Changeling


2009年2月22日(日)「チェンジリング」

CHANGELING・2008・米・2時間22分(IMDbでは141分)

日本語字幕:手書き書体下、松浦美奈 /シネスコ・サイズ(マスク、with Panavision)/ドルビー・デジタル(新マーク)、dts、SDDS

(米R指定、日PG-12指定)

公式サイト
http://www.changeling.jp/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

1928年、アメリカ・ロサンゼルス、シングル・マザーのクリスティン・コリンズ(アンジェリーナ・ジョリー)は、電話交換手のチーフをしながら9歳の息子ウォルター(ガトリン・グリフィス)を育ていた。3月10日、休みの日だったにもかかわらず、交換手に病欠が出たため代わりに出勤したクリスティンがは4時までの約束だったが忙しく遅れて帰宅する。すると息子の姿がなく、警察に電話するが子供の場合は24時間待ってから捜査するという。しかし息子は戻らず、手がかりも全くなかった。警察に批判的な長老教会のグスタヴ牧師(ジョン・マルコヴィッチ)らから警察の怠慢という非難が続けられる中、5ヵ月後、LAPD(ロサンゼルス市警)の事件担当のジョーンズ警部(ジェフリー・ドノヴァン)から、ウォルターが見つかったという報せを受け取る。しかし、駅に迎えに行ったクリスティンが目にしたのは、息子とちょっと似た別人だった。クリスティンはそれを訴えるが、これで事件を終わりにしたい警察は受け付けず、クリスティンを精神病院に強制収容してしまう。

82点

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 実話の映画化。なんという恐ろしい話。なんという悲惨な話。警察が大きな権力を持ち、もっとも腐敗していた頃のことなんだとか。最初は単に誘拐事件に巻き込まれた女性の悲劇を描いたものだと思っていたのだが、それだけではなく、ちゃんとその後ろで起こっていた猟奇事件をもちゃんと描き、スリリングなミステリーのように解決してみせる。

 イーストウッド自身の作曲によるという穏やかで悲しい曲と、時代感をよく再現したビジュアル(建物、ファション、乗り物……)などがすばらしい。女性も言葉遣いが良いようで、主人公もここぞと言うところでしかののしらない。これは日本も似た傾向があるようで、昔の日本映画など見ると、悪役でもていねいにしゃべっていたりする。この辺もうまい。

 母親が息子に教える言葉は、そのまま母親の行動規範でもあるようだ。そしてひょっとしたらイーストウッドの信念なのかもしれない。それは「ケンカを売るな、ケリはつけろ」というもの。クリスティンも最後まで戦い抜く。

 すごいなあと思うのは、こういったゴリ押しを警察がやってしまうことだが、それをこうして映画として描けることもスゴイと思う。そして、その事件が起こった時、ちゃんと正義の判断を下すことができたというところもスゴイ。日本じゃ曖昧に片付けられそうだし、そういう恥部は描くなということになりそうだ。

 主演のアンジェリーナ・ジョリーは渾身の演技。時代を反映した古風なファッションが似合っているし、精神病院に入れられ、全裸で放水を浴びせられたり、ほとんど全編で泣き続けている。アンジェリーナ・ジョリーはあるインタビューで、イーストウッドの役者の使い方がうまく、この人のためなら何でもしようという気になると答えていた。それが画面に現れている。「ウォンテッド」(Wanted・2008・米)とは違う強さをもった女性像が素晴らしい。しかも実話だ。

 警察の腐敗を追及するグスタヴ牧師を演じたのはジョン・マルコヴィッチ。最近はパっとしなかった気がするが、1990年代は活躍していたような。ウォルフガング・ペーターゼン監督の「ザ・シークレット・サービス」(In the Line of Fire・1993・米)でイーストウッドと共演している。

 クリスティンを精神科病院送りにするジョーンズ警部はジェフリー・ドノヴァン。TVで活躍していたようで、映画は見ていないが「最後の恋のはじめ方」(Hitch・2005・米)あたりか。地味だが、説得力があった。これを機に映画出演が増えるかも。

 本部長はちょっとしか出ていないが、悪役の多いコルム・フィオール。ジョン・ウーのSFアクション「ペイチェック消された記憶」(Paycheck・2003・米)、ジム・カヴィーゼルの「ハイウェイマン」(Highwaymen・2003・加)などに出ている。

 誘拐されるウォルターを演じたのはガトリン・グリフィス。とてもかわいい子で、これまでTVで活躍していたようだが、新作が3本も待機中と言うからスゴイ。今後活躍しそうだ。

 変態野郎が使っていた銃はウインチェスターM1897ショットガン。ピックアップ・トラックの荷台にあって、手を伸ばした時は怖かった。

 脚本はJ・マイケル・ストラジンスキー。TVの人で、「トワイライトゾーン」、「ジェシカおばさんの事件簿」「バビロン5」などを手がけている。劇場作品は本作が初めてではないだろうか。よくまとまっている脚本だと思う。新作は4本も控えている。

 監督はクリント・イーストウッド。名優にして名監督だが、1930年生まれだからもう79歳。本作の方に、監督・主演の「グラン・トリノ」がもうすぐ公開される。「ミスティック・リバー」(Mystic River・2003・米)あたりから音楽も担当しているというのだから驚く。だいたい最初の監督作品「恐怖のメロディ」(Play Misty for Me・1971・米)からして、相当に出来が良く、怖かった。

 公開3日目の初回、前日に座席を確保しておいて(時間と電車賃が……)20分前くらいに着いたら、新宿の劇場はまだ開場していなかった。10館共通のロビーも初回のためかイスが一部空いていて座ることができた。次第に人が増えてきて、10分前くらいにようやく開場。エスカレーターで上がると、すでに案内を上映。スクリーンが明るいのでよく見える。

 かなり暗くなって始まった予告は……松山ケンイチ主演の上下マスク「カムイ外伝」は日本映画とは思えないほど良い音とサラウンド感。内容はわからないが、映画っぽくて、面白そう。

 上下マスクの「GOEMON」はどう見ても3D-CGアニメにしか見えなくて、ゲームのデモ映像のような感じ。やっぱり「CASSHERN」(2004・日)のようになるんだろうか。同じく上下マスクのイーストウッドの「グラン・トリノ」は新予告に。イーストウッドがチンピラたちに向かって指鉄砲で撃つ真似をしてみせるシーンがめちゃくちゃカッコ良い。おお、ハリー・キャラハンだ! これだけで見たい気にさせる。

 上下マスクの「オーストラリア」は公開直前ということで新しい予告に。とにかく絵がスゴイ。日本はどれくらい悪者なんだろう。スクリーンが左右に広がってシネスコになってから左右マスクで「ワルキューレ」の予告。すごい迫力。画質も素晴らしい。でも、なぜシネスコになってから? 新予告だが、さすがに完全に暗くないので、暗いシーンは新しい劇場でも辛い。「レッドクリフ パート2」は内容は全くわからないが、完結編ということを伝えれば前作がヒットしているので充分なのだろう。いきなりハトが飛んでマス。

 予告はややピンがあまかったようだが、暗くなって本編が始まったら気にならなかった。最終的には287席に6割くらいの入り。中高年がメインで、若い人はちょっと。男女比は半々くらいか。


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