The Curious Case of Benjamin Button


2009年2月8日(日)「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」

THE CURIOUS CASE OF BENJAMIN BUTTON・2008・米・2時間47分(IMDbでは166分)

日本語字幕:手書き書体下、アンゼたかし/シネスコ・サイズ(1.33[フィルム、Arriflex 435]、Super 35、2.35[デジタル、CineAlta・VIPER])/ドルビー・デジタル、dts、SDDS

(米PG-13指定)(日本語吹替版もあり)

公式サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/benjaminbutton/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

デイジー(ケイト・ブランシェット)は高齢のため入院しており、付き添っていた1人娘のキャロライン(ジュリア・オーモンド)はハリケーンが近づいていたある日、看護師から別れを告げておくようにアドバイスされる。そんな中、デイジーは今まで読むことができなかったベンジャミン・バトン(ブラッド・ピット)の日記を声を出して読むようにキャロラインに頼む。
1918年、ニューオーリンズに新しい駅ができ、駅舎に飾る記念の時計が時計職人のガトー(イライアス・コティーズ)に依頼された。しかし製作途中、第一次世界大戦での息子の戦死の知らせが届いたため、深く悲しんだガトーは、すべての戦死した人が親の元に帰るようにと逆回転の時計を完成させた。
その年、第一次世界大戦が終了し人々が戦勝に沸き返っていた頃、ボタン会社の社長トーマス・バトン(ジェイソン・フレミング)の妻キャロライン(ジョーアンナ・バトン)は難産の果てに息子を生むと亡くなってしまう。赤ん坊を一目見たトーマスは、恐ろしくなって老人養護施設にわずかな現金とともに置き去りにする。赤ん坊は、まるで80代の老人のような容姿だったのだ。その子を発見した施設の若い黒人看護師のクイニー(タラジ・P・ヘンソン)は、赤ちゃんが産めない体だったために、神様からのプレゼントだとその子を引き取り、ベンジャミンと名付けて育てることにする。ベンジャミンはまったく80歳の老人のようで体も弱っていたが、成長するとともに若返っていき、健康な体になっていった。そして1930年、12歳の時、週末になると老人たちに会いに来る家族たちの中にいたデイジーという7歳の少女と運命的な出会いをする。

87点

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 穏やかに、静かに、人の生と死とそれを結ぶ人生を描いた映画。考えさせられることがとても多く、心に深く残る。老いるとは? 久々に良い映画を見た。しっとりと落ち着いた美しい絵も映画らしく魅力的だし、音楽も優しく、包むようだ。際だって感情を刺激しようという尖ったところがない。極悪人も出てこない。ちょっとおかしな人はたくさんいるが、それがこの世の中なのだろう。普通の人の普通の物語。ベンジャミン・バトンを除いては。

 回想というありふれた手法を使いながらも、それがすでに亡くなった人のものであり、それを自分の娘に読んでもらって初めて聞くという手の込んだものにしている。だから回想の中の主人公と、現在進行中の病院の中での主人公は別な人物だ。それでも、雰囲気としてはきわめて「タイタニック」(Titanic・1997・米)に似ている気がした。誰にでもドラマチックな人生があったのだと。ちょっと「きみに読む物語」(The Notebook・2004・米)にも通じる話。

 うまいのは、見た目は老人でありながら、子供である主人公を老人と一緒に暮らさせたこと。老人たちも見た目が似ているから、受け入れやすい。こうして子供の視点を老人養護施設という老人たちの中に置くことで、教訓臭くなく、子供が感じたままの死を語らせている。老人たちはしばらくいた後いなくなり、そしてまた新しい老人が入ってくる。順番待ちをしているようなものだと。そして多くの死を見ているから、ベンジャミン・バトンも自分の老化を感じると自ら姿を消してしまう。

 老人たちが語る人生訓は、真実みがあって深い。……神は与えて、そして奪う。人々はやってきて、そして去る。お呼びが来たら行くだけ。順番を待っているようなもの。人はみな孤独だ。時間がこぼれて無くなっていく。過ぎた時間はもどせない。何をやるにも遅すぎるなんてことはない。失敗したらやり直せばいい。……なかなか肉親でも教えてくれないこと。しかもお説教臭くなく!

