Miracle at St. Anna


2009年7月25日(土)「セントアンナの奇跡」

MIRACLE AT ST. ANNA・2008・米/伊・2時間43分(IMDbでは160分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、関冬美/シネスコ・サイズ(マスク、Arriflex、16mm & 35mm)/ドルビーデジタル、dts、SDDS

(米R指定、日R-15指定)

公式サイト
http://www.stanna-kiseki.jp/
(音に注意。全国の劇場案内もあリ)

1983年、クリスマス・シーズンのニューヨークの郵便局で、定年を3ヵ月後に控えた黒人の局員が、20セントの切手を買いに来た白人を至近距離からドイツの軍用拳銃ルガーで射殺した。刑事が犯人のアパートを調べると、古い彫像の頭部が出てくる。鑑定してもらうと、450年以上前のもので、もともとはイタリアのフィレンツェ、サンタトリニタの橋にあったもので、1944年にナチス・ドイツが橋を爆破してから行方不明になっていたプリマヴェーラ(春)のものだという。犯人は黙秘を続け、真相不明のままニュースはたちまち世界中を駆け巡った。
1944年秋、イタリア・トスカーナ。黒人部隊の1つアメリカ第92歩兵師団(バッファロー・ソルジャー)のジョージア中隊は渡河中にドイツ軍の攻撃を受け、さらに味方の誤った援護砲撃で4人の兵士、スタンプス二等軍曹(デレク・ルーク)、ビショップ三等軍曹(マイケル・イーリー)、ヘクター伍長(ラズ・アロンソ)、トレイン上等兵(オマー・ベンソン・ミラー)がドイツ側に取り残された。仕方なく前進すると、トレインがドイツ軍の砲撃で崩れた小屋でイタリア人少年アンジェロ(マッテオ・スキアボルディ)を発見し、助け出す。トレインは少年を神の使いと信じ、少年はおとぎ話のチョコレートの巨人だと信じ込む。

75点

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 感動した。こころを揺さぶる上質な映画。ただし、奇跡の話ではない。考え方にもよるが、神がかり的な奇跡が起こることを期待すると肩すかしをくらうかもしれない。神秘的な奇跡ではなく、現実的な奇跡。どちらかというとロード・ムービーのよう。全体としては「プライベート・ライアン」(Saving Private Ryan・1998・米)に近い印象。必ずしもハッピー・エンドというわけではないが、決して後味は悪くなく、深い感動が残る。ただ、黒人に対する人種差別の話が強すぎて、話のテーマがそちらにブレがち。そのせいかIMDbではわずかに5.8点。

 基本は戦争映画なので、たくさんの人が死ぬ。それも無残に。「プライベート・ライアン」以降、戦争の残虐さを描かずに済ませることはできなくなった。本作でも、腕が飛び、足がちぎれ、頭から血を吹く。やはり速いシャッターを使っている。どうやら回想シーンは画質が荒く、粒状性が目立っていたので、古さを出すためにあえて16mを使ったのかもしれない。現代シーンはクリアで解像度も高く、シズル感もあったから35mmだろう。

 軍隊が舞台なので、さまざまな人物がおり、群像劇のようになっている。そのキャラクターがよく出ている。スタンプス二等軍曹はまじめでちょっと堅物、ビショップ三等軍曹は女好きで88mmにも突っ込みかねないといわれているし、ヘクター伍長はプエルトリコ出身なのでほかの三人とはちょっと距離を置いている。トレイン上等兵は巨漢でちょっとトロいが心優しく信心深い。ほかの登場人物もキャラが良く立っている。ただ、アホな白人司令官のみが、あまりにカリカチュアされすぎて、リアルさゼロ。本当にこんなやつもいるのかもしれないが、浮きすぎ。白人オンリーのダイナーのオーナーなんかは「オーストラリア」(Australia・2008・豪/米)の差別主義者のオヤジと一緒。リアルだった。

