Mt. Tsurugidake


2009年6月21日(日)「劔岳 点の記」

2009・東映/フジテレビジョン/住友商事/朝日新聞社/北日本新聞社・2時間19分

シネスコ・サイズ(マスク、ARRI、Super 35)/ドルビーデジタル

(日本語字幕付き上映もあり)

公式サイト
http://www.tsurugidake.jp/
(全国の劇場案内もあり)

明治39年(1906年)、日本陸軍は未測量のため日本地図上の空白部分となっている劔岳(つるぎだけ)の初登頂と測量を、陸軍参謀本部陸地測量部の柴崎芳太郎(浅野忠信)に陸軍の名誉と威信をかけた至上命令を下す。同時期に民間の日本山岳会もヨーロッパの最新装備を使い劔岳の初登頂を目指していた。劔岳はあまりの険しさに、いまだ登頂した者がないのだった。柴崎はまず前任者の古田盛作(役所広司)を訪ね、地元山岳ガイドの宇治長治郎(香川照之)を紹介される。まず柴崎は宇治と2人で下見登山し、登頂ルートを探るがどのコースも難関であり、実際にチャレンジしてみるしかないことを知る。そして修行のため登山し衰弱している行者(夏八木勲)を発見し、背負って下山する。翌明治40年、ついに柴崎は測量部のメンバーと測夫を加え、7人で劔岳に挑む。

75点

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 とにかく実際に劔岳などで撮影された高山での映像がすばらしい。2年、延べ日数200日以上を掛けて撮影されたという絵は、圧倒的な迫力と美しさ。本物が持つ力だろうか。まさにそこに居なければ撮れない絵。色も濃く、力強い。

 物語はショッキングで感動的だ。原作は新田次郎の実話に基づく同名小説。こういう人たちの命をかけた調査によって日本地図が完成されたというのは、驚きだ。けっして地図を粗末に扱ってはいけないと思ってしまう。こうやって地図は作られたのか。ボクは建築学科出身なので測量の研修を受けたことはあるが、こんなに高山でもこんなに大変な作業をしていたとは。

 ただ、感動するのだが、見終わった後のこの落ち込む感じは何なんだろう。原作どおりなのだろうが、あまり後味がよいとは言えない。元気がない時はおすすめできない感じだ。

 前売り券の特典でもらった非売品のプログラムのプロダクション・ノートによれば、実際の所、登頂と測量には成功したが、標石(総重量およそ94kg)が設置できなかったため、三角点設置の公式記録である「点の記」には残されていないという。ちなみに明治21年(1888年)以降の点の記は永久保存資料として国土地理院に保管されているそうだ。そして劔岳山頂に三角点の埋設が行われたのは、なんと2004年のことだという。

 キャストはオール・スター・キャストといった感じで、ちょい役まで有名俳優が。ただしメインになるのは3人。柴崎芳太郎を演じたのは浅野忠信。いつもながらの力の抜けたナチュラルなアプローチが独特の味を出している。つい最近「モンゴル」(Mongol・2007・カザフスタンほか)に主演し驚かせてくれた。ボクが浅野忠信を最後に見たのは北野武の「座頭市」(2003・日)だったろうか。TVだけど。

 山岳ガイド、宇治長治郎を演じたのは香川照之。なかなか訛りがうまかった気がした。ほかに「20世紀少年」(2008・日)シリーズ、「ザ・マジックアワー」(2008・日)、「HERO」(2007・日)、「憑神」(2007・日)など話題作にはだいたい出ている。

 若き測量員、生田信を演じたのは松田龍平。だんだん松田優作に似てきた気がする。弟の松田翔太も役者で、TVを中心に映画にも出るようになってきた。「誰も守ってくれない」(2008・日)、「伝染歌」(2007・日)、「悪夢探偵」(2006・日)などに出ている。ボク的には「昭和歌謡大全集」(2002・日)が一番良かった。ただ、アップになった時ピアスの跡が目立って、興ざめだった。役者をやる以上、ピアスなどはNGだろう。どんな役をやることになるかわからないまだから。海外の役者でもこういう人は多い。大げさに言うと役者魂の問題という気もする。

 主要な役ではないが、数少ない軍での柴崎の理解者、玉井大尉を演じて印象に残ったのは、小澤征悦。有名な指揮者の小澤征爾の息子で、「クライマーズ・ハイ」(2008・日)や、永瀬正敏の「隠し剣鬼の爪」(2004・日)などにも出て良い味を出していた。柴崎の妻を演じた宮崎あおいは、昔の女性だから健気でかわいく、笑顔で涙を流すシーンがジーンと来る。NHKの大河ドラマ「篤姫」のほか、つい最近「少年メリケンサック」(2008・日)に出ていた。

 監督は撮影と脚本も兼ねた木村大作。名撮影監督として知られる人。古くは「日本沈没」(1973・日)などを手がけ、山岳映画とも言える「八甲田山」(1977・日)ですでに新田次郎原作作品を撮っている。「駅 STATION」(1981・日)、「鉄道員(ぽっぽや)」(1999・日)など高倉健作品も撮っている。また「極道の妻(おんな)たち 三代目姐」(1989・日)以降のシリーズも多く撮っている。力強く美しい絵を撮るのはお手の物なのだろう。

 音楽はバイオリンが主体のクラシックが多く、バッハやヴィヴァルディなどが効果的に使われている。が、若干パターン過ぎる気もした。

 製作の1人が亀山千広。フジテレビの映画事業の最高責任者。TVプロデューサー時代に「教師びんびん物語」(1988)、「あすなろ白書」(1993)、「ロングバケーション」(1996)、「踊る大捜査線」(1997)など大ヒット番組を連発。最近映画では「容疑者Xの献身」(2008・日)、「ハッピーフライト」(2008・日)などを手がけている反面、残念な「少林少女」(2008・日)や「ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌」(2008・日)なども手がけている。

 それにしても日本海側の劔岳から太平洋側の富士山が見えるとは驚きだった。日本はやっぱり狭いということか。

 公開2日目の初回、銀座の劇場を前々日に座席予約しておいて10分前くらいに着いたら、すでに開場済み。当日券を求める長蛇の列。しかも雨。良かった先に確保しておいて。最終的に510席の2F席7割くらい、1F席8割くらいの入り。

 ほとんど中高年というか高年齢層。男女比は半々くらい。まあ当然か。

 チャイムが鳴り、1F席が暗くなり、カーテンが上に上がって始まった予告編で気になったのは……東野圭吾原作の「さまよう刃」は「半落ち」(2003・日)なみに暗い感じ。同じ寺尾聰だし。公式サイトはまだない模様。

 上下マスクの「トランスポーター3」はTVドラマ「プリズン・ブレイク」(2005〜)の悪役ティーバックを演じたロバート・ネッパーが悪役で登場。リュック・ベッソンの製作・脚本ながら面白そうな感じ。

 スクリーンが左右に広がりシネスコになって、左右マスクで「HACHI約束の犬」は長いジョンでの予告。これまたフジテレビ、しかも開局50周年記念作品とか。さらに左右マスクで「築城せよ!」は、戦国武将が現代に現れて(取り憑いて?)、段ボールで実物大のお城を作ってしまうお話しらしい。面白いか、外すか、興味がわく。


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