Kansen Rettou


2009年1月18日(日)「感染列島」

2009・TBS/東宝/電通/MBS/ホリプロ/CBC/ツインズジャパン/小学館/RKB/朝日新聞社/HBC/RCC/SBS/TBC/Yahoo!JAPAN・2時間18分

ビスタ・サイズ/ドルビー・デジタル


公式サイト
http://kansen-rettou.jp/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

2010年、フィリピンで鳥の新型インフルエンザが人間に感染、1つの村が封鎖され大量の死者を出す事件が発生した。それから3か月後、日本の東京都いずみの市の市立病院に新型インフルエンザ同様の症状の患者が診察に訪れる。診察に当たった救命救急医の松岡(妻夫木聡)は、インフルエンザの検査をしてみることにする。ところが、結果がネガティブであったにも関わらず、急速に症状は進行し、高熱、けいれん、全身の穴から血を流して死亡してしまう。さらに同様の症状の者が病院に運び込まれ、院内感染まで発生する。事態を重く見たWHOからメディカル・オフィサーの小林英子(檀れい)が派遣されてきて陣頭指揮を執ることになる。彼女はフィリピンで感染爆発の封じ込めに成功していた経験者だった。さらに、英子は松岡のかつての恋人だった。

72点

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 う〜ん……テーマは「たとえ明日、地球が滅んでしまうとしても、君はリンゴの木を植える」という前向きなものだが、描かれているのは「感染爆発――パンデミック」であり、日本の壊滅で、愛する人たちの壮絶な死……死に焦点が行っちゃってる。見終わった時、むしろ空しさやウイルスに対する漠然とした恐怖を感じ、暗澹たる気持ちになった。

 映画だから事件は解決したが、現実ではこうは行かないだろう。もっと悲惨な出来事が起こるに違いないという恐怖。リアリティがあるだけに、明日こうなってもおかしくないわけで……。力を合わせても解決できないものはあると言われているような感じもした。帰り、マスクを買った方が良いような気がしたし、帰宅してから手を洗いうがいをした。

 年齢制限がないのが不思議なくらい血まみれの映画。しかも絵の具のような血ではなく、どす黒く、染みて少し経てば茶色になるような超リアルな血。エボラ出血熱のような、全身の穴から血を流して炸裂して死亡するという悲惨で恐ろしい死。

 とても良くできた話だと思うし、感動的。ちょっと涙も……ウイルスの正体を追いつめていく謎解きもある。しかし、いかんせん日本っぽいウエットさ。これはしようがないんだろうが、それで余計に暗澹たる気持ちに拍車がかかる。リチャード・プレストン原作の「ホット・ゾーン」を映画化したエボラ出血熱のアメリカ上陸を描いた「アウトブレイク」(Outbreak・1995・米)のウエット版というか。「アウトブレイク」はウイルスと戦う人々の姿にスポット・ライトが当てられていた。そしてロバート・ワイズ監督の傑作SFサスペンス「アンドロメダ...」(The Andromeda Strain・1971・米)の宇宙病原体の恐怖と正体を分析するサスペンスとも違う。とはいっても日本映画的ではあって、特にオリジナリティがあるというわけでも……。

 患者が懸命に治療に当たる医師を人殺しとののしったり、精神的に追い込まれた若い医師が指揮官である英子の胸ぐらをつかみ高校生のような口調でののしったりと、どうにもエキセントリックすぎるというかチャイルディッシュな言動で、違和感があった。感情が高まって爆発してしまったということなんだろうが、どうにもドラマを盛り上げるためのようで、浮いている感じ。人のせいにするのではなく、もう少しまともに泣き叫んでくれた方が感情が伝わってきたと思う。

 全体に色は浅く、ビデオっぽい画質。ドキュメンタリー調を狙ったのだろうか。そして、役者の顔を見せる必要からか、マスクやゴーグル、手袋を外しているシーンが多くて、思わず心配になってしまうことが多々あった。もちろんメイン・キャストの死に様は、一般のキャストよりずっと静かでキレイ。しかも感動的。血の涙が静かに流れるくらい。特に女優は。これも映画的には仕方がないか。友情出演の佐藤浩市の死に様とえらい違い。

 それと、アボンのミナス島の村は事件を隠そうとする企業が焼き払ったと言っているのに、揚陸した時、感染者はいるのにまったく焼け跡がなかったのはどうしたことだろう。気になった。

 それにしても、TV局が映画を作るとお笑い芸人を出演されるのが定番。本作では爆笑問題の田中裕二とカンニング竹山が出ている。違和感はそれほど無かったし、演技もなかなかだと思うが、忙しいためか出演が中途半端。せっかく目立つキャラなのに出演時間が短く掘り下げが浅い。CMから人気者となった予想ガイのダンテ・カーヴァーもWHOの職員としてカメオ的な出演。

 主演の妻夫木「どろろ」聡や、檀「金麦」れいはキャラクターのイメージにも合っていて、いい感じだったが、目立ってうまかったのは金田明夫。市立病院の、いかにもいそうな中間管理職。日活ロマンポルノで鍛えただけのことはある。「3年B組金八先生」の先生役も良かった。最近ではTV版の「HERO」のクレープ屋を目指す事務官も存在感があった。ちょっと歌舞伎役者のような感じがするのはなぜだろう。

 謝り続ける養鶏場の社長を演じた光石研もよかった。一生懸命に養鶏場をやっている感じがにじみ出ていた。こういう脇役がうまいと作品は締まる。そういう意味では英子を睨むだけで存在感を出していた看護師の馬渕英り可もよかった。養鶏場の娘を演じた13歳の夏緒は「龍が如く」(2007・日)に続いて映画2本目らしいが、今後が楽しみな女優。お笑い芸人や話題のタレントを使うことをそろそろ考え直してはどうだろう。

 脚本・監督は瀬々敬久。ピンク出身の人はそこで苦労した分、実力者が多い。HYDEやGackt、ワン・リーホンが出た無国籍ハード・アクションの「MOON CHILD」(2003・日)の脚本と監督も担当している。それで、アボンのミナス島で少年がM16のカービン・タイプ(XM177か、実銃プロップ)をぶっ放すと、まがまがしい銃声で怖かったのだろう。最近ではコメディの「フライング☆ラビッツ」(2008・日)も手がけるなど、ジャンルを問わない活躍ぶり。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は全席指定で、面倒くさいが前日に確保。15分前くらいに着いたら、ちょうど開場するところ。入場してまもなく案内を上映。

 最終的に607席に50人くらい。時間が早かったからだろうか。話題作にしては少ない。ほとんど中高年で、若い人は少々。男女比は半々くらいだった。誰にでもお勧めできるわけではないが、気が重くなっても良いという人は劇場で見た方が良いと思う。

 半暗になって始まった予告で気になったのは……やっぱりチェン・カイコー監督の上下マスクの「花の生涯―梅蘭芳」はまず絵で圧倒される。ただチャン・ツィイーが結婚しちゃうのは寂しいなあと。

 「チーム・バチスタの栄光」の続編「ジェネラル・ルージュの凱旋」が映画になるそう。前作を見ていないのでなんとも言えないが、予告は面白そう。


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