 重い話なのに、笑いもちゃんとちりばめられている。7回も雷に打たれたおじいちゃんの話は笑える。動物園の檻に入れられていたというピグミー族の男も、前向きで明るい。自分を哀れんだりもしない。黒人看護師のクイニーも元気で明るいし、夫となるシェフのディジーも卑屈なところがちっともなく優しい。デイジーだけが深く悩むが、その気持ちが良くわかり、理解できる。

 特殊メイクと特殊効果が素晴らしい。80代の顔をした老人で、背が小さいのに、間違いなくブラッド・ピットなのだ。どうやって撮影したのだろう。「ロード・オブ・ザ・リング」(The Lord of the Rings: The Fellowship of the Ring・2001・米/ニュージーランド)のホビットのような方式だろうか。まさに小さい人がそこにいるかのよう。20代のピットは「リバー・ランズ・スルー・イット」(A River runs through It・1992・米)に出た頃のようで、絵に描いたような美男子。ビックリだ。ケイト・ブランシェットも同様で、ひょっとしたらピーク時の姿はすべての出演作の中でもっとも美しいかもしれない。観客は思わず2人に恋してしまうほど。

 本作では、だいたい女優がみなキレイに撮られている。ロシアでの不倫相手人妻の、エリザベス・アボットも、きわどいシーンなどないのに妙にエロティックな雰囲気が漂っているしキレイ。撮影はクラウディオ・ミランダという人。デジタル撮影なのできわめて鮮明だが、デジタルを感じさせない独特の暖かみを出している。長年デビッド・フィンチャー監督の下で照明の仕事をしていたようで、大作の撮影は本作が初めてらしい。

 銃撃戦もリアルで恐ろしく、そして美しい。ベンジャミン・バトンが就職するタグ・ボートが海軍に所属してM2ブローニングを搭載する。そしてナチスのUボートに襲撃された現場へ最初に駆けつけると、そこへUボートが浮上してきて撃ち合いになる。UボートにはMG42。夜の海で、トレーサーが使われているので、5発に1発オレンジ色の光が飛んでくる。デジタルだとは思うが、これが怖い。身を隠した船体のすぐ近くを貫通する。そして弾道の放物線もリアルで、弾速が徐々に遅くなる感じがまた実弾っぽいわけだ。音も怖かった。

 映画版原案を手がけたのは、ロビン・スウィコードとエリック・ロスの2人。女性ライターのロビン・スウィコードは初稿を1990年に書き上げたらしい。これにエリック・ロスが手を加えて脚本にしたようだ。過去にはロブ・マーシャル監督の「SAYURI」(Memories of a Geisha・2005・米)の脚本を手がけている。

 エリック・ロスは「フォレスト・ガンプ/一期一会」(Forrest Gump・1995・米)や「モンタナの風に抱かれて」(The Horse Whisperer・1998・米)、「ミュンヘン」(Munich・2005・米)などの脚本を手がけたベテラン。素晴らしい作品が多い人。

 監督はデビッド・フィンチャー。ILMで特殊効果をやっていた人で、凝ったビジュアル作りが特徴。「エイリアン3」(Alien 3・1992・米)で監督デビューしたものの、シガーニー・ウィーバーとの間で銃は使わないという約束があったとかで、シリーズ中最も残念な仕上がりになっている。その後、「セブン」(Seven・1995・米)、「ゲーム」(The Game・1997・米)、「ファイト・クラブ」(Fight Club・1999・米)、「パニック・ルーム」(Panic Room・2002・米)など暴力があふれるショッキングな話題作を作ってきた。必ずしも後味が良かったわけではないが、本作は正反対のような雰囲気。

 子供を捨てる父親を演じているのは、ジェイソン・フレミング。大作から低予算までさまざまな作品に出ている人で、強烈だったのはジョージ・A・ロメロ監督の「URAMI〜怨み〜」(Bruiser・2000・米)と「ザ・グリード」(Deep Rising・1998・米)。どちらも邦題が酷いが面白かった。つい最近、あまり重要な役ではなかったがキーファー・サザーランドのホラー「ミラーズ」(Mirrors・2008・米ほか)に刑事役で出ていた。

 心優しい育ての母クイニーを演じたのは、タラジ・P・ヘンソン。なんとハード・アクションの「スモーキン・エース 暗殺者がいっぱい」(Smokin' Aces・2006・米)で女殺し屋のスナイパーを演じていた人とか。まったくイメージが違う。マーク・ウォールバーグのアクション「フォー・ブラザーズ/狼たちの誓い」(Four Brothers・2005・米)にも出ていたらしい。

