State of Play


2009年5月23日(土)「消されたヘッドライン」

STATE OF PLAY・2008・米/英/仏・2時間07分

日本語字幕:手書き書体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(レンズ、in Panavision、GenesisHDTV)/ドルビーデジタル、dts、SDDS

(米PG-13指定)

公式サイト
http://www.kesareta.jp/
(音に注意。入ると画面極大化。全国の劇場案内もあり)

ワシントンD.C.で黒人少年とピザ配達の少年が射殺される事件が発生。ワシントン・グローブ紙の敏腕記者カル・マカフリー(ラッセル・クロウ)が取材を始めると、友人の下院議員スティーヴン・コリンズ(ベン・アフレック)の女性職員ソニア・ベーカー(マリア・セイヤー)が地下鉄で電車にはねられて死亡する。スティーヴンとソニアは愛人関係にあったことから、自殺の可能性が高いと報道されるが、その夜マスコミから逃れるためスティーヴンがカルの自宅を訪れ、自殺ではないことを伝える。スティーヴンは民間軍事会社の不正事件を追っており、近く公聴会で追求することになっていたのだった。カルは射殺事件を追うため、ソニアのことを調べるように新人記者のデラ・フライ(レイチェル・マクダムス)に指示すると、黒人少年の所持品を調べに行く。すると黒人少年の携帯にはソニアの番号が入っていたことが判明する。さらに、黒人少年の連れの少女から、少年が盗んだ鞄の中身を買ってくれないかと売り込みがある。何と、その中にはソニアの写真が入っていた。

76点

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 イギリスのBBCで2003年5月から放送が始まったという大ヒットTVサスペンス・ドラマ「ステート・オブ・プレイ〜陰謀の構図〜」のハリウッド映画化版。6時間のドラマを2時間に仕上げたらしい。そのため、やはりわかりにくい部分、説明不足の部分もあるが、かなりハラハラドキドキ最期まで一気に見せる。しかも最初に見えていた事件の全体像は実は違って、その裏に観客が想像したような陰謀が隠されており、さらにはその陰謀の陰に実はきわめて個人的な謀までが隠されているという三段落ちというか、三重構成。どんでん返しのどんでん返しで、意外な事実に驚かされる。

 すべてが納得できる動機を持っているし、実にありそうな話。感動的でさえあるし、殺し屋は冷徹で恐ろしい。迷わず、すぐに引き金を引く。余計なことはしゃべらない。「被害者はみなダブル・タップで撃たれていて、特殊部隊の手口だ」なんていうセリフがある。

 議員の不倫、民間軍事会社、野心に燃える新人記者と裏を知り尽くしたベテラン記者、経営サイドに立つ編集長と、真実を報道したい記者、議員と企業の癒着、友人の妻との不倫、警察と新聞記者……実際にある事件や興味深い対立の構造をたくさん持ち込んで、謎解きとドラマを両立させた。「クライマーズ・ハイ」(2008・日)のような新聞が出来るまでのドラマもあって、最後の最後まで目が離せない。うまい。

 設定に合わせてやや太った感じのベテラン記者を演じたラッセル・クロウは、この前のレオナルド・ディカプリオと共演した「ワールド・オブ・ライズ」(Body of Lies・2008・米)でもかなり太っていたが、同じリドリー・スコット監督の「アメリカン・ギャングスター」(American Gangster・2007・米)ではスマートだった。役に合わせてロバート・デ・ニーロのように痩せたり太ったりする人。リドリー・スコット監督とは「グラディエーター」(Gladiator・2000・英/米)でも仕事をしている。僕が好きなのは「プルーフ・オブ・ライフ」(Proof of Life・2000・米)なんだけど……アメリカでとても評判が良かった2007年の西部劇“3:00 yto Yuma”はようやく今年公開されるようだ。楽しみ。乗っていた車はオンボロのサーブか。

 野心溢れるちょっと生意気な新人記者を演じたのはレイチェル・マクアダムス。ニック・カソヴェテス監督の傑作「きみに読む物語」(The Notebook・2004・米/ポルトガル)でヒロインの若い頃を演じた人。さすがというべきか、まったくイメージが違う。最初はどこかで見たなあと思いながらも気がつかなかった。使っていたのは黒のパワー・ブック。

 編集長は強い女を演じさせると抜群のヘレン・ミレン。「鬼教師ミセス・ティングル」(Teaching Mrs. Tingle・1999・米)もすごかったが、有名なのはやっぱりエリザベス女王を演じたアカデミー主演女優賞を受賞した 「クィーン」(The Queen・2006・英/仏/伊)だろう。その陰に隠れてひっそりと公開されたが、末期癌の暗殺者を演じた「サイレンサー」(Shadowboxer・2005・米)もなかなか良かった。

 下院議員スティーヴン・コリンズを演じたのはベン・アフレック。「スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい」(Smokin' Aces・2007・英/仏/米)や「ハリウッドランド」(Hollywoodland・2006・米)はなかなか良かったが、どうもあまり良い役に巡り会っていない印象。二枚目なのに。

 その下院議員の奥さんアンを演じたのは、ロビン・ライト・ペン。モデル出身で、正当派ファンタジー・ロマンスの傑作「プリンセス・ブライド・ストーリー」(The Princess Bride・1987・米)のお姫様役で映画デビューした人。トム・ハンクスの「フォレスト・ガンプ 一期一会」(Forrest Gump・1994・米)ではガンプの憧れの人を演じて注目された。その後あまりパッとしなかった感じだったが……。夫はショーン・ペンなんだとか。

