Chocolate


2009年5月24日(日)「チョコレート・ファイター」

CHOCOLATE・2008・タイ・1時間33分

日本語字幕:丸ゴシック体下、小寺陽子、字幕演出:加藤真由美/ビスタ・サイズ/ドルビーデジタルEX

(米R指定、日PG-12指定)

公式サイト
http://chocolatefighter.com/
(全国の劇場案内もあり)

日本のヤクザ、マサシ(阿部寛)は、タイで地元ヤクザのボス、ナンバー8(ポンパット・ワチラバンジョン)の女ジン(“ソム”アマラー・シリポン)に惹かれ、いつしか恋に落ちてしまう。それをナンバー8に知られたマサシは日本へ帰国しなければなくなるが、ジンは妊娠しており、身を隠して娘ゼン(ジージャー)を出産する。ところがゼンには脳障害があり、知的障害者となってしまう。やがて成長したゼンはムエタイの技術を習得する。そんな時、母のジンに癌があることが発覚。入院するが治療には多額の金が必要となる。ジンの古い手帳の中に、むかしジンが金を貸した者たちのリストを見つけた家族同然の幼なじみのムン(タポン・ポップワンディー)は、治療費を稼ぐためジンと共にその金を回収することを思いつく。

75点

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 とにかく、スゴイ。こくまで徹底したアクションは想像を絶する。さすが「マッハ!」(Ong-Bak・2003・タイ)のタイ映画。この肉体はアクションはハンパではない。これだけで見る価値がある。それでいて、感情の部分も忘れておらず、きっちりと感情も繊細に描いている。だからこそ大人が楽しめる映画になっている。

 ただ、ノーCG。ノー・ワイヤーではない。エンド・クレジットでモノクロ(出血したりするので生々過ぎるからだろう)のメイキングがバックに流れるが、ちゃんとワイヤーを使っている。使わなければ命はない。それくらい危険な撮影をやっている。そして、少なくともそのワイヤーを消すのにCGは使われている。たぶん飛び散る血糊やハエもCGではないだろうか。ちゃんとクレジットにワイヤー・アーティストたちの名前とCGアーティストたちの名前が出る。だからそれを売りにするのがいけないと思う。

 そして、キックやパンチが本当にあたってしまうなどでけが人続出、流血当たり前、入院という事態まで起きている映画はいけないと思う。日本だったら、入院などという事態になったら、製作打ち切りだってあり得る。そんな危険な撮影より、お金をかけてもCGを使い、もっと安全な撮影をすべきだと思う。ドキュメンタリーじゃなくエンターテインメントなんだから。そしてそれであっても技のすごさ、スタントのすごさはちゃんと伝わってくるはず。

 そんな意味で、主演のジージャーもすごいけれど、何よりスタントマンがスゴイ映画。凄絶と言えるほどスゴイ。言葉を失う。まるで命まで映画に掛けている感じ。それはやり過ぎだと思う。本来は、そこまで凄く見えることを安全に撮る方がスゴイと思う。ムービー・マジックじゃなきゃ。それとも、スタントマンの代わりはこの国ではいくらでもいるということか。人の命の方が映画より安いなんてことはあってはならない。エスカレートしたら、人が本当に映画で死ぬのが最高の売り物になってしまう。「マッハ!」の時にも書いたけど……。

 劇中で3D-CGアニメのシーンが挿入されるが、このレベルがまた高い。雰囲気的には「アニマトリックス」(The Animatrix・2003・米)のような感じ。すばらしい。感性が抜群で、表現力も豊か。レベルが高い。日本もウカウカしてはいられない。

 画質も良く、色が濃くて絵に力がある。サウンドもドルビーデジタルEXだから、この点でも日本映画に水をあけている。ハリウッド並みのクォリティ。お金を取って見せるのにふさわしい。

