I Come with the Rain


2009年6月7日(日)「アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン」

I COME WITH THE RAIN・2009・仏・1時間54分

日本語字幕:手書き風書体下、太田直子/シネスコ・サイズ(レンズ、in Panavision)/ドルビーデジタル

(日PG-12指定)

公式サイト
http://icome.gyao.jp/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

元刑事の私立探偵クライン(ジョシュ・ハートネット)は、世界第一位の製薬会社の社長から直接、経費は使い放題で消息不明になった息子シタオ(木村拓哉)を探し出し、連れ帰って欲しいという依頼を受ける。異常犯罪者の捜査で心に問題を抱えていたクラインだったが、手がかりである前任の探偵ヴァーガス(エウセビオ・ポンセラ)が失踪したフィリピン・ミンダナオ島に向かう。クラインはヴァーガスを発見し、シタオが殺されたことを知るが、同時に香港に現れたという情報も得る。香港へ向かったクラインは、地元警察に勤める友人のメン・ジー刑事(ショーン・ユー)に協力を依頼する。同じ頃、香港マフィアのボス、ス・ドンホ(イ・ビョンホン)のもとから部下のミフーが金とドンホの愛人でヤク中のリリー(トラン・ヌー・イェン・ケー)を奪って逃走。撃たれて重傷を負うが、どうにか追っ手をまき、空き地に車を乗り入れて息絶える。その空き地にはシタオが掘っ立て小屋で暮らしており、リリーを発見する。シタオは他人の傷や病気を自分に取り込み、死をも乗り越える治癒力で治すという特殊な能力の持ち主だった。リリーがヤク中であることを感じ取り、シタオは治療に当たるが……。

76点

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 フランス映画でありながら、舞台はほとんど香港で、セリフもほぼ全編英語。

 キリスト教のことはよくわからないが、ボクの印象としてはキリストの受難を、探偵を主人公にした現代劇として描いたように感じられた。エロ、グロ、暴力、満載。血まみれで、おぞましく、しかし慈愛というか、癒しというか、宗教色にも溢れている。たぶんキリスト教をよく知っていれば、より深く理解できるのではないだろうか。

 チラシなどのタイトルが十字架になっているし、劇中、若い男がビルの谷間から空を見上げると、空が十字架の形になっている。シタオは父に助けを求め、その父の使いとして助けである探偵のクラインがやってくる。実にうまくできている。雨は恵みの雨、慈雨、すべてを流し去る雨ということか。

 ただ、とにかくショッキング。主要キャスト3人共が普通ではない。この映画を子供が見に来ることはないと思うが、PG-12は甘すぎる気がする。あまりの暴力表現に、大人でも気持ち悪くなるほど。

 映画が終わったら「気持ち悪かった」とか「どうしてこんな作品に出たの?」というややオバサンたちの声が聞こえてきた。たしかに気持ち悪かった。「オールド・ボーイ」(Oldboy・2003・韓)に匹敵する。ハンマーを使うところも似ている。「どうして……」は3人の誰に対して言っていたのかわからないが、役者としては、たぶんこの脚本を読んだら演じてみたくなるのではないだろうか。まして共演がジョシュ・ハートネット、イ・ビョンホン、木村拓哉で、監督・脚本が世界的に評価の高い国際映画祭の常連トラン・アン・ユンだったら。普通の人間にはない、一線を越え振り切れてしまった感情を表現するのは、役者にとってはチャレンジではないだろうか。

 主演のジョシュ・ハートネットも、刑事でありながら異常者の犯人と同化し正気を失ってしまった過去を持とち、いまだ悪夢に悩まされるという役柄で、演じ甲斐があったのではないだろうか。ボク的にはSFホラー・アクションの「パラサイト」(The Faculty・1998・米)から注目していて、リアルな戦争映画「ブラックホーク・ダウン」(Black Hawk Down・2001・米)も非常に良く、最近ではアクション・ミステリーの「ラッキーナンバー7」(Lucky Number Slevin・2006・独)が非常に良かった。今後も期待の俳優。冒頭で使っていたのはグロック。ショルダー・ホルスターはアップサイドダウンというよりは水平に近かった。

 マフィアのボス、ス・ドンホを演じたイ・ビョンホンもまた演じ甲斐があったのではないだろうか。感情にまかせて子分を「オールド・ボーイ」や「親切なクムジャさん」(Sympathy for Lady Vengence・2005・韓)のようにハンマーで殴り殺したり、ろくに考えもせずすぐに暴力を使うような男なのに、ヤク中の女リリーから離れられず、子供のように振る舞ってしまう。インタビューなどを見ると普段は小声でしゃべるようなシャイな人のようで、たぶん正反対の設定なのだろう。何といってもヒット作「JSA」(JSA・2000・韓)が光っていたが、やはりヤクザを演じた「甘い人生」(A Bittersweet Life・2005・韓)も素晴らしかった。裸になっているがスゴイ筋肉。ショルダー・ホルスター(ジョッシュと同じタイプ)にワルサーP99を吊っている。シタオを撃つのはS&Wのショーティ。