 女を手配する変態のドミニク・フォイを演じたのはジェイソン・ベイトマン。男でも女でもいけると豪語。キャデラックはゲイレージ(ガレージ)に入れたなんてことを言う。ちょっとコミカルな役が多い人だが、本作では変態を実に嫌らしく演じている。最近「ハンコック」(Hancock・2008・米)の広告会社の男、「スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい」の変態弁護士、「キングダム/見えざる敵」(The Kingdom・2007・米/独)の情報分析官、「マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋」(Mr. Magorium's Wonder Emporium・2007・米)会計士と出まくりの感じ。

 先輩議員のジョージ・ファーガスを演じたのはジェフ・ダニエルズ。ちょっとロマンティックなSFの「グランド・ツアー」(Timescape・1992・米)で注目を集め、「スピード」(Speed・1994・米)で一気に有名になった人。たくさんの作品に出ていたが、最近あまり見かけないなあと思ったら、こんなに太っていたなんて。ビックリ。まさか役作りで太ったワケじゃないよなあ。

 「これはストーリーじゃなくケースだ」と言う刑事を演じていたのはハリー・レニックス。「マトリックス レボリューションズ」(The Matrix Reloaded・2003・米/豪)で司令官を演じていた人。議員の愛人を演じていたのはマリア・セイアー。主にTVで活躍しているようで、日本劇場公開作品はほとんどない模様。

 脚本はマシュー・マイケル・カーナハン、トニー・ギルロイ、ビリー・レイの3人。マシュー・マイケル・カーナハンは「キングダム/見えざる敵」、「大いなる陰謀」(Lions for Lambs・2007・米)の脚本家。「スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい」や「NARCナーク」(Narc・2002・米/加)のジョー・カーナハン監督の弟だ。

 トニー・ギルロイは、つい最近、監督も兼ねた「デュプリシティ〜スパイはスパイに嘘をつく〜」(Duplicity・2009・)が公開されたばかり。「ボーン・アイデンティティ」(The Bourne Identity・2002・米/独/チェコ)シリーズや「プルーフ・オブ・ライフ」などが有名。

 ビリー・レイは実話の映画化「アメリカを売った男」(Breach・2007・米)、空飛ぶ密室誘拐事件「フライトプラン」(Flightplan・2005・米)、恐ろしいサスペンス「サスペクト・ゼロ」(Suspect Zero・2004・米)、第二次世界大戦の捕虜収容所の殺人事件を描いた「ジャスティス」(Hart's War・2002・米)などを手がけている。

 つまり3人とも面白い脚本を手がけたベテランで、本作はできるべくしてできたのだろう。

 監督はイギリス出身のケヴィン・マクドナルド。見ていないが実話に基づく登山家の話「運命を分けたザイル」(Touching the Void・2003・英)や、実在のアフリカの人食い大統領アミンを描いた「ラストキング・オブ・スコットランド」(The Last King of Scotland・2006・)を監督した人。リアルさにこだわる人のようだ。

 殺人犯が使っていたのははっきり分からなかったが、たぶんサイレンサーを付けたグロック。ライフルはM16A2か。民間軍事会社は海外よりも国内任務の方が大きいらしい。年間売り上げは300〜400億ドルに達し、議員が1人騒いだくらいで諦めることなどないと。そしてやりたい放題で、一般人の命など何とも思っていない。元特殊部隊の人間が多く、彼らはホローポイント弾を使うと。映画の設定ということかもしれないが、それだけ問題になっているのは確かだろう。リアルなだけにこの辺も非常に怖い。ちなみに武器係とガン・コーチはかつての早撃ちチャンピオン、セル・リード。この人はラッセル・クロウのアクション作品「クイック&デッド」(The Quick and The Dead・1995・米/日)や「プルーフ・オブ・ライフ」などすべてに関わっているようだ。ラッセル・クロウと気が合ったのではないだろうか。

 エンディングは新聞が作られていく過程を追ったものがバックに流れる。フィルムが出力されて、刷版が作られて、輪転機にセットされて印刷され、カットされ、縛られてフォークリフトでトラックに積まれ、店の前に配達され、スタンドに並ぶ。そして再びタイトル。これが印象的。すぐに席を立たず、最後まで見て欲しい。タイルのクレジットはスカーレット・レターだったが、オープニングだけなのか、両方なのか不明。

 公開2日目の2回目、新宿の劇場を前日に座席を確保しておいて、20分前くらいに着いたら10分くらい前に開場。全席指定で、やはりメインは中高年。若い人は1/3いただろうか。男女比は7対3くらいで男性の方が多かった。最終的に287席に6割くらいの入り。確かに作品的には少し地味かもしれないが、もっと入っても良い映画だと思う。

 やなり暗くなって始まった予告は……「ラスト・ブラッド」は新予告に。公開が違いからだろう。それでもあまり内容はよくわからない。スクリーンが左右に広がってシネスコになって「ノウイング」の古い予告。そろそろ変えてくれないとなあ。

 それにしても、「消されたヘッドライン」というタイトルが、今ひとつピンとこなかった。なんか違和感が……。原題のState of Playというのは進捗状況とか途中経過といった意味だとか。


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