 ヤクザたちが使っていた銃はベレッタM92やガバメント、そしてM84もあったようだ。弾着もレベルが高くとてもリアル。うまい。銃声も金属っぽくて素晴らしい。日本レストランへの殴り込みでは日本刀も出てくるが、なにより怖いのは肉処理場で使われていたデカイ包丁。スクリーン上でも怖いが、エンディングのメイキングを見てもやっぱり怖い。

 タイでは、たぶん日本人が父親で、帰国してしまって父無し子として生まれたりした子が多いのだろうと思わせる設定。この映画はタイで大ヒットしたというが、説得力のあるストーリーだったのだろう。脚本はチューキアット・サックウィーラクンという人。マシュー・チューキアット・サックヴィーラクルと表記されていることもあるらしい。監督でもあり、あの驚くべき不快ゲーム映画「レベル・サーティーン」(13 game sayawng・2006・タイ)の監督と脚本を手がけた人。ハリウッドでリメイクするという話はどうなったんだろう。いずれにしても、実力のある人。

 監督はプラッチャー・ピンゲーオ。「マッハ!」、「トム・ヤム・クン!」(Tom Yum Goong・2005・タイ)の監督だ。プロデュース作品は別として、監督作は素晴らしい。主演のトニー・ジャーはどうしてしまったんだろう。本作の完成に2年を要したと言うからこだわりと執念の人なのだろう。やっぱり感性が素晴らしい気がする。

 アクション監督のパンナー・リットグライはタイの“ムエタイ・スタントチーム”の創設者だそうで、「マッハ!」、「トム・ヤム・クン!」も手がけている。自分の監督作「七人のマッハ!!!!!!!」(Born to Fight・2004・タイ)のオーディションで本作の主演ジージャーを見出し、ピンゲーオ監督に推薦したらしい。リットグライはそれから4年間、彼女にマーシャルアーツの特訓をし、さらに映画用に2年間の特訓をしたという。

 その主演のジージャーはもともとはタイのテコンドー・チャンピオンでインストラクターでもあり、「七人のマッハ!!!!!!!」のオーディションでリットグライに見出され、ムエタイやカンフーの特訓を受けたという。女性でここまでできる人は世界中探してもそうはいないだろう。新作が撮影中と言うから楽しみだ。トニー・ジャーと共演して欲しいなあ。来日の際は髪を金髪にしていたようだが、ハッキリ言って黒髪の方が何倍もきれいだと思う。

 日本人ヤクザを演じたのは阿部寛。日本のTV番組がタイでも流れていて、かなり有名らしい。それで本作の出演につながったのだとか。やぱりなんでも一生懸命やっておくもんだなあ。ボク的にはTVドラマ「トリック」の上田次郎のようなとぼけた役がはまっている気がする。その点では「大帝の剣」(2006・日)が実に良かった。

 ヤクザだった母のジンを演じたのはアマラー・シリポン。モデル、歌手で、女優でもあるらしい。本作以外で日本公開されたものはないようだ。刺青があまりにリアルで本物のように見えたが、まさか本当に入れているなんてことは……。

 幼なじみの気の良い男の子ムンを演じたのはタポン・ポップワンディー。愛すべきおデブちゃんで、戦いにも参加せずあまり活躍しないが、印象に残る。いい味を持っている。やはり本作以外で日本公開されたものはないようだ。

 公開2日目の初回といっても新宿の劇場は午後からの上映で、10分ちょっと前くらいに開場。全席指定で、スクリーンはビスタで開き。最終的に157席ほぼ満席。劇場がちょっと小さいのでは。中高年の方が多く、若い人は1/3いただろうか。男女比は7対3で男性の方が多い感じ。

 ほぼ暗くなって始まった予告は……なんだかよくわからなかった「インスタント沼」。ナンセンス・コメディのようだったが。

 あとは見慣れた予告ばかり。それにしても、字幕演出ってなんだったんだろう。書体、出し方、色、位置……特にこれまでと変わったものはなかったようだが。


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