 その夫、ディジーを演じたのはマハーシャラルハズバズ・アリという人。TVドラマの「4400未知からの生還者」で、4400の1人を演じていた。

 冒頭の時計職人ガトーを演じたのは、イライアス・コティーズ。まあ、よく憎たらしい悪役をやっている人で、シュワルツェネッガーの「コラテラル・ダメージ」(Collateral Damage・2001・米)でもかなり憎たらしかった。最近は傑作アクション「ザ・シューター/極大射程」(Shooter・2007・米)でも憎たらしい悪役。本作も変わった役だが、こんな役は珍しい。

 病院で付きっているデイジーの娘を演じたのは、ジュリア・オーモンド。なかなか面白かった「ノストラダムス」(Nostradamus・1994・仏ほか)や、ショーン・コネリーとリチャード・ギアの「トゥルー・ナイト」(First Knight・1995・米)に出ていた。最近では「チェ 28歳の革命」(Che: Part One・2008・仏ほか)にも出ている。今回は衣装を含め、なんだか「アビス」(The Abbys・1989・米)のメアリー・エリザペス・マストラントニオに似ていた気がするが……。

 ロシアのホテルで知り合う有閑マダム、エリザベスはティルダ・スウィントン。「ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女」(The Chronicles of Narnia: The Lion, the Witch and the Wardrobe・2005・米)の白い魔女を演じていた人。最近ではジョージ・クルーニーの訴訟ドラマ「フィクサー」(Michael Clayton・2007・米)で、製薬会社の重役を演じていた。今回は全く違ってエロティックな雰囲気。うまい。

 とにかく愛らしくて輝いていたのは、7歳のデイジーを演じたエル・ファニング。かつてのダコタ・ファニングくらいのインパクトがある。それもそのはずで、ダコタ・ファニングの妹。1998年生まれというからまだ11歳。金髪で青い目、整った顔立ち、凜とした雰囲気がすばらしい。ベンジャミン・バトンならずともこの出会いは運命を感じるだろう。ダコタ・ファニングの「I am Samアイ・アム・サム」(I am Sam・2001・米)ではダコタ・ファニングの2歳の時を演じていたんだとか。さらに傑作SFミステリー「デジャヴ」(Deja Vu・2006・米)にも出ており、「バベル」(Babel・2006・米)では、メキシコ人ベビー・シッターのエピソードで登場。直接ではないがブラッド・ピットと共演している。

 公開2日目の初回、前日に座席を確保しておいて15分くらい前に着いたら、銀座の劇場はちょうど開場したところ。スクリーンはビスタで開いていて、5分前くらいから案内を上映。

 最終的に2F席は8割ほどが埋まったが、1Fはそれほどでもなかった模様。ほとんど中高年で、男女比はほぼ半々。

 ついに上下マスクの「ターミネーター4」の予告が開始。ただ、劇場予告ではカットが速すぎて何が何だかよくわからない。サイトの予告編を見るとどうも機械対人間の戦いが描かれるようだ。ちょっとトランスフォーマーみたいで不安はあるが、主演がクリスチャン・ベールなので大丈夫か……。6/13公開

 上下マスクの「ザ・バンク」は、クライヴ・オーウェンが銃を乱射してるので、あのファンタジー・ガン・アクションおバカ映画「シューテム・アップ」(Shoot'em up・2007・米)を連想してしまうが、ナオミ・ワッツも出ているので、そんな酷いことになっていないだろう。

 上下マスクの「ヤッターマン」はついに新バージョンでの予告。あの櫻井翔もハジケてるし、ドロンジョの深田恭子もイロっぽくていい感じ。面白そう。本気ジョーダン。こうでなきゃ。監督は傑作ヒーローもの「ゼブラーマン」(2003・日)の三池崇史。期待できる。

 ウィル・スミスの少しだけ上下マスクの「7つの贈り物」は、「幸せのちから」(The Pursuit of Happynes・2006・米)の雰囲気のハート・ウォーミング・ストーリーらしい。「ハンコック」(Hancock・2008・米)のあとだけに、ここでがんばっておかないと。

 イーストウッドの上下マスク「グラン・トリノ」は、頑固で孤独な老人が、車を盗もうとした隣の少年との交流を通して変わっていくという物語らしい。ちょっと「ウォルター少年と、夏の休日」(Secondhand Lions・2003・米)のもう少し大人版のシリアス版という感じか。予告編だけで泣きそうになってしまった。

 「ハリー・ポッターと謎のプリンス」はちょっと長い新バージョンでの予告。7/17公開らしい。


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