K-20


2008年12月20日(土)「K-20怪人二十面相・伝」

2008・ROBOT/バップ/東宝/電通/小学館/読売テレビ/読売新聞/白組/IMAGICA/STV/MMT/SDT/CTV/HTV/FBS・2時間17分

シネスコ・サイズ(マスク、Arri 535、Super 35)/ドルビー・デジタル



公式サイト
http://www.k-20.jp/
(音に注意。全国の劇場案内はリンク切れ)

太平洋戦争は回避され戦前の体制が続いているもうひとつの世界の日本。1949年、帝都。明確な身分制度が存在し、貧富の差が著しかった。そんな中、富裕層から美術品や骨董品を鮮やかな手際で盗む〈怪人二十面相〉が世間を騒がせていた。そしてある日、サーカスの曲芸師の遠藤平吉(金城武)は雑誌記者(鹿賀丈史)の依頼を受け、羽柴家の令嬢葉子(松たか子)と名探偵明智小五郎(仲村トオル)の結婚式の写真を撮ってくるよう依頼される。ところが当日、平吉がシャッターを押した瞬間爆発が起こり、会場にあったブリューゲルの名画〈バベルの塔〉が強奪される。その場で平吉は明智によって〈怪人二十面相〉として逮捕されてしまうが……。

75点

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 日本映画らしくないスケールの大きな話で、良く出来た大冒険活劇。ワクワクして、楽しい映画。久しくなかったなあ、こういう感じ。リアルさという点では突っ込みどころもあろうが、それより荒唐無稽のファンタジーとして楽しんだ方がいい気がする。荒唐無稽が許される映画とでもいおうか。年末に見るのにふさわしい作品ではないだろうか。

 ただ、ちょっと見た目のレトロな感じが「三丁目の夕日」(1990・日)とそっくりなので、印象までがダブってしまうのは残念。りっぱなアクションものなのに。もちろん悪くはないが、似ているというのが惜しい。そして黒っぽい東京タワーはどこかエッフェル塔のようで、警察の飛行船にはなぜかドイツ語でポリツァイと書かれていて、無国籍映画ということか。平吉救出の橋のシーンなんか大陸っぽくて「魍魎の匣」(2007・日)のようだった。実際、上海でロケしているようだし、同じ場所を使っているのかもしれない。ここでも印象が他の作品に似ている。それが残念。

 それにしても、どういう展開になるかわからないのもいい。それでいて危なっかしい感じではなく、安心して見ていられる。しかも楽しい。驚きいっぱいの楽しさ。笑いもちりばめられ、暴力シーンは怖い。銃声も爆発音も大きく暴力的だ。

 明智はかなりクールなキャラクター設定で仲村トオルが演じているからオチャラケはないが、松たか子演じる良家の令嬢である葉子がいい。どんなときでも常にていねいな言葉遣いで、かと思えば結構おてんばで、ジャイロ・コプターも操縦し、涼しい顔で「良家の子女のたしなみです」と言ってみせる。しかも楽しそうにのびのびと演じている感じが良い。ちょっと「THE有頂天ホテル」(2005・日)の客室係のキャラともダブらないではないが。

 主人公である平吉を、金城武はふざけたキャラクターにならないよう慎重に憎めない陽気な男として演じている。そして國村隼演じる影の力となる泥棒長屋の源治との関係がまた面白い。実に心地よい関係。まるで007のQのようでもあり、スゴイ秘密兵器を提供してくれる。これで平吉は「スパイダーマン」(Spider-Man・2002・米)さながらに、はたまた「YAMAKASHIヤマカシ」(Yamakashi・2002・仏)のようにアクロバティックに街中を疾走して見せてくれる。

 原作は北村想の「怪人二十面相・伝」(ふしぎ文学館/小学館文庫)。ボクは読んでいないが、かなり面白いらしい。ただ、映画と小説は別ものなので、映画を見る前提で映画を見る前に読むのはおまりおすすめしない。

