Quantum of Solace


2009年1月24日(土)「007 慰めの報酬」

QUANTUM OF SOLACE・2008・英/米・1時間46分

日本語字幕:縁付き丸ゴシック体下、戸田奈津子/シネスコ・サイズ(マスク、Arri、Super 35、HDCAM SR)/ドルビー・デジタル、dts、SDDS

(米PG-13指定、英12A指定)

公式サイト
http://www.sonypictures.jp/movies/quantumofsolace/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

ミスター・ホワイト(イェスパー・クリステンセン)を追いつめたジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)は、尋問を開始するが味方内に裏切り者がいてミスター・ホワイトを殺されてしまう。ボンドは裏切り者を殺し、残された手がかりからハイチへ飛ぶ。そこでミスター・ホワイトの友人と間違え、接近してくる女カミーユ(オルガ・キュリレンコ)と出会う。カミーユはボリビアのメドラーノ将軍(ホアキン・コシオ)に家族を目の前で殺され家も燃やされ復讐するため、メドラーノ将軍と親しい男ドミニク・グリーン(マチュー・アマルリック)の愛人となっていた。ボンドは追っている組織のことをドミニクが知っているとにらみ、監視を続けるが……。

72点

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 良くできたスパイ・アクション。シリアスでハラハラ、ドキドキ。忍耐派のアクションテイストたっぷり。しかも冷徹に男は殺すが女は救う。リアルな犯罪者と、復讐をテーマに骨太のドラマを展開する。CIAもただボンドの手助けをするだけでなく、かなりヤバイ存在になっている。わざわざ「CIAは誰とでも寝る」と言わせているほど。イギリスにしても、ロシアは石油を売らないし、中国とアメリカは石油を取り合っているから、ボリビアの独裁政権とつきあうのは国策だとボンドの行動を規制する。劇中言っているように、最近は誰が味方で誰が敵かハッキリわからない。全体の雰囲気も暗い。娯楽作品とはちょっと違う。

 そんなわけで007映画ではない気がした。皮肉の効いたイギリスらしいジョークもないし、スパイ用の秘密兵器もなく(GPSとかコンピューターは活躍していたが)、敵の秘密基地も登場しない。ファンタジーの部分はゼロに近い。酒は「ウォッカ・マティーニをステアせずにシェイクで」とオーダーするのではなく、バーテンにこれは何だっけと聞く。小説に忠実ということなんだろうか。アメリカで大ヒットと言われるが、IMDbでの評価は7.0点と普通。

 ボンド自身は最も愛した女を殺されたことへの復讐を口にしないが、復讐を口にする女、カミーユと出会うことで、心理的な変化が起こる。復讐を終えて女が「これで亡くなった家族は安らかに眠れるかしら」というとボンドは「死者は復讐なんて望まない」と言う。うむむ……。

 多めのアクションの中、任務と私的感情というドラマを掘り下げている。しかし、アクションはカメラが動く上にカットが短すぎて、スピード感や臨場感はあるが、何がどうなっているのかよくわからない。主観のようなカットなので、ときどき敵を見失うこともあるわけで、やはりアクションは第三者の視点もないとカッコ良さは出ないのではないだろうか。だからなのか、アクションが多いわりにちっともボンドのすごさが伝わってこない。使っていたのはワルサーPPK。敵が使う銃と比較すると、あまりに非力過ぎる気がするが……。

 ラストになって、ようやくいつもの007映画のオープニングが出る。銃口からボンドをのぞく絵。これって、つまり話全体が007誕生の物語だから前日談だという意味か。どう見たって現在の話なんだから、無理があると思うんだけど。007映画のパターンではないことの言い訳か?

 主演のダニエル・クレイグは、007だけでなく他の作品にも積極的に出ているところが凄い。たぶん他に出なくても収入は十分なはず。「007/ガジノ・ロワイヤル」(Casino Royale・2006・英/米)の後にガッカリだった大作ファンタジー「ライラの冒険 黄金の羅針盤」(The Golden Compass・2007・米)、ニコール・キッドマン以外見所の無かった「インベージョン」(The Invation・2007・米)、これから公開されるエドワード・ズウィック監督のWWIIもの「ディファイアンス」(Defiance・2008・米)まで出演している。使っていたのは正当派のPPKって、いまどきこの非力な銃でどうなんだろう。サブマシンガンはUMPを使う。後半、敵から奪ってSIG 210とP226も使う。

 絡みの少ないボンド・ガールは、ウクライナ出身の美女、オルガ・キュリレンコ。ゲームを映画化しアクション「ヒットマン」(Hitman・2007・仏/米)で見事な肢体を披露していた人。「007/ガジノ・ロワイヤル」で命を助けてくれた美女ヴェスパーに惚れている設定になっているからか、別れはアッサリ。

 「007/ゴールドフィンガー」(Goldfinger・1964・英)のシャーリー・イートンように全身に原油か何かを塗られて皮膚呼吸ができなくなってベッド上で死ぬボンド・ガール、フィールズは、ジェマ・アタートン。これまではTVでの活躍が多かったようで、大作はこれが初めてのよう。

 ボスのドミニク・グリーンを演じているのは、フランス生まれのマチュー・アマルリック。フランス映画への出演が多いのであまりなじみがないが、スピルバーグの「ミュンヘン」(Munich・2005・米)に出ていて、ダニエル・クレイグと共演しているらしい。どこかで見たと思ったら、そういうことか。

