The Chaser


2009年5月9日(土)「チェイサー」

THE CHASER・2008・韓・2時間05分

日本語字幕:丸ゴシック体下、根本理恵/シネスコ・サイズ(マスク、Super 35、Arri)/ドルビーデジタル

(韓18指定、日R-15指定)

公式サイト
http://www.chaser-movie.com/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

風俗派遣をやっている元刑事のジュンホ(キム・ユンソク)は、最近、契約金を払ったばかりの女の子が3人も消えていたため用心深くなっていた。仕事は忙しく、風邪で休んでいた7歳の娘(キム・ヨジョン)をもつ風俗嬢のミジン(ソ・ヨンヒ)も出勤させるほど。そんな時、仕事用の車の中に失踪した風俗嬢の携帯電話が落ちているのを見つける。番号履歴を見ると、最後の客が4885の携帯から掛けてきたことがわかるが、その番号こそつい先ほどミジンを呼び出した客だった。ジュンホはミジンに適当な理由をつけて外に出てくるように言い、ミジンが車を止めた近くまで行く。ところがミジンは家に閉じ込められ、携帯の通じない地下室にいたため、それ以上の連絡を取ることができなかった。

75点

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 何と恐ろしい映画。まるで悪夢のような2時間だった。後味もあまりよろしくない。暴力表現はリアルで、血はまさに本物のようなどす黒さ。刃物や銃ではなく、ハンマーとノミで打撃するというのが怖い。まるで「オールド・ボーイ」(Oldboy・2003・韓)の暴力団との戦いを彷彿とさせる。そして殺戮シーンの雰囲気は「ソウ」(Saw・2004・米/豪)のようだ。

 ヒントになったのは実際に韓国で起こった5年前の21人連続殺人事件だという。警察が誤った介入をしたことで被害が拡大したともいわれていて、本作でもその点が強調されている。日本でも同様の展開が多い。初動捜査のミス。韓国の場合、逮捕しても24時間以内に証拠が挙がらなければ釈放しなければならないらしい。それがまた悲劇を招いてしまう。

 韓国映画ならではなのかもしれないが、こんな恐ろしいリアルな話の中にも、ちょっとしたギャグというかユーモアが盛り込まれている。その辺もこの映画の凄いところ。恐怖を軸に喜怒哀楽がすべて含まれている。ただ、最後まで殺戮者の動機は明かされない。実際、他人にはわからないことだろうし、本人も語らない。だから余計に恐ろしいのかもしれない。ただ性的不能者で、やりたいのにできないことから犯行に走ったのではないかと暗示されるね。それだと兄夫婦の子供の頭を割ろうとした説明はできないが。

 若干遠回りな感じがするところもあるが、緻密な脚本を書き上げ、実に恐ろしい演出をしたのは1974年生まれというナ・ホンジン。35歳だ。驚いたことに、本作が劇場長編映画デビュー作だという。ほとんどベテランのような落ち着いた演出のように見える。奇をてらったところもない。もちろん古くさくはないし、実に才能を感じさせる。

 夜の街を美しく捉えたのは撮影監督のイ・スンジェ。この人も本作が劇場長編映画デビュー作らしい。色も濃く力強い絵作り。

 ジュンホを演じたキム・ユンソクは、ちょっとコミカルな感じがする人で、クォン・サンウの「美しき野獣」(Running Wild・2005・韓)に出ていたらしい。見ていないが、女の子になる手術を受けるお金を手に入れるため、韓国相撲のチームに入るというコメディ「ヨコヅナ・マドンナ」(Like a Virgin・2006・韓)にも出ているらしい。キレて同業者に殴りかかるシーンでは、折りたたみのイスが本当に相手に当たっていたように見えたが、どうやって取ったんだろう。本気で当てていたんだろうか。

 犯人ヨンミンを淡々とというか、異常者っぽくなく普通に演じ、かえって怖さを感じさせたハ・ジョンウは、軍隊生活を描いた「許されざるもの」(Unforgiven・2005・韓)で主演しているらしい。今秋公開される日韓合作「ノーボーイズ、ノークライ」では妻夫木聡と共演しているのだとか。

 犠牲者となるシングル・マザーのミジンを演じた美女、ソ・ヨンヒは、「連理の枝」(連理枝・2006・韓)や「ヨコヅナ・マドンナ」に出ているらしい。どれも見ていないのでわからないが、本作は迫真の演技だったと思う。

 その7歳の娘を演じたキム・ユジョンは素晴らしい子役。かわいいのに、7歳らしからぬ大人っぽいところがある感じが抜群。韓国版ダコタ・ファニングか。この前に「角砂糖」(Lump Sugar・2006・韓)という作品に出ているらしい。

 本作はレオナルド・ディカプリオがリメイク権を手に入れたそうで、この血みどろの作品をどう作り直すのか興味がわく。結末はどうするんだろうか。

 公開10日目の初回、新宿の劇場は50分前くらいに着いたらオジサンがひとり。35分前くらいに8人になった。若そうな男性2人、オバサン3人、オジサン3人。エアコンが入ったら毒ガスのような匂いがただよってきた。

 30分に開場になって全席自由の場内へ。ただしこのウナギの寝床状劇場は、どこに座っても前席の人の頭がジャマになる。混むと辛い。前席に座高の低い人が座るのを祈るのみ。スクリーンはシネスコで開いていた。最終的には224席に6.5割くらいの入り。男女比は3.5対6.5くらいで女性が多く、男性はむ中高年がメインで、女性は老若半々。まだ韓国イケメンは人気らしい。

 チャイムの後アナウンスがあって暗くなり、ビスタになって始まった予告編は……上下マスクのフランク・ミラー監督作品「ザ・スピリット」は、印象は「シン・シティ」(Sin City・2005・米)と同じだが、絵もキレイで面白そう。ただタイトルは早く出して欲しい。

 上下マスクでエッフェル塔が倒れるというショッキングなビジュアルの「G.I.ジョー」はカッコ良くて面白そう。外すか当たるか、どっちかという感じかも。ただ日本語のサイトはない模様。

 「TAJOMARU」は「羅生門」というか「藪の中」の登場人物の1人、多襄丸のことらしい。内容は全くわからない。ただ「GOEMON」というローマ字作品があれだから、こっちも同じかも……。なぜローマ字なんだろう。海外に売りたいからか。

 絵のクォリティが非常に高く、その点で期待できそうな「エヴァンゲリヲン新劇場版:碇」は、音楽のみの説明なし予告。内容は全くわからなかった。上下マスクの「チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ」は、くだらなそうだが歌も踊りもアクションもあって、ノリが良くひょっとしたらと思わせるが、IMDbではたったの4.2点。どうだろ。


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