Manatsu no Orion


2009年6月14日(日)「真夏のオリオン」

2009・テレビ朝日/東宝/博報堂DYメディアパートナーズ/バップ/小学館/木下工務店/デスティニー/日本出版販売/朝日放送/メ〜テレ/朝日新聞社・1時間59分

日本語字幕:丸ゴシック体下/シネスコ・サイズ(マスク、ARRI、Super 35)/ドルビーデジタル



公式サイト
http://www.manatsu-orion.com/
(入ると画面極大化。音にも注意。全国の劇場案内もあり)

倉本いずみ(北川景子)は、父が第二次世界大戦中、アメリカ海軍駆逐艦の艦長だったというアメリカの男性からから送られてきた手紙に同封されていた父の遺品という祖母のShizuko Arisawaのサインが入った詩と楽譜を持ち、話を聞くため当時の事情を知っている鈴木老人(鈴木瑞穂)の元を訪れる。鈴木老人は64年前の終戦まであと2週間ほどという第二次世界大戦末期に繰り広げられたアメリカ海軍駆逐艦パーシバルと、日本海軍潜水艦イ-77の戦いを語り始める。

71点

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 うーん、感動的な話なんだが、感動的なのは「真夏のオリオンの歌」の部分だけで、あとはごく普通というか、物語としてよくある話。もし実話ということであれば、よくある話でも感動的だと思うが、作ったのであればそれほどドラマチックでもない。

 ドラマは悪くはないが、かといって特に良くもないというか、普通。しかも、遺族が当時の生き残りの人に話を聞きに行くというのもよくある設定で、つい最近も「男たちの大和/YAMATO」(2005・日)がその設定。現代から始まって、当事者が回想として話すというものだった。

 「真夏のオリオン」の詩はすばらしい。両目から涙が来た。大切な人を待つ女性の気持ちが実に良く出ている。そして玉木宏演じる主人公の倉本孝行艦長がそれにふさわしい好人物なので、余計にそう感じる。観客はこの人には生きて欲しいと願ってしまう。このヘンの仕掛け、演出は素晴らしい。ハモニカも泣かせるが、特にラスト、アメリカの駆逐艦から日本の潜水艦に発光信号のモールスで送られてくるのがたまらない。

 本当なら音大に進んでいたという有沢志津子という女性が、倉本艦長にお守りとして渡した手紙。それには楽譜とイタリア語の詩が書かれている。「オリオンよ、愛する人を導け。帰り道を見失わないように」 夏の時期、冬の星座であるオリオンは沖縄近くでは夜明け前のほんのわずかの時間しか見えないという。それが見えれば吉兆なのだと艦長が新任の軍医に話して聞かせる。

 ただ、それだけで、あとは……特に終戦記念日でもなく、ちょうど戦後○○周年でもない。なぜ第二次世界大戦の戦記物なのか。よくわからなかった。駆逐艦対潜水艦はよくあるパターンで、ロバート・ミッチャムの「眼下の敵」(The Enemy Below・ 1957・米)と同じ。「Uボート」(Das Boot・1981・西独)でも描かれていた。

 艦内での命令の出し方などは、アドバイザーがいたのだろう、とてもリアルな感じがした。使われていた銃は、回天乗組員が艦長に突きつける南部十四年式。イ-77潜水艦は人間魚雷の回天を4隻搭載しているため、機銃や砲の海上戦用兵器が取り払われている。ここがミソ。しかも唯一の武器、魚雷は12発しかない。

 若き艦長、倉本孝行を演じたのは「ウォーターボーイズ」(2001・日)の玉木宏。ほぼ実年齢の役。この役のため減量し、頬をこけさせての演技は、あまりじめじしめした感じもなく、明るく爽やかで好感が持てる。「ミッドナイトイーグル」(2007・日)には、新聞記者役で出ていた。近作は「MW」。ちょっとダークな役のようだが。ただ、減量したのは玉木だけのようで、ほかの出演者もこういう感じにしないとバランスが取れない。そこが残念。

