Valkyrie


2009年3月21日(日)「ワルキューレ」

VALKYRIE・2008・米/独・2時間00分(IMDbでは121分)

日本語字幕:手書き書体下、戸田奈津子/ビスタ・サイズ(1.85、Arriflex、Super 35)/ドルビーデジタル(新マーク)、dts、SDDS

(米PG-13指定)

公式サイト
http://www.valkyrie-movie.net/
(入ったら音に注意。画面極大化。全国の劇場案内もあり)

第二次世界大戦中期の1943年、東部戦線でヘニング・フォン・トレスコー少将(ケネス・プラナー)によりヒトラー搭乗機爆破計画が進められていた。ちょうどその時、ドイツ国内ではハンス・オスター大佐が指揮するヒトラーに対するレジスタンス・グループが検挙された。しかし爆弾が爆発しなかったため、あわてて偽装爆弾を回収するが、疑いの目を向けられてしまう。同じ頃、北アフリカ戦線で重傷を負い片眼と右手首と、左の指2本を失ったクラウス・シェンク・フォン・シュタウフェンベルグ大佐(トム・クルーズ)は、本国へ戻るとオスター大佐の後がまを捜しているトレスコー少将からレジスタンスへ誘われる。シュタウフェンベルグ大佐は、ドイツにはヒトラー以外のドイツ人もいることを世界に示すため、祖国のため、戦争を早く終わらせるため、ヒトラーが暗殺された時に発動される「ワルキューレ作戦」を利用しヒトラーを暗殺してSSのクーデターに見せかけ、政権を奪取する計画を立てる。

84点

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 実話の映画化。史実ではヒトラーは1945年4月30日に自殺しているので、1944年7月20日の作戦は失敗することがわかっているのに、はらはらドキドキし、そして感動する。ラストのクレジットによれば、妻は2006年に亡くなったという。

 何回も暗殺計画は失敗し、シュタウフェンベルグ大佐の計画も中止になったり、ばれそうになり、やっと遂行という時に計画には大きな狂いが生じてしまう。このサスペンス。うまい。政権を奪うための計画もさすがに見事。それが失敗する過程も、実話だからあたりまえだが、実に説得力がある。

 ヒトラーの無謀な作戦により、たくさんの味方兵士が死んで行き、市民までもが虐殺される。それを止めようとしたドイツ人も多かったが、結局、絶大な権力を持つ男に逆らうことができない状態が続いていたと。さらには、ヒトラーはいち税官吏の息子であり、第一次世界大戦では伝令兵で、伍長に過ぎなかったことと、ナチス党員ではない彼の部下である上級将校たちはほとんど貴族出身であることを考えると、対立の構図はすでにあったし、不満はどんどん募っていたということもあるのだろう。その辺を匂わすところも映画に織り込まれている。たとえば予備役の部隊の指揮官は、無駄足に終わった緊急配備の命令を伝える伝令兵に「ギリシア時代は伝令兵は殺されたものだ」と言い放つ。

 しかも冒頭にあるように、軍人たちはヒトラーに忠誠を尽くすことを宣誓していた。簡単に神聖なる誓いを破ることは、貴族としての誇りと名誉が許さなかった。

 ドイツの話で、登場人物もほとんどドイツ人なので、違和感がないように最初だけドイツ語になっている。そしてボイス・オーバーするように英語が被さって英語になっていく。トム・クルーズのドイツ語も、かなり練習したのだろう、それらしく聞こえた。

 登場する兵器類にもこだわりが見られ、冒頭の1シーンしかない北アフリカの戦場シーンではドイツの軍用車両が多数出ている。キューベルワーゲン、クルップの6輪風トラック、Sd.Kfz222風4輪装甲車、長砲身のIV号風戦車……などなど。スチルを見ると切った貼ったでそれらしく作ったもののようだ。1シーンのために……。機銃掃射をかける航空機はカーチスP40ウォーホークあたりか。イギリス軍のマークのようだったから、イギリスに供与されたものという設定だったのかも。ヒトラーを乗せてくる輸送機は三発のユンカースJu52だろうか。2機揃ってターンするところを上空から捉えた絵が抜群に美しかった。

 銃器は20mm FLAK38らしい機関砲が、迫力の発砲音。飛行機のエンジンの音も恐ろしかったが、劇場全体が振動するような感じ。MP40サブマシンガン、Kar98kライフル、MG34などの定番。トム・クルーズが持っているのはワルサーPPK。戦場で右手首を失ったため、机に引っかけてスライドを操作するところがリアル。前半の撃たない時は全体がつや消しでチャンバーも黒かったからトイガンだったのかも。後半撃つ時は、ツヤツヤでチャンバーがシルバー。

 使われた爆薬はプラスチック爆弾で、デトネーターはイギリス製だと言っていた。ペンチで強く挟むと内部の薬品が混ざって反応を起こし10分ほどで爆発するという。これがまた、サスペンスを盛り上げることになる。

 面白かったのは軍服。一般兵士は支給品なので違いはないが、将校は仕立屋に作らせることが多かったらしく、それぞれに生地が違ったり微妙な違いがある。それが再現されていた。よく見ると将校たちはみなまちまち。そういえば、窓ガラスもゆがみが多く、時代を感じさせるものになっていた。

 シネスコにしなかったのは、やはり緊迫感あふれるタイトな絵にしたかったからだろう。戦闘シーンがほとんどないので、スペクタクルとか必要ないわけだし。

 主人公の名前は英語ではシュタウフェンバーグと言っていたし、作戦名もヴァルキリーと言っていた。ドイツ語読みするとシュタウフェンベルクとヴァルキューレだろう。日本語ではなぜかシュタウフェンベルグ(字幕、パンフではドイツ語読み)とワルキューレになるわけだ。ワルキューレの意味は戦死者を運ぶ者だそうだ。