 脚本はポール・ハギス、ニール・パーヴィス、ロバート・ウエイドの3人。ポール・ハギスといえば傑作群像劇「クラッシュ」(Crash・2004・米)、せつない女性のボクシング映画「ミリオンダラー・ベイビー」(Million Dollar Baby・2004・米)、イーストウッドの感動戦争映画「硫黄島からの手紙」(Letters from Iwo Jima・2006・米)、ショッキングなイラク帰還兵のミステリー「告発のとき」(In the Valley of Elah・2007・米)など、人間ドラマを得意とする名手。

 ニール・パーヴィスは傑作18世紀痛快冒険アクション「プランケット&マクレーン」(Plunkett & Maclean・1999・英)を書いた人。007シリーズでは「007/ワールド・イズ・ナット・イナフ」(The World is not Enough・1999・英/米)、「007/ダイ・アナザー・デイ」(Die Another Day・2002・英/米)、その後、本作の前編「007/カジノ・ロワイヤル」(Casino Royale・2006・英/米)を書いている。ということは、傾向が変わったのはプロデューサーの意向が大きいと言うことか。

 ロバート・ウエイドはほとんどニール・パーヴィスと一緒に仕事をしてきた人。残念だったローワン・アトキンソンの映画「ジョニー・イングリッシュ」(Johnny English・2003・英)に一緒に書いている。たぶんコメディは向いていないのだろう。

 プロデューサーはほとんどピアース・ブロスナンがボンドになった「007/ゴールデンアイ」(Goldeneye・1995・英/米)あたりからバーバラ・ブロッコリ、マイケル・G・ウイルソン、カラム・マクドゥガルの主要メンバーは替わっていない。マンネリ化とそれに伴う低迷で、思い切ったてこ入れに出たということか。

 監督はマーク・フォスター。前作の雰囲気を良く受け継いでいると思うが、アクション・シーンはちょっといまひとつかも。笑えるようで笑えないコメディ「主人公は僕だった」(Stranger than Fiction・2006・米)や、サスペンス・ホラーの「ステイ」(Stay・2005・米)、ピーター・パン誕生秘話「ネバーランド」(Finding Neverland・2004・英/米)と、ハズレはないがどちらかというと重くじめっとしたドラマが多い人。ハル・ベリーとビリー・ボブ・ソーントンの競演で話題となった「チョコレート」(Monster's Ball・2001・米加)でハル・ベリーにアカデミー賞をもたらしている。ドイツ生まれのスイス育ちで、完全ハリウッド進出を果たしたようだ。でも、なぜこの人だったのか。

 一部の劇場で先行公開されたが、公式には公開初日の初回、50分前に着いたら新宿の劇場は17〜18人の列。ほぼ中高というか高齢者が多い。女性は5〜6人。ほとんど旦那さんに連れられてきた感じ。寒い日で、45分前くらいに開場。助かった。この時点で30人くらい。

 ペア・シート以外は全席自由。BGMに歴代の007映画のテーマ・ソングが流れていた。携帯ゲーム機で遊んでいる人もいたが、薄暗い劇場では液晶画面が異常に目立つ。予告が始まったら止めてくれれば良いが。15分前くらいから増えだして、最終的には1,064席に6割ほどの入り。先行公開のおかげか。

 やや若い人が増え、下は大学生くらいからいたが、ほとんどは高齢者多めの中高年。

 チャイムが鳴って、案内の後カーテンが上がり明るいままビスタ・サイズで始まった予告は……とにかく明るいままなのでスクリーンが見にくい。暗いシーンは何が写っているかわからないほど。

 まだセガール映画をやるとは驚き。いつも同じ内容で、本人はたいして走りもせず、クォリティが低いのに人が入るんだろうか。もはやタイトルで工夫するしかないのか「雷神」とは! しかもビデオ予告で画質が悪い。なんだかなあ。

 ダニエル・クレイグが主演する第二次世界大戦もの、上下マスクの「ディファイアンス」は、もう1人のシンドラーの話らしい。日本人の外交官でたくさんのユダヤ人を救った人もいるのだが……監督は「ラスト・サムライ」のエドワード・ズウィックなので期待できそう。

 そして、また日本のゲーム会社カプコンの「ストリートファイター」が実写映画化されたらしい。今回の主人公は女性のチュンリー。上下マスクの「ストリートファイター ザレジェンドオブチュンリー」。ただ全体に中国風というか香港映画風で、日本の雰囲気はゼロ。暗いシーンが多く、予告はよく見えなかった。

 手塚治虫原作の上下マスク「MW」は、文字が多くよくわからなかった。どんな映画になるんだろう。

 ニコラス・ケイジが主演する暗殺者映画「バンコック・デンジャラス」は、なんとオキサイド・パンとダニー・パンの面白かったアクション「レイン」のセルフ・リメイクらしい。劇場窓口で前売り券を買うと、ニコラスのピンバッチ2個、コニピンがもらえるのだとか。

 ロシアの「ナイト・ウォッチ」のような雰囲気の上下マスク「ウォッチメン」は、何だか良くわからなかったが、ニコニコ・マークがフィーチャーされていて、「」を思い出させ危険なものを感じた。ただそうではないらしい。DCコミックのようだ。監督は「300」(300・2007・米)のザック・スナイダー。とにかく絵が凄い。期待できるかも。

 ゲイリー・オールドマンが出るアメリカ原作の日本製アクション映画「レイン・フォール/雨の牙」は面白そうだが、いまどきカップ・アンド・ソーサーはないよなあ椎名桔平。


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