Burn After Reading


2009年5月2日(土)「バーン・アフター・リーディング」

BURN AFTER READING・2008・米/英/仏・1時間33分(IMDbでは96分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、石田泰子/ビスタ・サイズ(1.85)/ドルビーデジタル、dts、SDDS

(米R指定、日PG-12指定)

公式サイト
http://burn.gyao.jp/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

CIAの情報分析官オズボーン(ジョン・マルコヴィッチ)は飲酒を理由に左遷されることになったが、逆ギレして自分から止めてしまう。オズボーンの妻ケイティ(ティルダ・スウィントン)は、女好きの連邦保安官ハリー(ジョージ・クルーニー)と不倫中で、夫と別れるため夫のPCから様々な情報を引き出してCD-Rに焼き、弁護士に渡していた。ところが、その弁護士がスポーツ・ジムでそのCD-Rを落としてしまったことから大変な事態になる。それを拾った従業員のチャド(ブラッド・ピット)とリンダ(フランシス・マクドーマンド)は、国家の機密情報だとにらみ、持ち主のオズボーンを探し出し、ゆすりを掛ける。

73点

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 うーん、まちがいなくコーエン映画という感じではある。小さい事件がジグソウ・パズルのように組み合わさって、大きな事件に発展していくその感じ。そして、シリアスな状況を冷ややかに、また時に皮肉るようにブラックなジョークにしてしまうのも、そう。これは一歩間違えば(?)「ファーゴ」(Fargo・1996・米)になっていたかも。しかし、そうはならなかった。

 とにかく、基本的に出てくるヤツは悪いやつばっかり。悪くなくても、結果として悪いし、変人というか妙に偏った人物ばかり。これが感情移入をしにくくさせているのと、不快さを助長している。登場人物が怒鳴ったり叫んだりしたりすると、どんどん不快になる。そういう意味では「ビッグ・リボウスキ」(The Big Lebowski・1998・米/英)に近いかも。

 結局、この結末はこれだけ大騒ぎして、人が死んで、何もなかったのと同じ。一切問題は解決していない。登場人物が語るように「何も学ぶことはない」。ナンセンス。そもそも流出した情報自体が重要なものではない。たぶんそれが狙いなのだろう。でもそれでは観客は満足できないのでは。

 物語の核となるCIAの変人分析官オズボーンを演じたのはジョン・マルコヴィッチ。相変わらず名演技で怖い。つい最近イーストウッドの「チェンジリング」(Changeling・2008・米)で主人公を擁護する牧師を演じていた。使っていた銃はSIGのP225か229かと思ったが、imfdbではカーK9とあった。それより怖いのは小型の手斧だ。これで捜査官をめった打ちにするシーンは1カットで血も流れてきて、とてもリアルで恐ろしい。まさにコーエン映画。

 とても仕事ができるようには見えない女好きの連邦保安官のハリーを演じたのは、ジョージ・クルーニー。二枚目で役にピッタリ。軽い感じが絶妙にうまい。アップサイド・ダウン・ショルダー・ホルスターにリボルバー(S&WのM13らしい)を入れている。

 1人得した感じの、男あさりを続ける全身整形願望ハイ・ミス・インストラクター、リンダを演じたのは、フランシス・マクドーマンド。整形のための診断では、だぶついた肉体をさらけ出している。コーエン兄弟の劇場長編映画デビュー作の「ブラッド・シンプル」(Blood Simple・1984・米)でデビューし、ほとんどすべてのコーエン兄弟作品に出演している。なんとジョエル・コーエンと1984年に結婚したのだとか。やっぱり一番良かったのは「ファーゴ」だと思う。最近見たのはシャーリーズ・セロンのSFアクション「イーオン・フラックス」(Aeon Flux・2005・米/独)か。

 いつもiPodを付けているおバカなスポーツ・クラブのインストラクター、チャドを演じたのはブラッド・ピット。お気軽な感じが抜群にうまい。その分、頭を撃ち抜かれるシーンは衝撃的。自分のことをサマリア人と言っていたが、どういう意味なのかよくわからなかった。公開を控えている映画が5〜6本もあり、相変わらず凄い人気ぶり。

 ハリーと不倫中の、氷のように冷たいオズボーンの妻ケイティを演じたのは、ティルダ・スウィントン。冷酷な感じが良く出ていた。「ナルニア国物語 第1章:ライオンと魔女」(The Chronicles of Narnia: The Lion, the Wotch and the Wardrobe・2005・米/英)の白い魔女を演じた人。クールな役が多いが、ブラッド・ピットと共演した「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」(The Curious Case of Benjamin Button・2008・米)では珍しく女性っぽい役を演じていた。ジョージ・クルーニーとは「フィクサー」(Michael Clayton・2007・米)で共演している。

 監督・製作・脚本・編集を手がけているのがイーサン・コーエンとジョエル・コーエンのコーエン兄弟。「ノーカントリー」(No Country for Old Men・2007・米)で監督賞と脚本賞、作品賞を受賞している。「ファーゴ」以外だと「ミラーズ・クロッシング」(Millor's Clossing・1990・米)がよかった。いずれもかなり残酷表現というか暴力表現はキツイ。

 ラストにかかるCIAを小馬鹿にしたようなCIAマンの歌はキョーレツ。よく怒られないものだと思う。また劇中CD-RはPCかMacか聞くシーンがあって、アメリカでもそうなんだと妙に感心した。

 エンド・クレジットはちょっと文字がアニメーションで入るシャレたもの。タイトル・デザイナーが作ったのかどうかは不明。もしそうだとしたらJ.ジョン・コーベットという人か。コーエン映画を多く手がけている人で、「ノーカントリー」もそう。「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」(Charlie Wilson's War・2007・米)なんかも手がけている。

 公開9日目の初回、銀座の劇場は全席自由で、60分前くらいに着いたら3人並んでいた。2つの劇場共通なので、本作を見る人かは不明。やや若い男性2人と女性が1人。50分前くらいに窓口が開いて、前売り券を当日券と引き替え後、地下の階段下へ。20分前くらいに開場となって、この時点で2館あわせて30人くらい。

 最終的には654席に4割くらいの入り。まあこんなものか。消して楽しい映画ではない。4対6くらいで女性の方が多く、ほとんどは中高年。

 スクリーンはビスタで開いていて、予鈴の後アナウンスがあって、本鈴。いつもながら訳のわからないキューピーのCMに続いて始まった予告編で気になったのは……上下マスクの「ハゲタカ」は、またまたTVドラマの映画化らしい。ただNHKというところが新しいか。「世の中金だ」というのが強烈。フジTVの制作、上下マスクの「アマルフィ 女神の報酬」はイタリアで発生した日本人少女誘拐事件に大使館の外交官、織田裕二が挑むというものらしい。ちょいと面白そう。

 上下マスクのディズニー映画「ウィッチマウンテン ―地図から消された山―」は、何だかよくわからなかったが、凄いビジュアルとSFっぽい「X-File」的な謎で面白そう。公式サイトの予告を見た方が概要がわかる。

 上下マスクの「消されたヘッドライン」は、なにやら巨大な陰謀に挑むジャーナリストの話らしい。アクションたっぷりで面白そう。「愛を読むひと」は新予告に。前のバージョンよりは重くなく、意外と面白いのかもしれない。でも重く、泣きそうな感じ。

 暗くなって「ブレードランナー」風の未来の街のドルビーデジタルのデモの後、本編の上映。


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