう一度」(星願・1999・香)の素朴な青年役、ミッシェル・ヨーのハード・アクション「シルバーホーク」(飛鷹・2004・香)の主人公を追う熱血刑事役、「ブレイキング・ニュース」の銀行強盗のリーダー役などいい仕事をしている。警官なのに、決闘に向かうギャングたちに朝まで待ってるなんて、フランス映画みたいな演出というか設定。グッとくる。使っていたボルト・アクションは何だったかわからなかった。

 監督はプロデューサーも務めたジョニー・トー。今回、ほとんど脚本はないようなものだったらしい。「暗戦 デッドエンド」(暗戦・1999・香)、「ザ・ミッション 非情の掟」、「フルタイム・キラー」、金城武のラブ・ストーリー「ターンレフト・ターンライト」(向左走、向右走・2002・香)、「PTU」、アンディ・ラウが全身筋肉スーツでムキムキになった「マッスルモンク」(Running on Karuma・2003・香/中)(セシリア・チャンがカワイイ)、「ブレイキング・ニュース」など面白い作品がずらりと並ぶ。「エレクション」はちょっと暗かったけど。まあこの人の監督作品ならハズレはないだろう。日本公開がまだの新作が4本くらいあり、しかも撮影中と制作に入った新作が1本ずつと言うからすごい。劇場によっては全部見たいところ。

 公開初日の2回目、新宿の劇場は40分前に着いたらロビーには6〜7人の人。だんだん増えてきて、20分前には狭いロビーがいっぱいに。列を作るように指示があって、間もなく開場。全席自由。若い女性の一団は関係者らしく、あちこちで挨拶していた。

 ほぼ中高年で、男女比は半々くらい。若い人は少々。最終的には224席に8割くらいの入り。前席の人が座高が高いと字幕が読めなくなる劇場なので、ヒヤヒヤしたが、前席が女性でセーフ。良かった。

 チャイムが鳴って、アナウンスの後カーテンが上に上がってCM予告。気になったのは……「カンナさん大成功です!」って、韓国映画では……と思ったら、山田優、南海キャンディーズの山崎静代による鈴木由美子原作の人気コミックの映画化だとか。韓国が先に実写映画化したと言うことらしい。なんかイタイ感じが……。


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