 恋人の有沢志津子と孫の倉本いずみの2役を演じたのは、北川景子。まあビックリするほどの美女で、海軍式の敬礼姿が良かった。話題になった「ハンサム★スーツ」(2008・日)や「間宮兄弟」(2006・日)にも出ていたらしいが見ていないのでなんとも。「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」(The Fast and the Fyrious: Tokyo Drift・2006・米)のレイコ役はさすがに目立っていた。英語もうまかった。

 倉本の海軍兵学校の同級生で、イ-81の艦長となった有沢志津子の兄、有沢義彦を演じたのは、CHEMISTRYの堂珍嘉邦。頬のこけた感じは玉木宏と同等の感じ。演技は悪くなく、自然に溶け込んでいた。

 ほかに、若い軍医に平岡祐太。職人気質のちょっと偏屈な機関長に吉田栄作。年上の水雷長にベテラン脇役、益岡徹。艦長の判断に疑いを持つ航海長に吹越満。炊事係の烹炊長に意外とうまかったドランクドラゴンの鈴木拓。

 原作は池上司の小説「雷撃深度一九・五」(文春文庫)。原爆を運ぶアメリカ海軍の重巡洋艦インディアナポリスを撃沈すべく出撃した伊五八号潜水艦の活躍を描くもの。

 監修・脚色は福井晴敏。多くの賞を受賞した日本を代表するエンタテインメント小説家として絶大な人気を誇る。「亡国のイージス」(2005・日)、「ローレライ」(2005・日)、「戦国自衛隊1549」(2005・日)などの話題作の原作を手がけている。

 監督は篠原哲雄。傑作「昭和歌謡大全集」(2002・日)を撮ったのはこの人。どうりでうまいわけだ。最近では「地下鉄に乗って」(2006・日)なども撮っている。

 撮影は、山本英夫。「ザ・マジックアワー」(2008・日)、「容疑者Xの献身」(2008・日)、「ヤッターマン」(2008・日)、「ミッドナイトイーグル」(2007・日)、「県庁の星」(2006・日)、「フラガール」(2006・日)など話題作はほとんど手がけている。本作はロケが少ないせいか、全体に色が濃く、力強い絵となっている。作品によって変わると言うことか。だいたいはビデオ的な浅い色が多いが……。

 公開2日目の初回、新宿の劇場は前日に座席を確保しておいて20分前くらいに着いたら、15分前くらいに開場。客層はほぼ中高年男性。テーマから言っても当然だろう。ただ玉木や堂珍のおかげか、下は中学くらいの女の子もいた。女性は概して若い。

 最終的に157席に4.5割くらいの入り。3割くらいが女性。潜水艦が見つかったとかでもなく、終戦記念日でもなし、こんなものか。

 スクリーンはビスタで開いていて、案内を上映。ほぼ暗くなって始まった予告で気になったのは……「HACHI 約束の犬」は新しいバージョンに。やっぱり感動的な感じ。「ハチ公物語」はハリウッドでどう窯変するのか。「20世紀少年」はどんどん興味が薄れてしまったが、さらに役者たちの顔にペンで描いたような老けメイクがあまりに不自然で……。「ごくせんTHE MOVIE」はなぜか銃まで登場するようで、ファンには楽しいのでは。戦国武将の魂が現代人に乗り移って段ボールで城を造るとかいうことになる奇妙なストーリーの「築城せよ!」は面白いか、はずすかどちらかという感じ。はたして……。

 スクリーンが左右に広がってシネスコになり、暗くなって始まったのは、草なぎ剛と新垣結衣が共演する時代劇「BALLADバラッド 名もなき恋のうた」。なんだかサザンのアルバムみたいだが、現代の少年が戦国時代にタイムスリップする話らしい。原作は「クレヨンしんちゃん」なんだとか。監督は「ALWAYS 三丁目の夕日」(2005・日)シリーズの山崎貴なので、期待できるかも。


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