 木村拓哉も演じ甲斐があったはず。他人の痛みを取り込み、苦しみながらもそれを消していく男で、泥に突っ伏したり、ウジまみれになったりの汚れ役。TVドラマの映画化「HERO」(2007・日)でゲスト出演的イ・ビョンホンと共演している。海外作品としては残念だった「2046」(2046・2004・香ほか)に次ぐ2作目。映画で一番良かったのはアニメの「ハウルの動く城」(2004・日)か。

 クラインの友人で、まともな人であるメン・ジー刑事はショーン・ユー。「インファナル・アフェア」(無間道・2002・香)シリーズでトニー・レオンの若い頃を演じていた人。その後、話題作に続けて出演し、最近作はジャッキー・チェンの息子が出演したポリス・アクションの「インビジブル・ターゲット」(男児本色・2007・香)で、暴力的な刑事を体を張って演じていた。本作ではショルダー・ホルスター(ジョッシュ・タイプ)を吊っていた。銃は何だったか……。

 死体で彫刻を作る異常犯罪者ハスフォードを演じたのは、イライアス・コティーズ。悪役の多い人で、本作でも凄みがある。ジョシュ・ハートネットの二の腕にかみつく所などゾッとする。痛快アクションの「ザ・シューター 極大射程」(Shooter・2007・米/加)でイヤらしい男を実に嫌らしく演じていた。シュワルツェネッガーの「コラテラル・ダメージ」(Collateral Damage・2002・米)でも嫌らしい男だった。

 ス・ドンホのヤク中の愛人リリーを演じたのはトラン・ヌー・イェン・ケー。かなり際どい感じもあったが、なんとトラン・アン・ユン監督の奥さん。ベトナム生まれで、トラン・アン・ユン作品には全て出演しているのだそう。カンヌ映画祭で新人監督賞を受賞した「青いパパイヤの香り」(L'odeur de la papaye verte・1993・ベトナム/仏)のあと結婚したんだとか。

 TVのインタビューを受けている予言者のようなホームレスは、誰だかわからなかったが、ちょっとサム・リーに似ていた。

 監督・脚本はトラン・アン・ユン。ベトナム生まれで、一家でフランスに亡命したんだとか。それで本作はフランス映画なんだ。デビュー作の「青いパパイヤの香り」が各国で高く評価され、「シクロ」(Cyclo・1995・ベトナム/仏/香)もベネチア映画祭で金獅子賞、続く「夏至」(A La Verticale De Lete・2000・ベトナム/仏/独)を経て本作にいたる。最新作は現在プレ・プロダクション中の村上春樹原作の「ノルウェーの森」なんだとか。あの長い作品をどうまとめるんだろうか。本作のクォリティを見ればかなり期待できそうだ。

 画質は一部ビデオ的なところがあったのと、夜景など暗いシーンでは粒状性が目立つところが多々あった。撮影はフィルムのようで、ここまで荒れるのならハイビジョンで撮った方が良かったのではと思えるほど。もちろん光がちゃんとあれば非常に画質は良かったが。

 音は特に銃声が良かった。金属質なキンとかカンというような感じと、鋭く高く大きな音がいかにもリアルで怖い。ハリウッドなどの耳に心地よい情勢とはだいぶ違う。かなり暴力的。

 ほかに出ていた銃はM16。すれ違うフィリピンの現地の人が普通に持っている。本当にこうなのか、めちゃ怖い。

 エンド・クレジットを見たらADR(アフレコ)はLA、東京、マドリッドなどで行われていた。つまり主要キャストそれぞれが別の場所で録音したのかもしれない。手間が掛かってるなあ。

 イスが硬く、ちょっと長めの上映だったので、尻が痛くなった。

 公開2日目の初回、六本木の劇場は全席指定で、前日に確保しておいて15分前くらいに着いたらすでに開場済み。最終的には265席の8割くらいが埋まった。その7.5割くらいは女性で、ほとんどは中高年。韓流にキムタク人気か。どちらかと言えば男性向きの作品だと思うが。

 ほぼ暗くなってCM・予告。「20世紀少年」はもういいかな。3枚セットで前売り買っちゃったけど。8/29なんて、すっかり興味が薄れてしまって……。「ごくせん」も映画かあ……。

 韓国映画、上下マスクの「グッド・バッド・ウィアード」はなんだかマカロニ・ウエスタンのような作品らしい。馬に乗って、撃ち合いがあって、ウィンチェスターなんかも使っていて、ただP38や飛行帽なんかも出てるけど。キムチ・ウエスタンと言うらしい。面白そう。このタイトルって、イーストウッドの「続・夕陽のガンマン」(Il Buono, Il Burutto, Il Cattivo・1966・伊)のタイトルのパロディ?〈英語版はThe Good, The Bad and The Ugly〉。

 暗くなり、スクリーンが左右に広がってシネスコになって、ドルビー・デジタルの機関車デモと、THXのデモがあって本編へ。


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