 そして、18〜20歳くらいの若者が中心のため、青春映画的な側面もある。イタリアの人妻は美人で魅力的だし、兵士たちは責任や信頼などを学びながら成長していく。

 日系二世部隊を描いた「二世部隊」(Go For Broke・1951・米)という映画もあったが、あちらは本作ほど人種差別の話をしつこいほどに入れていないので、不快にならずに見られた。実際は本作より酷かったのかもしれないが、商業映画ではここまででも不快さの方が勝ってしまう。

 スタンプス二等軍曹を演じたデレク・ルークは、ロバット・レッドフォードの「大いなる陰謀」(Lions for Lambs・2007・米)で、志願してアフガニスタンへ行く出す学生を演じていた人。真面目な感じが良く出ていた。使っていたのはスバリ、トンプソンM1928。

 ビショップ三等軍曹ほ演じたマイケル・イーリーは、大ヒット作の続編「ワイルド・スピードX2」(2 Fast 2 Furious・2003・米/独)に出ていた人。最近ではウィル・スミスの「7つの贈り物」(Seven Pounds・2008・米)でウィル・スミスの弟役をやっていた。この人もトンプソンM1928を使用。

 無線機を背負ったヘクター伍長を演じたラズ・アロンソは、多くのTVに出ていた人で、映画ではこれから公開される人気シリーズ第3弾「ワイルド・スピードMAX」(Fast & Furious・2009・米)などがある。使用銃はトンプソンM1928。

 チョコレートの巨人、トレイン上等兵を演じたオマー・ベンソン・ミラーは、エミネムの「8 Mile」(8 Mile・2002・米/独)や、日本原作のリメイク「シャル・ウィ・ダンス?」(Shall We Dance・2004・米)に出ていた人。使っていたのはM1ガーランド。ドイツ人将校から「自分の身は自分で守れ」とルガーP08をもらう。

 イタリア人少年アンジェロを演じたのはマッテオ・スキアボルディ。何と本作が映画デビュー作らしい。このうまさはなんだろう。名子役の登場かもしれない。

 魅力的なイタリア人人妻レナータを演じたのは、ヴァレンティナ・チェルヴィ。ニコール・キッドマンの「ある貴婦人の肖像」(The Portrait of a Lady・1996・英/米)に出ていたらしい。日本公開されたものでは、見ていないが「HOTELホテル」(Hotel・2001・英/米)にも出ていたらしい。惜しげもなく胸を晒している。まあなんとも美人。

 その父ルドヴィコを演じたのはオメロ・アントヌッティ。メジャーな作品では創成期のハリウッドで活躍したイタリア人兄弟を描いた「グッドモーニング・バビロン!」(Good Morning, Babylon・1987・伊/仏/米)や、「エル・ドラド」(El dorado・1988・西/仏/伊)で主役のアギーレを演じていた人。あの怖さはまったくなく、どこかコミカルな感じだった。さすが役者。

 殺戮に嫌気が差しているドイツ人将校を演じていたのは、トム・クルーズの「ワルキューレ」(Valkyrie・2008・米)でもドイツ人将校を演じていたクリスチャン・ベルケル。ベルリン生まれの本物のドイツ人だ。ポール・ヴァーホーヴェン監督の「ブラックブック」(Zwartboek・2006・蘭ほか)や、「ヒトラー 〜最期の12日間〜」(De Untergang・2004・独/伊)にも出ていた。字幕には歩兵部隊と出て、上司の兵科色は白だったが、彼と副官は赤だったので、砲兵か参謀本部ということか。

 パルチザンのリーダー、バタフライのペッピを演じたのは、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ。面白かったイタリアの戦争映画「炎の戦線 エル・アラメイン」(El Alamein La Linea Del Fuco・2002・伊)や、「ナイト・ミュージアム」(Night at the Museum・2006・米/英)のコロンブス役、「ナルニア国物語 第2章:カスピアン王子の角笛」(The Chronicles of Narunia: Prince Caspian・2008・英/米)、「天使と悪魔」(Angels & Demons・2009・米)の刑事役などで出ている。使っていたのはステンMkII。

 裏切り者ロドルフォを演じたのはセルジオ・アルベッリ。「炎の戦線 エル・アラメイン」のほか、ニコラス・ケイジの「コレリ大尉のマンドリン」(Captain Corelli's Mandolin・2001・英/仏/米)にも出ていたらしい。使っていたのはイタリアのベレッタM1938Aサブマシンガン。