 これを巧妙な脚本にまとめ、監督したのは、佐藤嗣麻子。イギリスで撮った低予算のヴァンパイアもの「ヴァージニア」(Tale of a Vampire・1992・英)が良かったもんなあ。だいたい女性監督の方が暴力表現がきつかったりするものだが、本作もかなりのもの。それが効いている。帰国してから撮った「エコエコアザラク」(Wizaed of Darkness・1995・日)も、その続編「エコエコアザラクII」(Birth of the Wizard・1996・日)もボクは良かったと思う。うまい。ただなぜかその後はほとんどTVの仕事が続き、久々に映画にもどってきたという感じ。もっとどんどん撮らせてあげればいいのに。日本映画はたくさん封切られているというのに、この人を放っておくなんておかしい。

 脚本とVFXに、「リターナー」(Returner・2002・日)で金城武と仕事をしている「ALWAYS三丁目の夕日」(2005・日)シリーズの山崎貴監督が協力しているらしい。もともとは「エコエコ……」シリーズでSFXアドバイザーとして関わっており、その頃からの関係なのだろう。ビジュアルが似ているわけだ。

 源治の妻、菊子役で出ている高島礼子が良い。明るく元気で、女将さん肌。しかもちょっとコミカルなところが良い。どうしても「極道の妻たち 赤い殺意」(1999・日)とかのイメージが強いが、こういう役もできるんだ。ボクは「EM/エンバーミング」(1999・日)が良かったけど。本作では凄く美人に見えた。

 少年探偵団の小林少年を演じたのは本郷奏多(かなた)。ロボット・ファンタジーの傑作「HINOKIOヒノキオ」(2004・日)で引きこもりの少年を演じていた子。本作では良いところの家の子の雰囲気と、大人と子供の中間のような感じを実に良く出していた。スゴイ子なのかも。

 撮影は柴崎幸三。最近の日本映画と違って色が濃く、コントラストもカキッとしている。若干作り物っぽい感じもあるが、ファンタジー的なテイストもあるので、作品にはあっていると思う。松たか子も魅力的だし、女優陣がきれいに撮れているということは、やはりうまい人なんだと思う。俯瞰を多用しているのは佐藤嗣麻子監督の意図だろうか。面白い絵が撮れている。「ALWAYS……」、「リターナー」、「ジュブナイル」(2000・日)、葉月里緒奈のボディ・スーツが話題となったホラー「パラサイト・イブ」(1996・日)、「学校の怪談」(1995・日)シリーズを撮っている。

 軍が強大な力を持っているという設定なので、銃もたくさん登場する。軍や警察はPOLIZEIとドイツ語で書いてあるくらいだから、モーゼルKar98kのライフル。益岡徹演じるおバカな浪越警部はFNブローニング380。軍の警備兵はモーゼルの他に百式機関短銃らしきサブマシンガンを持っている。二十面相はたぶんミリタリー&ポリスの4インチ。弾数がちょっと気になったが……。ちゃんと数えていなかったので何とも言えないが。銃器担当はブロンコ。

 公開初日の初回、新宿の劇場は全席指定で、15分前に着いたら、ちょうど案内が始まったところ。オバサンとオバサン化しかかっているOLなどが目立っていた。男女比は4対6くらいで女性が多く、老若比は半々くらい。つまり金城人気か。

 最終的に157席に4割くらいの入り。それにしてもオバサンとオバサン予備軍は良くしゃべる。予告が始まっても、お菓子をスゴイ勢いでボキボキ食べながら、まだしゃべっていた。あれじゃあ、太るのも無理ないよなあ。

 開場とほぼ同時に劇場案内が上映されたが、場内が明るくてよく見えない。ほぼそのまま始まった予告は、なんだか泣き叫んでいた事件報道を扱ったらしい邦画「誰も守ってくれない」。タイトルからして後ろ向きな感じで、どうも……。

 人気アニメ「装甲騎兵ボトムズ」が3D-CGを使い劇場アニメになるらしい。ちょっと期待だが、まちがいなくオタクな人々がたくさん来るわけで、ちょっと気が引ける。

 予告はややピンボケだったが、本編はピンが合って始まったので、安心した。よかったあ。


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