 キャストはオールスターのように豪華。主役のクラウス・シェンク・フォン・シュタウフェンベルグ大佐のトム・クルーズを筆頭に、陸軍参謀総長を辞任したルードヴィヒ・ベックに「世にも怪奇な物語」(Tre Passi Nel Delirio・1967・仏/伊)の名優テレンス・スタンプ。シュタウフェンベルグを選んだレジスタンスの中心人物、国内予備軍副司令官フリードリヒ・オルブリヒト将軍に「アンダー・ワールド:ビギンズ」(Underworld: Rise of the Lycans・2009・米)のビル・ナイ。暗殺に失敗し東部戦線に送られるヘニング・フォン・トレスコー将軍にオペラを映画化した「魔笛」(The Magic Flute・2006・英)のケネス・ブラナー。日和見な国内予備軍司令官フリードリヒ・フロム将軍に「ロックンローラ」(Rocknrolla・2008・英)のトム・ウィルキンソン。シュタウフェンベルグ大佐の妻ニーナに「ブラックブック」(Zwartboek・2006・蘭ほか)のオランダ人女優カリス・ファン・ハウテン。予備軍の指揮官オットー・エルンスト・レーマー少佐は「戦場のピアニスト」(The Pianist・2002・仏ほか)のドイツ人俳優トーマス・クレッチマン……という具合。ほかにもどこかで見た俳優さんが多く出ていた。役名を見てみるとVonが付いた人が多い。これは貴族の家柄であること示すものだというから、レジスタンスに貴族が多かったことがよくわかる。

 製作・監督はブライアン・シンガー。30歳の時に監督した「ユージュアル・サスペクツ」(The Usual Suspects・1995・米)が大ヒット。多くの賞も受賞して世界中の注目を集めるようになった。その後「ゴールデンボーイ」(Apt Pupil・1998・米)で生き残りのナチス将校を描き、SFアクションの「X-メン」(X-men・2000・米)でもナチスの捕虜収容所を描いていた。彼にとって興味あるテーマだったのだろう。とにかくすごい才能だと思う。

 脚本はクリストファー・マッカリー。ブライアン・シンガーの大学時代の同級生で、彼のデビュー作の脚本も書いている。「ユージュアル・サスペクツ」も手がけ、ベニチオ・デル・トロとライアン・フィリップが共演した痛快アクションの「誘拐犯」(The Way of the Gun・2000・米)では脚本と監督も手がけた。もう1人の脚本、ネイサン・アレクサンダーはコプロデューサーも務めているが、本作が初めての劇場長編作品らしい。

 タイトな画面を作り上げた撮影監督はニュートン・トーマス・サイジェル。「ユージュアル・サスペクツ」からほとんどのブライアン・シンガー作品を手がけているようだ。最近ではジョージ・クルーニーの「かけひきは、恋のはじまり」(Leatherheads・2008・米)。

 衣装はスティーヴン・スピルバーグとの仕事が多いジョアンナ・ジョンストン。過去に「プライベート・ライアン」(Saving Private Ryan・1998・米)も手がけている。最近作は「スパイダーウィックの謎」(The Spiderwick Choronicles・2008・米)。やはり将校1人1人の違いを出すのに苦労したらしい。

 アーマラー(武器係)はエンド・クレジットではマイク・パパックとなっていたが、IMDbでは、他にヴィンセント・ジョセフ・フラーティも挙げられていた。どうやらマイク・パパックと一緒に仕事をしている人らしい。最近作は2人ともジェイソン・ステイサムの「デス・レース」(Death Race・2008・米)。

 処刑の際、副官のヴェルナー・フォン・ヘフテン中尉がシュタウフェンベルグ大佐をかばうようにして撃たれるが、映画の演出かと思ったらこれも史実どおりらしい。やはり貴族的行動なのだろう。ただ、あの近距離でライフル弾を受けたら貫通してシュタウフェンベルグにも当たってしまうと思う。

 公開3日目の初回、新宿の劇場は前日に座席を確保しておいて、15分くらい前に着いたらまだ開場していなかった。10分前に開場になって、エスカレーターで上の階へ。これが時間がかかる。トム・クルーズということでか、WWIIものなのに大学生くらいの若い人も多く、老若比は半々くらい。男女比もほぼ半々くらい。

 最終的に232席に4割ほどの入りはちょっと少ないのでは。10分しかないのでトイレに行ってくると本など読んでいる余裕はない。すぐ半暗になってCM・予告が始まった。

 気なった予告編は……上下マスクで銃のアップから始まる「パニッシャー:ウォーゾーン」は、タイトルどおり銃撃戦満載の映画らしい。上下マスクのイーストウッド作品「グラン・トリノ」は新予告に。手で銃の形を作り脅すシーンもカッコ良いが、どうやらM1ガーランドを使うらしい。当然ピストルはガバメント。予告だけでも感動する。見たい。上下マスク「レッドクリフ」も新予告に。「ノウイング」はとにかくミスリアスで興味津々。どんな内容なのかはさっぱりわからないが。

 暗くなって、状況説明の日本語の文字から本編へ。

 ときどき撮影室の灯りが点き、それが客席まで漏れてきて気になった。映写室が客席に近いのでもっと気を使って欲しい。

 久しぶりにプログラム(600円)を買った。「ドギュメント ヒトラー暗殺計画」の役者の解説や、歴史年表、キーワード解説、事件に関わった人物の紹介などもあり、資料としても価値がある。読み応え充分。おすめ。


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