 現代のニューヨーク・パートで、リッチ刑事役でジョン・タトゥーロ。つい最近「トランスフォーマー/リベンジ」(Transformers: Revenge of the Fallen・2009・米)に出ていた。新米新聞記者ティムはジョセフ・ゴードン=レヴィット。ヘレン・ミレンが癌に冒された女殺し屋を演じた「サイレンサー」(Shadowboxer・2005・米)などに出ていた人。ホンのちょい役で「ハプニング」(The Happening・2008・米/印)のジョン・レグイザモも出ている。

 原作・脚本はジェームズ・マクブライド。実話を基にとは言っても、黒人部隊の存在とその活躍ということだったようだ。実際に戦場で戦った人々にインタビューして、物語を作っていたらしい。映画化されたのは本作のみのようだ。

 監督・製作はスパイク・リー。ニューヨーク映画大学の映画学科の卒業製作で作った作品が高く評価され、自主製作を経てメジャー監督になった人。有名なところでは、デンゼル・ワシントンが黒人解放運動の指導者を演じた「マルコムX」(Malcolm X・1992・米)、麻薬の売人を描いた「クロッカーズ」(Clockers・1995・米)、最近では珍しく人種問題を描いていない面白かった娯楽ミステリー「インサイド・マン」(Inside Man・2006・米)などを撮っている。まあ自身が製作に関わると人種問題ということになるのかも。

 ミリタリー・アドバイザーはビリー・バッド。ほとんどのシーンで、撃たなくてもトンプソンはボルトがコックされていた。細かい点だが、これで緊張感が生まれる。IMDbによるとイギリス生まれの45歳で、イギリスのロイヤル・マリーンで15年の実績を持ち、フォークランドと北アイルランドに派兵されている。「プライベート・ライアン」でトム・サイズモアのスタンド・インを務め、それをきっかけにトム・サイズモアのアシスタント兼ボディガードとなったらしい。スピルバーグとトム・ハンクスのTVドラマ「バンド・オブ・ブラザース」(Band of Brothers・2001・英/米)で初めてミリタリー・アドバイザーを務めたという。映画では肩すかしだったオリバー・ストーンの「アレキサンダー」(Alexander・2004・独/米ほか)、これまたパッとしなかったリドリー・スコットの「キングダム・オブ・ヘブン」(Kingdom of Heaven・2005・米/西ほか)、「ナルニア国物語 第2章:カスピアン王子の角笛」などを手がけている。

 銃器としてはドイツ軍のKar98k、MP40、MG42。そして米軍のアホな白人指揮官が使っていたガバメント、MPのM1カービン、ジープのM1917マシンガンなど。

 赤い十字架がアルファベットのTとして使われていくというタイトルは、IMDbにはなかったが、エンド・クレジットではyU-Co.が担当。うまいわけだ。

 公開初日の初回(といっても1本上映した後の上映だが)、新宿の劇場は初回以外全席指定で10時から当日全ての回の受付を行うので、先に座席を確保して買い物に。食事をして10分前くらいにもどったら、すでに開場済み。最終的に340席に9割くらいの入り。男女比は半々くらいで、ほとんど中高年。関係者らしい10人ほどの一団がちょっと気になった。超大作でもなし、多すぎ。1人か2人で充分でしょ。

 スクリーンはビスタで開いていて、座席の階段が急なため明るいまま予告編を上映。細部はよく見えない。みうらじゅん原作の「色即ぜねれいしょん」はHな青春者のようだったが、よくわからなかった。「南極料理人」はなんだかとても日本映画らしい作品という感じ。笑わせたいんだか泣かせたいんだか。

 シャーリーズ・セロンとキム・ベイシンガーのくらい不倫映画という感じの「あの日、欲望の大地で」は、どうなんだろう。このイヤらしさと、この暗さ。

 スクリーン下がずっとピントが甘く、字幕がボヤッとしていたのが気になった。

 初日プレゼントがあって、ライジングウェイヴというフランスのオードトワレのサンプルをもらった。でも、男性用なの? そしてなぜオードトワレ?


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