Madeo


2009年11月1日(日)「母なる証明」

MOTHER・2009・韓・2時間09分(IMDbでは128分)

日本語字幕:丸ゴシック体下、根本理恵/シネスコ・サイズ(レンズ、Hawk Scope)/ドルビーデジタル

(韓18指定、日PG12指定)

公式サイト
http://www.hahanaru.jp/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

薬草店に勤める母(キム・ヘジャ)には、女手ひとつで育ててきた知恵遅れの息子トジュン(ウォンビン)がおり、成人していたにもかかわらず職に就かず、夜も一緒に寝るほど溺愛していた。ある日、近所の女子高生アジュンが殺害され、トジュンが容疑者として逮捕される。母はジェムン刑事(ユン・ジェムン)に息子の無実を訴えるが、現場にトジュンの名前が入ったゴルフボールが落ちており、目撃者もいることから聞き入れてもらえない。トジュンもちょっと前のことでも覚えていられないため、事件当日の記憶も曖昧。なけなしの金で雇った弁護士も全く当てにならず、ついに母は自分で真犯人を捜すことにするが……。

74点

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 さすが韓国映画。ハリウッドとはひと味違う。しかも暗い方向に。ハッピー・エンドなんて信じない、みたいなところがある。現実はそんなに甘くなく、不条理なものだと。ミステリーというより、ホラーに近い感じがした。それもモンスターや異常者ではなく、普通の人がとことん怖い。そこは同じショッキングな韓国映画「チェイサー」(The Chaser・2008・韓)と似ているが異質な部分。しかしテンション落ちる。このまま家に帰るのはちょっと辛いなあ。

 もちろん残酷シーンは残酷だ。しかし何気ない人の顔のアップが怖かったりする。あえて美男美女を、容疑者役であるウォンビン以外排したことによって、リアリティと普通の人の怖さがアップしている。教授や弁護士などの金持ちたち、高校生たち、町の子供たち、警察、葬式の親戚たち、息子の友人、薬草店の経営者、郊外の廃品回収業者……そしてバカという言葉で切れる息子、母。みんな怖い。

 ハリウッド映画なら、息子の無実をはらすため母が独自に捜査を始めて、いくつもの障害を乗り越えてついに真犯人を見つけ息子を救い出すという話になるところ、韓国映画はそうはならない。さらにひとヒネリされている。映画としてはよくできているのではないだろうか。ただ、ちょっと冗長な部分が多く、もっと刈り込んだら凄い作品になったような気はする。たぶん余韻とか、味として必要な部分なのだろうが、それが映画に満ちている空気をより重くしている。

 名前がなく、ただ母という役を演じたのはキム・ヘジャ。普通のオバサンっぽいが、冒頭の寒々とした野原で、無表情で踊るところから怖い。1970年代から活躍する韓国の大女優だそうで、数々の賞に輝いている。立ちションする息子の股間を無表情にじっと見るシーンも怖かった。

 知恵遅れの息子をリアルに演じたのは、ウォンビン。兵役で、悲惨な戦争映画「ブラザーフッド」(Brotherhood・2004・韓)のあとしばらく芸能活動から遠ざかっていたが、本作が復帰作。本作の中で唯一の美形。無垢な感じを良く出している。ここがキー・ポイントだろう。

 チンピラの友人ジンテを演じたのはチン・グ。チ・ビョンホンのヤクザ映画「甘い人生」(A Bitter Sweet Life・2005・韓)に出ていたらしい。本作ではかなり際どいラブ・シーンを演じている。

 たよりにならないジェムン刑事を演じたのはユン・ジェムン。極地ホラー「南極日誌」(Antarctic Journal・2005・韓)や、「グエムル ―漢江の怪物―」(The Host・2006・韓)にも出ていたらしい。最近では痛快無国籍西部劇「グッド・バッド・ウィアード」(The Good, the Bad, the Weird・2008・韓)に出ていた。

 監督・原案・脚本はポン・ジュノ。小劇場だったので見ていないが、未解決連続殺人事件を描いた「殺人の追憶」(Memories of Murder・2003・韓)、「南極日誌」、「グエムル ―漢江の怪物―」などの監督・脚本を手がけた人。基本はサスペンス・ホラーのようだ。すごい才能。

 協同脚本はパク・ウンギョ。「キッチン〜3人のレシピ〜」(The Naked Kitchen・2009・韓)などを手がけ、韓国では注目の新人脚本家らしい。

 殺人に使われる凶器は、石やレンチ。怖い。

 公開2日目の初回、前日に座席を確保しておいて、25分前くらいについたら新宿の劇場は、映画の日で当日券1,000円均一とあって、ビルの1Fには長蛇の列。インターネット予約の人らしい。小さなエレベーターで狭いロビーに上がると、そこも人だらけ。各劇場前の廊下はもっと狭いというので、5分ほど待ってからコーヒーを買って上の劇場へ移動。さらに5分くらい待ってようやく開場。

 全席指定の253席はほぼ満席。こういうたぐいの映画が満席になるとは、ちょっと驚き。まだ韓流ブームは続いているようで、中高年の女性が多かった。男女比は4対6で女性が多く、若い人は1/5くらいいただろうか。さすが映画の日。

 ほぼ暗くなって始まった予告編は……フジテレビでやっていた中国人の出稼ぎ家族を描くドキュメンタリー「泣きながら生きて」が映画になるらしい。確かに感動的で泣ける話だったが、なぜ映画なのだろう。タイトルがなかなか出ないし。

 「笑う警官」は予告を見る限り、どこが面白いのかよくわからない。警官が犯人で、それを警官が追うという話らしく、興味はわくのだが予告からは何も伝わってこない。意味不明の解剖人体がタンバリンでダンスを踊る「I LOVE SCIENCE」は、モーション・チャプチャーされたらしい動きがロバード・ゼメキスの映画よりリアルなだけに、余計に不気味。怖い。


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